平穏は終わりを告げて
ちゃうんですサボってたんやないんです。
書こうとは思ってたんです。一日中寝てただけなんです(震え)
「……またコイツは」
「ぐふふ……ししょぉ……」
これで三日連続だ。
朝起きたら絶対にレナが正面にいて抱き着かれている。しかも物凄く間抜けな顔をしているので、とてもじゃないが人に見せられるような顔ではない。
きっと同じ騎士連中が見たらレナの株価は大暴落もいいところだろう。
クラスメイト達の教官なんてやってるらしいが、とてもそうは思えない。少なくともここ数日のレナを見ているとただの駄目な大人にしか見えないからだ。
日中はカレンや村長と話し合いをして、それが終わったらすぐに俺のところに来る。まるで犬か何かの様に。
慕ってくれる分には当然悪い気はしないのだが、周りの目だってある。一体俺達の関係は何なのかと。
実際問われたわけではないが、問われてたとしても返答に困るしな。そりゃあ師弟関係ではあるのだろうが、なんか違う。
かと言って恋人同士かと言われるとそれも何か違う気がする。
いや、レナの気持ちは既に聞いているし、俺は俺で別にレナの事が嫌いではない。
ただ自分がそれを受け入れて良いのか、そうでないのかが整理出来ていないだけだ。
だって俺は王都と追放された身だし、レナはアリシア付きの近衛騎士だ。身分がどうとかいう話もあるだろうが、それ以前にレナが王都に戻る以上は俺がついて行くわけにもいかない。
だからといってレナを連れて行くとして、本当にそれで良いのかと考えるとそう簡単には割り切れるものでもない。
なんせ王女の近衛なんて立派な職業、簡単に袖に出来るものでもないだろう。
この年齢で……あれ? そういえばレナの年齢っていくつなんだろう? そこまで興味を持ってなかったからか、レナの年齢を知らない。
……これ本人に言ったら怒るんだろうなぁきっと。
そんな益体のない事を考えながら、もはや朝の恒例となったレナの髪いじりを行う。
さらさらの髪は触れていて気持ちが良い。同じ生き物なのかと思うくらい指通りが良く、全然絡まったりしないのだ。
そんなに手入れをしているようには見えないんだが……不思議だ。
「んふぅ……」
「なんだその声……」
ただの寝言なのか、それとも髪を撫でられる事が気持ち良かったのか、レナの口から微妙な吐息が漏れる。
とっとと起きてしまいたいのだが、相も変わらずレナがしがみついているために起き上がる事が出来ない。
普段であればもはやレナ専用となったハリセンを使ってぶっ叩くところだが、なんとも幸せそうな寝顔を見ているとその気も失せてしまうから不思議だ。
仕方がないのでこれからの事を考える。
明確ではないにしろ、勇者--獅子見達が来るまで残り一週間を切った頃だろう。
だとすれば、俺はそろそろ決めなければならない。レナを連れて行くのか、それとも置いて行くのか。
置いて行くとなれば、当然レナは反発するだろう。それは仕方ない。
だけど連れて行くとなれば、レナの将来を棒に振る事にもなりかねないし、俺と一緒だと知れれば王都に戻る事が出来なくなる可能性だってある。
そうなったらクラウス達家族はどう思うのだろうか。俺を恨むのか、それとも--
その時階下の方がざわめいている事に気付いた。何かあったのだろうか。
「おいレナ、起きろ」
「うぅ……あと五年……」
あと五分だったら許そうと思っていたが、流石に五年は許すわけにはいかない。
乱暴に起こすのは可哀想だと思い、レナの肩を揺すってみるが起きる気配はない。
「おい、起きろって」
「ぐへへ、ししょーのスケベ……」
なんだぐへへって。というか俺はまだ何もしていないんだが、スケベ呼ばわりは心外である。
どうやら起きる気はないようなので、俺はやむを得ずレナの拘束から抜け出そうとして--更に抱き着かれた。
なんだろうこの既視感は。もしかしてわざとやっているんだろうか。
だとしたらちょっとカチンと来る。
「とっとと--」
手足は拘束されてしまっているので、ハリセンは使えない。なので身体を反らし--
「起きんかい!!」
--ゴンッ!!
「いたぁっ!? なに!? 敵!?」
「おはようレナ」
そう、手も使えない、足も使えないのなら頭を使う。物理的に。つまり頭突きである。
「あ、師匠おはよーございます。ところで頭が痛いんですけど……」
「奇遇だな。俺も頭が痛い」
お前のせいでな。
「不思議な事もあるんですね」
「そうだな。で、とっとと離してくれないとまた頭が痛くなるかもしれないぞ」
「嫌です--あ、嘘です嘘です。はい離しました」
どうやら自分が何をされたのか察したらしく、潔く……はないが、俺の身体を離す。
「起きたならとっとと下りるぞ。何かあったのか辺りが騒がしい」
「そういえば何か聞こえますね。分かりました」
そうと決まれば行動は早い。
基本的にレナは優秀な軍人ではあるのだろう。ただ俺が絡むとポンコツと化すだけで。
出来れば俺の前でも凛とした女騎士であって欲しいのだが、今更望むだけ無駄だろうな……
そんな事を考えながらも、俺達は急いで支度を終え、階下へと向かう。
宿の受付辺りかと思ったが、どうやら騒がしいのは外の様だ。色々と慌てた声が聞こえてくる。
「おい、あれって王都の兵士じゃないのか?」
「本当だ。って事はもう勇者様が来るのか!?」
「いや待て、でもそれにしては様子が変だぞ。あの人今にも倒れそうじゃないか?」
「誰か村長呼んで来い!!」
どうやら王都から兵士が来ているらしい。となると獅子見達が間も無く到着するという事になるのだろうか?
