34話 大手通信会社社員、国王軍の戸惑いを知らない
総隊長を見送った後、すぐに攻略組は防衛線に向かって引き返す。
総隊長を除く攻略組が防衛線に到達するまで4時間かかった。
モンスターが少ないとはいえ、30名近い大所帯なのでそれなりに時間はかかってしまう。
指揮するはウッドブレス逸る気持ちを抑えつつ、部隊を率いる。
軽薄な男ではあるものの、任務はしっかりこなす。能力の高さもさることながら仕事に対してのこだわりが彼を副隊長押し上げた所以だろう。
(ちょっとマ~ズいかもしれね~な~)
ウッドブレスは危機感を感じていた。
最悪を想定した場合、ソロモンシティまでモンスターが押し寄せている可能性もありえると考えていた。
ここ1週間のモンスタースポーンの落ち着き具合が、仮に力を蓄えていたのだとしたらありえない話では無かったからだ。
もしくは防衛線の壊滅。流石にアテンナが残っているので全滅はありえないが、アテンナとて回復と攻撃両方はできない。
負傷者の救護に手が回らなくなり、死屍累々なんてことも。
(寝れない夜になるかもな~、くっそ)
とにかくウッドブレスは急いだ。
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「あっれ~~??」
ウッドブレスは防衛線の様子を見て肩透かしを食らった。
「な~んだ、全然大丈夫そうじゃない! ねえ?」
「は、はあ」
ウッドブレスは隣にいた女戦士に同意を求めた。
女戦士はめんどくさそうに同意する。
ちなみに彼女も攻略組で、急所を的確に貫くことを得意とする戦士である。
ウッドブレスは状況把握をし、すぐさま人手が必要ではないと判断する。
「よ~っし! 各自の判断で待機にしようぜ~。戦力が必要になるかもしれね~から準備だけはしておこうな~。ははは」
締まりのない号令で攻略組は待機状態になった。
ウッドブレスは総隊長の元まで走った。
**
「たいちょー」
「む? ウッドブレスか」
「無事戻りましたよ~」
「すまんな」
総隊長は救護班の面々と打ち合わせをしていたようだ。
「なんか大したことなかったみたいですね、良かった良かった」
「何を馬鹿な。あれを見ろ」
総隊長ナフラテスカが指差した先には、奇妙な睡眠をとる女が。
「あはっはっはっはっは……っはっはっは」
笑いながら眠る女はアテンナだった。
「――マジか」
「アテンナがあの状態になるほど走り回った状況だ」
アテンナは魔石と『ノーブルカート』があれば全力で行動し続けれる。
ノーブルカートを噛むと興奮状態になる。だがずっと噛み続けるとハイな状態に突入する。
更に活動を続けると、強制的に眠りについてしまう。奇妙なことに笑いながら。
「ど~ゆ~ことなんすか? 自体が理解できないんすけど……」
「うむ、東の防衛線で魔物が大量発生したが、アテンナが封じ込めたらしい」
「そりゃ~、あいつならそれぐらいワケないっしょ。でも……」
「ふ。魔石が足りない。医療物資も足りない。人手も足りない」
「そうそうそうそう!」
ウッドブレスが想定していた事態は、もっと深刻な事態だった。
攻略組が寝れないぐらい粉骨砕身して働かねばならぬ事態もあり得ると思っていた。
だが、戻ってみれば火消しの後だったのだ。拍子抜けもいいところである。
ただ、治療は大方完了しているが、負傷者の多さは見ればかなりの緊急事態であったことは想像に難くない。
ウッドブレスの想定では、国王軍が保管していた物資も明らかに足りないはずだった。
そしてウッドブレスが出した結論は――
「あ! 運良く援軍が?」
「――ある意味そうだな」
ウッドブレスは冗談交じりで言った。だが総隊長は真面目に答えた。
「うっそ? 国王軍の増援?? 頼もうかって話してたけど、今? うっそ~?」
「ソロモンシティからだ」
「ああ、そっちか」
ウッドブレスは納得した。基地の入り口に大量の物資があったからだ。
「なるほどね~、しかしまあ随分大量に持ってきてもらったね。
あれ……誰が頼んだんだ? あれ……ちょっと変だな」
「ふ、どうしたウッドブレス」
総隊長は試すように笑っている。
ウッドブレスは時系列を組み立てようと脳をフル回転させた。
「いや……、おかしいっすね。防衛線で問題が発生したのって多分午前中っすよね?」
「10時ごろらしい」
「そっすよね。そんで俺達に連絡が来たのが12時過ぎたぐらいだったはず。
そんでもって今は……17時だ」
「そうだな」
「ソロモンシティからここまでって馬車で1時間ぐらいっすよね?
