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修行-ミア編-

さてお次は弟子の皆さんの修行の様子でも。

「ほらまた身体がブレてる。三分追加な」

「くっ、やっ! はぁっ!!」


 魔族を倒した日から一か月が経った。

 予定通り魔族はクラウスが倒した事にして、ミアもゲイルから受け取った報酬で家の借金を完済した。とは言え、元々獣人というだけでよろしくない視線を受けていたので、学院の生活が激変したかというとそうでもない。

 だが同じ学院に通う貴族に借金があるという負い目がなくなった影響もあり、レイドの奴も今のところミアに対して、以前ほど絡む事はなくなった。

 もっともミアの傍には大体俺がいるので、その分俺に絡んで来る事が増えた気はするが、まあ基本的に無視をするだけなので問題はない。

 だがいちいちアリシアが俺を睨み付けてくるのはどうにかならないんだろうか。そこまで恨まれるような事はした覚えもないんだが。


 と、まあそんなこんなで今は絶賛修行中だ。約束通りミア、レナリス、クラウスの三人を順番に教えている。ミアは主に放課後日が暮れるまで、レナリスは夜アリシアの近衛の任が終わってから。クラウスは申し訳ないが、学院が休みの日、という風に若干相手をする時間が少ないが、まあ元々三人の中で一番腕が立つ事もあり、その分濃い内容の修行が出来ている。とは思う。

 最近は四肢切断、なんて大怪我もしなくなってきたし、効果は出てきているはずだ。


 ちなみに今はミアの相手をしている。

 獣人の特性なのか分からないが、元々高い身体能力を有している事が分かった。剣術、といった技術面に関しては今までが我流だったためか、剣を振り回していただけの印象が強かったが、今では虚実を織り交ぜた攻撃も出来るようになって来ている。これもスキルの恩恵なのかな?


「とは言ってもまずは一撃一撃をしっかり打ち込んで貰わないとな」


 特に型というものは俺も教わっていないし、教えるつもりもない。剣術、剣技とは言っても、結局のところ致命傷となる一撃を相手に食らわせる事が出来れば勝ちだ。技術なんてのはつまるところ、その一撃を入れるための布石でしかない。

 逆に言えばその一撃がなければ、いくら技術を磨いたところで敵は倒せない。試合など当てれば良いというレベルの話であれば、また別なのだろうが。


 単純な話、真剣を脳天から食らわせれば相手は死ぬ。逆に腕を切り落としたとしても、足が残っていれば逃げられるかもしれないし、片腕があれば起死回生の一撃があるかもしれない。まあクラウスが例の魔族を追い払った話があるが、結局殺しきれなかったからこそ、一か月前の再襲撃、という事が起こってしまったわけだしな。


「よし、それじゃ最後に一発、今日一番の一撃を見せてみろ!」

「やあああああああっ!!」


 裂帛の気合と共に、ミアが上段から剣を振り下ろす。俺はその振り下ろされた剣を右腕で受け止めた。

 ガッ! という鈍い音と共に、少しずつミアの握る剣が肉に食い込んでくる感触があったが、だがそこまで。まだ俺の腕を切り落とす程の威力には至っていない。


「じゃあそこまで、なかなかいい感じになってきたじゃないか」

「ハァ……ハァ……剣を腕で……ハァ……受け止める人に言われたくないです……」


 ミアが息も絶え絶えに抗議してくる。失敬な、ちゃんと身体強化で腕を強化してるんだから、まるで人を化け物みたいに言うのは止めて頂きたい。


「でも最初は剣の方が負けて弾かれてただろ? それに比べたら今日のは腕に食い込むくらいまでいったんだから上出来だ」

「色々と基準がおかしい……です」

「ちなみに合格ラインは俺の腕を切り落とす事だから」

「普通は刃引きした剣で打ち合って、一撃入れればとかじゃないんですか……?」

「うーん、それもそのうち出来るようになるだろうけど、ミアにはまず剣に威力を乗せる事を覚えて貰わないとだしな」

「それって全力で剣を振るって事ですか? でも全力で振るった後は隙が出来てしまうんじゃ?」

「いや、威力を乗せる事と力を入れる事はイコールじゃないよ。ってまあ言うよりも見せた方が早いか」


 どうせなら的があった方が良いと思い、魔力を土属性に変換し、人形を作る事にした。土で人の形を作り、魔力を付与して強度を上げていく。

 なんとなくどっかの某王様に見えなくもないが、多分気のせいだろう。


「とりあえずこれくらいで良いか。ミア、この土人形のゲイル君に斬りかかってみて」

「嫌ですよ!? なんで王様の姿にするんですか!!」


 ぬう、別に王様だなんて一言も言ってないのに。

 ミアに拒否られてしまったので、土人形を何の特徴もない、ただの人の形に作り直した。


「これならいいだろ? じゃあ頼む」

「全く……ソータさんは自由過ぎますよ。--それじゃいきます」


 ミアは先ほど同じく、大きく上段に振り被り、一瞬の溜めを作って土人形に向かって剣を振り下ろした。


 --ガッ!!


