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33話 大手通信会社社員、アテンナの活躍を知らない②

ブックマークありがとうございます!

 アテンナは走った。とんでもない速さで。

 鎧を着ていないとはいえ尋常ではない速さだ。


 それもそのはず、人体の限界を超えて走っているからだ。


 筋線維が引きちぎれ、骨は衝撃でヒビが入る。だがそんなこと関係なかった。

 とにかく早く現場に辿り着かないといけないからだ。


「はっはっはっはっは!」



 途中、モンスターの群れを発見する。


 一般的に言えばかなり強いモンスターたち。


 全力で殴った。全力で蹴った。絶命に至らしめるには十分な攻撃力だった。

 何せ、自身の手足の骨が砕けるほど全力で攻撃したからだ。だがそんなこと関係なかった。


「はっはっはっはっは!」



 一般兵が歩いて1時間半ぐらいかかる道程を、アテンナは30分で到着した。

 東側の防衛基地近く、突如モンスターが現れた場所に到着する。


 何人か兵士たちが奮闘している。かなりの手練れ達が連携し迫りくるモンスターを撃破していく。

 だが、多勢に無勢だ。1対1なら負けないが、消耗戦になれば限界が来る。そんな戦いだった。


「はっはっはっはっは!」


「む!? アテンナ隊長!?」


「おお! 隊長が来てくれた!!」


 歓声が上がる。アテンナがそれだけ圧倒的だからである。



「待たせた!」


 そう言って、アテンナはモンスターの群れに突っ込む。

 ただのパンチ、ただのキック。だが全て全力だ。自身のダメージを無視した全力攻撃。

 面白いようにモンスターたちの部位が吹き飛んでいく。


 隊長に負けじと、防衛組の面々も善戦する。

 溢れかえっていたモンスターたちは1時間もすると大半を壊滅させていた。



(魔石は……まだ大丈夫だな! 素晴らしい!)


 大量の魔石だが8割は使い切っていた。

 小隊長の男がアテンナに進言する。


「隊長! あそこの穴からモンスターが大量に湧き出したんです」


「そうか! よし!!」


 アテンナは飛び上がった。勿論全力で。

 腱が切れ、筋肉が千切れ、骨が割れる。勿論そんなこと関係なかった。

 そして洞窟らしき穴の上部に踵落としをして、穴を塞いだ。


「ふう! これで一旦大丈夫かな!?」


 アテンナと防衛組のお陰で、防衛線は守られた。


「流石です隊長! 助かりました!」


「いやいや、皆が奮闘してくれたおかげだ! ありがとう!」


 惜しげもなくアテンナは礼をする。防衛線を救ったのはアテンナであり彼らでもあるからだ。


「隊長! 頭をあげてください!」


「俺達、隊長のお陰で元気いっぱいですよ!」


「俺なんて、ほら! 剣まで綺麗になっちゃってますよ!」


 兵士が見せた剣は、大量にモンスターを屠ったとは思えないほど綺麗だった。


「流石隊長だ!」



**


 アテンナは1つだけスキルを持っている。スキルレベルはたった2だ。

 だが国王軍で唯一アテンナだけが所有するスキル【復元リストレーション】を持っている。


 【復元リストレーション】スキルは非常にわかりやすい能力で、少し前の状態に戻す。

 最大1時間ぐらい前の状態に戻せる。無機物、有機物に関わらずだ。

 【変形トランスフォーム】に近いのかもしれない。


 肉体の損傷を損傷前に戻したり、摩耗した武器も戻すことが出来る。

 ただ、欠損してしまうと元には戻らない。

 折れた剣でも元に戻せるが、折れた部分が無くなってしまうと『復元』は出来ない。


 刃毀はこぼれを気にせず戦えるし、盾も全損でもしない限り永遠に使える。勿論魔力は必要だが。

 そこそこ便利な能力ではあるものの、そこまで戦闘向きの能力ではない。

 本来、治療や鍛冶などバックアップ向きの能力だ。



 だがアテンナは強い。単純な戦闘力や破壊力なら国王軍で1、2を争う。

 肉体の損傷を無視した攻撃を【復元リストレーション】スキルを使い無かったことにする。

 自身へのダメージを無視すれば無視するほど、彼女の攻撃力は高くなるのだ。


 だが仮に【復元リストレーション】スキル持ちの人間がもう1人いれば同じことが出来るかと言えば不可能だろう。

 なぜなら人間には痛覚があるからだ。いくら元に戻るとはいえ、骨が折れれば激痛が走る。

 躊躇無しに殴ったり蹴ったりすればそれに伴った痛みが発生する。


 ではなぜアテンナが自身のダメージを無視して攻撃できるのか?

