ご飯を食べよう
グルメ小説ではないので、表現はそこまで大げさに書きません。
村長の家を後にした俺達は、この村唯一の飯処である酒場へと向かった。
流石にもう腕は離して貰っている。これ以上変な噂を立てられても困るし。
それにしても今日はいつもより人を見かける気がするが、何かあったんだろうか。
何かカレンに心当たりがないか聞いてみると。
「それは勇者様達がこの村に来ると聞いたからでしょうね。村を挙げて歓迎するつもりだと村長も言っていたし、うちの商会でも近隣の街や村から人手を集めているわ。大方身内を呼び寄せて、勇者様、あるいはその仲間に自分の娘や親戚を紹介しようって腹じゃないかしら」
「ああ、将来の英雄に顔を売っておこうって?」
「そういう事ね。私も勇者様とは懇意にしておくようにと連絡があったわ」
なるほど、言われてみれば貴族でもない平民にとっては、勇者という存在と接する機会は貴重なのかもしれない。
それに勇者だけではなく、勇者と共にパーティを組んだメンバーであれば、当然魔王を討伐した後は英雄の一人となるだろうし、もし上手くいけば玉の輿って事か。
当然カレンなんかは商会の娘というだけあって、他の人達よりは勇者達に貢献出来る機会も多いだろう。それに勇者が懇意にしている商会、という噂が流れれば、それだけで一つのブランドになるのかもしれない。
「とは言え、私はそれほど勇者を重要視していないけどね」
「なんでだ? 実際カレンだって村長と一緒に歓迎する準備をしてるんだろう?」
「そりゃあ勇者様と顔を繋いでおく事は今後の事を考えればプラスになると思ったからよ? けど私個人としては、別に輿入れしようと思うほどではないわ」
「なんで?」
単純に疑問に思ったので聞いてみる。カレンは俺を見て少し面白くなさそうな顔をしたと思えば、はぁ、とため息を吐いた。どういう事なの?
「考えても見なさいよ。皆勇者、勇者と持ち上げてはいるけど、まだ何の実績も上げてないのよ? いわばその名前だけが先行して広まっている状態なの。これがもし魔族を倒しただとか、魔物の群れを撃退したとかの功績が広まっているならともかくね」
「それってもう師匠がやっちゃってますよね?」
「そう言えばそうね……だけどソータの場合はそれを自分がやったと言わないから余計性質が悪いんだけどね……」
心外である。俺はただ必要以上に目立ちたくないだけなんだが。
「だから今後の事を考えれば、ある程度懇意にする程度で良いのよ。それ以上は私が実際に見て、その価値があるか判断するつもりよ」
「流石というかなんというか。よく考えてるんだな……」
結局のところ、自分で見ないとなんとも言えないという事だろうか。
まあ周りに流される事がないところは流石だと思うし、カレンのそういうスタンスは好ましくも思うが。
「っと、着いたわね。後は食事でもしながら話しましょう」
「そうだな。確かレナは特に好き嫌いはなかったよな?」
「特に嫌いな食べ物はありませんが、師匠が作る料理が好きです」
「本当にレナリスは何かあればソータの事ばっかりなのね……」
「正直なんでこうなったのか俺も分からん」
確かに命を救った恩人だと言われれば間違いないだろうけど、それにしたって崇拝されるようなほどの事かと言われればそうだとは思わない。
なんかもう既に当たり前のようにこうなってしまっているわけだから、今更深くは考えないようにしているが、第三者から何故? と言われると俺にも答えられない。
結局分からない事はいくら考えても分からないのだから、今度本人をじっくり問い詰めようと決めて、酒場の扉を開く。
扉を開いて驚いたが、酒場はいつも以上に混雑しており、ほぼ満席といった状態だった。
「おお……これが勇者需要か」
「何よその名前……って本当に混んでるわね」
「いつもはここまでではないのですか?」
「まあそれほど大きな村じゃないしな……っと、そこ空いてるみたいだし、とりあえず座るか」
壁際に空席がある事を確認した俺達は、酒場の親父に声をかけてそこに座る。
席に着いてから程無くして、店員さんが注文を取りに来た。
「いらっしゃいませー!! おや、ソータさんにお嬢様じゃないですか。今日は早いんですね?」
「こんにちはマリさん。今日は一段と繁盛してますね」
「そうなんですよー!! なんでも勇者様が来るってもっぱらの噂で。まあこちらとしては有難い限りですよ!!」
いつものように元気の良い声でマリさんが挨拶してくれる。
マリさんは器量も良く、この店の看板娘的な存在で村人からの人気も高い。
もっとも本人はいつか自分の店を持ちたいと思っているらしく、今は恋愛事には興味がないそうで、村にいる若い連中は軒並み玉砕済みだとかなんだとか。
「なら良かった。あ、注文良いですか?」
「はいはーい!! 今日は何にしましょう?」
「どうしようかな……あ、今日ってアレあります?」
「もちろんありますよ!! っていうかソータさんくらいしか頼みませんしね。私はアレ好きなんですけどねー」
もったいない。美味しいのに。
「ならそれでお願いします。二人はどうする?」
「私はそれほど空腹でもないし、任せるわ」
「私も何があるのか分からないので、師匠にお任せします」
「ん、じゃあ同じのを三つで。あと俺は水で良いけど、二人は何か飲む?」
「あ、ではお酒を」
「私も少し飲もうかしら」
「じゃあエールを二つお願いします」
「はーい! じゃあ少しお待ちくださいねー!!」
と、マリさんは厨房の方へと走っていく。うーん、忙しそうだなぁ。
「ところで師匠、アレとは?」
