色々出てきた
気が付いたら一か月経ってた。マジか。今回はちょっと長めです。
「やっ! はぁっ!!」
広々とする草原の上に威勢の良い声が響き渡る。
声の主はミア、対峙するのはゴブリンと呼ばれる魔物が三匹。
冒険者ギルドから依頼を受けたミアは標的であるゴブリンを討伐中だ。
「ゴブリンなら私でも討伐可能です。だけどゴブリンとは言っても魔物は危険です。ソータさんは手を出さないでくださいね」
とはこの草原に出たばかりのミアの言だ。
手を出すなと言われたので、特に何をするでもなく、ミアとゴブリンの戦闘を見守っている。
流石に命に危険があるような場合には遠慮なく手を出させてもらうつもりだが。
だがミアの腕も決して悪いものではない。流石に三体同時は厳しいかもしれないが、一対一なら負ける事はないだろう。
--ザンッ!!
ミアが一匹のゴブリンを斬り伏せる。人型だから一人か? いや、やっぱり魔物だし、ここは一匹と数える事にしよう。
「グッ、グギッ!!」
薄気味悪い声を上げて斬られたゴブリンが倒れた。あと二匹か。いや……
あのゴブリン、まだ生きてるな。ミアは気付いていないようだが……
「グギャギャギャッ!!」
仲間をやられた怒りか、残りのゴブリン達が一斉にミアに迫る。ミアは二匹のゴブリンの攻撃を捌いていくが、その表情に余裕はない。
そして先ほど倒れたゴブリンがゆっくりと立ち上がり、後ろからミアに近付いていく。
一瞬手を出そうと考えた。
が、即死でなければ治せるし、一度やられてみるのも経験か。もしかしたらミアは俺を恨むかもしれないが……それならそれで仕方ない。
「グギィッ!!」
「えっ!?」
後ろから近付いたゴブリンが、手に持ったボロボロの剣を振り上げ、ミアに振り下ろそうとする。そしてミアはというと、死を覚悟したのか、目を瞑っていた。
--ドンッ!!
「グギャッ!?」
と、ミアを斬ろうとしていたゴブリンが悲鳴を上げながら吹っ飛んでいく。どうやら誰かがゴブリンに向けて魔法を打ったようだ。
「きゃあっ!!」
魔法が着弾した衝撃を受けて、ミアが体勢を崩す。その隙を狙って二匹のゴブリン達がミアに迫……ろうとして、こちらも魔法により吹っ飛ばされていくのが見えた。
「大丈夫か!?」
と、ミアに向けて安否を確認する声を掛けつつ、駆け寄ってくる男を見た。
おい、なんでコイツがここに?
「あ、はい大丈夫です……」
「良かった。間に合ったんだな」
ミアが無事だった事を確認して安堵する男。獅子見の奴がそこにいた。
「おーい!! 大丈夫だったかー!?」
獅子見に向かって何人もの男女が走って来るのが見えた。どうやらクラスメイト達が近くに集まっていたらしい。
よく見れば例の女騎士もいる。何故に?
「貴様は……」
どうやらあちらも俺に気付いたらしい。そりゃ気付くよね。
「おい!! お前!!」
俺が女騎士の方に意識を向けていると、獅子見から声を掛けられる。お前呼ばわりで。
「何故この女の子を助けなかった!! 近くで見てたんだろう!?」
「いや、ミアが手を出すなって言ったからだけど?」
「だとしても危険が迫ってたら助けるのが普通だろう!! もし死んだらどうするつもりだったんだ!!」
「殺されるほどの攻撃でもなかったし、怪我したって治せば良いじゃないか」
何をこんなに怒ってるんだコイツは?
