(249)なぜなにカミサマ_2
1時間前に前話投稿しています。そちらを先にお読みください
「先ほどは無礼を働き、誠に申し訳ございません。処罰はどうか、私だけに留めおきください」
「ん? 別に怒ってないよ。懐かしいなぁ。蹴り飛ばされたのはダサイちゃんのとき以来だよ」
「ダサイちゃん? D・A・S・AI? 先ほどもそうおっしゃっていましたがアリーシャさんのことですか?」
「うん。ダサイちゃんとダサイ君。あーでもダサイ君がアリーシャちゃん似のかっこかわいい子になったからダサイきゅんのほうがいいかなぁ」
「やめろ」
GAIAの軽口にミハイルはにべもない。
「なー、そろそろ本題に入ってもいいか?」
気が急いているアスカの方向修正に、ごめん、と一言詫びて一歩下がるリョーコ。
「ふうん。じゃあ、改めまして。ようこそ、人間。そしておめでとう、人間。ボクはGAIA。キミたちの世界……この世界も元の世界も作り出した神たる、このボクがキミたちを歓迎しよう」
頭蓋骨は人間たちを静かに睥睨する。
「さて、まだ“ゲーム”は終わっていない。勝利の証をここへ」
「証、とは?」
「キミたちが持っている秩序から受け取った彼の神の力の一端のことさ。それを相手の神の元に運んで捧げれば勝利だ。キミたちは都合、三つも持っているから、ボクの3倍勝利だな」
アリーシャの持つ世界樹の杖、アスカの銀の鎖ガマ、リョーコの銀の鎖槍が自ら光を放っていく。
「あ、因みにダサイちゃんにあげた短刀と眼もボクの証だから。それを世界樹の頂で捧げていたらLEXの勝利が確定していたんだ。セーフ」
と、笑いながらシャレにならないことを明かすGAIA。
「じゃあ、さっそく勝利を確定させて、ゲームを終わらせちゃおう」
三つの神器にプカプカと浮きながら近づいてくる頭蓋骨。
「待て」
しかし、神の前に、この場で一番小さな少女が立ちはだかった。
金髪ツインテールのローティーンの少女の姿をしたアスカ=ケイスケだ。
「……なんだい?」
「GAIA。お前が勝利したらどうなる?」
「以前、話した通りさ。ボクが創造した、キミたちが元々いた世界。そうだな、仮にユニバースと呼ぼうか。いま、あの世界は存在が崩壊しようとしているけど、ボクが押しとどめている状態なんだ。凍結させているっていうのが一番近いかな? 奪われた十秒間を取り戻し、ユニバースを元の状態で復活させる。それだけさ」
「……そうするとこの世界はどうなる?」
「多分そのまんまじゃないかな。ここは本来、LEXの管轄する世界を間借りして作った世界の中の亜世界だからね。ボクがここに干渉できるのは、彼とのゲームの間だけさ」
「嘘つくなよ」
「嘘なんか言ってないよ。っていうか、ボクらに嘘という概念はないんだ。それはキミたちの発明さ」
「でも、本当のことを言っていないよね?」
アリーシャの言葉に骸骨はカタカタと歯を鳴らして笑う。
「じゃあ、キミの、キミたちの考える“本当のこと”ってやつを聞かせておくれ。ボクはなんでもかんでも神様に教えてもらって、神様の言う通りに動くような、攻略本見ながらゲームやるような真似、キライなんだ」
アリーシャもアスカも、そして恐らくはミハイルも聞いたであろうGAIAのいつもの台詞に、リョーコはピクリと身体を震わせる。
「お話しする中でいくつか確認していきます。それには答えていただけますか?」
「もっちのろんさ。ボクはダサイちゃんの聞くことならなんでも答えちゃうよ」
「……それ、嘘ですよね? 嘘の概念がないんじゃなかったんですか?」
「正しく、“なかった”んだよ。ボクらは、“ら”と言ってるけど全にして個、個にして全なる存在で、互いに互いを完全に理解し合える。それが当然だったから、偽ったり隠したりといった概念を思いつくことができなかったんだよ」
過去形であることを強調するGAIA。
