やっぱり王様は奴だった
9割くらいは予想通りの展開だったと思われます。
「儂がこのレブル王国の国王。ゲイル=ジェラルド=レブルである。そしてこちらにおるのが第一王女のマルシアじゃ」
「マルシアでございます。皆様、どうぞお見知りおきを」
思わずゲイルとマルシアの方を凝視してしまった。傍から見ればさぞ間抜けな顔をしている事だろう。
その証拠に、ゲイルはチラリとこちらに視線を寄越し、僅かに口角を吊り上げているし、マルシアはこちらを見ながらクスクスと笑っている。
「おい、王女様が俺の方見て微笑んでるぜ」
「アリシアちゃんも可愛いけど、あのマルシアって子もまた違う可愛さがあるよな」
「合法ロリ万歳」
おい誰だ最後の奴。
昨日別れ際に意味深なセリフを吐いたのはこの事があったからか……やられた。
っていうか俺昨日ゲイル、いや王様か。王様の事おっさん呼ばわりしたけど、大丈夫なんだろうか……いいや、今も面白そうに俺の事見てるし、残念ながらアレを王様と呼ぶ義理はないな。
「さて、勇者達よ。こちらの都合で突然呼び出してしまうような事になり申し訳ない。じゃが現在、この世界に危機が迫っておる。儂はこの世界を守る為の手段として、お主等を召喚する事を決定した。もちろん中には戦う力のない者、争いが嫌いな者もおるじゃろう」
ゲイルの言葉は校長先生の話とは違い、人の上に立つ者の確かな威厳があった。
マルシアやアリシアを見て色めき立っていた雰囲気も一瞬で無くなり、皆がゲイルの言葉に耳を傾けている。
「出来れば力を貸して欲しいが、強制はするつもりはない。昨日アリシアからも話があったと思うが、今すぐ戦えということもせん。準備期間として、各々のスキルや希望に応じ、各養成機関、あるいは王立学院で一般の生徒と共に学び、この世界で生きる糧を得て欲しいと、切に望んでおる」
「元の世界に帰すという選択肢はないのでしょうか?」
と、一人の男子生徒が声を上げる。
声の主を確認してみたところ、やはり獅々見だった。
「申し訳ないが、今すぐに帰すという事は出来ぬ。いや、帰す手段がないという方が正しい。昔召喚された勇者は自ら世界を渡り、その妻達と共に帰っていったと言い伝えられておるが、あいにくと儂らにはどのような手段で世界を渡ったのか、皆目見当もつかんのじゃよ」
「なるほど、つまり帰りたければ自分でどうにかしろと」
「無責任なようじゃが、そういう事になる。儂らの都合で呼んでおいて帰さないとは都合の良い話だと思うじゃろうし、その事で儂を憎んでも構わぬ。もちろん戦いを好まぬ者には、この国で生きていく為の環境も与えよう」
まあ召喚された側としてはたまったもんじゃないよな。元の世界には家族だっているわけだし。
というか他人事みたいな事を考えてしまったが、俺も当事者なんだよな。
周りを見てみると、帰れないと聞いて肩を落とす人や、何かを考えている人、何故か喜んでいる人等、様々だった。
「また、国としても功績を挙げた物は当然ながらに褒章を授けるつもりじゃ。もちろん異世界人じゃからと特別扱いも差別もせぬ。あくまでこの国のルールで、とはなるがのう……例えば」
一泊置いて、ゲイルがチラリとこちらを見た……ような気がした。
「功績に応じ、金品から爵位、領地を授ける場合もあるじゃろう。確か先代の勇者の妻の一人は王族だったとも聞いておる。じゃからもしかしたらそういうこともあるかもしれぬな」
なにがそういうこともあるかもしれぬ、だ。
要するに俺に功績を挙げろ。前例もあるぞって言いたいだけじゃないか。
つか簡単に娘を差し出すような事言うなよ。ほら、男共がいきなりやる気を見せ始めたじゃないか。
「とは言え、当然儂も人の親じゃ。簡単には娘はやれんし、何より本人の意向を重視させて貰うつもりじゃから、そのつもりでな」
そのつもりでな。って完全に煽ってるじゃないか。
まあ国としては世界に平和をもたらして勇者に王族を嫁がせれば、確かに国としての発言権も増すとかそういう狙いもあるんだろうけどさ。
でもこんな、娘を景品のように扱うのは……ゲイルの事をちょっと見損なった。
「さて、話はこれで終わりじゃ。後は各々自分の進む道を選ぶが良い。騎士と共に武を学ぶか、魔術師と共に魔法を学ぶか。それとも一般の生徒と共に普通に生きるか。自身のスキルとも相談し、後悔のないように選択して欲しい……ところで」
話は終わりと言いつつ、まだ何かあるんだろうか。
「この中に武術のスキルも魔法のスキルもない者が1人だけおると聞いておる。その者はこの後マルシアに案内させる故、儂のところまで来て欲しい。以上じゃ」
周囲の視線が俺に突き刺さる。あんのクソジジイイイイ!! 絶対俺の事じゃねえか!!
どうやら事前に全員のスキルは把握済みらしい。恐らく昨日引率した騎士達が生徒達のステータスを確認して、ゲイルに報告したんだろう。
他の生徒達はアリシアから説明を受けているようで、完全に取り残されてしまった。
「それでは申し訳ありませんが、私が案内しますので、ついて来て頂いてもよろしいでしょうか」
「……はい」
マルシアが俺に声をかけてくる。流石によそよそしいとも思える態度だったが、まあ俺と面識がある事がバレても面倒になるかもしれないしな。
俺はマルシアに促されるまま、ゲイルの元へ向かうのだった。
……絶対に一発殴ってやると心に決めて。
 




