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(1)承前

 2020年7月24日夜。

 もうすぐ四年に一度のスポーツイベントのオープニングセレモニーが始まり、世界中の人々の関心がこの極東列島の首都に集まる夜。

 そんなこととは全く関係なく液晶モニターの明かりだけが光源の部屋で、男は一人ぶつぶつと自分のアバターに話しかけていた。

 効率度外視、見た目重視の女の子アバターが画面の中で元気に飛び跳ね、戦っている。

 アバターの装備は効率重視の別キャラで稼いで準備し、課金もつぎ込んでいる。

 その武器はモーションがかっこ悪いとして悪い意味で有名な不人気武器『鎖がま』。それをディレイキャンセルや特殊装備、マクロを駆使して、如何にカッコよく見えるか、という常人とは違うベクトルでやり込んだビルドのアバターを、男は薄笑いを浮かべながらマウスとキーボードで操る。

 男の部屋には男の巨体に合わせたコスプレ用のスカートが何着も散乱しているが、裁縫道具だけは妙にキチンと整頓されている。

 モニターの中のツインテールのミニスカ少女がBOSSのドラゴンに鎖がまのウェポンスキルを放った瞬間、その映像が止まった。

「ち、ラグか? 仕事しろ運営」

 そう言おうとしたが口が動かない。

 目に映る光景がみるみる色を失い、灰色に変わりながらサラサラと砂のように崩れていった。

 むろんそれは男の身体も例外ではなかった。


 パニックになり掛けたが、目の前の光景が突然変わり、気が付くと視界いっぱいに青空が広がっていた。

 最初に頭をよぎったのは、ついにオヤジに殺されるのかな、だった。

 四〇の半ばを過ぎてもひきこもり、たまに外出したら周囲の人間の正気度を削る女装コスプレでイベントに繰り出すパラサイトニートは、ぼうっと空を見上げていた。

 どうやら森の中に寝転がっているらしく、ぎゃーぎゃーという鳥の鳴き声が聞こえる。

 と、空を黒い影がよぎった。

「へっ?」

 妙に高い声が漏れた。

 先ほどまで画面の中で戦っていたBOSSのドラゴンが大きな羽根を広げて飛んで行ったのだ。幸いこちらには気づかなかったようだ。

「おいおいおいおい」

 慌てて起き上がるが、90kg越えのデブとは思えない敏捷な自分の動きにさらに驚く。

「なんだぁ?」

 妙に甲高い声で自分を見下ろすと、見慣れない、しかしある意味見慣れた赤い鎖帷子っぽいメッシュの入ったミニスカート姿が見えた。

 細く小さな手に鎖がまを握った、金髪ツインテールのニンジャガールの叫びが森に木霊した。

「よっしゃー、俺、勝ち組!」

 人生捨ててたキモヲタおっさんヒキニートは狂喜した。


     *    *    *


 街の隅々まで石畳が敷き詰められた街路に美しい街並みが広がっていた。

 空には騎竜に乗った騎士や、商人を乗せた巨鳥(ロック)の姿が見え、地では人々が生活のために様々な魔法を唱えていた。

 街の外に通じる門を抜け、森妖精(エルフ)の一団が郊外の森に向かっていった。森での採集を行う誰かの使い魔なのだろう。

 野良仕事や採集、採掘などは基本、召喚された使い魔たちの仕事だ。

 女たちは噂話に花を咲かせながら洗濯の魔法を使い、職人たちは材料に魔法をかけて商品を作っていた。

 穏やかで豊かな街を見下ろす丘の上には荘厳な城がそびえ威容を放っていた。

 その城で一つの命が生まれた。


初投稿ですがよろしくお願いいたします。

システム設定を一つづつ確認しながら、おっかなびっくりやってます。

キモヲタおっさんヒキニートのニンジャガールの再登場は当分先(中盤)の予定です。

明日、次話投稿予定。

2018.10.22 いきなり誤字と一部描写を修正 同11.5 あとがき追記

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