(12)コドモたちのヒミツ
「なに、あの言い方!」
6歳のムティアは、開封の儀式を受けておらずまだ魔法が使えない。だから底抜けであるアリーシャが馬鹿にされる理由が理解できず、狩人のおっちゃんの言い草にプンプン怒っていた。
「で、でも、ソコ抜けだからってお母さんも言ってたし」
「なに、あんた。リーシャが馬鹿にされて平気なの!」
「ムーちゃん。リーはへっちゃらだよ」
ケンカになりそうな(一方的にムティアがカシムをボコボコにしそうな)二人に、アリーシャはにへらぁ、と笑いかける。
「もう、もう! もう!!」
怒りを地面にぶつけて地団駄を踏むムティアとオロオロするカシム。
「で、でも、ボクたちだって、もしかしたらソコ抜けかもしれないんだよ」
そのことを想像して、こわいんだ、というカシムに、
「意気地なし! わたし、底抜けだったらリーシャと一緒に村を出て『冒険者』になる!」
「む~り~だ~よ~。魔法使えなきゃマモノにやられちゃうよ」
二人の言い合いに、ん~、とアリーシャは腕を組み、ぽっくぽっくぽっくち~ん、と言って二人を止めた。
「うん、たしかめよう」
「「えっ?」」
* * *
「ムーちゃん、カシム。これからやることはみんなにヒミツね」
アリーシャは精一杯真面目そうな顔で二人を見るが、垂れ目がちな顔に二人は思わず吹き出す。
「ま~じめ~な、は~なし~!」
とプンプン怒るアリーシャを今度は二人が宥めて約束する。
村の外れ、大人たちの目の届かない木の影で子供たちは座り込んだ。
まずムティアと向かい合わせになって座り、両手を掴む。
「ゆっくりやるけど、びっくりしないでね」
アリーシャが右手から魔力を通すと、ムティアの身体がビクッと震える。
「な、なにこれ」
「魔力」
「「えっ?」」
二人の驚く声を無視して、ムティアの中をゆっくりと魔力が巡っていく。
「うん、マゾーは平気。ムーちゃんは底抜けじゃないよ」
ゆっくりと魔力循環を止めて手を放すが、ムティアはぽわぁっとした表情で呆けている。
「ムーちゃん、だいじょーぶ?」
「え、あ、うん。大丈夫。あったかくて、気持ちよかったから、ついぼーっとしちゃった」
次は、カシムね、と言いながらアリーシャが位置を変える。
「ま、まってよ。ソコ抜けが魔力使えるの?」
「うん。バレたら大騒ぎになっちゃうからヒミツね」
大騒ぎというのがどんななのか想像できない二人だったが、アリーシャの、約束ね、という言葉に再度力強く頷いた。
「でも、ヒミツだったらなんでボクたちに?」
カシムの疑問に、ん~、と考えて、
「だって、カシムが不安そうなんだもん」
にへらぁ、と笑うアリーシャに釣られてカシムも笑い、「うん。ボクも確かめて」と両手を出した。
結果、カシムも底抜けではないと判り、ほっとした空気が流れる。
「ソコ抜けじゃなくてよかったぁ。ボク、ホントーに怖かったんだ」
大人たちはアリーシャを可愛がっているが、同時に自然と底抜けを見下してもいるのが子供の目から見ても判った。そんな境遇にもし自分がなったら、という恐怖をカシムは感じていたが、その不安が無くなり、安心しきった顔になっていた。
「なによ、その言い方!」
カシムにムティアが再び噛みつくが、やっぱりアリーシャに止められた。
「ムーちゃん、ありがとう。でもいーんだよ。リーはへっちゃらだから。それでね……」
その日からアリーシャは2人に魔力循環と魔力操作の練習、更に魔臓の増幅を少しづつ行っていった。
「ムリすると底が抜けちゃうからね」
経験者の言葉に顔色を青くしてうなづく二人だった。
ちなみに魔力操作による他人の身体の走査や魔臓の増幅などは専門教育を受けた者が行わないと危険とされ、神官免許が必要なことを三人が知るのは当分先の話である。
* * *
日課となっていたアリーシャの奇妙な踊りだが、最近少し変化が出てきた。
ゆっくりした動きから、体を捻り後ろ足をダン、と大地に踏みつけながら右手を前に突き出したり、木の棒を持って振るう動きを加えていった。
更にコッソリとアリーシャは体に魔力を循環させ、強化された筋力で素早く且つ力強く『奇妙な踊り』を踊っていた。
ムティアとカシムにもその動き(と魔力操作)を教え、3人で組み手をする姿も目撃されるようになったが、村人たちには何をしているのか理解できず、ただ子供がじゃれていると思われていた。
「本当に冒険者になろうかしら」
ちょっとお転婆な普通の村娘の未来がすこぅしズレ始めていた。
週末に続きが上げられるかな?




