弟子が出来ました
今回はいつも通りの長さです。
あの後俺達はいくつかのやり取りを終え、王都に帰って来た。
どんなやり取りかって? それはこんな感じだ。
「「「弟子にしてください!!」」」
広々とした草原に重なる声が三つ、しかも俺が助けたレナリスだけではなく、ミアやクラウスまでそんな事を言い出す始末だ。
とは言っても俺は弟子なんて取るつもりはなかった。俺だってまだ母さん達から教えを受ける立場だし、人に教えられるような大した人物ではない。
とりあえずその声を無視して王都に帰ろうとしたのだが、ふと気付く。
「なあクラウス、もしかしてこれってゲイルに報告したりするのか?」
「ええ、魔族が出たという事は勇者殿達が王城になだれ込んで来て知り得た情報ですから。当然王も知ってますし、恐らくこの後も応援部隊が駆けつけてくるのではないかと」
「マジかー……」
つまり俺が魔族を倒した事も報告されてしまうわけだ。そうなると無駄に目立ってしまう。
いや、最悪目立つのは良いんだが、そうなるとあの獅子見達と魔王を倒すパーティを組まされる可能性もあるわけで。
「魔族はクラウスが倒した。俺はレナリスに守られた。おーけー?」
「ちょっと何を言っているか分かりませんな」
「だってそうなると魔王を倒しに行けとか言われるわけだろ?」
「今すぐという事はないと思いますが、ゆくゆくは勇者殿と共に魔王討伐の旅に出て頂く事になる可能性は高いと思われます」
「やだ」
「そう言われましても……ですが魔族を打倒したソータ殿は英雄ですよ? いくら戦闘スキルがないとは言え、この事実が広まればソータ殿を見る目も変わると思いますし、損な事はないと思いますが」
「英雄なんてガラじゃないし、そんな目で見られても嬉しくないし。それに顔が広まっちゃうと自由に動くのも難しくなる。だからクラウスが倒した事にしてくれるとありがたい」
「いやしかし……」
渋るクラウス。そりゃまあ普通に考えれば祭り上げられて悪い気はしない。それにいつ元の世界に帰れるか分からない以上、それなりの地位というものは持っておいても損はないだろう。
けれど、だ。逆にこちらの世界に縛られてしまっては、いざ元の世界に帰れるとなった時に色々と弊害が生じると思う。だから出来るだけ身の回りは軽くしておきたい。というのが俺の考えだ。心残りは少ない方が良い。
だから俺は交渉する事にした。
「もし俺の申し出を受けてくれるのなら、弟子入りの話は考えても良い」
「本当ですか!? いやしかし……」
「兄様、師匠がそう仰られてるのですから、お受けしては?」
「お前はただソータ殿に弟子入りしたいだけだろう!?」
「なんならまた何かあれば手助けする。もちろん全部クラウスが解決した事にするけどな」
「それはそれでありがたい話ですが、実力の伴わない功績というものはちょっと……」
「だったら実力が伴う様に俺が鍛える。それでも不満か?」
「いえ、元々不満というわけではないのですが……」
少し顔を伏せ、思案する素振りを見せるクラウス。ぬう、もうひと押しか。
「なんならお前の妹もまとめて面倒見るよ。そうすれば一人じゃなくて二人で分け合えるだろ?」
「兄様!! 受けましょう!!」
「お前はちょっと黙ってろ!!」
「師匠、私の事はレナとお呼びください」
「お前は清々しいほど人の話を聞かないのな」
急変したとしか言いようのないポンコツっぷりを見せつけてくれるレナリス。いやここは言う事を聞いてレナと呼んでおけば最後の一押しになるか。
「分かった。レナ、これからよろしくな」
「っ!! こちらこそ不束者ですがよろしくお願いします!!」
あれ? 不束者ってこういう時にも使うんだっけ? まあ良いか。
「で、妹の方は快諾してくれたがクラウス、お前はどうなんだ?」
「むむ……この馬鹿妹が……仕方ない。ソータ殿、よろしくお願いします」
「よし決まりな! それじゃあ帰るとするか!!」
よっしゃ言質取ったどー!! 正直教えられるかなんて分からないが、とにかく実戦形式で鍛えていけばどうにかなるだろ。
なーに、即死じゃなければ治せるから大丈夫大丈夫。
「……兄様。今何かこう、早まった!! という気がしたんですが気のせいですよね」
「元はと言えばお前のせいだろうが……」
「あ、あの……」
おずおずといった様子で、ミアが会話に参戦してきた。
「一応私も弟子にして欲しいと言ったんですが……」
ちっ、このまま王都に帰ればなかった事に出来ると思ったのに……ミアの奴意外とちゃっかりしてるな。
