三人がかり
爆睡ぶっこいてました。
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
「フッ! ハァッ!!」
「ほら力が入りすぎてる。もっと膝を柔らかく使わないと」
俺は軽くクラウスの足を払う。
それほど力は入れていないが、力んでしまっている今の状態なら体勢を崩す事くらいは可能だ。
実際、クラウスは俺の足払いを受けて重心がブレてしまった。
「兄様! 変わります!!」
バランスを崩したクラウスを庇うように、レナがクラウスの影から俺へと向かってくる。
良いフォローだが、向かってくる方向は逆を選ぶべきだったな。
「よっと」
「なっ!?」
クラウスの足を払ったそのままに、俺は足を身体へ引き寄せ、そのまま真っ直ぐレナリスの手を狙って足刀蹴りを放つ。
右足を使ったんだから、右側からくれば良かったのに。左側だと足を下ろしてそのまま前にも動けちゃうし。
「くっ!!」
俺の足刀蹴りを受けたレナリスは剣を落とす事はなかったものの、握力が弱まったのか、剣を振り抜けないでいる。いわば死に体だ。
レナに向かって剣を向けて身体を沈め……ようとしたが、気配を感じて跳躍へと変更する。
「やぁっ!!」
つい先ほどまで俺がいた場所に向かって剣が横薙ぎに繰り出される。
「惜しかったな」
そのまま宙返りする形で、後ろから斬りかかって来たミアの背中を蹴り飛ばす。
「きゃっ!」
そして着地したところで剣を突き出す。
突き出した剣のすぐ目の前にはクラウス、レナ、ミアの三人が固まっており、ちょうどまとめて斬り伏せられる形となった。
「ここまでだな」
「くっ、やはりソータには三人がかりでも勝てないのか」
「なんで私が後ろに回り込んだのが分かったんですか?」
「流石師匠抱いて」
約一名アホがいるな。後でとっちめてやろう。
「クラウスは囮だったんだろうけど、狙いすぎたのか力が入り過ぎてたからあれくらいの足払いで体勢を崩すんだよ。もっと膝を柔らかく構えてればせめて軸がぶれることなんてなかっただろうに。ミアは後ろに回り込むまでは上手く気配も消せてたけど、いざ攻撃するって時に殺気というか、気配が漏れすぎだったな。レナはそこで腕立てでもしてろ」
「私だけ酷くないですか!?」
「酷いのはお前の頭の中だ!!」
正直レナがクラウスのフォローに入ったタイミングはバッチリだった。狙いも悪くないし、動きも格段に良くなっている。
だけど最近格段にアホになって来ている気がする。修行中頭を叩き過ぎたのが悪いんだろうか。
「まあ三人とも動き自体は良くなってるよ。この前の魔族くらいなら余裕とまでは行かなくても勝てると思う。一対一となるとレナかクラウスじゃないと厳しいだろうけど、それでも半年前に比べれば雲泥の差だ」
「師匠に褒められた……これは夢か」
レナが呟く。いや今までにも褒めた事くらい……あったっけ?
「正直ずっとソータさんとしか戦ってないので実感がないです……」
「そうだな、せめて今のも一太刀でも浴びせられていればまた違ったんだろうが」
「私も師匠に教わるか、勇者達を教える事しかしてないからよく分からないな……」
そういえば最近何も起きてないしな。端的に言えば至極平和だ。
レナは稀に獅子見達クラスメイトを伴って魔物を相手にした演習を行っているらしいが、そこのところはどうなんだろうか。
「万が一があってはいけないので、私から見て安全に倒せる魔物しか相手をさせていませんから。それにアサカは別格として、他の生徒達も急速に実力を伸ばしているので、特に私が手を出すような場面はありません」
だ、そうだ。まあこの世界の人間から見て全員がいわゆるチート性能の集まりだからな。俺以外。
特に朝香は俺から見ても天才の一言に尽きるし、他の奴等がどうなのかは分からないが、そうそう遅れをとる事はないだろう。
「私も家の借金が返せたので、無理して冒険者として活動する必要もないですから」
ちなみに借金を返し終わってからというもの、ミアは獣人を毛嫌いする一部の生徒以外には受け入れられ始めた。元々容姿は良いし、負い目さえなければ人気が出てもおかしくないしな。
どちらかと言うと、何故かアリシアから敵視されている俺がハブられているような状態だ。
騎士団や魔術師の養成学校と違って、王立学院では戦闘の実習は二年目、三年目からの授業みたいだし、ミアが今の実力を測る場がないというのも事実だろう。
「俺からすれば、そろそろ三人とも十分に実力が付いたと思うし、無理して修行する必要なんてないと思うぞ?」
「嫌です」
即答したのは案の定レナだ。なんでそこまでして俺にこだわるのかコイツは。
「私も出来ればソータに一撃入れるまではお願いしたいところだが」
「私も人に教わる機会なんてほとんどないと思うので……」
ぬう、三人とも継続希望か。いや、別に良いんだけどさ。特に何か予定があるわけじゃないし。
でもそろそろ王都だけじゃなくて他の街とかも見てみたいんだよなぁ。基本的な読み書きも出来るようになったし、学院で最低限学ぶ事は学んだと思うしな。
ちょっと折を見てゲイルにでも相談してみるか。
ちなみにお金に関してもそれなりに貯えが出来ている。
実は時間のある時にこそっと街を抜け出して魔物を狩り、マルシアを通して素材を換金していたのだ。
その代わりマルシアにも魔法を教えて欲しいと交換条件を出されたので、魔力制御のやり方を教えたりしているのだが。
その時に知った事だが、どうもこの世界では魔力を制御するという考えがあまりないらしい。基本的には詠唱さえすれば魔法が発動するのだから、そんな面倒な事をする必要もなく、魔法を使っていけばスキルレベルが上がり、新しい魔法の詠唱が自然と頭に浮かぶのだとか。
だったら確かに地味な魔力制御なんてするよりも、バンバン魔法を使う方が良いだろうとなってもおかしくはないかと納得はした。
マルシアにも「だったらマルシアもそうした方が効率は良いんじゃないか?」と伝えたが、あまり外に出る事が出来ない関係上、それほど魔法を使う事も出来ないんだとか。
やっぱり王女なんて立場は不自由な事極まりないな。まあだからと言ってそう簡単に捨てれるもんじゃないだろうし、色々苦労してそうだ。
「さて、じゃあもう少し休憩したらもう一回な。今度は一撃くらい当ててくれよ」
そう言った俺の顔を、三人はなんとも微妙な顔で見るのだった。
毎度お読みいただいてありがとうござんます。




