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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

放送局より愛を込めて

放送局より愛を込めて

作者: かなこ

「どう見ても机の方が重いだろ」

 苦情を言いながら、しかしさほど重そうな様子も見せずに男子生徒は机を運んでいた。

「だいたいなんで俺が1年の机を運ばなきゃなんねぇ訳?」

「そこにお前がいたからだよ、九流川」

「俺は山か。ってーかなんで俺は三井センセのしんどい場面にばっか出くわすのかね」

 三井は机と対になる椅子を運んでいた。

「こんな机二度と使えねぇだろ。椅子もぼろぼろじゃん」

「うん。廃棄処分らしいな」

 少し目を伏せて三井は椅子を持ち直した。確かに2人の運んでいる机と椅子は折れ曲り、あちこちに大きなへこみや傷があって、明らかに破壊する意図の元に破壊された痕跡が残っていた。

 九流川は何も聞かず、また言う事もなく、黙って三井の言う通り運んだ。

 それがちょうど1ヵ月前。ゴールデンウィークを控えてざわついていた頃だった。



「1曲目のリクエストは2年D組の『松茸うめー』さんからで―――」

 放送局による校内放送が流れるが、浅間高校の昼の日常だった。

「2曲続けてどうぞ」

 低いがよく通る放送局のDJは、放送局局長2年の九流川くるがわ雅貴。2人しかいない放送局の大黒柱。鼻先に届きそうな前髪を鬱陶しげにかき上げる癖のある、大雑把な男だ。 

 マイクのスイッチを切って、九流川はちらりと隣を見た。

「はい、先輩お弁当」

 集計したリクエストを元に構成を担当するのは、1年の空木うつぎこずえ。2人しかいない放送局の影の大黒柱。身長は九流川より頭1つ分低く、肩で揃えた髪が几帳面さを表している。空木は一人暮らしの九流川のために毎日弁当を作っていた。でもそれは不摂生をしている人間が許せないという主義のもとでの行動であって、愛情は3割ほどしか入っていない。

「サンキュ」

 受け取るが早いが、九流川は包みを解き食事にかかった。2曲の間にできるだけ食べ、残りの時間を昼寝に当てたいのだ。

「こずえー、茶ー」

 ずうずうしい申し出に空木は無言で立ち上がった。いつのも事だからだ。

 放送局の操作室には九流川が持ち込んだ電気ポットがある。その他モバイル端末にゲーム、スタジオに毛布、そして小さいながら冷蔵庫が設置されていた。歴代の局員達の遺産らしい。

 空木がポットに手を伸ばしかけた時、来客を知らせるランプが点いた。

 放送局内はその性質上、収録や録音を妨げられないよう二重の防音扉になっており、1つ目のドアを抜けたら来客はインターホンを押して音ではなくランプでその旨を知らせ、入室の許可をもらう。だが大雑把な九流川の性格のもと局内に人がいる時はいつも鍵は開け放してあり、うっかり訪ねて来た教師の声を全校放送してしまう事もままあった。

「どうぞ」

 そう言って空木がドアを開けた。

「お邪魔するよ」

 優等生的な態度で局内に入室したのは、前年上級生の候補者を圧倒的な票数で蹴散らした現在の生徒会長、瀬田悟だった。成績優秀、スポーツ万能、おまけにイケメンで背も高いものだから女子に人気が高い。

「瀬田か」

 九流川は食べながら視線を向けた。空木は黙って湯飲みを2つから3つに増やす。

「相変わらずぎゅうぎゅうに詰まった部屋だな。空木君が来る前よりかなりマシだけど」

 勝手に椅子に座りながら、瀬田は部屋を見回した。

 空木が入部する以前、局内は九流川自身も何がどこにあるのか解らないほど荒れていた。その局内を、空木は九流川の尻を蹴飛ばして掃除と整理をさせたのだった。お陰で機材や無数の記録媒体がまるではめ込んだかのようにきっちり並んでいる。ぎゅうぎゅうだが、キャスター付きの椅子が自由に動かせるほど局内は広くなった。

「いいんだよ。こずえは片付けるのが趣味なんだから」

「趣味ではなく特技」

 言い返す空木から九流川は軽くお礼の態度を示し、お茶を受け取った。瀬田もならって礼を言うと一口お茶をすする。

「雅貴、お前一人暮らしだったよな。部屋を想像するのも怖いよ」

「いいんだ。あそこは寝るだけだから。少し黙れ」

 そうぶっきらぼうに言って九流川はごくりとお茶を飲んだ。曲が終わりに近付いている。もう一度曲名とリクエストした生徒の名前を言わねばならない。

 空木はぼんやりと初めて訪ねた九流川の部屋を思い出した。筆舌し難い光景だった。あれを片付けるにはブルドーザーがいる。

 再びコメントを終え、スイッチを切った九流川を見ながら、瀬田はポケットから一枚の紙切れを取り出した。

「これを見てくれないか」

「リクかよ。生徒会長だからって特別扱いしねぇぞ」

 受け取って九流川は四つ折りにされた紙を広げ、長い前髪をかきあげながら微妙に眉を寄せた。

「リクエストに見えるか?」

 無言の九流川を、瀬田は伺うように見つめる。

「なんて書いてあるんですか?」

「……満月の夜、赤い花は純白に輝く」

 低い声で九流川は呟いた。

「地獄の死神より」

 九流川のあとに瀬田が続いた。

「何だこりゃ。今時新聞を切り抜いて手紙を作るそのセンスは笑えていいけどな」

「気味が悪くてね。入室出来る人物に制限のある所で見つけたから」

「それじゃ生徒会室のお前の机の上ってとこか」

 当たりだったのだろう。瀬田は口をつぐんだ。

「次の満月っていつだよ」

「どうやら明日らしいんだ」

 瀬田はやや深刻そうな表情を浮かべて九流川を見たが、九流川はあからさまに「面倒臭い」という顔をしていた。

 そんな九流川を見て空木は珍しい事もあるものだと驚いた。九流川は空木以外にはあまり負の感情を見せない。本気で機嫌の悪い時でも笑顔を浮かべられるくらい自分をコントロールしている。だとすれば、瀬田は九流川にとって近しい友人だと空木は判断した。今まで知らなかったが生徒会長とこんなに仲が良かったのか。

「で? どうしろってんだよ」

 瀬田は待ってましたと言わんばかりに笑顔を作った。

「何とかしてくれないか? 雅貴」

「断る」

 瀬田の言葉に九流川の言葉が重なった。秒で返した九流川は目線も合わせない。

「こんな子供じみた悪戯にかまってお前のパシリをするのはご免だ」

 高校生にもなってしまえばこんな紙切れに好奇心は湧かない。こっくりさんだってせいぜい中学生までの遊びだ。

「じゃあこうしよう」

 瀬田が指を組み直して笑顔を見せた。

「次期の部活予算は放送局にいつもより多く振り分けるから」

「ンな事はお前の一存で出来る事じゃねぇ。いい加減な事言うな」

 九流川は手紙を瀬田の膝に放り投げると、空木にお茶のお代わりをした。

 これだけ嫌悪をあからさまに出せるほど仲が良い友達のはずなのに、何を頑なに瀬田を突っぱねているのか空木には解らなかった。

 瀬田悟と言えば完全無欠の優等生で人望が厚く教師にも受けがいい。成績こそ九流川に負けるが(というか九流川は意外な事に全国模擬試験のいくつかで1位をここ2年間キープしている)バレンタインのチョコ獲得数だって全校でトップを争う。そんな頼られる事はあっても頼る事はない人物からの頼みを受けること事体がすごい。そのすごい事を九流川は即座に断っている。これは変だ。

 だいたい九流川は大雑把な性格のクセに瀬田と同じくらい頼られ、面倒だのうざいだの言いながらも結局はアフターケアまで付き合うお人好しだ。大雑把ゆえ男女生徒教師関係なく、頼まれれば助けてしまう。そんな九流川がどうしてこんなに瀬田に限って突っぱねるのか、空木はとても不思議に思った。

「じゃ、奥の手を使うよ。雅貴お前、この間繁華街で人相の悪い連中と喫煙していただろう?」

「あの連中が悪いのは人相だけだ」

「焦点はそこじゃない。喫煙だ」

 九流川はまた前髪をかきあげ、胡乱な視線を瀬田に向けた。

「現行犯じゃねぇと捕まえる事はできねぇだろ」

「そうかもしれないけど、僕が言ったらまず間違いなく生活指導が動くよ」

「動かしてみろよ。できるもんならな」

「瀬田先輩も九流川先輩もちょっと落ち着いてください」

 九流川の声が低くなったので、空木は仲裁をしようとした。九流川は目線をあさっての方向に向けている。瀬田が空木を見た。

「空木君からも何か言ってくれないか」

 困った、と空木は思った。空木にすれば先輩でしかも生徒会長の頼みを無下にはできない。選択肢は結局1つしかないのだ。九流川の扱いについては誰よりもよく知っている。仕方ない、と空木はため息を吐いて九流川を見た。