仮に……10時の時点で基地からソロモンシティに走ったとしても11時。
状況を説明して、荷物を準備してもらって、基地まで戻ってくるのに……、2時間? いや机上の空論過ぎっしょ」
「ふふ」
ウッドブレスは更に考えてみる。
「普通に考えて……10時に異常発生してもなんだかんだ出発するのは11時だろ。
んでもって12時にソロモンシティに到着。
そっから……直接商店にいく? 管理局に行く? 妥当なのは管理局だわな。
そんでもって物資の準備をしてもらって、馬車で1時間かけて基地まで戻ってくるってのが理想的な流れか」
ウッドブレスは総隊長の目を見る。
総隊長は薄く笑う。
「なんだ、ウッドブレス?」
「ありえねえ。今日中に物資が到着すれば御の字だっぜ。
商店のやつらを説得するのだって時間はかかるだろうし、積み荷の準備とかを考えたら……。
なんでこの時間にこんなに物資が届いてるんだ? この事態を知ってたとしか思えねえ!」
「なるほどな」
実際は――
10時半。
タルムン商店のフェルナンドが基地に来て異常に気付いた。
これが幸運の始まりだった。
フェルナンドは急いでソロモンシティに戻り、南支店のサザランにすぐに報告した。
サザランは一刻も早く電話せねばと思い、タルムン宛に電話した。タルムンと繋がったのがピッタリ12時だった。
そこからタルムンの判断で、物資を急いで届けると決断したのが12時30分。
タルムンからの指示内容は『とにかく必要っぽいものを詰め込んで出発するのね!』だ。
サザランは急いだ。自ら厩舎に向かい、ストックしてある物資をとにかく詰め込んだ。
そして5台の馬車が出発する。その時間が13時。 基地に到着した時間は14時だった。
そして14時半、アテンナが出発する。全力疾走でモンスター出現地点に向かったのだ。
ちなみに総隊長ナフラテスカは、前線基地を13時前に出発した。
そして到着したのが15時前。アテンナとは入れ替わるように基地に到着した。
残りの攻略組は13時過ぎに出発し17時過ぎに到着した。
それ故、想定外に被害が無かったので驚いたのだ。
**
「ちなみにウッドブレス」
「なんだよ?」
「この物資……『タルムン商店』が全て持ってきてくれたらしいぞ」
ウッドブレスは困惑の極致に至った。
「これだけの物資を、その『タルムン商店』だけが持って来たってのか?」
「そのようだ」
ウッドブレスは頭を抱える。
「ちょ、ちょっと待てよ! おかしいぜ! どうして……その『タルムン商店』だけなんだよ?」
「わからん」
「おいおい、『わからん』で済ましていいのかよ?」
「ふ、気にはなるな」
総隊長は微笑んだ。
「正式に礼をせねばならんだろう。『タルムン商店』の働きが無ければどう転んでいたかわからぬ」
総隊長は、タルムン商店に行くことになった。
タルムン商店の次は……。
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その頃。
「イッチゴ~♪」
「お、おい。食べ過ぎだよ」
デンとアムはショートケーキを食べていた。
アムがおねだりするので、ワンホール購入している。
「も~、デンったら、イチゴが食べたかったのか~プフー」
「い、いやそういうわけじゃ」
「はい、ああ~ん」
「え?」
デンに差し出されたクリーム付きのイチゴ。
戸惑うデン。
「早く~」
「う、うん」
デンは仕方なく、だが嬉しそうに口を開きイチゴを受け入れる。
口の中にクリームのまろやかな甘味とイチゴの酸味が広がる。
そしてイチゴを噛んだ――
『ギヤアアアア!!!』
「ゲホッゲッホ!!」
「プフウー!!」
デンの口の中から叫び声が。イチゴをと一緒に叫び声入りの『音玉』を放り込んだのだ。
あたかもイチゴが悲鳴をあげているようだ。
「な、なにするんだよ!」
「だって~、デンが鼻伸ばしてるから~」
「の、伸ばしてないよ!」
「ええ~~? ホント~? ぷふふー」
デン達は何も知らない。ただイチャイチャしていた。