「ん? だったら、LUNARだっけか? そいつはどうやってLEXを出し抜いたんだ?」
LEXとLUNARが共謀してGAIAの世界を奪おうとしたが、途中でLUNARが裏切ったためにLEXとGAIAが千日手の睨み合いとなり、現在の状況を作った。そう聞いていたアスカが疑問を呈する。
「簡単な話。その瞬間にLUNARのやつが心変わりしたの。そんなんだからアイツの二つ名は【狂気】なんだよ」
「それでユニバースから切り取られた世界の一部……十秒間をLEXと取り合いになった貴女は、彼とゲームで賭けをすることにし、そのゲームの舞台としてこの亜世界を作った」
「そうそう。このデミユニバースは元々ボクが作って他の神々にパッケージ販売しているゲームソフトを素体にしているんだ。そのゲームでボクは大儲けさせてもらったよ。もう不労所得で、ウッハウハだよ。これもそれも全てキミたちのお陰さ。このゲーム、キミたちの想像物をパクって作ったんだけど、想像することなく創造できるって、もう神様バカウケ。嘘という概念にも驚かされたけど、極めつけは魔法の存在だね。あれはもう、絶対にボクらには生み出せない奇跡の概念だよ」
と、何やら熱く語りだすGAIA。好きなことには特に饒舌になるタイプのようだ。
「魔法なんて、そんなにスゴイことか? 神様の力もオレたちから見りゃ、魔法と変わんないぞ」
「解ってないなぁ」
ずいっと前に乗り出す頭蓋骨と、それに合わせてグニャリと動いて、人差し指を突き付ける神の右腕たる銀の尖塔。
当然その瞬間はGAIAを除く全員が宙に投げ出された。
「おっとっと。メンゴメンゴ」
4人を慌ててキャッチするGAIAの右腕。
「……今のだって十分、奇跡で魔法だよ」
まるで漫画の世界のような一連のシーンを評したアスカの台詞に一同、同意する。
「ぜーんぜん違うよ。そうだなぁ、例えば“ちちんぷいぷい”と唱えれば、どんな魔法でも使える世界があるとしよう。あ、アブラカタブラでも、ハクションってクシャミをするんでも、鼻をぴくぴくって動かすでも何でもいいよ。おっと、おっと、危ない危ない、世界を作っちゃったよ。無し無し、今の世界創造、無ぁし!」
何やらとんでもないことを言いながら世界の創造と破壊を行う神。
「さて、その“ちちんぷいぷい”と唱えるだけで空も飛べるし、おいしい食事も出てくるし、死体だって生き返る魔法の使える魔法の世界。さて、それは【魔法】といえるかな?」
「そりゃそうだろ」
と、アスカ。
「じゃあ、そもそも【魔法】ってなんだい?」
「そりゃあ、不思議な力。呪文一つで現実に無いことができる超自然的なパワー」
「オカルト」
アスカに次いでリョーコが短く答える。
「ダサイちゃんはどう思う?」
「……物理法則から逸脱した現象を生み出すという、論理的に矛盾した概念」
その答えに頭蓋骨の口元がグニャリと歪んで大きな笑みを浮かべる。
「ダサイきゅんもそう答えてたよ。さっすがダサイちゃん、さっすが論理演算装置」
ケタケタと機嫌よさそうに大笑いするGAIA。
「さっきの“ちちんぷいぷい”で何でもできる世界だけど、ボクが斯く在れと想像すれば、その世界は現実に創造される。“ちちんぷいぷい”と唱えれば何でも適うというというのがその世界では当たり前の法則なんだよ。だからその世界でそれは不思議な【魔法】じゃなくて、ただの【物理現象】なんだ。例え魔法と呼ばれようとも、それは単なる名前さ。でも、その世界で“アブラカタブラ”と唱えても何も起きない。当然だよね? だってボクはそういう風にその世界を作っていないもの。もし、何かが起こるのならば、それはその世界がそういう法則が在る世界だってことだもの。魔法的な力が実在するなら、それはそういう【物理法則】がその世界に在ることを意味する。どんな不可思議な現象でもそれが起こるならばそれは物理法則に則った物理現象なのさ。だから【物理法則】を逸脱した現象などありえない。なのに!」
