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(8)少し未来のお話

 前話の終わり方が気持ちが悪いので、ちょっと清涼剤

 王都を見下ろす丘に二つの尖塔を持つ王城がその威容を誇っていた。征服王グリゴリの居城だ。

 それは確かに荘厳で、見る者を圧倒し、その装飾や内装は絢爛豪華ではあるが、しかしどこか画一的であったが、それを気にする者は少ない。


「平原地方かどっかの王妃様が魔力集めて【極大整形】グレーターシェイピングの魔法をかけてもらったんですって」

「い~な~、私もマナ貨貯めて【整形】(シェイピング)して、玉の輿狙わないと」


 少女が駆ける。


「食べすぎちゃった。【小痩身】(レサーダイエット)かけてよ」

「また~、いい加減自分で憶えなさいよ」


 勝手知ったる様子で城の中を少女が駆ける。

 周囲の者達はいつものことなので特に気にしていない。


 年若いメイドが魔術の触媒を握りしめ、大きな手ぶりで呪文を唱えると、瞬く間にガラスの窓のホコリもくすみも消えていった。【窓ふき】(ワイパー)の魔法だ。

 ちょっと誇らしげなメイドに苦笑しながら先輩メイドが、より小さな手ぶり、歌うような優雅な詠唱で呪文を唱えると、カーテンのシワは伸び、部屋中の汚れが消え、置かれたものが整頓されていき、後輩メイドが目を丸くする。


 おさげを揺らし、フリルの付いたスカートから伸びた足で元気いっぱいに少女が駆ける。


 庭師が花壇に骨の粉を撒き、手に花の種を握りしめて呪文を唱えると、花壇一杯に花が咲き乱れた。


 額に浮かんだ汗を赤い髪とともにかき上げ、少し弾んだ呼吸を整えてから、少女は半地下になった厨房のドアから中を覗き込み、

「トム、お腹すいた。なんかちょうだい」

「……姫様」

 弱ったなぁ、という言葉とは裏腹に、やせぎすの料理人は、ちょっと楽しそうに豚肉を手に取ると【クリエイトハム】の呪文を唱えた。

 そうしてできたハムの塊を更に魔法で分割し、ハム(切り身)とパン(8枚切り)を準備するとそれを触媒に【クリエイトハムサンド(ハニーバター)】の呪文を唱えると、ハチミツとバターソースのハムサンドが料理人のトーマスの手の中に現れた。

「トム、ちょうだい」

「はい、どうぞ」

「ありがとう♪」

 ハムサンドを受け取った女の子は、

「あむっ」

 と自分で言いながらサンドイッチに齧り付いた。

「それにしても姫様。お昼ご飯食べたでしょう。食べ過ぎてまたポンポン痛くしますよ」

「らいりょーぶ。しょーが、」

「食べながらお話ししちゃダメです」

 コクコクと頷いて、更にサンドイッチを頬張った。食べるほうを優先したらしい。


     *    *    *


 ()()()は8歳になりました。

 えっ、お前誰だって?

 うん、オレオレ、俺だよ()

 いやぁ、びっくりぽんすけ、飛び出たホイ。

 俺って女だったんだ(衝撃の事実!)

 幼児期から魔力鍛えて魔力チートキタコレ、ってテンション上がってたから自分を男主人公ハーレム系だと完全に思い込んでた。

 しっかも王の第三姫だから、「姫様」とか言われちゃってるし。婚約破棄系かな? まあ【底抜け】だから縁談は無理か。

 ……な~んてね。

 現実と創作をごっちゃにしてるってのは自覚してるんだけど、そう思いたくなるぐらい、今の生活、っていうか『この世界』に現実感がないんだよね。

 サンドイッチを食べながら、どこか画一的な周囲の景色を見回す。

『やっぱり、何処見ても似てるよな、庭も建物も』

 ()が声なき声で告げると、身体の持ち主であるコイツ……女の子がコクコクとうなずく。

 種類の限られたテクスチャを張り付けたような木々。魔法で作り出した花壇の花は皆一様。お城の装飾だって同じパターンが多く、部屋の区別がつきにくい。

 それは人間にも言える。

 全般的に美形が多いけど、顔のパターンが画一的っていうか、雰囲気が似てる人ばかり。顔が整っているのに、ザ・モブ、って感じの人が多い。

 【整形】魔法のせいかもしれないが、その影響は遺伝するらしい。

『遺伝子にまで影響する魔法だったら、生物としての多様性まで失われるんじゃないかな?』

 なにそれコワい。

 あ、サンドイッチ無くなった。思考終了。


     *    *    *


「トム、おかわり」

「ダメです」

 トムが何か言うより早く背後から鋭い声がかかった。

 ぱっと飛び出した少女だったが、素早い詠唱で紡がれた魔力が少女の自由を奪う。

「ジョーのおに~あくま~じどうぎゃくたい~」

 蜘蛛の糸の糸巻を触媒にした【蜘蛛の巣】(スパイダーウェブ)の魔法だ。一人前の騎士でもこの魔法から逃れるのは難しく、普通は8歳の少女にかける魔法ではない。

「アリーシャ姫様。ちゃんとお昼食べましたよね」

「憶えてない」

 ()()()、王の第三姫アリーシャは即答する。

「ミネストローネとベーコンオムレツとオレンジとプリンを食べましたよね」

「プリンは食べてない!」

「他は食べたでしょ?」

「しまった!」

 蜘蛛の糸に絡められ、唯一動かせる口で対抗するが、ジョーは全く動じない。

 ジョー・ミリガン。わたしの世話人で赤ん坊のころ実質的に育ててくれた人で、特種神官免許を持つ神官さん。

 特殊ではなく特種。これ大事。

 30過ぎてると思うけど、年齢の話をすると怖いオーラを発するので、実年齢は知らない。

 くすんだ金髪に薄茶の瞳。頬のエラがちょっと張ってて顔の好みが分かれそうだけどわたしは好き。多分【整形】魔法を使っていない自然な感じを好ましく思っているのかもしれない。

 前世がらみで作り物めいたモノに本能的な忌避感でも感じてるのかな?

「聞いてます?」

「ううん、聞いてない」

 反射的に正直に答えてしまったわたしに、人差し指と中指をオデコにつけ、難しい顔で考え込むジョー。あ、これヤバいヤツだ。

「アリーシャ姫」

「……なに?」

 様が抜けた。

「食べ過ぎるとお腹が痛くなるでしょう?」

「でもジョーの魔法で治るから平気♪」

 私の健康管理もジョーの仕事の内。病気なんかの時に薬を作ったり魔法をかけたりしてくれます。

「……私が【特種】免許を持ってるのはご存知ですよね?」

「うん? 知ってるけど」

 神官の中でも特定分野に()()した者に与えられる【特種】免許。

「私の専門はご存知ですよね」

 ジョーの専門って確か【呪術】だよね。でも話の流れが判らない。

 キョトンとした瞳でジョーを見上げる。

「……食べてないのにお腹が痛くなって何も食べられなくなる魔法があるんです」

「へっ?」

「まあ、一種の呪いなんですけどね」

「やだぁあああああああああああっ」

 私たち二人のやり取りにトムさんは何故かニコニコしてます。全然楽しくないのに~。


 その夜、()()()お腹が痛くなったので、お夕飯はオートミールのポタージュ(ミルク粥)でした。

 うう、美味しくない~、ポンポン痛い~。


 因みにトムさんもジョーにしこたま叱られていたけど、トムさん、なんであんなに嬉しそうなんだろう?

 明日も投稿できるかな?

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