「先輩、私も手伝いますから一緒に何とかしてみましょう。やってみて駄目だったら駄目だったって事で瀬田先輩も納得してくれますか?」

 瀬田はうなずいた。

「先輩」

 しばらく知らない振りをしていた九流川は、ようやく渋々いやいや承諾したらしく、自分から放り投げた手紙を乱暴に奪い返した。

 瀬田は空木に感謝の言葉をかけて、放送室から出て行った。

「塩まいとけ」

 九流川はそういって昼寝体制に入った。



「こっちです」

 放課後、空木は嫌がる九流川を校舎の外へ引っ張り出した。コの字型の校舎をぐるりと回って裏側に進む。

「なんであんな事引き受けたんだよ」

 相変わらず九流川は不機嫌な声で空木の後ろを歩く。

「だって気持ち悪いじゃないですか」

「気持ち悪いのは瀬田で俺じゃない」

 両手を制服のズボンのポケットに突っ込んだまま、九流川は呟いた。空木はやっぱり瀬田との関係が気になった。

「先輩、どうして瀬田先輩の」

「ところでお前はどこに行こうとしてんだよ」

 あからさまに言葉を遮られて空木は腹が立つより先に驚いた。聞いてはいけない事か言いたくない事か、どちらにしても言いたくなったら言ってくるだろうが、あの生徒会長に貸しを作れるまたとないチャンスをなぜ嫌がるのか。それ以前に友人なら助けるのが当たり前という九流川がなぜ。

 九流川は空木の考えを知ってか知らずか陸上部の友人に手を振っている。

 仕方なく自分の質問を棚上げし、空木は九流川の質問に答えた。

「この先に園芸部の温室があります」

 九流川は眉を寄せた。

「もしかしてお前、バカ正直に花を調べる気か?」

「いけませんか?」

 即答する空木に、九流川は遠い目をした。普通は生徒会役員を真っ先に疑うだろうに。

「俺はいったい、なんでこんな女に告ってしまったんだろうなぁ」

「お互い様です。私だってどうしてOKしてしまったのか未だに解りません」

 太陽の反射光が2人の視界に入って来た。園芸部の温室だ。テニスコートほどの広さで、中に複数の人影が見える。

 2人が中へ入ると、空木が前もって知らせていた園芸部の部長、石崎美弥が快く迎え入れてくれた。長い髪をアップにしてエプロンを付けている。華奢で温和で大人っぽいが、どこか影のある生徒だった。

「ご苦労様、空木さん。取り合えず鉢植えできる赤と白の花を選んでみたけど」

「うわっ……キレイ」

 空木は目を見張った。名前を知らない花ばかりだが(さすがにチューリップとペチュニアとマーガレットは解った)これでもかというくらい整列している。小さく赤い玉がこじんまりと集合した花や、鈴なりに咲く白い花。来た理由を忘れて空木はしばし見入った。

「これじゃねぇのか。赤と白が混じってるぞ」

 空木の感動をよそに、九流川はペチュニアを指した。たしかに赤と白がマーブル模様を描いている。

「石崎先輩、この花って最初は赤くて徐々に白い部分が出てくるんですか?」

「違うよ。最初からそうなの」

 すでに花から興味を無くした九流川は、2人を無視して温室内を見渡した。右側に野菜畑、左側に花壇が並んでいる。その花壇の最奥。

「おい石崎、あっちにも花があるじゃねぇか」

 九流川の視線の先には、鉢植えされた花が更にビニールシートををかけられて丁寧に栽培されていた。

「あれはまだ蕾だもの。それに赤とは正直言い難いな」

「貴重な花なんですか?」

「うーん、今の私達にとっては貴重な花かな」

 石崎はにこりと笑って蕾の方を向いた。

「今月末に各高校の園芸部で花のコンクールがあるの。うちはあの薔薇を出展しようと思ってるんだ」

「そんな都合よく咲くのかよ」

「咲かせるの。それが腕ってもんよ」

 笑って、石崎は蕾の近くに2人を案内した。

 温室の中の更なる小さな温室に入った九流川と空木は、その蕾を覗き込んだ。

「これはね、私ともう1人で協力して作った最高傑作なの」

 なぜか話した内容ほど嬉しくなさそうに、石崎は蕾にそっと触れた。

「もう1人って誰?」

 こういう所がぶしつけだと空木は思う。あえて『もう1人』としたのは、言いたくないかもしくは言えないかのどっちかだと思うのに。

「九流川君の知らない人」

 曖昧に石崎は応えた。徐々に表情が曇り始める。

「なんだ、そいつ転校でもしたのかよ。1人で育てるのは寂しい訳だ。男だな」

「ちょっと先輩いい加減にしてください。だいたい失礼ですよ、そんなプライベートな事を聞くなんて」

 空木が九流川をきつく叱ったせいか、九流川もそれ以上追求するのはやめたようだった。陳謝を述べて2人は園芸部の温室から出ようとした。空木が先に出たほんの一瞬の隙に、九流川は振り返った。

「お前なんだろ? あの手紙」

 石崎は黙って微笑んだ。



 無言のまま大股で歩く九流川を空木は早足で追い掛けた。

「先輩、どこ行くんですか。何をそんなに急いでるんです?」

「石崎の友達に色々と聞きに行く。夕方からバイト入ってるから17時までには調べねぇと」

「何を調べるんです?」

「石崎の付き合ってた相手」

 ついさっきまで興味などまるで無いようだったのに、いつになく九流川は真剣な顔をしていた。九流川がこういう顔をした時は、十中八九良くない事が起きる時だ。空木は眉を寄せた。

「何か良くない事を考えてるんでしょう」

「良くはねぇわな。最悪の状況を考えれば」

 九流川が物事をはっきり言わないのは確証がないせいで、わざと教えない訳ではない。確証が得られれば話してくれるだろうと空木は質問をやめた。

「とりあえず園芸部の顧問って誰だっけ?」

「松山先生です」

 あっさりと答える空木に今度は九流川が眉を寄せた。

「なんで知ってんの?」

「だってさっき園芸部に行く時に許可くれたの松山先生ですから」

「あー……あのお色気先生か」

「そう。男子に圧倒的な人気の松山先生です」

 園芸部顧問の松山は、女子には『ケバい男子ひいきの先生』としてあまり好かれていない英語教師だが、男子には『採点が甘くて親しみやすい先生』として周りに群れたがる者が多い。

「なんで松山なんだ? どう見たって園芸って柄じゃねぇだろ」

 九流川は男子の中では珍しく松山になびいていない生徒だった。どの教師とも対等に話し合おうとするし、教師達も無意識に対等であろうとしてしまう。それは成績がずば抜けて高い『九流川雅貴』を抱える学校としてのステイタスに響くからだ。 転校されては困る生徒なのである。親しくしようとするのは当たり前で、松山も執拗にモーションをかけているが中々なびかない。

『九流川の付属品』としてさり気なく教師が甘くしてくれる空木はそんな状況がいやで仕方ないのだが、かといって松山のように極端に差別されるのも困る。生徒相手に色仕掛け合戦を挑まれてもとても対抗する気にはなれない。なれないのが当たり前だと思っている。まあ、そんな教師だ。

「知りませんよ、そんな事」

 空木はふと、いつの間にか自分の歩く速度に九流川が合わせてくれている事に気付いた。こういうさり気ない気遣いが九流川の万人受けする所以だろうと思う。

「それにあれだろ、新任教師のくせに1年の担任じゃなかったか? その上顧問もやってんの?」

 おかしいだろ、と九流川は不満げな顔をした。

「噂では担任としての仕事は副担任が全部カバーしてるみたいですよ」

「副担、誰?」

「三井先生です」

 破損した机の運搬を手伝わされた事を、九流川は思い出した。

「あいつかぁ。気弱そうな所あるからなぁ。石崎は責任感強そうだし、おそらく園芸部は石崎が回してるんだろうな」

 勝手に解釈して、また友達だろう人物に手を振り返している。交友関係が広すぎる、と空木は改めて思った。何せすれ違う人のほとんどが九流川に手を振るのだ。以前九流川が部屋へ招いてくれるという事で一緒に近隣の商店街を歩いていたら、肉屋やら八百屋やらが全て九流川にファーストネームで話し掛けてきたくらいだ。

 そういえば瀬田も九流川をファーストネームで呼んでいた事を思い出した。

「本当に交友関係が広いですね。瀬田先輩ともあんなに仲がいいとは知りませんでした」

「あんな奴友達じゃねぇ」

「え?」

 一瞬、九流川が険しい表情をしたような気がした。

「とりあえず俺は石崎の交友関係を当たるから、お前は集計やっといて」

 一方的に話題を切り替えられて空木は膨れた。

「えー? 私1人でですかー?」

「あれー? こじゅえちゃんは俺がいないと何にも出来ないのかなぁー?」

 にやにやとからかい口調の九流川に、空木は冷静に答える。

「……明日のお弁当はオクラとメカブにしますね」

「すみません。片付いたらすぐ戻ります」

 真顔で答えてから、九流川は放送室と逆の方向へ消えた。



「あら、九流川君じゃないの、どうしたの?」

 嬉しそうな笑顔を浮かべて松山は振り向いた。

 放課後の職員室は明日の準備をする教師や部活の生徒に囲まれている教師で騒がしかったが、その中でひときわ男子生徒に囲まれてご満悦だった松山は九流川の登場で更に艶やかな笑みを見せた。

「そうそう、この間はどうもありがとうね、九流川君」

 さも2人にしか解らないような会話を振るのが九流川の癇に触る。

「3階男子トイレの掃除用具室の水道管が壊れた時の事か? だったら別にアンタに頼まれたから修理した訳じゃねぇよ」

 3階は1年生の教室になっていて、一月ほど前に九流川は三井と一緒に水浸しになったトイレを修理した事を思い出した。本来であれば松山が担当する場所だったのを三井が押し付けられ、丁度空木を迎えに来た九流川は三井とかち合ってしまったのだ。三井とはなぜかそういう状況で出くわす事が多い。

