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(14)バルバラ姉さま、奮闘す

主人公の出番が少ない。早く成長させて暴れさせたい・・・

 法暦--この世界が生まれてから4984年目を迎えたこの年、底抜け姫アリーシャの父、征服王グリゴリは王都にて既に降した支配域の安定を進めながら、次の戦争の準備を進めていた。

 現在西方域の大半と南西地方の一部を支配下に置き、次の戦争に勝利すれば西方域全域の統一が完了する節目の戦いになる。

 しかし南西地方の一部が支配域にある(先方から恭順してきた)ことから、南西地方の各豪族も危機感を募らせ、グリゴリ王に抵抗する西方豪族の支援を行っており、次の戦いは厳しいものになるだろうと思われていた。

 しかし合理主義的な王の考えを理解するものはまだ少ないため、不穏な動きを見せる周辺国や豪族たちの牽制などで王が先頭に立つことも多く、どうしても留守がちになっていた。

 その間の練兵や内政は王妃ブリージダが王の名代として任されていたが、王妃の父でもある豪族シグルドの長ブルギの影響力が強すぎた。

 しかしブルギのやり方は昔ながらのやり方の焼き直しに過ぎず、王の方針と会わないことが多々あったが、王妃がそれを指摘しても、

「政は男に任せておけ。女が口を出すな」

「親の言うことが聞けないのか」

 と、女である王妃の言葉を取り合わず、結果として周りの者からも王妃は軽んじられていた。


     *    *    *


「はぁぁ」

 淑女にあるまじき溜息を吐く王妃ブリージダの表情は疲れに満ち、目の下のクマは年齢を十は老けさせていた。

 夫は、お前が居てくれるだけでいい、と素直に愛を語ってくれるが、与えられるだけでなく支えとなりたい。

 彼の言葉を理解しようと努め、学び、意見を出していくが、未だ父の影響を抜け出せず、本当の意味で夫の助けになれない事を気に病んでいた。

 しかしそんな彼女にも今日は癒しがある。

 うきうきした気分で、幼なじみの親友からの報告書を手に取った。離れて暮らす娘アリーシャの様子を伝えるものだ。

 侍女にお茶の準備を頼み、娘の様子を記した報告書に目を通していく。

「ジョーったら、まるで親バカの子供自慢じゃない」

 多分に私見の混じった文書と生真面目な親友とのギャップに苦笑し、同時に少しの嫉妬が心に浮かぶ。

 しかし報告書を読み進める内、緩んでいた表情は引き締まり、同じ個所を何度も読み返していた。

「王妃様?」

 躊躇いがちに侍女が声をかける。その時初めて王妃は自分が涙を流していたことに気が付いた。

「なんでもないわ」

 そっと差し出された暖かい濡れタオルで目元を拭い、目の疲れを和らげてから侍女に命じた

「王に使いを。すぐにお会いしたいと伝えて」


     *    *    *


「お母様はまたあの子のところに行くのですか?」

 少女、というよりまだ子供という方が相応しい年齢の少女は父親譲りの綺麗な金髪をかきあげ、使用人に問うた。

「はい。2週間後に出発と伺っております」

 ベリーショートの黒髪の女性、少女の世話人である神官ステラがそう答える。

 少女はまだまだ母親に甘えたい年齢だが、母親は離れて暮らす妹のことばかり気にし、毎年、春から初夏にかけてと冬入り前の年2回、妹が暮らす辺境の村を訪れていた。

 父である王はその事について黙認しているが、周囲の声は否定的であり、自分の母親が聞こえよがしに批判される様は、少女の心も大きく傷つけていた。

 母の愛を求める嫉妬も交じり、その原因である自分の妹への苛立ちとなり、

「【底抜け】の癖に」

 と吐き捨てた。

 世話人も使用人もそれを咎めることはせず、ただ主の言葉に同意するだけだった。

 征服王グリゴリの第二姫バルバラ。

 彼女の表情は寂しさと憤怒が入り混じったように歪んでいた。


     *    *    *


「バルバラ」

 本を手に王宮をきびきびと歩くバルバラを王妃は呼び止め、お茶に誘った。

 この後の予定が一瞬頭をよぎったが、バルバラにとって母の誘いを断る選択肢は無く、喜んで招待を受けた。

「バルバラ。最近はどう?」

「はい。ステラの指導で生活魔法は一通り習得しました。現在は防御系、攻撃系、回復系、探索系を薄く広く学んで適性を測っています」

 背筋を伸ばして答えるバルバラの様子に、ちょっと困ったような表情が浮かぶ。

「お母様?」