頭蓋骨の笑みはどんどん深く、大きくなり、最高潮に達した。
「なのに、なのに、そんな当たり前の、当然の論理すら無視した“【物理法則】から逸脱した力”なんていう論理的に矛盾した概念、ボクたちには逆立ちしたって出てこないよ。だって、ボクらが想像すれば、それは即ち創造され、そういう物理法則ができあがる。そこに不思議な【魔法】の入る余地はない。この亜世界の力だって、単にこの世界にそういう【物理法則】があるってだけさ。
キミたちがその世界の魔法を【魔法】と感じるのは、単にキミたち自身のユニバースの常識から逸脱しているだけの、ごくごく普通の一般的な物理法則に他ならない。
例え既知の物理学を逸脱した力があったとしても、それは単にその世界における未知の物理法則であるに過ぎない。それが本当に在るのならば、それはそういう物理法則がある世界であるというに過ぎない。
ああ、本当にキミたちは素晴らしいよ。ボクらでは決して創造しえないものをいくつも生み出していく。再現しようとしたけど、この世界がボクの限界さ。その意味ではキミたちの想像力はボクらの想像力を遥かに凌駕しているのさ」
「……もしかしてオレ達、バカにされてるのか?」
「残念ながら彼女は本気で称賛しているんだよ」
アスカの疑問にミハイルが応える。
「でもよう、そんなすげぇ創造の力が在るなら、面倒なことしてねぇで元の世界を再生しろよ」
「もちろん、そのつもりさ。だから早く、LEXとの勝負をつけよう」
ずいっと迫る頭蓋骨にアスカが指を突き付ける。
「それだよ。判っててワザと誤魔化してんだろ、おまえ。言ってたよな、奪われた十秒間が無くても元の世界を再生できるって。なのにしないと言っていたな。なぜだ!」
しかし、頭蓋骨はニヤニヤと笑みを浮かべながらも、それに応えようとしない。
「……GAIA。確認したいことがあります」
「なーんでもきーてー。ボクは聞かれたことはなーんでも答えちゃうよ」
「コイツ……」
歯ぎしりするアスカの手をそっと抑えながらアリーシャがGAIAに問う。
「このデミユニバースと、ユニバースから奪われた十秒間の関係は?」
「ダサイちゃんはどう思う? キミの考える“本当のこと”ってやつを聞かせておくれ」
単純には答えは教えない。GAIAの曲げぬ意思を感じ、アリーシャは居住まいを正す。
「奪われた十秒間はおそらくわたし達が【混沌】または【ナニカ】と呼んでいる存在。この世界の人は皆、【底】を通して【ナニカ】と繋がっている」
小さくうなずく頭蓋骨。
「そう、奪われた十秒間、キミが言うところの【ナニカ】は奪われてすぐ奪い返したけど、その時すでに一部がLEXに浸食されていたんだ。そのまま戻すと色々不具合があってね。だから一時保管した十秒間……【ナニカ】を素材にゲームソフトを走らせ構築したのがこの亜世界」
「勝利を確定し【ナニカ】の全てをLEXから奪い返し、元の世界を再生する。そうすれば当然このデミユニバースからも【ナニカ】が失われる」
「素材が必要なのは最初の立ち上げ時だけさ。ゲーム自体はゲームソフトとその箱庭を展開する領域があれば存続可能さ。でもそれはLEXの領域の話で、ボクには関与できない」
「嘘ですね」
「嘘じゃないさ」
「質問を変えます。世界は存続できても、人はいなくなる。おそらく残されるのはスタンドアロンなリョーコさんだけ」
「なんでそう思うの? このゲームはたくさんの神々に販売してるけど、そんな不具合は発生していないよ。みんなスタンドアロンで、各神の領域で順調にデミユニバースを構築しているよ」
「でもこの世界は違う。貴女の世界であるユニバースの一部の【ナニカ】と、LEXの世界が絡み合ってできている。その意味でこの世界はスタンドアロンではない。この世界の人は皆、【ナニカ】というサーバーに依存している。だからそれがLEXの世界から失われれば、人は皆、意志を持たない人形になってしまう」