「でも助かったわ。どうもありがとう」

「それよりさ」

 九流川はちらりと松山を囲む面子を睨んだ。

「転校生の事なんだけど」

 松山の表情に微かなヒビが入った。



 その頃、用紙を手に空木は格闘していた。集計は1週間ごとにまとめるのだが、読めない文字だったり廃盤になったアルバムを要求してきたり、あげく自分のバンドの曲を流せと書いてきたり、そんな紙切れを200枚近くさばかなければならないのだ。そしてそれらをランキングして音源を探して落として時間を計算しながら編集しなければならない。

 空木がため息を吐いた時、来客を知らせるランプが付いた。

 もうすぐ下校時刻になろうとしているのにいったい誰だろうと不思議に思いながらも空木は内線を取った。九流川ならいきなり入ってくるはずだ。

『空木さん? 瀬田だけど』

 え? と一瞬受話器を耳から離した。

「九流川先輩ならいませんけど」

『そっか。でも状況を聞きたいんだ。空木さん教えてくれる?』

 昼に頼んだ事を夕方に知りたいなんてずいぶんせっかちな人だなぁと、何の警戒もなく空木はドアを開けた。

「どうぞ。何にも進んでないんですけど、私で解った範囲でなら」

 瀬田はにこりと笑って靴を脱いで局内に入った。

 お茶でもとポットに伸ばしかけた空木の手を、瀬田が掴んだ。

 空木は思わず瀬田を見上げた。九流川ほど背は高くないにせよ、小柄の空木から見れば瀬田も高身長に入る。

 瀬田は笑っていた。

「雅貴と付き合ってるんだよね?」

「はぁ、まぁ、そういう事になってますが」

 空木には、まだ瀬田の考えが読めない。

「こんな所で2人きりなんだ?」

「は?」

 空木は無防備なまま首を傾げていたが、背中が壁に付いた時、小さな恐怖を感じた。

「あの、ちょっと、報告をするにのこんなに接近する必要はないと思うんですけど」

 笑って誤魔化そうとした空木の身体は、瀬田の右腕1本によって封じられてしまった。

 恐怖がどんどん大きくなっていく。自分の顔が青ざめてくるのが解った。

「いつも雅貴とはどうやってしてるの?」

 何を? と、誤魔化す余裕は今の空木には無かった。悲鳴を上げたってここは2重の防音扉に遮られている。力では負けるに決まっている。

 九流川はいない。

 抱き締められるというより押さえ付けられ、空木は頭の中が恐怖でいっぱいになり、本能的に暴れた。何か言いながら暴れたような気がするが、何を言ったのかも解らない。九流川の名を呼んだかもしれない。

『あんなやつ友達じゃねぇ』

 ついさっきの九流川の言葉が頭を過った。

 無茶苦茶に暴れて一瞬の隙をついた空木は、瀬田を突き飛ばしキャスター付きの椅子の後ろに回り込んだ。制服のネクタイを歪ませて肩で息をする。そんな必死の抵抗を無視して、瀬田はゆっくりと内側から部屋に鍵をかけた。

「さて、どうしようかな?」

 生徒会長は人当たりの良い笑顔を崩さなかった。

「どうして九流川と付き合ってるの?」

 空木は答えない。武器がないかと視線を走らせる。

「あいつってさ、どうしてそんなに人気がある訳?」

 工具のほとんどはスタジオにあり、操作室にあるのはチューニングを合わせる機械だけで、それはとても女の力で持ち上げられるものじゃない。

「制服も髪型もだらしないし、なのに勉強は出来る。どうしてあいつだけ何でも持ってる訳?」

 空木は1つのスイッチに気付いた。

「ムカつくんだよね。たいした努力もしないで運がいいだけの男」

 瀬田は椅子を蹴り飛ばし、空木に手を延ばしたが、それは空を掴んだ。空木の方が一瞬早くもぎとるように全校放送のスイッチを入れたのだ。

 全ての操作ランプがいっせいにオンになった。マイクへ手を延ばし、

「助けて!」

 そう叫びかけた空木の顔を瀬田は押さえ付け、空木は前のめりに床に転がった。

「危ない事しないでくれる?」

 スイッチを切ってから、瀬田は肩で息をして空木を見下ろした。

「俺の方が頑張ってる。俺の方が努力してる。そうだろう? なのにどうして」

 いつも九流川と比べられなきゃならないんだ?

 出口に飛びついた空木の腕を、瀬田は加減無しに殴った。

 痛みと恐怖でパニックになった空木は操作室の最奥へ転がってしまい、掴み損ねた作業台をかすめて集計していた用紙を床にぶちまけた。身体を丸くして痛みに耐える背中を、瀬田は容赦なく蹴りつけた。

「―――!」

 もう声も出ない。ひたすら丸くなって自分を守ろうとする空木に2度目の蹴りを入れようとした瀬田は、その瞬間派手な音を立てて背後へ吹っ飛んだ。

「……てめぇ」

 その低い声を聞いて、空木は泣きそうになった。

「てめぇのそういうやり方が、ヘドが出るほど嫌いだって言ってんだよ」

 瀬田を突き飛ばしたとされる左手をひらひらと振りながら、九流川は座り込んでいる瀬田を見下ろした。空木は見た事のない九流川の冷たい視線に再び凍り付く。

「僕を敵に回すのか? 雅貴」

「最初から味方じゃねぇよ」

 睨み合っていた視線を先に外したのは瀬田だった。

 棚に手をかけ、ゆっくりと立ち上がる。

「ただで済むと思うなよ」

「さっさと失せろ」

 がちゃりと重い音がして放送室から瀬田が出て行くと同時に、九流川は空木に駆け寄った。

「大丈夫か?! いま保健室に連れてってやるから!」

 言いながら九流川は空木の小さな身体を持ち上げた。

 そんなにたいした怪我は無い、そう言おうとして、空木は意識を失った。



  空木が目を覚ましたのは19時近くだった。背中の痛みをこらえて殴られた腕を見ると、包帯が巻かれている。

 周りを見渡すと自分が保健室にいることが解った。そういえば記憶を辿ると九流川が保健室とか言ってた気がする。

 九流川が心配してるだろうと空木は起き上がった。この時間はバイトをしているはずだから、メールかLINEで連絡しようと鞄を探す。

「空木さん!? 大丈夫!?」

 衣擦れの音で気付いたのか、保健医がベットサイドのカーテンを勢い良く開けた。

「ええ、まあ。私の鞄ってまだ教室ですよね?」

「それはお友達がここに持ってきてくれたけど、大丈夫? まだどこか痛い?」

 肉体的な痛みより精神的にかなり辛かった。暴力とはメンタルな部分にもダメージを受けるものだ。

「痛みはありますけど我慢できないほどじゃないです」

 それより九流川先輩は? そう言おうと保健医に向き合った空木は、次の言葉に唖然とした。

「先生もびっくりしたわ。九流川君がこんな事するなんて」

 想定外の言葉を聞き、空木はぽかんとした。

「女の子に暴力振るうなんて見損なったわ」

 これは呆然としている場合ではないと空木は思った。

「ちょっと待ってください。誰が暴力を振るった事になってるんですか?」

 保健医は目を見開いて空木を見つめた。

「だから九流川君が」

「誰に?」

「空木さんに」

「なぜ?」

 双方の言葉はキャッチボールにならず、互いの足下に落ちた。

「……だから、九流川君が空木さんを放送室に軟禁して怪我を負わせたって」

「は?」

 お互い5秒は見つめあった。

「……空木さん、覚えてないの?」

「覚えてますけど、殴られたり蹴られたりしたのは九流川先輩じゃないですよ」

 保健医の顔が徐々に青ざめた。

「じゃあ……誰に?」

 空木はしっかりと保健医の目をみた。

「瀬田生徒会長です」



「だから言っただろ! はっきり言ってこれは人権無視だぞ!」

「九流川先輩、バイトは?」

 19時半を過ぎた頃、空木は生徒指導室へ出向き、教師に囲まれている九流川に普通に尋ねた。

「休んだに決まってんだろうが!」

 怒鳴り散らしながら、九流川は空木のためにソファをつめた。

 そこへちんまりと納まった空木は、九流川の長い前髪の隙間から腫れた頬を見つけた。

「先輩、どうしたんですか? 顔まで歪んでますよ?」

「までってなんだ、までって」

 九流川は空木にから隠す様に前髪ごと腫れた頬を手で覆った。

「殴られたんだよ。そこにいるお前さんの親父さんに」

 空木は一番後ろでしょぼんとしている自分の父親を見つけた。

「なんでお父さんがここにいるの? なんで先輩が殴られなきゃいけないの?」

 事の次第が徐々に見えてきて、教師達は居心地悪そうに視線を泳がせた。

「こういう事。怪我をしたお前を保健室に運び込んだら、なぜか俺が犯人って事になって、お前の親父さんが学校に呼び出されて、事情を話そうとしたらそんなものは言い訳だと殴られた」