だが今にも倒れそうとはどういう事だろう。確かに先回りする必要はあるだろうが、それにしてもそこまで急ぐ程のものではないと思うが。
レナの方もそう思ったのか、二人して顔を見合わせた後、どちらからともなく頷き、件の兵士の元へと向かう。
「レ、レナリス様!!」
「お前は……レイリーか。演習は--いや、何があった?」
どうやらレナは兵士の様子を見て何かがあったと察したようだった。
「王都が……王都に魔族どもが!!」
「なんだと!? 王は、アリシア様達は無事なのか!?」
「今は勇者様達とクラウス様達千人隊で食い止めています!! 冒険者ギルドにも協力を要請していますが、何せ数が……!!」
「落ち着け、ここから王都までは急いでも数日はかかる。私も急いで駆け付けるが、お前は少し休むがいい」
「わ、分かりました。レナリス様、どうか王様達を……」
「ああ、すぐに向かう。ご苦労だったな、レイリー」
レイリーと呼ばれた兵士はそこまで言って気を失った。どうやら本当に火急の件らしい。
流石に一人で走って来たわけじゃないだろうし、クラスメイト達の演習の為に用意していた連絡網が役に立ったというところか。
「師匠……」
「分かってるよ。行くんだろ?」
「……はい。アリシア様を放っておくわけにはいきません」
「まあそうだよな」
コルの村から王都までは普通に歩けば一週間以上はかかる。
馬車でもあれば数日で着くだろうが、レナリスが到着した頃には事が終わっている可能性もある。良くも悪くも。
だがこうしてレナリスを頼って伝令が来る程なのだから、それを無碍にも出来ないだろう。
「ちょっと、何の騒ぎ?」
「ああ、カレンか。実は--」
レナが手早くカレンに事情を話した。
話を聞いたカレンは何か考え事をするように俯き、少し経って顔を上げる。
「なるほどね、じゃあ私も王都に向かうわ。何かと物資が必要でしょうし」
「そうしてくれると助かる」
「けど準備もあるから後から追いかける事になるわね。貴方達はすぐにでも向かうんでしょ?」
「私はすぐに出るつもりだが……」
と、俺に視線が集中する。
「まあ俺だけのんびりするってわけにもいかないよな。王都には世話になった人だっているし、行くのは別に構わない」
「本当ですか!?」
いきなりレナの顔が喜色に満ちる。本当コイツは分かりやすいな。
「ついでだからレナを抱えて走って行ってやるよ。そうすればちょっとでも早く着くだろ?」
「ああ、あれね……」
経験者であるカレンはあの時の事を思い出したのか、なんとも苦々しい表情で笑った。
「あの時よりも急ぐ事になるかな」
「レナ……ご愁傷様」
「え? え?」
一人だけ事情が分かっていないレナはどういう事かと俺とカレンを交互に見比べる。
まあアレは慣れてないときついだろうしな。
「師匠、走って、ですか? 馬車か何かを借りるのでは?」
「多分馬車より走った方が早いぞ」
「え?」
レナは思わずといった感じでカレンの方を見やる。
カレンはそんなレナに苦笑しながら頷いた。
「えっと、じゃあ師匠、お願いして良いですか?」
「あいよっと」
ひょいっとレナを肩に担ぎ上げる。うん、今日はまだ軽いな。鎧着るの止めたからか。
俺にくっつく時に邪魔だからという理由はどうかと思うが、こういう時には楽でいい。
「じゃあカレン、ちょっと行ってくる」
「ええ、レナ、気を付けて」
「俺は?」
「アンタは良いのよ」
解せぬ。
まあいいや、とりあえず急いだ方が良いみたいだし、とっとと出るとしよう。
「レナ、しっかり捕まってろよ」
「師匠、出来ればおんぶとか抱っこの方が--あああぁぁああ!!」
レナの言葉を最後まで聞かず、身体強化を全開にして走り出す。
「おおおろしてええええ!!」
「喋ると舌噛むぞ」
レナの悲鳴が聞こえたが、とりあえず今は無視だ。
流石に王都まではもたないから、どこかで休憩しないといけないだろうが、何もなければ二日か三日で王都まで着くだろう。
--レナがもてば、だが
多分あと三話くらい? で一章終わります。
一応二章からが本編みたいな感じになる予定ですが、一章が思った以上に長くなり過ぎた……
 




