マルシア邸にて
夜勤の日はストック切れると更新出来ません……すいません。
「……でっか!!」
第一声がこれである。
いやだってでかいよこの家。いや、執事っぽい人もいたしさ、お嬢様とか呼ばれてたから、いいとこの子だとは思ってたけど、まさかここまでとは。
「そ、そうですか?」
俺の驚く姿を見て、マルシアが驚いている。
敷地だけで見れば俺の家も大きかった方だとは思うが、建物自体がこんなに大きいのは元の世界じゃ見たことなかったな。
「うん、超でかい。正直びっくりした」
素直な感想を告げる。アレか、これが貴族ってやつか。
……これは料理も期待出来そうだ。
などと失礼なことを考える。うん、もうお腹ペッコペコだし、仕方ないね。
「驚かれるのも無理はありません。お嬢様のお屋敷は王都でも由緒ある建物ですから」
あ、やっぱいいとこのお嬢様だったんだな。どうしよう、態度とか変えた方が良いのかな?
「ソータ様はお客様なのですから、どうか気になさらずにくつろいでくださいね」
と、俺の考えを読んだようにマルシアが声をかけてくる。うん、ええ子や。
まあ主がそう言ってるんだからお言葉に甘えるとしよう。
「分かった。ゆっくりさせて貰うよ」
「ふふふ。ええ、そうしてください」
軽く会話を交わしながら屋敷に入る。
「おかえりなさいませお嬢様」
「「「おかえりなさいませ!!」」」
屋敷に入るなり、一斉に声をかけられる(マルシアが)
メイドさんだ、メイドさんがいっぱいいる。
見たことのない光景に呆けていると、一人の女性が俺達の前に歩いてきた。
「お嬢様、こちらの方は?」
あ、俺のことか。そりゃそうだよな。どう見ても場違い感満載だし。
「こちらはソータ様です。詳しくは後でセパスチャンに説明させますが、私の恩人で、お客様です。失礼のないように」
「かしこまりました」
流石プロ、俺のことを一瞥してすぐに目を離した。てっきり値踏みされるかと思ったが、不快な視線は感じなかった。
こういう時は品定めでもされるのかと思ったが、そりゃあ主であるマルシアの客だと言われればそれに従うか。
「それではお嬢様、ソータ様。客間をご用意しておりますので、こちらへどうぞ」
「おじゃましまーす」
こちらが気を使いすぎるのも、と思い気軽に挨拶をして足を踏み入れる。
それにしても土足で家に上がるのは慣れない。日本だとホテルくらいしか馴染みがないしなぁ。
そんな他愛もないことを考えながら廊下を歩く。
程無くして、立派な扉の前に辿り着いた。
「こちらです」
セパスチャンが扉を開き、中へとマルシアと俺を誘う。
中に入ってみれば、ザ・応接間といった感じで、座り心地の良さそうなソファが対になっており、間に長いテーブルが配置されているのが見えた。
「おおぅ……」
思わず声が漏れてしまう。
その様子を見て、マルシアがクスッと笑うのが見えた。やだ恥ずかしい。
「どうぞ、こちらへお掛けください」
「あ、どうも」
すっかり語彙力がなくなってしまった。だって庶民だもの、仕方ないね。
促されるままに、ソファに腰掛ける。おぉ……フッカフカや。
「それではこの後料理をお持ちしますので、しばらくこちらでお待ちください」
「あ、はい」
セパスチャンがマルシアに何かを告げて部屋を出ていく。
っていうか良いのか? 見ず知らずの男とお嬢様を二人っきりにして。
……と思ったら先ほどのメイドさんがマルシアの隣に居た。
すごいな、全然気配感じなかったぞ。
「粗茶ですがどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
テーブルの上に紅茶らしき飲み物が置かれている。カップを置いた音がしなかったんですけど……メイド怖い。
「あ、美味しい」
「お口に召したようで何よりです」