「お父さん! 九流川先輩は助けてくれた方! 私を殴ったり蹴ったりしたのは瀬田っていう人なの! 」

 空木はそこに集まっている全員を見渡して明瞭に告げた。

「私に怪我を負わせたのは瀬田先輩です。あの時、九流川先輩が助けに来てくれなかったら私、多分入院してたと思います」

 誰も何も言えなかった。九流川だけが小さくため息を吐く。

「あんな? 俺思うんだけど、今回の学校側の態度はまあ置いておくとして」

 腫れていない方の前髪をかきあげながら、嫌みっぽく九流川は喋り始めた。

「率直に言って、瀬田だろ? センセイ達に『九流川が空木に暴力を振るっている』とでも言って回ったんだろ。それをみんな信じたんだ。そうだよな、まさか生徒会長が女の子に暴力振う訳ないもんな。ましてや俺に吹っ飛ばされた怪我を見せられたらよ」

 教師達をねめつけるようにして九流川は足を組んだ。

「あいつの言う事は何でも正しいと思ってんだろ。理想的な生徒だと思ってんだろ? そういう学校側の偏見が余計な事件まで起こしちまうんだよ」

 後半は、隅に座っている松山の方を向いて言った。

「教師による生徒への差別・区別がなくらない限り、まともな人間は育たねぇぞ。なぁ松山センセイ?」

 びくり、と松山の華奢な肩が震えた。

「どういう事ですか?」

 その場にいる全員の気持ちを代弁した空木は、しかしやんわりと拒絶された。

「こずえ。お前は親父さんと一緒にもう帰れ。後は俺がやっとくから」

「でも……」

「お前は俺の無実を証明してくれた。それだけでいい。だからもう帰れ。な?」

 痛む頬を少しかばって、九流川は空木に笑って見せた。

 何となく嫌だと言いにくくて、空木はうなずいた。そのまま父親の方へ向かう。

「あのね、お父さん。九流川先輩の首から上はこの学校の財産なの。これで先輩が全国の首位から転げ落ちたらお父さんのせいだからね」

 そう言って父親を促し、九流川がやや呆然としている間に空木は生徒指導室から出て行った。

「さて」

 ドアが閉まると同時に、九流川はどっかりとソファの背にふんぞり返った。

「諸先生方々、どうしましょうかね?」

 意地の悪い顔をして、九流川は一同を見回した。

「俺の質問に答えてくれたら教育委員会やマスコミその他に黙っててやらない事もねぇよ?」

 そして九流川は1ヵ月前の話を始める―――。



「園芸部ですか?」

 22時半。空木は九流川からの電話を受け、その言葉を復唱した。この時間まで連絡がなかったという事は、この時間まで学校に拘束されていたという事だろう。

『そう、園芸部。石崎に用があるんだ。そこで色々解った情報をお前にも話すよ。それから』

 九流川はいったん区切った。

『沖田に礼言っといて』

「沖田? 麻美ですか? 私の友達の」

『ああ。今日、瀬田が放送室に向かうのを見たって沖田から聞いたんだ。それで何とか間に合ったって訳だ』

 2・3人吹っ飛ばしたな、と九流川は電話の向こうで笑っている。空木もつられて乾いた笑いを返した。

『とにかく今日は疲れただろうからゆっくり寝ろ。眠れそうか?』

 多分この電話の本題はこの言葉を伝えるためだったのだろう。こういう時に優しくされるとちょっと照れる。

「大丈夫です。九流川先輩と付き合えるほど神経が太いですから」

『ちゃかすな馬鹿。じゃあな』

 九流川は照れを隠すためか、すぐ電話を切った。

 馬鹿とは何ですか!

 1分後にそんなメールが九流川の携帯電話に届いた。




 翌日、登校した空木は自分の怪我を転んだと誤魔化した。九流川とそう口裏を合わせたのだ。『学校の評判が落ちる』と教師達に迫ったらしい。

 今なら学校中に瀬田の悪事を周知する事ができるだろうに、九流川はあえてそれを封じた。空木としては悔しいが、九流川には九流川の考えがあっての事だろうと仕方なく了承した。幸い包帯はぎりぎり制服で隠れる。九流川は何事もなかったかのように教師達や生徒達と挨拶を交わしていた。

 何事もなく昼の放送も終了し、残りの休み時間に空木は九流川と園芸部の温室へ出向いた。

 途中、九流川は今回の事件については何も言わなかった。昨日はバイトに行けなくて社長に怒られたとか携帯電話の充電器が見つからないとか、とにかくそんなくだらない話しかしない。

 きっと良くない話なのだろうと思いながら、空木は九流川の横顔を見た。まだ少し頬が腫れている。

「来たぞ、石崎いるか?」

 温室の扉を開けると、高い湿度が2人を包んだ。九流川の大声に数人の部員が振り返り、その中に石崎の姿があった。

「早かったね。今ハーブティーでも煎れるからちょっと待ってて」

 ハーブも育ててるんだ、と空木は嬉しくなった。生のハーブティーを飲むのは初めてだ。

 すぐに石崎は3人分のお茶を持ってきて、温室の隅にある小さなテーブルへ2人を促した。どうやらミントのお茶のようだが空木にはよく解らなかった。色はあまり無いが香りがとてもいい。

「じゃ、石崎も時間が無いだろうからさっさと本題に入ろう。お前の弟、今年ここの高校に入学してすぐ転校しただろ。どこへ転校したんだ?」

 石崎の表情が少しずつ固くなっていく。空木は必死に記憶を辿った。同学年に入学してすぐ転校していった生徒……思い出せない。

「なぜ弟の消息なんか知りたいの?」

 無表情のまま石崎はカップを揺らした。

「俺も忘れてたんだけど、確か先月、三井にぶっ壊れた机と椅子を運ぶのに付き合わされたんだ。普通に使ってたらあんな風には壊れねぇ。意図的に壊されたもんだろう。とすると、あれはいじめの一環じゃねぇかと推測される」

 一気にそう言って九流川はハーブティーを飲んだ。そして感想を言わない代わりに、少しだけ眉を寄せた。

「で、だ。三井が机を処分したって事は松山の担任のクラスって事になる。って訳で松山に事情を聞いたんだ。で、お前の弟の名前が出た」

 石崎は無表情でゆっくりとカップを回し続けている。

「入学して1ヵ月で転校する位だ。相当酷いいじめだったと推測される。そこで、園芸部のコンクールよ」

 意外な繋がりに空木は九流川の顔を見た。

「石崎、お前が花を育てた共同の相手ってのは、お前の弟だろ」

 石崎は相変わらず無言だった。空木にはまだ九流川が何を言いたいのか解らない。自分達は謎のメッセージを解読しようとしていただけだ。石崎の弟のいじめとは繋がらない。

「学校でここ1ヵ月中に起きた事件と呼べる事件は、俺の知る限りお前の弟のいじめによる転校話だけだ」

 まだ解らない。空木は黙って2人の雰囲気に注意した。石崎の表情は固いままだ。

「瀬田が動くほどの事件と言えるのは、それだけだ」

 言い直した九流川の言葉に、空木は瞠目した。

「お前ももう解ってるんだろ? 石崎。誰にでも優しい生徒会長サマには汚ぇ部分がごっそりあるって事。お前の弟は瀬田と接触してしまった。しかも悪い意味で。違うか?」

 石崎は尚も無言だった。でもそれは、肯定の意味を多く含んだ無言のように思えた。

「公言できるが、俺は瀬田が嫌いだ。体裁なんざ繕えないほど嫌いだ。何かってーと張り合ってくるし、思い通りにならないとなると弱味を握って強請ろうとする。あいつはクズだ」

「……それで? 九流川君の言う通りだったとして、それでどうするの?」

 石崎がようやく口を開いた。突き放したような冷たい言い方だ。だが九流川は変わらず続けた。

「松山の話によるとお前の弟の転校はいじめが原因だ。そのいじめをやってた連中を統率していたのが瀬田って事になる。その事実を大っぴらにしたいんだよ。瀬田の汚さには俺もうんざりだ。こずえにまでとばっちりがいったからな。もういい加減にここいらで本性を引っぺがしておかねぇと後々面倒だと思わねぇか?」

 瀬田の陰湿さは空木も身を持って体験したので充分解る。あんな嫌がらせを1ヵ月も続けられたら、それは転校もしたくなる。九流川はそんな瀬田の化けの皮を本気で剥がす事に乗り出したらしい。多分、瀬田と対等にやり合えるのは九流川くらいだ。

「石崎、お前の弟の証言が欲しいんだ。何の理由でどんな事をされたのか、それを調べて裏とって瀬田を黙らせたい。後は迷惑かけねぇから、お前の弟に合わせてくれないか?」

「バカじゃないの?」

 冷ややかに言い放ち、石崎は伏せていた目を上げた。その瞳には強い怒りが込められていて、空木は緊張した。

「私が弟のために何もしなかったとでも思ってんの? 瀬田君本人にもかけあったし、私ができる限りのフォローもしたの。したに決まってんでしょ?」

 そう言いながら、石崎の目には涙が浮かんでいる。その姿から視線を外すように、九流川はため息を吐いた。

「……そうでない事を願ってたんだが、そうか……」

 そのまま目を伏せると九流川は黙り込んでしまった。

 空木の頭の中で警鐘が鳴り始めた。嫌な予感がする。とっさに口を押さえた。

「……先生方がね、もうダメなの。私の言葉を信じてくれないの。瀬田君がそんな事する訳ないって、相手にしてくれないの。何度も弟の怪我を見せて助けてくれって言ったのに!」