「私も気になったわ。アレってなんなの?」
「まあそれは来てのお楽しみって事で」
別に隠す程のものではないが、どうやらこっちではあまりアレを食べるって習慣はないみたいだしな。
だったら内緒にしておいた方が面白い反応が返ってきそうだし、黙っている事にする。
「それにエールってワインに比べて安いお酒なんでしょう? 私はあまり飲んだ事がないのだけれど」
「私は何度か飲んだ事はありますが、確かにそれほど美味しいという印象はなかった気がします」
「まあ麦の質にも寄るだろうしな。俺も王都から来た人に聞いた事はあるけど、王都より断然こっちの方が美味しいらしいぞ。後アレにも合うらしいし」
こちらの世界の基準で言えば、別に俺が酒を飲んでも問題はない。
だが俺自身、あまりアルコールが好きではないので特に飲もうとも思っていない。なのでエールがアレに合うというのはマリさんに聞いた話だ。
「ところで先ほどの話の続きではないのですが、何故師匠は功績を隠そうとするんですか?」
「そうそれよ。私も気になったわ」
なんでって言われても……面倒だからという理由くらいしかないんだが。
「面倒だから」
「なんでよ!? それだけの功績があれば爵位くらいは授与されるかもしれないし、褒章だって--」
「爵位なんてあっても分不相応だし、褒章なんて普通に生活する分があれば問題ないしな。それよりも国に縛られたりって方がよっぽど面倒だし、嫌だ」
「私は貴族の家に生まれたので騎士という道を選びましたが、特に面倒だと思った事はありませんよ?」
そりゃあ生まれた時からそれが当然だと言うのであれば、不自由だと思う場面は少ないかもしれない。
だけど俺はこっちの世界で言う平民の家庭に生まれたわけだし、レナとは見ている目線が違うのだから共感し難い点は多いだろう。
「例えば貴族って個人である前に家柄を見られるわけだろ?」
「まあ、そうですね」
「で、例えばレナがこの村で生活したいとか、もしくは旅に出たいとか言った場合、自分の意思だけで決められるもんなのか?」
「それは……私は近衛ですからアリシア様の許可も必要でしょうし、旅に出るのはともかく、この村で生活するというのは家が許さないと思います」
「だろ? 俺は旅に出るのに人の許可を取らなきゃいけないなんてごめんだね」
「……私は不自由なのでしょうか」
「少なくとも俺から見て自由だとは言えないな。ただそれに対してお前がどう思うかだけの話であって、今の状況に満足しているならそれで良いんじゃないか? なんだかんだ言ったけど、俺は嫌だってだけでそれを人に押し付けるつもりなんてないしな」
「ふうん、一応アンタも考えてはいるのね」
まるで俺がなんの考えもなしに行動しているみたいな言い方だな。
まあ行動する度にいちいち何か考えるのはそれこそ面倒だし、難しい事を考える前に行動する方がよっぽど性に合ってはいるが。
「はいお待ちどうさん!! にんにくの芽と豚肉炒め三つでーす!!」
「お、来た来た」
「にんにくの芽? そんなもの食べられるの?」
どうやらこっちではにんにく自体は食用として存在する物の、にんにくの芽が出た物は捨ててしまっていたらしい。正確には芽というよりも茎なのだが。
で、それを見た俺がマリさんを通してマスターに話してみたところ、なかなか気に入って貰えたらしく。メニューに組み込んでくれた。
ただ先ほど聞いた通り、まったく人気はないようで、俺くらいしか注文してはいないようだが。
「まあ騙されてと思って食べてみろって。豚肉と一緒に食べれば本当に美味いから」
「でも良い匂いですよ?」
そう言ってレナがフォークでにんにくの芽を豚肉に巻き、口へと運ぶ。やるなレナ。そいつは一番美味い食べ方だ。
別に自分が作ったわけではないが、考案した側としては評価も気になるのだ。
もぐもぐと咀嚼するレナを見て、その反応を確かめる。
「師匠!! これ美味しいです!!」
「本当に? なら私も……」
続いてカレンがレナを真似て、にんにくの芽と豚肉を口へと運ぶ。
「美味しい……それにこのにんにくの芽? の食感も良いわね」
「ちなみにエールともよく合うらしいぞ」
「本当ですか? 試してみます!!」
レナが再度にんにくの芽と豚肉を口へと運び、もぐもぐと食べる。なんかリスみたいだな。
続いてエールに口を付け、最初はちびちびと飲んでいたレナだったが……
急にカッと目を見開き、一気にエールを呷ってしまった。
「ヤバいです。これは飲み過ぎるやつです」
「そ、そんなに……?」
カレンがレナの反応を見てゴクリと喉を鳴らす。分かる。ああやって美味そうにされると、自分も真似てみたくなるんだよな。
予想通り、カレンも同じ様ににんにくの芽と豚肉を食べ、エールの入ったジョッキをグイッと傾けた。
そしてレナ同様に目を見開き、ジョッキを空にしてしまう。
「……これはマズいわね」
「あれ? カレンには合いませんでしたか?」
「違うわよ。止まらなくなりそうって意味よ」
どうやらお気に召したらしい。
二人の反応に満足したので、俺も料理に手を付ける。--うん、やっぱり美味い。
このちょっとピリッとした辛味が良いんだよな。
「マスター!! エールおかわり!!」
「あ、私もお願いします!!」
カレンとレナがおかわりを所望する。
まあこの後は予定もないから多少飲み過ぎたとしても大丈夫だろう。
--そう思っていた時期が俺にもありました。
まさかそのすぐ後に後悔する事になるとは、思いもよらず。
ちなみに今日の晩御飯で作ったのでネタにしました。