「簡単に言う。仮に怪我で済んだとしても、傷跡が残ったらどうするんだ。女の子なんだぞ!!」
「残さないように治せば良いだけだし、傷跡なんて気にする方がおかしいだろ?」
「まあ二人とも落ち着け」
女騎士が俺達の仲裁に入ってきた。心外だな。アイツが一人で怒ってるだけで、俺は冷静なんだが。
「結果として女の子は助かったから良いだろう。それにそいつは戦闘スキルを持っていない。助けに入っても無駄死にになった可能性の方が高い」
「ですが男として……!!」
「ほう、つまり貴様は男なら死んでも良いと? とんだ勇者様だな」
「そんな事は言ってません!!」
「ならそいつを責めるのは筋違いだ。大人しくしていろ」
「くっ……!!」
おー、これが論破ってやつか。獅子見の奴が悔しそうな顔で引き下がるのが見えた。
「とは言え」
「ん?」
女騎士が俺の方に向き直る。
「確かに助けに入らなかった事は仕方ないが、それなら貴様はここにいるべきではない。足手まといになるだけの存在など、戦闘では邪魔なだけなのだからな」
「あー、まあ正論だな。だけど別に足手まといにはなってないと思うけど?」
「それは結果論でしかないだろう。いいか、私が言っているのは……」
女騎士の説教が始まった。が、その話に意識を割く事は出来なかった。何故なら何か嫌な気配が近付いてくるのを感じたからだ。
「おい!! 貴様聞いているのか!!」
「いや、それどころじゃなくてさ。なんか来るんだけど」
その気配は猛スピードでこちらに迫って来る。この調整だと何分もかからなさそうだ。
「そんな事で私が誤魔化されるとでも!!」
「あ、来ちゃった」
「え……?」
俺達の目の前に一人の男が立っていた。
「ククク、どうやら噂は本当だったみたいだナァ……」
「き、貴様は……!!」
知っているのか女騎士よ。なんか随分禍々しい、暗い魔力を持ったご友人ですこと。
「貴様は兄様が倒したはず!!」
「アン? テメェあの男の妹かよ。確かにアイツは強かったがよ。俺達魔族の生命力を舐めてもらっちゃあ困るナァ」
「なっ!? 馬鹿な!! 生きていたというのか!!」
あ、コイツ魔族なのか。
「魔族……あれが?」
「おい、魔族って無茶苦茶強いんじゃなかったか?」
クラスメイト達がざわめく。
「くっ、皆逃げろ!! こいつは私が食い止める!!」
「無茶です!! 俺達も」
「ダメだ!! 私にも勝てないお前達が敵う相手ではない!!」
「そんな……」
「足手まといになるより、お前達は王都に助けを求めてくれ。魔族が来た、と伝えてくれればきっと兄様達が助けに来てくれる」
なるほど、確かにその判断は正しい。自分より強大な相手には、それより強い者か、数を揃えて挑むべきだ。
「早く行け!!」
「わ、分かりました」
女騎士の鬼気迫る怒声で動き出す獅子見達。
「ソータくん、わ、私達も……」
すっかり蚊帳の外となっていたミアが俺に声をかけてくる。
「ん? ああ、ミアは先に行っててくれ」
「先に? ソータくんはどうするつもりなの?」
「魔族がどれくらい強いのか興味があるから見てく」
そう、単純に興味だった。別に魔族と事を構えるつもりはないが、今後邪魔になる可能性はあるわけだし。
「貴様!! 何を馬鹿な事を!!」
「そうだよソータくん!! 早く逃げなきゃ!!」
「あー、別に俺の事を守ろうとか考えなくていいから、自分の身くらい自分で守るよ」
「オイ……テメェらオレを馬鹿にしてやがんのか?」
存在を無視された魔族が怒気を発する。
「くっ……どうなってもしらないからな。おい!! 貴様の相手はこの私だ!!」
「安心しナ、あの男の妹だって言うならまずは貴様からダ」
言葉を発すると同時に魔族の身体が掻き消える。
一瞬の内に女騎士との距離を詰め、どこから出したのか剣による一撃を繰り出していた。
「くっ!!」
女騎士はかろうじて、といった感じでその剣撃を受ける。が、膂力の差か、後ろに吹き飛ばされた。
「なんという力だ……」
「オラオラオラァ!! しっかり受けないとすぐに終わっちまうゼェ!?」
「ぐっ!!」
上下左右と繰り出される剣を、女騎士は遅れながらも受け切っていく。が、全ては受け切れずに、少しずつ身体に傷が刻まれていく。
どうやら致命傷になりそうな攻撃と、そうでない攻撃の見極めはそれなりについているらしい。
とは言えこのままではジリ貧だろう。女騎士の方は既に息も上がっているし、少なくない量の血も流している。
「ハァ……ハァ……」
「ったくしつこいナァ、とっとと諦めて死んじまえヨ」
「それは……ハァ……出来ない……」
「アアン? どう考えてもオレには勝てないって分かってるダロウガ」
「だとしても……私が死ねば後ろの二人を殺すつもりなんだろう……?」
「そりゃあ当然だナァ、ニンゲンを生かしておくつもりもないからナァ!!」
「ならば……私は負けるわけにはいかない!!」
あの女騎士は俺達を守る為に勝てない戦いを続けている。らしい。
なるほど立派だ。騎士の鏡だろう。誰かを守る為に命を懸けるなんて誰にでも出来るもんじゃない。
恐らく女騎士は勇者の卵足る獅子見達の護衛として同行していたんだろう。だから本来上から下された命令は獅子見達を守る事であって、俺達を守る事は命令の内に入っていないはずだ。
で、あれば俺達を見捨てたとしても、それは責められる事ではない。にもかかわらず、女騎士は俺達を守ろうとしている。
--力なき者を守る。
それはきっと、ただの綺麗事かもしれない。だけど目の前の存在はそれを命を懸けて実行しようとしている。例え相手に自分の力が及ばないと分かっていても。
傍から見れば無謀だろう。馬鹿みたいだと思うかもしれない。いや、きっと馬鹿なんだろう。
「だけど、嫌いじゃない」
「え?」
思わず口から零れ落ちた言葉。そう、そんな馬鹿は嫌いじゃない。
だから決めた。あの女騎士は死なせない。
「行くぞ、緋徹」
「待って、ソー……」
ミアが何か言っていたが、俺はもうそこにはいない。制止の言葉だろう事は分かっているが。
「恨むナラ自分の弱さを恨むンダナァ!!」
「全くだ」
--ガィンッ!!