 石崎の涙があごを伝ってぽたぽたと落ちた。指が白くなるほど強く握ったその手の甲に。

「それが瀬田のやり方だ。そういう男なんだあいつは」

 九流川は大切に隔離されている薔薇を見やった。花を愛でるような弟だったのなら、さぞ優しい人間だったに違いない。

「コトが大きくなったから慌てて俺に尻拭いを押し付けてきやがったんだ。ってーか多分この事は全部俺のせいにするつもりだったんだろうよ」

 空木は両手で口を押さえた。嫌だ。聞きたくない。これ以上は。

「あの薔薇は、お前の弟の形見なんだな」

 九流川の言葉に、石崎はぐいっと涙を拭いた。

「そうだよ。あの薔薇は手首を切った弟の一部始終を見てた。鉢には溢れるほど弟の血が流れてた。いま私が弟にできる事は、あの花に全国最優秀賞を取らせる事しかないの」

 お茶はとっくに冷めていた。空木は無意識に薔薇を見て、悲しくなる気持ちを押し殺した。今更悲しくなってももう遅い。

「どうしてそんな事になっちゃったんですか? 石崎先輩の弟さんは、どうしてそんな酷い事をされなきゃならなかったんです?」

「理由なんかねぇよ。強いていうならストレス発散だ。たまたま目に入ったのが石崎の弟だった。誰でも良かったんだ。それで石崎が教師を説得しようと東奔西走したのも、それはそれで瀬田にとっては面白かったんだろうさ」

 投げやり気味に九流川は言い放ったが、その内容の残酷さに空木は身震いした。

「いいか石崎。瀬田を混乱させるための布石は打ってあるんだ。今まではうぜぇだけだったから放置してやってたけど、もう我慢できねぇ。奴は必ずぶっ潰す」

 九流川はちらりと空木を見た。瀬田が空木に手を上げた時、九流川にとって許しがたい存在になったのだ。

「……そろそろ昼休みも終わるな」

 九流川はそう言うと立ち上がった。

「石崎、おかしな事考えるなよ。奴は俺が何とかする。わかったな?」

 石崎が無言で頷いたのを見て、九流川は空木の腕を持って立たせ、温室を後にした。



 放課後、集計と編集を終わらせた九流川と空木はさっさと局を後にしようとした。

 今日こそはバイトに行かないと俺の立場がないと、いつもの倍の早さで九流川が仕事を終わらせたせいもある。

「いつもこれくらいの早さでやってくれたらいいのに」

「ありがた味がねぇだろ」

 九流川が鞄を手にしてドアを開けようとした時だった。

「すみません!」

 それより一瞬早くいきなりドアが開いて九流川に体当たりするように入ってきたのは、見知らぬ女生徒だった。

「あ? 誰だお前」

 俺はバイトに行かなきゃならねぇんだと九流川が睨み返してもその人物は物怖じしなかった。する余裕がないように見えた。

「部長が……石崎先輩が、花が、薔薇が……、温室がぐちゃぐちゃになって……っ!」

 話す本人も日本語がおかしくなっている。

「落ち着いてください。園芸部の温室が何者かに破壊されて、石崎先輩の薔薇がどうかしたんですね?」

 空木はその生徒の紡ぎ出した言葉を一瞬で要約した。

「そうなんです! 昼間、部長と話をしてましたよね? これっていったい何なんですか? どうしてこんな事になったんですか? 教えてください!」

 こっちが聞きてぇ、と九流川は思ったが口には出さず、代わりに石崎の所在を尋ねた。

「多分まだ温室の中に……」

 女生徒が言い終わらないうちに、九流川は2人を置いて廊下を駆け抜けた。



  空木と女子生徒が園芸部の温室に駆け付けた時には、騒ぎは半ば収束していた。他の部員達は肩を落としながらも割れた鉢を拾い、まだ生きている植物を見分けて丹念に植え直し、破れたビニールを一生懸命修復している。

「こっち、ガラス散らばってるから気をつけろよ」

 九流川が部員に向かって指示を出しているようだった。石崎は以前お茶を振る舞ってくれた小さなテーブルでうなだれている。

 温室内はひどい有り様だった。野菜畑は踏み荒らされ、ようやく咲いた花は引き抜かれ、茎を折られた小さな花は泥だらけだった。

「……うっ……ッ」

 空木と共に温室に戻ってきた生徒が嗚咽を漏らした。

「辛いだろうが写真で証拠を撮っておけよ。あと犯人の形跡が残っていそうなものはそのままにしておいてくれ。俺が調べる」

 補強用の金網を鉄柱に括り付けながら、九流川の指示は続く。

 そういえば、と空木は出展用の薔薇を探した。それは隔離していたビニールの破れた向こうで地面に叩き付けられ、鉢が真っ二つに割られていた。

「どうしてこんなひどい事ができるの……?」

 空木は拳を握った。犯人の気持ちが解らない。人が一生懸命大切に育てているものを踏みにじるその神経が理解できない。

 金網を修理し終えた九流川は更に2、3の指示を出すと犯人の痕跡をチェックし始めた。靴跡や破れたビニールの高さ、破壊された規模と温室の鍵の在り処を丁寧に確認すると、ゆっくりと石崎に近付く。空木も慌てて石崎に駆け寄った。

「……石崎、顔をあげろ」

 命令でもお願いでもない微妙な発音に、石崎は虚ろな瞳をゆっくりと上げ、九流川は正面の椅子に座ると空木にも促した。

「解ってると思うが、これは瀬田1人の犯行じゃない。瀬田は5時間目の授業には出てたからな。その辺のアリバイは抜かりない」

 ついうっかり煙草を探そうとした九流川は、そのまま両手のひらを組んでその上に顎をのせた。

「多分、瀬田の仲間がやったんだろうと思う。瀬田の仲間って誰だか知ってるか?」

 石崎は力なく首を振った。

「松山の取り巻きだ」

 空木は驚いて九流川を見た。九流川は無表情で話を続ける。

「先に接触を計ったのは瀬田の方だと思う。松山程度の教師なんざ瀬田にしてみりゃ篭絡すんのは簡単だ。だからお前の訴えは学校側に伝わらなかった。当然だわな、お前の弟の担任は松山で、それを操ってたのが瀬田なんだから」

 石崎は唇を咬んでテーブルの中央を凝視している。

「そう考えると話がすっきりする。で、そうなると次の獲物は石崎、多分お前だと思うぞ」

 空木はぞっとした。目の前の石崎はやはり固い表情のまま俯いていたが、ようやく声を絞り出した。

「……それで温室が荒らされたって事?」

「おそらくな」

 また煙草を探す仕種をしてしまって、そのまま九流川は前髪をかきあげた。

「でも今回はツメが甘かったようだな。出展するはずの薔薇は、鉢こそ割れてるがまだ生きている。いま他の部員達が元に戻してる」

「でもまた壊されるんでしょ?」

「壊させねぇ。瀬田を潰すにはあの花が必要なんだ。だから石崎、あの薔薇を放送局に移動するのを許可して欲しい」

 石崎は要領を得ない子供のように、黙って九流川を見つめ返した。

「あそこなら俺かこずえでないと入れない。顧問がいい加減だからな、鍵をいちいち職員室に返してないんだ。俺かこずえが中にいないと入れねぇ。解るな?」

 石崎は目だけでうなずいた。

「なら、今日はもう帰れ。後は副部長と俺で大丈夫だ。花は俺が放送室に移しておくから。誰かに送ってもらえよ。1人で下校するな。いいな?」

 子供に諭すように九流川は優しい視線を向け、立ち際に石崎の肩をぽんと叩いた。

「九流川君」

 石崎はテーブルの中央を見据えたまま、小さい声で呟いた。

「あ?」

「今日ね、あの子の四十九日なの」

 九流川はとっさに言葉に詰まって前髪をかきあげた。

「私、今夜あの薔薇が咲くような気がする」

 ゆっくり立ち上がりかけて石崎は大きくよろめいた。

「大丈夫ですか? 石崎先輩! 保健室で少し休んでいきますか?」

 空木が支えながら石崎の顔色を見ると、血の気のない真っ白な顔をしていた。

「……うん、じゃ、ちょっとだけ保健室で横になってくる」

 空木は九流川を見た。九流川は黙って頷き、そのまま空木は石崎を連れて温室を後にした。



 保健医はまだ残っていたので、空木は石崎の状況を伝え、ベッドを用意してもらった。そこへぐったりと横たわった石崎に布団をかけ直すと、仕切りであるカーテンをそっと閉めて保健医に向き合う。

「先生、今日車で来てますか?」

「そうだけど、どうして?」

「よければ石崎先輩を送ってあげてくれませんか?」

 保健医はやや首を傾げて頷いた。

「そうね。あの様子じゃちょっと1人で帰しがたいな」

 保健医も考え込んでいる。できる事なら今すぐ送りたいが、あの様子ではしばらく動けそうにない。

「そうだ空木さん、怪我の具合は?」

「こんなもの全然大丈夫です。それより……」

 空木は自分の事件を隠蔽したその後が気になっていた。九流川の無実は自分が証明した。という事は瀬田が犯人だという事になる。あの「瀬田悟」が、女生徒相手に暴力騒ぎを起こしたと、学校側は解ってくれたのだろうか。

