35話 大手通信会社社員、新しい流れに飲み込まれる
更新遅くなってすいません。
最近妙に売れ行きが良かった。ギルド関係でイベントでもあったのだろうか。
いつもは販売してない魔石だけど、高騰してて僕の店にあった備蓄用の魔石まで売れてしまった。なんだったんだろ?
ちなみに魔石はドルゴ商店では扱っていない。扱えないってのが正しい言い方かな。
魔石は生活に直結しているので、購入も販売もソロモンシティ管理局が取り仕切っている。
つまり購入、販売、転売の全てが禁止されている。
なので厳密に言うと、うちの店で魔石を売ってはいない。
緊急みたいだったので、個人的に融通したってだけだ。
てなわけで早朝、ドルゴ商店に仕入れに行った。
なんだけど珍しく機嫌が悪かった。まあ最近が良すぎただけなんだけどさ。
こんな日はささっと帰るに限る。
ささっと必要物品をまとめて、上納金とか諸々を渡し足早にドルゴ商店を後にした。
**
「ふ~、なんだったんだろうな」
新聞を読みながらブツブツ「ちくしょう……なんだってんだ」って言ってたな。
何か大きな事件でもあったのだろうか?
値上げとか無いといいけど……。
まあ、今日も一日頑張ろう!
**
いつも通り店を開けて、忙しいランチタイムを乗り切った。
そうそうピザバーガーってのを本格的に売り出すことにした。
タルムン商店の皆さんはピザが大好きだったので、試作でピザバーガーを作っていたんだけどこのたび商品化することにした。
トマトとチーズをベースにチキンやサラミっぽい肉を入れた。
チーズバーガーな気もするんだけど、物は言いようだ。
**
16時に来客が。
「あれ? マヤさんじゃないですか?」
「こんにちは!」
マヤさん単独で来店なんて記憶に無い。恐らく初めてだ。
「あ~マヤ~」
「うふふ、こんにちはアムちゃん」
なんだろう……まさかお買い物とは思えないし。
電話のトラブルだろうか? それにしては嬉しそうだ。
「今日はお1人なんですね?」
「そうなんです。会長も来たがってたんですけど忙しくてデンワの前から離れられないんですよ。
嬉しそうにず~っと話してるんですよ。なんか腰も良くなってきてるって旦那が言ってました」
うむ……そんな様子が目に浮かぶよ。作ってよかったなあ。
「それは良かった。だけど今日はどうされたんですか? お買い物じゃないですよね?」
「そうですね! ッハ!! って、お、お買い物は……また今度で!」
力強く『そうですね!』と言った後に『ヤバ!』って顔したドジっ子マヤさん。
「商店なのに、買い物なんて無いって言っちゃったら失礼じゃない! 私のバカバカ!」と聞こえてきそうなマヤさん。
まあ、うちの品揃えなら普通にタルムン商店直営の店で買えばいいしね。
「ははは、気にしないでいいですよ。それよりどうしたんですか?」
「ふふ、今日はビッグニュースなんですよ!
国王軍の総隊長の方がですね、デンさんとアムさんに会いたいって!」
???
何言っているんだろう。脈絡が無さ過ぎて意味が分からないぞ。
アムもどうでも良さそうにしている。
「え~~~っと、経緯が全くわからないんですけど……」
「わかんなーい」
「ッハ! ご、ごめんなさい! 順序立てて話さないといけないですよね!
モンスタースポーンで緊急事態が発生したことはご存知ですか?」
へえ。そうなんだ。
「知らないです」
「知らなーい」
「あ……ご存じないですか」
新聞読まないからな~。スマホでまとめニュースが見たいよ。激痛いニュースとかよく見てたな。
それはそうと、いきなり話が躓いちゃったな。
「えっとですね、モンスタースポーンで大量モンスターが溢れ出て来たんですよ!」
???
モンスタスポーンってのはそういうものじゃないのかな?
「それって普通じゃないんですか?」
「あ……、そうなんですけど、出ないと思ってた場所から溢れ出てきて大混乱だったんです!」
「へ~……」
アムは話しに興味が無くなったのか、陳列棚の掃除をし始めた。
詳しく話わからないけど、何かトラブルが発生したわけだ。と脳内補完してみる。
「あわや大惨事だったかもしれないんです! モンスタースポーンで滅ぼされた町もあるぐらいですし!」
あ~、そんな話聞いたことあるな。ドルゴさんからだっけかな?