「勉強熱心なのはいいことよ。でも頑張りすぎないでね」

 それはお母様の方ですわ、と思うだけで口には出せず、

「いえ。少しでも早くお母様やお父様の力になれるよう頑張ります」

 なんでそんなことを言われるのか理解できないバルバラは生真面目に言い返した。

「……そう。ありがとうね、バルバラ」

 何が母の心を曇らせたのかわからない娘は言葉を継ぐことができずにいた。

『どうして私はこうなんだろう。お母様はずっと疲れた顔をなさっておられたけど、ここ何日かはとても嬉しそう。きっとあの子の元に行くのが楽しみなんだわ。なのに私はお母様の顔を曇らせるばっかりで。もっと勉強して役に立つようになって、お母様に喜んでもらわないと……』

 バルバラは俯いて黙り込んでしまい、自分の考えに沈み込んでしまっていた。そんな娘の様子に母は少し考えた後、そうそう、と話を変えた。

「来週にヴィルが戻るそうよ」

「お姉さまが?」

 王の第一姫にしてバルバラの姉であるヴィルジーニアは、まだ13歳だが王の名代として豪族たちへの挨拶回りがてら不穏な動きへの牽制を行っていた。

 穏やかな性格で淑女の礼も完璧、女性ながら王の名代としての重責を見事にこなしており、バルバラにとっては憧れであると同時に、劣等感を覚える苦手な相手でもあった。

「それでね。再来週にはまたマテス村に行こうと思ってるの」

「私も行きます!」

 貴女も一緒に、と娘を誘おうとした母は二女の突然の言葉に驚いて娘を見つめる。するとその顔がみるみる紅潮し、

「あ、その、失礼しました」

 と、非礼を詫びながら椅子で小さくなってしまう。その娘の子供っぽい姿、いや年相応の姿を王妃は嬉しそうに見ていたが、娘が母のその表情に気が付くことはなかった。


ーーああ、妹が気になって仕方がないのね。なんて健気で可愛いの。私のバルバラ

--お姉さまと二人っきりなんて息が詰まりそう。それに【底抜け】なんかにお母様は渡さないんだから


 しかし一組の親子の想いは少々ズレていた。


     *    *    *


「ジョーの報告によると、最近のお気に入りは【適正化】遊びらしいわね」

「【適正化】遊び?」

 バルバラを抱きかかえるようにして騎乗用の大鷲に跨った王妃は、大空の旅を楽しみながら、妹の話を聞かせていた。

 バルバラとしては聞きたくもない話だが、母に背後から抱きしめられ、二人っきりでお喋りできるのが嬉しくて、話題については我慢することにした。

「いろいろ森で採取してきては、その物の大きさや重さを記録したりスケッチしたりした後ジョーに、アリーシャの世話人ね、頼んでインベントリに仕舞わせるの」

「全部【適正化】されますよね。じゃあ、重さとか測っても無駄なのでは?」

 材料に魔法をかけてできた物は()()になるように、インベントリに仕舞ったものも()()になってしまう、この世界では()()のことで【適正化】と呼ばれていた。

「そう。それで【適正化】前後の比較をしてるんですって」

「それは意味が無いのでは?」

「そうね。アリーシャによると『しつりゅーほぞんがー』とか『たよーせーがー』とか言っているそうですけど、ジョーもよく判らないんですって。直接聞いてみたら?」

「……はい」

 母の楽しげな言葉にチクリと胸の痛みを感じながら娘は答えた。


     *    *    *


 一方そのころ。

「「おいしい!」」

 森の中、アリーシャが厳選して採取したリンゴをナイフで切って、ムティア、カシムに食べさせていた。

 インベントリに収納して【適正化】されたり、【食用】(エーダボゥ)などの調理魔法で食べなれた『いつもの味』とは全然違う。

 程よい酸味と甘い蜜がたっぷりのリンゴは、二人の大絶賛を受けていた。

 魔法を使わない食べ物なんて、と忌避感を示していた狩人のおっちゃんも、一個だけ、とか言いながら食べると、二個、三個と手を出し、子供たちの顰蹙を買っていた。

「そっちのリンゴも食っちまおうぜ」

「だめ~。これはジョーにおみあげにするの!」

 特に厳選したリンゴを抱えるように隠したアリーシャは、それを食べたときのジョーの顔を想像して、楽しそうに笑っていた。

 しかしその日の夜、


「ジョーなんて大っ嫌い!」


 アリーシャは老夫婦の家に家出してしまった。


彼女にとってはあのタイミングでワガママが言えただけでも十分奮闘なのです

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