「失礼します」

 突然カラリと音を立てて保健室に入った来たのは、瀬田悟本人だった。

 空木はとっさに椅子から跳ね上がって後退した。先日の暴力の記憶が蘇って身体中が恐怖で硬直する。

「……瀬田、君……。どうしたの? 怪我でもしたの?」

 保健医は瀬田から目を反らし、わざとらしく後片付けを始めた。その態度を見て、空木は学校側が瀬田の悪事を理解したのだと悟った。

 瀬田はバカにしたような視線を保健医に向けた後、空木を見て笑った。

「こちらに園芸部の部長が来てるでしょう? コンクール用の書類に不備があったので訂正してもらおうと思いましてね」

 クリアファイルに入った用紙をかざす瀬田を睨み、保健医を見てから、空木は自分の中の勇気をかき集めた。石崎を守らなければ。

「石崎先輩は体調を崩しています。明日にして戴けませんか?」

 瀬田はくすりと笑うとさも困ったような顔を作った。

「今日中に書き直してもらわないとコンクールに間に合わないんだよ」

「じゃあ部室に副部長が残ってますから、そちらを代理にしてください」

「困ったなぁ」

 瀬田の口調はあくまで優しい。態度にも変化はない。ただ、目線が泳いでいる。空木と、石崎がいるだろうカーテンの向こうを何度も交互に見ていた。そこに隙があった。

「園芸部の副部長はいま九流川先輩と一緒にいますから、九流川先輩がなんとかしてくれるはずです」

 九流川の名を聞いて瀬田の瞳に動揺が走った。

 だいたいタイミングが良すぎる。石崎が保健室にいる事を知っているのは園芸部員の一部と九流川、そして空木だけだ。

「九流川先輩は頼りになりますからね。ところでよく石崎先輩がここにいるって解りましたね。後でもつけたんですか」

 空木は怯まなかった。勢いを落としたら負けるような気がしたのだ。

「さっき生徒会室の窓から見えたんだよ」

 瀬田の声は徐々に冷たくなっていく。空木は腹を力を込めた。

「じゃあ園芸部の温室が何者かに破壊されたのも見てたんですか?」

「それは知らないな。いったいいつそんな事になったんだい?」

 口調こそ優しいが声音は氷点下にまで下がっている。保健医はただひたすら瀬田が帰るのを願っているだけのようであてにならない。

「あれだけ激しく壊されたのに、物音一つ聴こえなかったんですか?」

「僕は授業に出ていたからね」

「誰が授業中に壊されたと言いましたか?」

 2人の間に見えない火花が散った。

 今の一言は瀬田にとって致命的だった。少なくとも共犯者であると認めたようなものだ。

「あんな事をしておいて、人を傷つけて、いつまでもそんなやり方が通用すると思わないでください」

 瀬田の瞳が剣呑さを帯び、今にも何かを爆発させようとしたその時。

「まいどー。放送局修理課でーす」

 のんきな声と共に保健室に姿を現したのは、九流川だった。左手にほころびかけた蕾を持つ、あの薔薇が抱えられている。

「く、九流川君、今日は何かお願いしてたっけ?」

 保健医はそわそわと立ち上がった。

「やだなぁ。ベッドの1つが安定しないから直してくれって言ってただろ」

 さり気なく瀬田を無視しつつ、しかし薔薇が目に入る位置に置く。

「石崎の具合は?」

「いま横になってます。保健医の先生が車で送ってくれる事になりました」

「そうか」

 九流川は目を細めてベッドの方を見やった。そのままの瞳で瀬田を捕らえる。

「なんでお前がここにいんの?」

 瀬田は無言だった。相変わらず険しい表情で九流川を睨んでいる。

「そうそう、今日園芸部の温室が何者かに滅茶苦茶にされたんだよ。でも安心してくれ、犯人は解っている」

 九流川は薔薇の蕾を人差し指で突つきながらいつもの口調で話している。空木だけが解る、これが九流川の怒りだ。

「センセ、植物には詳しい?」

 九流川が突然保健医に尋ねた。保健医は一瞬動きを止めたが、また無用な片づけを再開した。

「さぁねぇ。お花は好きだけどあんまり知らないわね」

 鉢を置いたカウンターに凭れたまま、九流川は話し続ける。

「普通は成長促進剤とか使って、より大きく、より綺麗な花を作るんだって。さっき聞いたんだけどよ」

 空木は黙っていた。これは保健医に話しているんじゃない。瀬田に聞かせているのだ。

「人間の血を栄養源にしたら、どんな花が咲くと思う?」

 瀬田は瞠目して九流川を見た。

 九流川も瀬田を見ていた。

「そ……そんな事やらないでしょ、普通」

 保健医は語尾を震わせながら視線を泳がせて必死にペンや書類をあちこちに移動させていた。

「普通はやんねぇよ。ってか無理だろ。枯れるだろ」

 九流川は前髪をかきあげながら薔薇を見た。その蕾越しに、九流川と瀬田の視線が合う。

 瀬田は唇を噛んだ。

 九流川の主旨が解ったのだ。この薔薇はお前が自殺へ追いやった人間の血を養分に育った花だ。お前への憎悪が形として存在しているんだぞ、と言っている事を。

「くだらない。書類は明日まで待ってあげるって石崎さんに伝えておいてくれる? 空木君」

 空木は冷や汗を全身に感じながら、黙って頷いた。



 夕食を終え、明日の確認していた空木は、英語のノートがない事に気付いた。あちこち探したが見つからない。これは学校に忘れたな、まあいいかと一時諦めそうになったが、はたと大事な事を思い出した。明日の授業では間違いなく自分が当たる事になっていたはずだ。

 慌てて教科書を引っぱり出し、解る範囲で訳そうとしたが、どうも上手く行かない。確か今日の授業で言っていた文法だ。しばらく頭を悩ませていたが、これもう人に聞くしかないと携帯電話を取り出した。確実かつ迅速に教えてくれる人物となればこの人しかいない。

『はい、九流川』

「すみません、いま大丈夫ですか?」

『おお、バイトから帰ったトコ』

 後ろでガタンゴトンと不穏な音がしているが、空木はそれを無視した。

「ノートを学校に忘れてしまったので予習ができないんです。英語なんですけど」

『ちょっと待て。……痛ぇ! あれ、どこいった? えーっと、あった』

 空木は絶望的に散らかった九流川の部屋を想像した。

『ほい、いいぞ』

 小さくライターの着火音が聞こえた。煙草を口にしているのだろう。

「あのですね、Do as you would be(   )って問題があるんですけど、カッコには何が入るんでしょうか」

『それことわざだろ。Do as you would be done byだ。自分がして欲しい事を他人にしてやれって意味だろ』

「あ、そっか。そうでした。えっと、じゃあまだあるんですがいいですか?」

 不思議な事に、九流川は言葉に詰まった。

「あ、すみません、忙しいですか?」

『いや……』

 そこでまた言い淀む。あーとかうーとか言いながら、またガタゴトと大きな音がした。

『俺、これから学校に行こうと思ってたんだよ』

「今からですか?」

 空木の予想通りのリアクションに、九流川は言いたい事を整理した。

『石崎が言った事なんだけどよ……』

 今日が弟の四十九日と言っていたあれだろうか。

 そう告げると、九流川は『そっちじゃなくて、花の方』と歯切れ悪く言葉を紡いだ。

『今夜咲く、みたいな事言ってただろ。あれが少し気になってな……。ほら、切り抜きの手紙にも満月に花が咲く、みたいなことが書いてあっただろ』

 今度は空木が言葉に詰まった。

 九流川はあまり迷信等の目に見えないものは信用しない。せいぜい自分の勘ぐらいしか信じない男が、他人の予言めいた言葉を気にかけるなんて。

 空木の頭に都合良い考えが浮かんだ。

「私も一緒に連れてってください」

 そして英語のノートを取ってくるのだ。

『アホ抜かせ。今何時だと思ってる』

「だって明日当たるんだもん」

『こんな時だけぶるな。友達にでも聞け』

「……」

 空木はとりあえず無言になってみた。これは駆け引きである。

『英語の得意な友達の1人くらいはいるだろ。いねぇの?』

 尚も空木は無言でいた。電話の向こうのガタゴトという音が止まる。何かしながら電話をしていたようだったが、無言でいる空木との会話に集中しようとしているのが解った。

『……なんだよ。何黙ってんだよ。何か言えよ』

 更に無言。ここからは忍耐力の勝負だ。

『何だよ、そんなに難しい問題なのかよ。ったく今教えてやるから問題言えよ』

 きっかり5秒おいてから、空木はようやく口を開いた。

「……いいもん。もう先輩なんて頼らない。今から私1人で学校に行ってノートを取って来ます。ご迷惑かけました」

 プチ、と通話を切ってみる。

 ふうと息を吐いて携帯電話の画面を見つめる事10秒。 九流川の名前が表示され、軽快な着信音が鳴った。

『今からそっちへ行く。支度して待ってろ』

 物凄く不機嫌で一方的な電話をよこしてから15分後、九流川は意外にもバイクで空木家にやってきた。

「先輩免許は? バイクなんか持ってたんですか?」

「免許があるから乗ってんだろうが。バイクはバイト先のを借りた。ほら乗れ」

 ヘルメットを空木に放り投げると、九流川は玄関先まで見送りに来ていた両親にぺこりと頭を下げた。誤解して殴ってしまった父親は特に心配そうに見ている。

「どこに忘れたんだよ、ノート」

「放送室です」

 にこりと笑ってみる。九流川は拗ねたように空木がヘルメットを被るのを手伝ってくれた。

「……ったく世話の焼けるやつだな。これっきりだからな、これっきり!」

 はいはい、と雑に返事をしながら、空木はバイクの後ろにまたがった。あの花のある放送室へ行くのは少し怖かったが、九流川がいるなら大丈夫だろう。そう思って空木は大きな背中にしがみついた。