メイドさんが感情の篭っていない声で言う。
対してマルシアはニコニコとこちらを見ている。そんなに俺の顔が面白いんだろうか……って違うか。
「俺の顔に何かついてる?」
「あ、いえ……本当に美味しそうに飲んで頂けるので嬉しくて……」
と、少し頬を赤らめて顔を伏せた。なんというか初々しい。
「でもこのお茶本当に美味しいよ。お腹が減ってるから尚更ってのもあるかもだけど」
「そんなに空腹だったんですね……すぐ用意させますから、もう少し待っていてください」
「あいや、急かすつもりはないんだ。ごめん」
「ふふっ、大丈夫ですよ」
これはからかわれたのかな? と思わなくもないが、打ち解けてくれる分には良いだろうと思い、色々話を振ってみることにした。
なんと意外な事に、マルシアの趣味は錬金術だと言う。
俺もアイシャ母さんの影響で錬金術には心得があるから、品質を上げるための下準備の方法だとか、お互いの失敗談などの話で盛り上がった。
「そう言えばソータ様はどこから来たんですか? あまり王都の事をご存じないようでしたけど」
「ソータで良いよ。立場はマルシア……様の方が上だろうし」
思わず呼び捨てにしようとしたらメイドさんの目が吊り上がった。超怖い。
「いえ、マルシアで結構ですよ。それにソータ様は私の恩人ですし、流石に敬称も付けないというのは……」
「分かったよマルシア。うーん、でもせめて様はやめてほしいかな」
「そんな異性の方を呼び捨てにするなんて……」
「そこをなんとか!!」
きっと家の教育が厳しいんだろううけど、様を付けて呼ばれるのはなんかよそよそしいし、むず痒い。
「そ、それじゃあ……ソータさ……さん」
「もう一声!!」
「え、えーと、ソータ……くん?」
「もう一歩!!」
「えええ!? これ以上は無理です無理です!!」
どうやら本当に呼び捨てには抵抗があるらしい。むぅ、ここが落としどころか。
「じゃあそれで良いよ。本当は敬語もやめてくれていいんだけど……」
「申し訳ありません……言葉遣いについてはこれが私の自然なので……」
「そっか、ごめん。無理強いするつもりじゃあなかったんだけどね」
「いえ、良いんです。気にしないでください……ソータ、くん」
うん、でもまあ一歩前進かな。メイドさんの目は相変わらず怖いけど。
なんというか恥ずかしがってるマルシアが小動物みたいで可愛くなってきた。
「それでソータくんはどこから来たんですか?」
「ああ、俺は……」
と、言いかけたところで部屋に近付いてくる足音が聞こえた。
いよいよご飯にありつけるのかな? と楽観的な事を考えていたが、「そちらにはお客様が」とか「うるさい!!」とか聞こえて来た。
こういう時ってあまり良い予感はしないね。
俺の予想を裏切らず、乱暴に扉が開かれ、男が憤怒の表情で部屋に入ってくる。
年齢的には俺より上、というか20代後半から30代前半くらいに感じた。
「やはり男ではないか!!」
「クラウス様!! どうしてこちらに!?」
マルシアが驚愕の表情で男の顔を見る。どうやら知り合いのようだ。
「マルシア!! 何故このような男と一緒にいるんだ!! 君は私の許嫁だろう!?」
「クラウス様違います!! こちらは私の事を助けてくださった恩人です」
どうも雲行きが怪しい。というか許嫁か。随分歳の差があるようだけど。
「恩人だろうが関係ない!! 君は自分の立場を分かっているのか!?」
「もちろん理解しております……ですが」
「言い訳は聞きたくない!!」
おぉ……人の話を全然聞いてない。これはご飯どころの話じゃないだろうなぁ……
俺はため息を吐きながら立ち上がり、クラウスと呼ばれた男と向かい合った。
ああ……腹減ったなぁ……
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