しかしどうしよう。クラウスとレナに関しては交渉の道具として弟子入りを認めたけど、ミアに関しては特に何も……いや、あったな。それも今後の事を考えれば意外と重要な物が。
「二人も三人も同じだし、まあ良いか。だけどミアに関しても交換条件がある」
「わ、私もレナリス様ほどではありませんが、身体には」
「いやそうじゃない。っていうかなんで皆そっち方面ばっかりなの? ねえ? 俺そんな鬼畜に見える?」
そんなに女に飢えてるように見えるんだろうか。だったら結構ショックなんだが。
「で、でも私が差し出せるようなものなんて……」
「そんな事はない。ある意味クラウスやレナよりも重要な役割がある」
しかもこの交換条件を飲むのであれば、ミアには今よりも更に強くなって貰わないと困るし、ある意味弟子入りしない方が彼女にとっては幸せかもしれない。
「まず一つ。魔族を倒したのはクラウスという事にするが、ミアも俺を守り、更にレナを手助けしたという事にして、報酬を受け取って貰う」
「え? でも私は何も……」
「まあ最後まで聞いてくれ。--で、その報酬で家の借金を全て返済して貰う」
驚きに目を見開いてミアが俺を見る。まあこれだけ聞くと条件っていうよりもミアにとってメリットしかないしな。
「で、借金を全て返済したら放課後は基本的に修行を受けて貰う。目標は少なくとも学院で一番強くなること」
「え……?」
ミアの表情がピシリと固まる。まだ終わりじゃないんだけどね。
「そしたら多分レイド辺りが絡んで来るから、決闘でもなんでも良いから勝って貰う」
「わ、私がレイド様に?」
「もう借金がなくなるんだし、別に様を付ける必要もなくなると思うけどな。まあ呼び方はどうでもいいけど。要するにミアには学院内で獣人族の地位を確立させて欲しいんだ。学院で一番が獣人族、しかも貴族のレイドを負かしたとなれば、王都でもそれなりに噂が立つだろ? そうすれば獣人に対する認識も少しは変わるかもしれない」
「それはそうかもしれませんが……私なんかがそんな」
「なれる。というかする」
「でも私が唯一持っている剣術スキルもレベルは1です」
「俺はそのスキルすらないけどな」
確かにハードルは高いと思う。少なくともスキルレベルの低さを言い訳にするくらいには。
だけどその言い訳は俺には通用しない。だってないんだもん。戦闘スキル。
俺の言葉を聞いて思案するミア。まあ最悪断られても仕方ないとは思うが、俺の平和な学院生活の為にも出来れば受けて貰いたいところだ。
「まあ今すぐに返答する必要はないさ。でも出来れば王都に戻る頃には答えを出しておいて欲しい」
「……ます」
「ん?」
「やり……ます。一番になってみせます。レイドさ……んにも勝ちます」
「それは本気って事で良いんだな? 別にまだ考えても良いんだぞ」
とは言ってみたものの、ミアの目を見れば本気である事はすぐに分かった。先ほどまでの自信なさげな揺れた瞳とは違う。揺らがない、芯の通った強い眼差しがそこにあったからだ。
「本気です。ソータさん、いえ、師匠! お願いします!!」
「分かった。じゃあ早速明日からな。あと別に師匠って呼ばなくても良いから」
「はい!! 師匠!!」
ダメだ分かってない。レナと言い、こっちの女性は皆こうなのか?
「それだけソータ殿の実力が規格外に映ったという事ですよ」
「そういえばクラウスは師匠って呼ばないのな?」
「そのように呼びたいところですが、なにぶん私がそう呼んでしまうと色々と不味いでしょう」
「ああ、その方が俺も助かるしな」
レナとは逆の意味で初対面の印象とかけ離れていた。こういう良識的な大人が身内にいると助かる。
「それじゃあ少し長居しちゃったけど帰ろうか」
「「「はい!!」」」
……とまあこんなやり取りがあったわけだ。
その後王都に帰還した俺達四人は、そのまま王城に向かい、ゲイルに報告した。その内容は長くなるので要約すると……
「レナリスが足止めしてるところにちょうどクラウスが後ろから走って来たからそのまま魔族を真っ二つにして倒した」
「マジで?」
「なんか上半身だけ動いて喋ってたからクラウスが炎の魔法でトドメ刺した」
「なにそれこわい」
「はいこれ下半身」
「待って今どこから?」
「ついでにここにいるミアが俺のこと守ってくれた」
「逆じゃね?」
「だからミアにも報酬上げて。ちなみに俺何もしてないから何もいらない」
「うんもう色々ツッコミたいけどおk。はいこれ報酬」
「「「……」」」
ということで当初の予定通り事は進んだ。いやあ、物分かりの良い大人は話が早くて助かるわあ。
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