 九流川は両親に手で合図をしてからエンジン音を上げて発進した。

 移動中、空木は父親が微妙な表情をしていた事を思い出したが、無視する事にした。だってお父さんお酒入ってたんだからしょうがないじゃない。

 外は少し寒かった。バイクに乗るとより寒く感じる。空木は必死に九流川を風よけにしようと、頭を押し付けてみたり右を向いたり左を向いたり色々やってみたが、どれもあまり変わらない。足も寒い。暖かいのは頭だけだ。

 寒さを乗り切るにはどうしたらいいのか必死に考えていると、ふともう寒くない事に気付いた。

「着いたぞ」

 九流川はヘルメットを外し、ばさばさと乱れる長い前髪を面倒そうにかけ上げた。

「前から思ってたんですけど、前髪、切らないんですか?」

「知り合いの新人美容師の練習台になってんだよ。無料なのはいいんだが注文はつけられねぇ」

 2つのヘルメットをバイクに引っ掛けると、九流川は真直ぐ警備室へ向かった。放送室の鍵は持っていても、肝心の学校へ入れなければ意味がない。運良く裏口から入る事ができたので警備室の方へ回ると、話し声が聞こえた。警備は通常専門業者の担当だが、聞こえる声は男女のもの。空木が疑問を声にしようとしたその瞬間。

「お盛んですなー」

 九流川は突然大きな声でそう言うと、いきなり警備室のドアを開けた。

「わ」

 開けると同時に空木の視界は九流川の大きな手によって閉ざされてしまった。

「何するんですか先輩! 見えない!」

「見せねぇようにしてんだよ。ほら、松山センセも三井センセも早く服着てくれよ。こずえにはまだ目に毒だからよ」

 空木はぴたりと動きを止めて状況を理解した。

 そういう事か。でもあの三井先生が松山先生と。ごそごそと衣擦れの音と共に松山のヒステリックな声が響いた。

「いきなり開けるなんて失礼なんじゃないの!? どういう育てられ方したのよ!」

「学校でヤってる教師に言われたくねぇなぁ」

 九流川の声は至ってのんきだった。

「だいたい何でこんな時間に学校に来る必要があるの!? 非常識なんじゃない!?」

「うるせぇよ。アンタらのふしだらな関係をわざわざ見に来たんじゃねぇ事だけは確かだから。いいからスカート履け」

 教師に向かってうるせぇよ、か。九流川らしいと空木は心の中で呟いた。

 音しか聞こえないと想像がたくましくなり、空木は嫌な気分になった。気持ち悪い。

 吐き気がしそうになったその時、やっと視界が明るくなった。

 目の前には髪の乱れを直す松山と、眼鏡をかけようとしている三井がいた。2人とも一応服は着ている。少し具合悪さが軽減した。

「これから放送室まで行って来たいんだけど、一応警備に許可をもらおうと思って。そうしたらとっとと帰るよ」

 また前髪をかきあげる九流川を、松山はきつい視線で睨み付けた。

「そんな許可は出せません。すぐに家に帰りなさい」

「アンタに聞いてねぇよ」

 九流川の言葉に毒は感じられない。歯牙にもかけてないという所か。

「三井センセ、頼むわ。何なら付いて来てもいいから」

 眼鏡の奥に色んな感情を宿らながら、三井はため息を吐いた。

「仕方ないな」

 そう言って立ち上がる三井を、松山はバカにしたように見上げた。

「どうしてこんなコの言いなりになる必要があるの?」

「こんな事が学校側に知れたら、僕達は教師でいられなくなる。考え無しに言いふらす生徒じゃなく、話の通じる九流川で良かったと判断すべきだな」

 松山を見下ろして三井は低く呟いた。そのまま九流川について放送室まで行くかどうかを目で促す。松山は不機嫌な表情を隠そうともせず、面倒そうに立ち上がった。



 放送室は3階の北西の角に位置している。照明は落とされているので4人は懐中電灯の明かりで放送室へ進んだ。しんと静まり返った夜の学校は思っていたよりずっと気味が悪い。窓から満月の光が差し込んでいるので多少の月明かりはあるものの、視界はかなり暗い。

 放送室に近くなると、九流川は鍵を取り出してちゃらちゃらと鳴らした。

「んじゃ、開けるんで」

 いつもより妙に大きな音を立てて鍵が開いたような気がして、空木は首をすくめた。

 1枚目のドアを開け、更に防音用の2枚目の鍵を開け、九流川は先に部屋に入って行った。手探りで照明のスイッチを探す。

「先輩……何か匂いませんか?」

 空木は上履きを脱ぎながら口を押さえた。

「生臭いわ。何の匂いよコレ」

 松山と三井もその匂いに気が付いたのか、鼻を押さえた。その間ずっと九流川は照明のスイッチを探してがさごそと音を立てている。

「九流川、照明のスイッチは?」

「接触不良かもしんねぇな、点かねぇ。三井センセ、懐中電灯借して」

 九流川の足下へ懐中電灯の光が移動した瞬間、暗黒の静寂を突き破って突然大音量のノイズが学校中のスピーカーから放たれた。

「………っ!」

 思わずしゃがみ込んで耳を塞ぐ3人を置いて、九流川はまっ先に手探りで主電源まで駆け寄り、全校放送用のスイッチを叩いた。

「スイッチが入ってねぇ!」

「どういう事なの!?」

「だから電源は落ちてるって……!」

 ガラスを砕く音がスピーカーから突き抜けた。それから何かを蹴る音、大量の水音、大勢の嘲笑、布を破る音、少年の声。

―――ここから出せ!―――

 余裕の無い悲鳴のような声は、次第に聞き取れるほど明確にスピーカーから流れてくる。空木はしゃがみこんだまま必死に耳を塞いだ。

「三井先生! 早くライトをこっちに!!」

 怒鳴る九流川に三井は慌てて懐中電灯を渡そうとして床に落とした。九流川は素早くそれを拾い周囲を照らしたが、メインスイッチは切れているのにスピーカーからのノイズは止まらない。

「鼓膜破れっだろうが…!」

 九流川は丸くなっている空木の肩を強く抱いた。松山は腰が抜けたのか蒼白な顔のまま座り込んでいる。三井はパニックになりそうな意識をぎりぎりで保った。

―――ここを開けて、服を返せ!―――

「石崎……君?」

 ハッとした松山ががたがたと震え出した。

「石崎? 何で石崎が……」

 そこで九流川は気付いた。その名は園芸部部長、石崎美弥の事ではなく、その弟の事だ。だから「君」と呼んだ。石崎美弥の弟の担任は松山だった。

 ありえない。ありえないが、このスピーカーから聞こえてくる声は石崎の弟なのだろうか?

「やめて! 助けてぇ!」

 松山は力任せに防音ドアを開けようとして床にひっくり返った。それを支えながら三井もドアを開けようとしたがびくともしない。

―――早くここをっ……―――

 大音量の悲鳴は水をかぶっているのか、時々咳き込んだ。

―――開けるのはいーんだけどよぉ―――

 嘲笑の中から誰か別のもう1人の声がした。ごん、という壁を蹴る音。

―――お前、素っ裸じゃんよ―――

 再び悪意の滲む嘲笑が響く。松山はヒステリーじみた悲鳴を上げた。その悲鳴すら飲み込んで、大音量は続く。

「三井先生! ドアは!」

「開かない! ノブが回らないんだ!」

 九流川は他のルートから脱出を試みようとしたが、窓は二重のはめ殺しな上にここは3階ときてる。懐中電灯で室内をぐるりと見回して、九流川は目を疑った。

「花が……咲いてる?」

 そこには黒に近い真紅の薔薇の花が、石崎美弥の予言通りに見事に咲いていた。その花びらが落ちるのを見て更に九流川は驚愕した。

 花びらが落ちたんじゃない。花芯から血が吹き出してそれがカーペットへ流れ落ちているのだ。

 異臭はいっそう強くなった。

「これは血と薔薇の匂いなのか……?」

 空木は呆然としている九流川に気付いて、花の置いてある出窓を見た。

「花が血を流してる……!」

 薔薇はそれぞれの花芯から大量に血が滴らせ、あっと言う間に血だまりを作った。それに気付いた2人の教師も息を飲む。悲鳴も出ない。

―――服返せってよぉー―――

 九流川は状況を理解しようとノイズに神経を集中させた。内容から察するに、石崎美弥の弟がいじめとしてどこかに閉じ込められ、衣服を奪われた上に、咳き込む声から水をかけられているものと推測される。この異常な状況が石崎の弟の怨念だとしたら、何を伝えたいのか。どうして欲しいのか。どうして花から血が流れるなんて信じられないような状態に陥っているのか。

「……そうか、あの薔薇は石崎の弟の血を養分に育ったから……」

 九流川の言葉に松山がびくりと震える。スピーカーからはびりびりと布を裂く音が聞こえた。そしてまた疑問が湧く。

 これは「どこ」で行われたのか。いじめの行為はだいたいが学校内だろう。学校内で人を閉じ込めるという事は、外から鍵の掛かる個室が必要になる。人目に付かない事も。そして水の用意できる場所……まさか。