金属と金属がぶつかり合う鈍い音が響く。
「貴様は……」
「なんだテメェ!!」
女騎士にとどめを刺そうとした魔族の一撃を振り払った俺に対し、女騎士と魔族、両方からの注目が俺に集まるのが分かった。
「いや、勝算もないのに自分より強い相手に挑んだ上に、死にそうな馬鹿がいたからつい」
「ばっ、馬鹿とはなんだ!! 大体何故こちらに来た!! 何の為に私が……!!」
本当に瀕死なのかと疑いたくなるくらいの剣幕で捲し立ててくる。そんなに興奮したら更に血が出るけど大丈夫か?
「ハッ!! 今頃出てきてどうするつもりダァ? ソイツが手も足も出なかったのを見てなかったのカァ?」
「見てたけど?」
見てたからどうだと言うんだろうか? 女騎士が手も足も出なかったのと、俺に何の関係があるのか分からない。
「貧弱なニンゲン如きがナマイキナァ!!」
あ、怒った。
「別に怒るのは良いんだけどさ」
「アァ?」
「敵を目の前にして隙だらけじゃない? あ、もう目の前じゃなくて後ろか」
「キサマ……!! いつの間に後ろニィ!?」
「今だけど? あ、ちなみに振り返るのは勝手だけど」
--ズルッ……
「もう斬ったから動くと……って遅かったか」
「ナアアアアァァァァ!?」
俺の声を追って振り向いた魔族の上半身が地面に落ちる。だから言ったのに、遅かったけど。
「バカナァアアアア、オレサマがニンゲン如きニイィィィ!!」
「うわまだ喋れるのか、こわっ」
身体が真っ二つになっても生きてるとか怖すぎる。
「殺してヤル!! ニンゲン!! キサマは絶対に殺してヤルゾォォオオオ!!」
魔族は憎悪を目に滾らせ、低い声で怒りの声を発する。
「上半身だけでどうやって?」
「ウルサイ!! キサマの顔は覚えたからナァ!! 次に会った時は必ず殺してヤルゥ!!」
俺に対して怨嗟の言葉を放った直後、奴の背中から黒い翼が生えた。
これってアレよね、次とか言ってたし飛んで逃げるつもりだよね。
「覚えてイロオォォォ!!」
予想通り下半身を置いて上半身だけ飛んで逃げようとした。
「いや、逃がさないけど?」
「クハハハハッ!! ニンゲンが空を飛べない事は知っているゾオオォ!!」
勝ち誇った様に言う魔族。お前自分が負けて逃げてるって事分かってないだろ。
「じゃあナァ、必ず殺してやるからナァ」
俺が追って来れないと決めつけて、魔族は飛んで行こうとする。いや、逃がさないって言ったじゃん。別に空を飛べなくても、空中に足場があれば追いつけるだろ?
「よいしょっと」
その場でジャンプする。
でもって空間魔法で箱を作って足場にしてもう一度ジャンプ。その先で箱を作ってジャンプ。
「よっ、ほっ」
何度も箱を作ってはジャンプして、を繰り返す内に、上半身だけで飛んでいる魔族に追いつく。
「それにしてもニンゲンにあんなヤツがいるとは予想外ダァ」
俺が追い付いた事に気付いていないのだろう。魔族の奴が独り言を喋っていた。
「ダガ次こそオレサマガァ……」
「だから次はないって」
「ハッ?」
慌てて俺の方を振り向いたその表情はとても間抜けだった。
「ギャアアアア!! 何故キサマがココにいルゥゥゥ!!」
「何故って言われても……」
とりあえずコイツともう話す必要性も感じないので、とっとと終わらせる事にしよう。
--シュイッ
「はい終わりっと、じゃあ達者でなー」
「ナ、ナニヲ……」
「八等分した」
「ア?」
「だから半分じゃダメだったから八等分に斬ったんだって、ピザを斬り分ける時の感じ?」
でもまだ生きてたら嫌だし、念には念を入れておくか。
「でもってこれはオマケ」
手を前に突き出し、炎を創り出す。その炎を空間魔法で覆い、更に魔力を空間に注ぎ込んでいく。
赤から橙へ、橙から黄色へ、黄色から白へ。十分に魔力を注ぎ込む。
「じゃあな、成仏しろとは言わないけど」
そして空間魔法を解除し、手を魔族へ向ける。
「灰すら残さずに消えろ」
「アアアァァァァアアアァ!!」
--キュンッ!!
俺が放った白の閃光が魔族に触れた瞬間、甲高い音を鳴った。
そしてその音を最後に、閃光が通った後には青空以外何もなくなっていた。どうやら眼前にあった雲も蒸発させてしまったらしい。そのまま俺の身体は重力に引かれて地面へと向かっていく。
「よっと」
流石にこの高さから落ちたら痛いので、地面が近付いてから自分の身体を風の魔力で覆い、減速させ、着地する。
「とりあえずアイツは倒して来た……って何その顔」
地面に降り立った俺を迎えたのは、先ほど俺が追い付いた際の魔族より間抜けな顔をした女騎士とミアだった。




