母さん集合
今日は休みなのであっぷっぷ。
仕事上夜勤もあるので、更新は毎日とは限りません(ストック出来たら予約投稿します)
「さて蒼汰。お前は今日から休みだな? つまり暇だな?」
「確かに休みだけどさ。暇とは限らないじゃない?」
「む、なら何か予定があるのか? まさか女か!?」
「ごめんなさい暇です」
朝起きたらいきなりレイラ母さんに絡まれた。せっかくの休みだし、初日くらいダラダラ過ごしたかったのに……
「よし、なら着替えたら道場に来い。大事な話がある」
「ええ……大事な話なら昨日親父から聞いたばっかりなんだけど……」
「どうせお前が本当の子じゃないとか、くだらない話だろう? こっちはもっと大事な話だ」
「くだらないって言っちゃった!?」
いやまあ確かに今更だし、どうでもいいことだったけどさ。親の方が言っちゃうってのは、それはそれでどうなんだろう?
「そうだろう? 少なくとも私達はお前を本当の子だと思って育ててきた。お前自身がそのことに不満があるのなら、それは私達の至らなさだ。もしお前が本当の親が良いと言うのなら……」
「いや、親父にも同じこと言われたけど、別に今更本当の親とか興味ないし」
くだらない。とは言ったものの、やっぱり母さんも気にはしてるんだな。血の繋がりってそんなに大事なものなんだろうか?
「それに不満なんてあるわけないじゃないか。俺は母さん達皆大好きだよ」
「そ、そうか。それならいいんだ。うん」
あ、ちょっと顔が赤くなってる。
レイラ母さんはこういう直球の言葉に弱いからなぁ。我が親ながら可愛いと思ってしまう。
「まあその話は良い。それより早く着替えて道場に来い。皆待ってるんだからな」
「え?」
皆? ってことは母さん達全員が集まってるのか。
ってことは本当に大事な用みたいだな。これはレイラ母さんをからかってないで、早く準備した方が良さそうだ。
「む、今何か失礼なことを考えなかったか?」
「考えてない考えてない」
顔に出ていたんだろうか。相変わらず感の鋭い人だ。
「とにかく、そういうことならすぐ準備するよ」
「ああ、待ってるぞ」
そう言い残してレイラ母さんは道場へ向かった。
さて、俺も早く準備しないとな。
道場に、ってことだから多分動きやすい恰好が良いんだろうと思い、いつもの練習着に着替える。
まあ練習着とは言ってもTシャツとジャージを着ただけなんだが。
着替えを終えて道場に向かう。いつも思うけど、うちって無駄に広いよな。それこそ何故か道場なんてあるくらいだし。
そんなことを考えながら歩いていると、向かい側から誰か歩いてくるのが見えた。どうやら朝香のようだ。
「おはよう、朝香」
立ち止まって朝の挨拶をする。挨拶って大事だよね。
「あ……おはよう……」
だが返ってきた返事は歯切れが悪い。どう考えても昨日の話のせいだよね。
「どうした? 今日は元気がないな」
いつもだったら笑顔で「兄さんおはよう」って言ってくれるところなのに。
「……大丈夫だから、気にしないで」
「……そっか」
なんとも空気が悪い。ふざけて空気を変えたいところだが、そんな雰囲気でもないしな。
「じゃあ、私行くから」
「ああ、呼び止めてすまなかった」
そう言って足早に立ち去っていく朝香。うーん、これは思ったより重症だな……
まあ昨日まで兄だと思っていた人が、実は赤の他人でした。なんて聞いたら思うところはあるか。思春期だし?
もしかしたら兄さんとは呼んで貰えないのかもしれないな。さっきもあえて言わないようにしてたみたいだし。
少し寂しさを感じながら歩き続けること数分、道場の前に辿り着いた。
「入りまーす」
軽く声をかけながら道場の扉を開く。
「来たか。待っていたぞ」
そう言って声をかけてきたのは、やっぱりレイラ母さんだった。
見ればレイラ母さんを筆頭に、本当に母さん達全員が勢揃いしている。
「まあそんなところに立っていないで、こっちに来い」
「分かった」
母さん達を正面にして、正座をする。しかしこうしてみると壮観である。
髪の色も、瞳の色もまるで違う。だけど全員が美人と呼んで良い外見をした母さん達。
俺が今16歳だから、母さん達の年齢を考えると推して図るべしではあるが、どう見ても全員20代前半くらいに見える。
いや、どう見ても俺より年下に見える母さんもいるわけなんだが……この辺ってどうなってるんだろう?
「あたっ!」
そんなことを考えていると、頭に衝撃を受けた。どうやら何かが飛んできたらしい。
「……今のは明らかに良からぬことを考えていた。だからお仕置き」
頭を擦りながら声のした方を見ると、シルヴィ母さんが俺に向かって弓を向けていた。
どうやら鏃を潰した矢で俺を打ったらしい。
「あと気を抜きすぎ、普段の蒼汰だったらちゃんと避けてたはず」
「ごめんなさい」
これが本物の矢だったら頭を撃ち抜かれて死んでましたと。
うんまあそうなんだけど、わざわざこの場面で撃たれると思わないじゃない?