「……3階のトイレの故障ってのは……っ、おい松山!」

 空木の肩を抱いたまま、九流川はただ泣いている松山にライトを向けた。

「お前何を知ってるんだ!? 『これ』は石崎の弟の……っ!」

「いやあぁっ! ここから出して! 助けて!」

 絶叫して、松山はドアを叩いた。それを三井が必死に止める。

「やめるんだ! これは僕らに対する石崎君の恨みだ! 教師としての僕らへ対する石崎君の怒りだ! もう逃げられない……っ!」

 強く松山を抱く三井の顔も恐怖で青ざめている。服を引き裂く音が止み、突然静まり返った室内に、ドアを開ける軋んだ音が響いた。

―――ほら、着ろよ。着れるもんならなぁ―――

 同時に大きな嘲笑が響いた。げらげらとさも楽しそうに笑っている。

 石崎の弟はこの後、死にたくなるほど絶望して手首を切った。

 九流川は三井の胸ぐらを掴んだ。

「三井てめぇ『僕ら』って何だよ! 知ってたのか? これを知ってて放置したのか? その時石崎がどんな気持ちで弟を守ろうとしたかを知ってて黙ってたのか!?」

「死ぬなんて思わなかったのよ!」

 松山が泣き叫んだ。

「死ぬなんて……っ! だって瀬田君が大丈夫って……っ!」

 その言葉を聞いた瞬間、空木の怒りは恐怖に勝り松山を平手打ちした。

「最低! この人殺し!」

「そのバカ女の尻拭いを俺に手伝わせたってのか? 身体でたぶらかされたのかよ三井。バカにすんじゃねぇ!」

 九流川は三井を容赦なく突き飛ばした。

 薔薇のある出窓を背にして、九流川と空木が詰め寄ろうとしたその時、教師達は目をいっぱいに開いて凍り付いたように出窓を見た。九流川と空木も振り返ったが、そこにはブラインドから漏れた満月の光を浴びて血を滴らせる鉢しかない。

「やめて! 来ないで!」

 松山が悲鳴をあげた。九流川と空木には何も見えない。だが、明らかに松山と三井は出窓を見ている。三井が防音扉を必死に開けようとして、ノブを回しているうちに爪が剥がれた。

「来るな! 僕らが悪かった!」

 その時、空木は異変に気が付いた。はっとして九流川のそでを引っ張る。

「先輩、花が枯れてく……!」

 九流川は目を凝らして薔薇を見た。それは徐々に溢れ出る血液を減少させ、茎を曲げて俯き始めた。色すら抜け落ち、あれほど赤かった花びらがひからびるように白く乾いていく。ものの1分も経たないうちに薔薇は大半の花びらをカーペットに落とし、完全に枯れた。後に残ったのは、微かな満月の光を浴びている空虚な鉢。

 目を疑う九流川を後に空木は薔薇に歩み寄る。触れるとかさりと音がした。

『あと1人』

 スピーカーから聞いた事のない声がし、それを最後にノイズは止まり、照明が付いた。九流川と空木は一瞬眩しそうに目を閉じたが、すぐ教師達の方を見ると、2人は明らかに絶命していた。顔を歪ませ、涙を浮かべた目は見開いたまま、よだれを垂れ流し、防音扉にぐにゃりと寄り掛かって動かない。

 九流川は空木の顔を自分の胸に押し付けた。

「先輩……!」

「見るんじゃねぇ」

 ショックとパニックでぼろぼろと泣き出す空木を強く腕に抱いたまま、九流川は携帯電話を取り出した。

「……恐れ入ります、九流川と言いますが、瀬田さんのお宅ですか」

 てっきり警察か救急車を呼ぶかと思っていた空木は驚いて九流川を見上げた。

「……九流川です。悟君とは同学年で」

 淡々と九流川は話す。

「……わかりました。はい」

 電話はすぐに切れた。そのまま警察へ連絡すると、九流川は空木を抱いたまま器用に棚にあった空木のノートを取り上げ、壁に寄り掛かってため息を吐いた。

「連れていかれた」

「………?」

「瀬田がついさっきマンションの自分の部屋から飛び下りたそうだ」

「………! それは、やっぱり、その、石崎君が……?」

「違うな」

「じゃあいったい誰が……?」

 遠くからサイレンが聞こえて来た。こちらへ近付いて来る。

「こいつだ」

 そう言って九流川は枯れた薔薇を指した。

 主人の理不尽な扱いを伝えたくて。それを誰かに知って欲しくて。「犯人」に罰を与えたくて。

 通常は大量の血を浴びたりしたら植物は枯れてしまう。でもこの薔薇は枯れなかった。逆に血を糧に生き延び、命と引き換えに復讐を果たした。

 自分達には見えなかったが、松山と三井はこの花に何かを見たのだろう。

 サイレンの音がすぐ下まで来て止まった。九流川は窓ごしに警察に合図を送り、空木にノートを渡した。

「もう忘れんなよ」

 警官が部屋に入ろうと防音ドアを開けた時、松山と三井はごろりと転がった。




 翌日、警察の事情聴取を受けてから九流川と空木が登校したのは3時間目が終わる頃だった。心不全という死因から2人による犯行ではないと判断されたので、とりあえずは自由の身となったのだ。今朝は全校集会をしたらしく、松山と三井、それに瀬田の3人の死は全校生徒に伝わっており、それに九流川と空木が関与している事まで知られていて、4時間目を生徒指導室で過ごした2人は、詮索されるのが嫌で放送室へ逃げ込んだ。本当は警察から入るなと言われているが、他に逃げ場が思いつかなかった。

 出窓に置いてあった枯れた薔薇は警察が押収したので今は無い。しかし覆い隠されているが、床にはまだはっきりと薔薇から流れ出た血痕が残っている。鑑識の調べでは石崎の弟と同じ血液型である事が判明したらしいが、九流川と空木にはどうでもいい事だった。死んだ人間は生き返らないのだから。

 来客を告げるランプが付いた。

 シカトを決める九流川を見て空木が仕方なく内線を取ると、相手は石崎美弥だった。急いでドアを開け、それ以上の早さでドアを閉める。放送室のそばで様子を伺おうとしている何人もの野次馬が見えたからだ。

「もう身体の方は大丈夫なんですか?」

 空木の質問に、石崎は笑顔で答えた。温室を荒らした犯人は全員停学になった。それで気が済んだそうだ。

「悪いな。コンクール用の大事な花を駄目にしちまって」

「ううん。こっちこそ何だか振り回しちゃったみたいでごめん」

 珍しく殊勝な九流川に、石崎はまた笑顔で答えた。そのまま3人でお弁当を広げてランチタイムとなったが、ふと石崎は思い出したように九流川を見た。

「九流川君。手紙ってなに?」

「は?」

「言ってたでしょ、手紙を書いたのは私だとか何とか」

 ああ、と言って九流川はひらひらと手を振った。

「いや、いいんだ。忘れてくれ」

「忘れられないよ。凄い怖い顔してたくせに」

 そいつは悪かったと九流川は雑に謝った。空木もその時点でようやく手紙が何なのか思い出した。

「瀬田先輩が持って来た新聞の切り抜きですね?」

 何それ、と石崎が空木に尋ね、空木は事の次第を説明した。

「私がそんな手紙送りつけたと思った訳?」

 心外だと石崎は九流川を睨んだ。

「あの時点で怪しかったのはお前しかいなかったんだよ。謝ってるじゃねぇか」

「でも、じゃあ、いったい誰があんな手紙を瀬田先輩に送りつけたんでしょう。……まさか九流川先輩が嫌がらせに?」

「俺がそんなダメージの少ない嫌がらせをすると思うか?」

「……確かに」

「でも、本当に誰なの? 九流川君は知ってるの?」

 九流川は三色おこわと格闘しながら面倒そうに石崎を見た。

「あの段階で手紙の存在を知ってたのは俺とこずえと瀬田しかいなかったんだぞ」

 空木ははっとした。

「まさか瀬田先輩の自作自演?」

「それしか考えようがねぇだろ」

 九流川はわざと視線を上げない。

「じゃあ、満月の夜に赤い花は白く輝くって……」

 石崎は口を押さえた。確かに昨日は満月で赤かった薔薇は白く枯れた。

「地獄の死神ってのが厨二病的で笑えるな」

 ぼろぼろととおからをこぼしながら、九流川はやはり視線を上げないで吐き捨てた。

「じゃあ瀬田先輩は自分の死期を予言して、演出までしたって事ですか?」

「知らねぇよ。瀬田に聞け」

 勝負の分かれ目は、九流川の暴力事件が持ち上がった時、教師達が瀬田ではなく自分を信じた事だろうと九流川は思う。信頼を失った事に気が付いた瀬田は、石崎が倒れた時更にとどめを刺そうとして保健室に出向き、あの薔薇の存在を知ってしまった。自分が死なせた石崎が、薔薇となって存在し続けている事を。

「まぁ、あれだ」

 こぼしたおからを丹念に拾いながら九流川は頬張る。

「天罰ってのはあるって事だ」

「……天罰ですか」

「世の中には死んで初めて役に立つ奴もいるんだよ」

 こずえ、お茶、と九流川が催促する。石崎は目を伏せて悲しそうに笑った。

「石崎先輩もお茶、おかわりしませんか?」

「うん、する。ちょうだい?」

 平穏にはまだ程遠いけど、死は悲しいけど、決してそこで時間は止まらない。イヤでも明日はやってくるし、その日がまた昨日になっていく。

 だったら、せめて。

「空木さん、今度ハーブのお茶でも差し入れするね」

「ホントですか? うれしー!」

「石崎。この前のアレ、不味かったぞ」

「九流川先輩は味音痴ですからね」

「だって草みたいな味がしたぞ?」

「草だもん」

「それじゃ実も蓋もねぇだろ」

 せめて復讐では無く、天罰を祈ろう。

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