朝ご飯(肉)
肉イズご飯
「あ、もう朝か……」
外を見てみればもう明るい。今更ながらに異世界でも太陽は変わらないんだな。
そして今日から学院に通う事を思い出して、与えられた制服に袖を通す。
元の世界とは違って、どちらかというと機能性を重視しているように感じた。思ったより動きやすい。
「そういえば朝ご飯はどうするんだっけ……」
肝心な事を聞き忘れていた。学生寮だし、多分食堂とかあると思うんだけど……
部屋から出て階段を下りる。
見てみれば同じ制服に身を包んだ人がちらほらと見受けられた。そりゃそうだよな。
よく見れば皆同じ場所を目指しているように見える。きっと食堂に違いない。そうに違いない。
俺は迷わず人の流れについていくことにした。
程無くして、パンの焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
よしよし、予想は外れてなかったみたいだな。
食堂らしき場所に着くと、既に何人かの生徒が席についていた。
何人かで集まって談笑している姿もうかがえる。当然俺はぼっちだから隅の方に座る事を決めた。
「えーと……どうすればいいんだろう」
恐よく見るといくつかのカウンターのようなところに人が集まっていた。
多分あそこでご飯を貰えるんだろう。そう思って人だかりの中に足を進める。
注文を受けるカウンターには何人か列を作っていたが、一つだけ何故か誰も並んでいない場所があった。
何故だろう? と少し首を傾げながら空いている場所に向かってみた。
「おはよう。っと、見ない顔だな。新入生か?」
厳つい顔をしたおっさんが声をかけてくる。片手にお玉を持っているのが凄くシュールだった。
「あ、はい。今日からお世話になります」
「おう、俺はニコルだ。よろしくな」
ニコルさんはニカッと歯を見せて笑った。うん、逆に怖い。小さい子が見たら泣くレベルだぞこれ。
などと内心失礼な事を考えてしまう。
「初めてだとここの仕組みが分からんだろ」
「そうなんです。どうすればいいですか?」
分からないので素直に聞いておく。
「ほら、ここにメニューがあるだろ? 食堂の入り口の看板にもメニューは書いてあるんだが……」
「あー……すいません、まだあまり字が読めなくて……」
あまり、というか全く読めない。やっぱり言葉は通じても文字にすると全く分からん。
「そうか。何か嫌いな食べ物はあるか?」
「いえ、好き嫌いはないつもりです」
「分かった。なら適当に準備してやるからちょっと待ってろ」
そう言い残してニコルさんが厨房へと入っていく。
--待つこと数分、ニコルさんが戻ってきた。
「待たせたな。初日だからサービスしておいたぞ」
「これは……」
ニコルさんが持ってきたお盆の上を見て驚愕した。
「これ多くないですか……?」
「何言ってんだ。育ち盛りなんだからこれくらいは食ってもらわんとな」
「ええ……」
大皿に盛られたのは肉、肉、肉。
これでもかと言わんばかりに盛られた肉の園がそこにあった。
「残すなよ?」
「いや、残すつもりはないですけど……」
元々たくさん食べる方だとは思っているし、これくらいなら食べられると思う。
でも朝から肉ばっかりなのは胃がもたれそうだな……
とりあえず朝ご飯は確保出来たので、先ほど狙っていた隅の席に向かう。
と、思ったら既に誰かが座っていた。その向かい側の席は空いているようだが、知らない人と向かい合わせってのもな……
仕方がないので他の席を探そうとしてみるが、既に他の席も埋まっており、空いているのはその席くらいだった。
まあ様子を見る限りでは、俺と同じぼっち族のようだしそれほど気にする必要もないかもしれない。
そう思いつつ、お盆を持ちながら席へ向かう。後ろからだと帽子を被っていたので分からなかったが、座っていたのはどうやら女の子のようだ。
一応待ち合わせとかしてたら嫌なので、座る前に座っても大丈夫か聞いておく。
「ここ座っても大丈夫?」
「もぐっ!?」
どうやら声をかけるタイミングが悪かったらしい。悪い事をしてしまった。
「あ、ごめん。別に急がなくてもいいから、喉に詰まらせた方が怖いし」
コクコクと首を縦に振りながら、必死で口の中の物を飲み込もうとしているのがうかがえた。
見てみれば俺と同じく、食器に盛られていたのは肉ばかり。きっとニコルさんの仕業だろうと思った。
っていうか俺より多くないかこの量……?