「まあまあ、呼んだのはこちらなんですから、シルヴィも弓をしまってくださいね」
「分かった」
レティ母さんがシルヴィ母さんを嗜める。
「で、レイラ母さんから大事な話があるって呼ばれて来たんだけど」
「ああ、まあ座れ」
「いや座ってるけど」
「む……そうだな。座ってるな」
何言ってんだろうこの人は。いつものことだけど、レイラ母さんは真面目だけど時々残念になるな。
「それで?」
少しからかいたくなるが、このままじゃ話が進まなさそうなので俺から促す。
「ああ、話というのは他でもない。蒼汰、お前いくつになった?」
「16歳だけど?」
いやこの前誕生日祝ってくれたじゃん!! ロウソク16本立ててたじゃん!!
「うむ、そうだな。16歳と言えばもう立派な成人だ」
「いえ、未成年です」
本当に何言ってんだろうこの人。成人と言えば20歳からでしょう。
「この国の法の話はしていない。私の故郷では15歳で成人を迎え、一人前の男として扱われていたからな」
「そうなの?」
「まあそんな細かいことはどうでもいい。蒼汰は16歳になった。1年遅いくらいだが、私達もお前を一人前の男として扱うことにした」
「ええ……?」
だったら別に年齢の話しなくても良くない? いや15歳になったタイミングで言われるんだったら分かるけどさ……
「というか本当は15歳になった時点でこの話をしようと思っていたんだが、マサキの奴に中学を卒業するまで待てと言われていてな……」
「あ、そういうことね」
親父が言ったのか。まあ確かに義務教育が終わるという節目でキリが良かったのかもしれない。
「話を戻すぞ。今日から私達はお前を一人前の男として扱う。つまり、だ」
一泊置いて、レイラ母さんが言葉を続ける。
「普段の修行に加えて、お前には全員から卒業試験を受けて貰う」
「卒業試験?」
なんとなく空気が不穏なものに変わっていく。なにこれ嫌な予感しかしないんですけど……
「高校に入学するまでの間に、私達全員から卒業と認められろ。例えば私なら奥義の習得と、私に勝つことだ」
「マジで?」
「マジだ」
レイラ母さんに勝つだけでも無茶なのに、それと同じような条件で母さん全員?
無理無理、いくらなんでも厳しすぎる。
「大丈夫だ。試験は本気でやるが、殺しはしない」
「大丈夫の基準がおかしい」
それって死ななければOKのなんでもアリって意味にしか聞こえない。俺からしたら大丈夫でもなんでもない。
「今日から毎日、日替わりでやるからな。今日はもちろん私だ」
「超嫌なんですけど……」
「拒否権はない」
「ちくしょう!!」
これはもうやるしかないやつですね。本当に超嫌なんですけど。
「試験の内容は個別に聞くがいい。今日は私だが、明日からの順番を伝えておくぞ」
どうやら順番は決まっているようだ。1日目の今日はレイラ母さん。以降はこうなってるらしい。
2日目はアイサ母さん(剣術)
3日目はナナリー母さん(槍術)
4日目はシルヴィ母さん(弓術)
5日目はミザリー母さん(攻撃魔法)
6日目はメル母さん(短剣、罠)
7日目はセラ母さん(聖術)
8日目はエミリー母さん(戦術)
9日目はアイシャ母さん(錬金術)
10日目はレティ母さん(????)
なんで武闘派が全員前半に集まってるの!? 頭おかしいだろ!? 間に文系(?)挟んで身体休ませるとかしようよ!?
しかもレティ母さんの卒業試験って何? 逆に怖いんですけど……
「ああ、言っておくが自主練習はいくらでもすればいいが、いつも言ってるように魔法や聖術は他人に見られないようにするんだぞ?」
「分かってるよ。どの家も魔法は秘匿するものだから、でしょ?」
魔法を覚えたばかりの頃に友達と話してみたが、魔法なんて使えるわけがないと一蹴されてしまった。
どうやら魔法の秘匿というものはよほど徹底されているらしく、知っていても知らないフリをするのが一般的なんだと、後でミザリー母さんとセラ母さんに小一時間説教されたしな。
それ以来俺もそれを守って誰にも魔法や聖術のことは話していない。
「というわけで話は以上だ。早速午後から試験だからな。また後でここに来い」
「ちなみに逃げたら?」
「その時は10人まとめて相手をしてもらう」
「午後からよろしくお願いします!!」
あかん。これ逃げられんやつや。
小さい頃に刷り込まれたことって嘘でも信じちゃいますよね。
サンタクロースとか。