多分、かなり大事なんだろうな。
なんていうか、近くの国からミサイルが飛んでくるとか、領海侵犯されてそのまま侵略されるかも! 的な話を聞いても、どこか他人事なのは日本人の悪い癖なんだろうな。
当事者意識を持たないとね! よし! 相槌をしっかり打とう!
「そりゃ~大変ですね!」
「そうなんです!」
マヤさんは両手を握りしめた。熱が入っているな。
「実は……、偶然うちの社員がモンスタースポーンの異変に気付いたんです!
でもピンチなのか確証は持てない状況だったんです。だけど会長の決断ですぐさま支援物資を送ったんです!
そうしたら、国王軍が大ピンチだったみたいなんですよ!」
お~、流石タルムン会長! 決断力が違うぜ!
「いち早く大量の物資を送った点と、ギルド関係にも情報共有していたことを国王軍の方たちが高く評価してくれたんです!
そのおかげで、今後は国王軍に定期的にを物資を送る契約が交わされたんですよ!」
いや~、やっぱ決断って大事なんだな~。
しかしまあ……事の顛末はわかった。僕が知らないだけでここ数日は色々あったんだね。
だけど――
「ええ~っと。それと僕たちに何の関係が??」
「え?」
「いや……、僕たちの関係あったのかな~って」
一言も僕たちの話、出てきてないよね? これじゃただの自慢話な気が(笑)
「あ、あああ!! 大事なことを抜かしてました!!
じ、実はですね、国王軍の総隊長さんと会談した時にこんなことを言われたんです」
マヤさんはキリっと目尻を上げた。モノマネのつもりなんだろう。
「この度はタルムン商店のお陰で大変助かった。だが……あまりにも動きが迅速過ぎて少々困惑している。
何か……国王軍の情報が漏れていたのではないかと心配になっている。って!」
「へ、へえ」
このモノマネ……似てるんだろうか。物静かな人っぽいね。
「それでですね、会長が『ウチはデンワを導入しているからなのね』って言ったんですよ」
「あ~、やっとわかりました」
先に言って欲しかったよ……。まあ話は面白かったからいいんだけどさ。
「電話についてお話すればいいんですね?」
「そういうことなんです! 『何か料理でも食べながらお話ししたい』と伝えるように言われてます」
「何食べるのー?」
ずっと興味がなさそうだったアムがやっと話に復帰した。
「え? そうですね~。国王軍総隊長直々のご指名ですからね。ソロモンシティの高級店じゃないでしょうか?」
「こ、高級店ですか??」
なんか……めんどくさそうだな。
「美味しい!?」
「そりゃあ美味しいですよ! 高級店ですし!」
「ヤッター!」
アムとマヤさんはテンション上がっている。
僕は逆に心配だ……。
「ど、ドレスコードとか無い店が……いいですね」
かしこまった服って苦手だし。というかこっちの世界に来たときに着ていたスーツしかない。
この世界でスーツを着る文化なんて無いんだけどさ。
「えー! ドレス着るの~?」
アムが喜んでいる。藪蛇だったか……。
「ち、違う違う! ドレス着るようなメンドクサイ店行きたくないな~って……」
「えー! ドレス着ようよー!」
「ど、ドレスなんて持ってないだろ?」
「買えばいいじゃ~ん」
「ふふ、アムちゃんドレス似合いそうですもんね」
ダメだ……ドレスを着る流れを止めれそうにない。僕は何を着ればいいんだろう……。
国王軍総隊長さんなんかとご飯食べたくなくなってきたよ。
**
後日、会食の日程が決まる。
3日後の夜、ソロモンシティ一の一等地にある『ティンパニーで夕食を』って店だ。
完全に映画のパクリじゃないか。
そしてドレスを買いに行くことになってしまった……。
なんでこんなことに……。
**
ドレスショップ『夜蝶の夢』なう……。
これは……キャバクラ路線のお店ではないでしょうか? アムさん。
嬉しそうに店員さんと話しながら試着するアム。
「お客様はスタイルが大変素晴らしいので、こちらなんてオススメです」