「ゴクゴク……ぷはぁっ!! す、すいません変なところをお見せして、まさか声をかけられるとは思ってなかったので……」
「いや、むしろこっちこそごめん。それでここ座っても大丈夫かな? 待ち合わせとかあるんだったら他に行くけど」
「いえ、私はいつもここで一人で食べているので……」
「じゃあ大丈夫って事だな。お邪魔します」
「え? あ、えっと……」
どうやら連れはいないようだと安心し、席に着こうとした俺を見て、何故か女の子が戸惑っている。
「あれ? 座っちゃいけなかった?」
「そういうワケではないんですが……良いんですか?」
「良いって何が?」
いきなり良いんですか? と聞かれてもピンと来ない。まあ良いか悪いかで聞かれてるなら良いに決まってるだろう。
「というわけで今度こそお邪魔しますっと」
「あっ……」
女の子は何かを気にしているようだが、俺には全く分からない。
分からない物は気にしても仕方ないので、気にせずにご飯を食べる事にした。何故なら肉は冷めたら美味しくなくなってしまうからだ。
「いただきます」
どこを見ても肉だらけなのだが、まずは小さめの肉から食べていく事にする。どれが何の肉か分からないが、豚肉? っぽく見える肉にフォークを突き刺し、口へ運ぶ。
「……美味い」
やはり豚肉なのだろうか、口の中で脂の旨みが広がっていくが、思った以上にさっぱりしている。もちろん肉そのものも硬すぎず、それでいて柔らかすぎず、食感も楽しむ事が出来た。
ロースだともう少しパサパサしているだろうし、恐らくばら肉だとは思うが、脂の落とし具合が絶妙だと思った。
これは他の肉も期待出来そうだと思い、牛肉と思われる肉、鶏肉と思われる肉と順番に食べていく。
思った通りどの料理も絶品で、朝からきついと思っていた量も難なく食べきる事が出来そうだった。
正面を見てみると、俺に負けじとしてか、女の子もひたすら肉を食べているのが見えた。同じような量を食べてる俺が言えた義理じゃないが、よくあれだけ食べられるな……
女の子を見た感じ、全く太っているようにも見えないが、一体あの量はどこに入ってるんだろうか。あ、もしかして胸か。
などと失礼な事を考えていたら、女の子が顔を上げ、こちらを見た。
「あの……何か?」
「あ、いやよく食べるなぁと」
「~~~っ!!??」
あ、顔が真っ赤になった。いちいち反応が面白いというか、可愛い子だな。でも今の発言は俺が悪いな。うん、謝っとこう。
「ごめん、失言だった」
「い、いえ。確かにニコルさんの作る料理は量が凄いですから……」
もしかしてこんな隅の席に座ってるのは、この量を食べているところを見られたくないからだろうか? まあ確かに女の子がこの量を朝から食べているというのは恥ずかしいのかもしれないな。
「あ、そういえば名乗ってなかったな。俺はソータ。今日から学院に通う事になったんだ。よろしく」
「え?」
やっぱり唐突だったか。
「いや、別に名乗るような流れでもなかったけど、こっちに友達がいるわけでもないし、これも何かの縁かと思って」
「友達……ですか」
友達という言葉を聞いて、女の子は顔を伏せてしまう。なんだろう? 何かあるんだろうか。
「おいお前!!」
と、そんな事を考えていたら、急に男の声がした。