 流石にそれなりの硬さにしたせいか、ミアの剣が弾かれた。


「硬い……です。うぅ、手が痺れました……」

「まあそうだよな。全力で剣を握って、思いっきり打ち込めばそうなる。もちろんちゃんと斬れれば痺れたりはしないだろうけど」

「でも全力じゃないのなら、威力を乗せるってどうするんですか?」

「それはこれからやってみせるよ。ちょっとその剣貸して」


 ミアから剣を受け取り、正眼の構えを取る。

 普段は構えなんて取る事はないが、ミアが見て分かりやすいようにする必要があるからな。


 そして自分の身体の状態を確認する、肩、腕、手、足。余計な力が入っていない事を確認して、土人形に向かって左足から膝を抜く。

 僅かに前に向かって倒れ込むような感覚--そこから上半身は置いたまま、更に右足で一歩を踏み出す。

 当然上半身は脱力した状態でその場に置かれたままなので、右足を踏み込んだ際に右半身が前になる形となる。

 そこから僅かに腕を下に、そこから右腰で身体を引っ張るように捻転させる。いわゆる右切上の形、そのまま剣を振り抜く。

 そしてその数瞬後、土人形が右腰辺りから肩にかけて二つに分かれた。


「っとまあこんな感じかな」

「こんな感じって言われても……」


 ミアが驚きを通り越して呆れたように呟く。これでも分かりやすいように動作を大きめにしたつもりなんだが……


「今の動きの中で力みを感じたところはあったか?」

「いえ……それどころか全く力を入れてないように見えました」

「正確には力を入れてる場所はあるにはあるんだが……まあ概ね正解だ」


 大事なのは剣を振るう速度を最小限の力と動きでどこまで出せるかに尽きるか、だと思う。だって力だけ籠めれば良いというのなら、別に剣じゃなくて鈍器を使えば良いのだから。

 とは言っても、言うは易し、行うは難し。俺だって最初から全部が出来たわけじゃない。


「大事なのは無駄な力みと動きを無くすこと。それにはひたすら剣を振って、動きを身体に沁みこませることかな」

「でもソータさんはいつも私に全力で剣を振らせてますよね?」


 言ってる事とやってる事が違うじゃないかと言わんばかりに、ジトッとした目で俺を見るミア。


「それはどっちかっていうと準備運動かな。身体の力みを無くすのに一番手っ取り早いのが、疲れ切ってもう剣を振るのさえ辛くなった時の状態を覚える事だから」


 今思えばそういう事だったと思う。俺も今のミアと同じように、ただひたすら全力で剣を振らされていたんだし。それに全力で剣を振るのには疲れさせる以外の目的ももちろんある。


「それともう一つ、さっきはああ言ったけど、実際には全力で剣を振る事が必要な場合もある。だけど全力とは一言で言っても、ただ力任せに剣を振り回す事じゃない。いくら全力で身体を動かしても、身体の軸がブレないようにするためっても目的もあるんだ」

「そうなんですか……なんというか、ソータさんは凄いですね」

「母さんの受け売りなんだけどな。別に俺が凄いわけじゃないよ」


 1時間みっちり全力で剣を振るった後、ヘトヘトになった身体で更に1時間以上、全身を使ってぶっ倒れるまで剣を振らされていた事を思い出し、少し身体がブルッと震えた。


「でも凄いですよ。私なんて全然……」

「そんなことないさ。俺なんて妹に比べて才能も何もなかったから」

「え? 妹さんがいるんですか? しかもソータさんよりも凄いんですか?」

「妹は……朝香は天才だよ。母さん達も朝香の才能は認めてたし」

「ソータさんより凄い人がいるなんて……信じられません」

「俺が一年以上かけて出来るようになった事を三日で出来ちゃうくらい凄いぞ」

「ええ……?」


 とは言え、朝香は剣にしろ、槍にしろ、それほど興味がなかったみたいだけどな。そういえば朝香どうしてるかな……アレ以来全然口も聞いてないけど……

 まあでも俺と同じ学院に通ってないみたいだし、戦闘スキルがなかったという事もないようだ。俺としては朝香が勇者だって言われても全く不思議には思わない。


「さ、雑談はここまでにして、今から三十分間全力で剣を振ろうか。で、もう剣が握るのも辛くなってきたところで本格的に身体の動かし方を覚えて行こう」

「……私、もしかして選択を間違っちゃったのかなぁ」


 その後、日が暮れるまでみっちりと剣を振らせるつもりだったが、途中でミアが気を失ってしまったので、丁重に部屋に運んで寝かせておきました。

 それにしても朝香といいミアといい、上達が早くて羨ましくなるな。もしかして俺がヘボ過ぎるのでは……と思わなくもないが、考えたら負けなんだろう。きっと。


 さてと、そろそろ晩御飯の準備をして、レナリスのところに向かうとしますか。





そしてメリークリスマス。さあ小説を読もう。

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