黒いドレスを勧めれら、アムが試着する。
「じゃ~~ん」
僕はドキドキした。アムの綺麗な金髪にドレスが凄い似合う。
控えめながら胸元を強調しつつ、大胆なスリットが綺麗な脚をより美しく魅せる。
「どう~? 可愛い??」
「う、うん」
「えへへ~。ん~でももっと派手なのが良いな~」
十分派手ですよ。
「それでしたらこちらなんて如何でしょうか?」
店員のお姉さんが取り出したのは紅色の一見普通のドレス。さっきのほうが妖艶な感じだ。
アム的にはイマイチみたいだけど色々着てみたいみたいだ。早速お着替えしている。
「じゃじゃーーん!」
お、さっきより落ち着いた雰囲気! さっきの黒いドレスは完全にキャバクラとかで着てそうなドレスだったけど、今回のは結婚式って感じだ。
こっちのほうが僕は好きだな。
「うん、いいね!」
「ホントー!? でもエロが足りなくない?」
「え、エロいいよ、別に」
アム的にはもっと攻めたほうが好きみたいだ。
まあ、初対面の時のビキニアーマーがトンデモなかったからね。
「お客様、こちらフィアフルファイアフライの鱗粉を生地に編み込んでおります」
「ん~、なんだっけ? そんなモンスターいた気がする~」
フィアフルは『怖い』だろうか? ファイアフライは『蛍』だったと思う。
おっそろしい蛍型モンスターなのかな?
「非常に希少なモンスターでして、気持ちが昂ると発光する性質がございます。
ですので、魔力をこめていただきますと……」
店員さんはドレス左腕の部分に魔力を籠めた。
「おおお」「すっごーい!」
ドレスから淡く赤い光が。
「こちら暗い場所ですと非常に目立つこと間違いなしでございます!」
「これにするー!」
「ありがとうございます!」
即決しちゃったよ……、その後6着も試着した。ファッションショーかよ……。
もう1着買いそうな状況だったので、切り上げてお会計した。
(た、高っけえ!!)
目が飛び出るほど高かったけど、断るわけにもいかず購入した。
ドレス恐ろしや……。
しかしまあ、アムには金銭面でかなりお世話になっているからね。
これぐらいお返ししても問題ないかな。
懐の豊かさと心の豊かさは比例する。
**
帰り道。
財布はすっからかんだけど、嬉しそうに袋を抱えるアムを見て心は満たされた。
……なんてカッコつけておこう。僕の服はスーツでいいや。捨てずにとっておいてよかった。
****
後日談。
といってもドレスを買ってから国王軍の方たちとの会食までの2日間の話。
アムは光るドレスを大変気に入ったみたいだ。
ドレスを買って帰るとすぐに着替えた。
「見てー! デンー!」
「お~きれいだな~」
明かりを全て消して店の1階で輝くアム。
クルクル回ると妖精のようだ。
最大限光らせると、炎の妖精のように見える。
赤く照らされたアムの顔がなかなか妖艶だった。
「デン踊ろ~♪」
「お、踊りなんて出来ないよ」
「い~のい~の!」
無理やり引っ張られて、踊らされる僕。
「ミュージックスタートォ♪」
アムが指を鳴らすと、聞きなれた音楽が流れる。
「これって……よく口ずさんでるよね?」
「そだよ~♪ お~どろ~♪」
クルクル回るアムに必死についていく。
踊りなんて出来ない。ちゃんと出来ているかもわからない。
ステップとも言えないたどたどしい動き。
それでも楽しかった。こんなに幸せな異世界生活が出来ていることを感謝した。
翌日も2夜続けて、店がダンスフロアになった。
ちょっとだけ……抵抗する素振りも見せてみた。
でも本当は乗り気だったんだ。踊るなんてガラじゃないだろうって自分自身に対しての照れ隠しだね。
(嗚呼、今日の事はずっと忘れないだろうな)
踊る妖精と、どこからか流している炎の妖精お気に入りの音楽。
大脳に焼き付くには十分なインパクトだった。
本当の後日談。
いつの間にか僕の鼻歌は、地球の曲からアムのお気に入り曲に変わっていた。