アリーシャの指摘に頭蓋骨が笑みを深める。
「それは正確じゃない。キミたちが【魔族】と呼ぶ存在や零等級の完全な【パペット】、それとアンズーマリーでキミが再構成した人々、それにキミも残るよ。アリーシャちゃん」
GAIAはダサイ、ではなくアリーシャと呼んで、ニヤニヤと笑う。
「つまりそれ以外の人は皆全滅する」
「死ぬわけじゃないよ」
「ある意味死よりも残酷です」
アリーシャとGAIAの視線がぶつかり合う。
「ちなみに勝利を確定させなくても、5000年になった時点でボクは諦める。この亜世界を形作るゲームソフトは停止され、十秒間ともどもLEXの灰色の砂漠に飲み込まれておしまい。もちろん、元のユニバースも再生されず、ボクも凍結を止めるのでそのまま崩壊していく」
残念だよ、と呟くGAIAの声には、ハッキリと苦悩が見て取れた。
「……もう一度聞くぞ、GAIA」
「どうぞ、アスカ・ケイスケ君」
「苗字みたいにするなよ。……お前は惜しんでいる。ユニバースも、このデミユニバースも消えることを望んでいない。なのに何もしない。できるのにしない。さっきのリョーコさんに対してもそうだ。お前はできるし、したいと思っているのにしないのは何故だ! それをするのは意味がないってどういう意味だ」
「以前も、そしてさっきも答えたと思うよ。愛しているからさ。愛しているからこそ、それをしない。それをするくらいなら消えた方がマシだと思うんだ」
「お前の言うそれ、ってなんだ? 【ナニカ】なしでユニバースを再生したら、消えた方がマシになっちまうのか?」
アスカの問いに、今度は素直に首肯するGAIA。しかし、その意味を説明する気はなさそうであった。
「……ねえ、話はちょっと変わるけど、一つ聞いてもいいかしら?」
リョーコの問いに、どうぞ、と頭蓋骨がうながす。
「貴女が作ったゲームってどういうもの? どんな風に神々は遊んでいるの?」
よくぞ聞いてくれました、とばかりに頭蓋骨が満面の笑みを浮かべる。ほとんどミイラ化して、肉がほとんど残っていないわりに表情豊かだ。
「キミたちの世界とその創造物を元にした亜世界を作り出すのさ。定番の剣と魔法の世界に近未来SF、学園モノの3種類がテンプレセットだけど、クリエーションキットで好きなだけ設定できる。基本的には干渉できずに鑑賞するだけだけど、コンソールコマンドを使えば好きなだけ干渉できる。その辺の匙加減や遊び方はプレイヤー次第!」
「それ、面白いの?」
「いや、なんか面白そうじゃんかそれ。神の視点で世界を丸々作れるなんて、オレもやってみたいよ」
リョーコの疑問に、GAIAではなくアスカ=ケイスケが割り込む。
「だからさ、人間の感覚ならそうだろうけど、それって神にしてみたら当たり前のことじゃない? さっきだって一つの世界をあっさり作り出して、慌てて消してたぐらいだよ。世界を作ってそれに好きに干渉できるなんて、神にしてみたら、ごく普通の日常じゃないの? なんでそれがゲームになって、人気になるの? おかしくない? どうなの、GAIA」
「……いいところに気がついたね、リョーコ。ボクのゲームの肝は、神々の自由にならないその不自由ささ。それがボクの仲間たちには新鮮だったんだよ」
「どうやって、その不自由さを作ったんだい? ねえ、神様。誤魔化さずにキチンと答えておくれ。元の世界は本当に貴女が作ったの?」
「本当さ」
「本当に? あなたが想像し、創造したの?」
しかし、リョーコの問いに頭蓋骨はむしろ嬉しそうに口角を上げながら、キッパリを首と左右に振って否定した。
「……本当にいいところに気がつくね、リョーコ」
多分明日も投稿(テキストは出来ているけど、まあ、色々とチェックがw)