 都合よく『痛覚が無い体質』ではない。彼女は正常な人間だ。少しだけ痛みに強い傾向はあるが。


 理由は簡単で薬で痛みを抑えているのだ。薬というよりは葉っぱである。

 『ノーブルカート』と呼ばれる医療用でも使うし、嗜好品でも使う葉っぱを利用している。

 『ノーブルカート』の葉っぱを噛むとゆっくりと痛覚が麻痺してくるのだ。

 副作用としては興奮状態になるぐらいである。


 軍で医療班として働いていたアテンナは、『ノーブルカート』の存在を知り今の戦い方を思いつく。

 半年間1人で訓練した結果、国王軍で彼女に勝てる人間は総隊長だけになった。


 ただ、『ノーブルカート』は高級品であり乱用出来ないので、基本的にアテンナは戦わない。

 総隊長の許可が出た場合か、緊急時以外は戦わない。

 普段は医療班隊長のアテンナである。



**



「ありがとう!! みんな最高だ!!」


 アテンナは嬉し泣きしている。ノーブルカートの副作用で感情が昂っているのだろう。


「後は私たちに任せてください!」


「そうですよ! 防衛線の死守は任せてください」


 アテンナに感化され、場に高揚感が蔓延している。


「すまない! 恩に着る!」



 アテンナは全速力で補給基地まで戻る。

 アテンナにはやることが満載だ。


「はっはっはっはっは! 最高だ!」



 ちなみにノーブルカートの服用に関しては、ごく一部のものしか知らない。

 アテンナはただ、狂ったようにテンションの高く、人間も武器もなんでも回復してしまう人間だと思われている。


 故に『回復狂いのアテンナ』である。   



「はっはっはっはっはっはっは!」


 戦場に『回復狂い』の笑い声が鳴り響いた。




****



 アテンナが防衛線の立て直しに大活躍する少し前、攻略組に一報が入る。


「防衛線が大打撃を受けています! 奇襲です!」


 30名で構成された攻略組の面々は急な報告に動揺した。2名を除いては。



「詳しく話してくれ」


「は、はい!」


 国王軍総隊長は、全力で走ってきたであろう伝令役の男に優しく微笑みかけた。


「防衛線、東第二基地付近から突如大量のモンスターが出現しました。

 一気に防衛キャンプが破壊され、死傷者多数です!」


「そうか……、ありがとう。おい! 彼を休ませてやってくれ!」


 総隊長の透き通るような声が響き渡る。

 医療担当と補給担当の2人が、伝令役の男を労った。



「ハァ~、またっすね」


 1人の男が総隊長に話しかける。

 攻略組には似合わない貧相な男である。鎧も着ていないし荷物もない。武器さえ持っていない。

 一般人にしか見えない男だ。だが、彼がこの攻略組のNO2である。


 『万里眼のウッドブレス』だ。


「ウッドブレス」


「な~んでこう裏目になるんすかね~、やんなっちゃうな~」


 モンスタースポーン攻略だが、全く上手くいっていなかった。


 ソロモンシティは王都から遠くない。故に戦力としては万全だ。

 だが、順調に進まない。想定外の事態が多発した。


「そう愚痴るな。お前のお陰で助かっている」


「んなこといったって、『万里眼』なんて呼ばれてるのに全然状況が見えてないっすもん。

 ちょっと落ち込んじゃうな~」


「ふむ……」


(確かに、やることなす事裏目だ。内通者でもいるんじゃないかと疑ってしまう。

 まあ、モンスターにどうやって内通するのかわからんがな)


 総隊長は今回のモンスタースポーンに関して思い巡らせたが、すぐに切り替える。


(まずは目の前の問題を解決せねば…………よし!)



「みんな!! 聞いてくれ!」


 攻略組の面々はすぐに膝をついた。ウッドブレスは少し遅れてだが。


「防衛線が突破されたとなると、今すぐ戻らねばならぬ!

 よって最前線基地はいったん破棄する! ネッティーはまずは基地の回収を頼む!」


「わかりました!」


 ネッティーはレベル5の収納スキル持ちだ。ネッティーとその補佐はすぐさま最前線基地の回収に向かった。


「回収次第、すぐに防衛線に戻るぞ! 部隊の指揮はウッドブレス、任せる」


「ういっす」


 こうなるとウッドブレスは予想していた。2人の付き合いは5年近い。

 何せ軍に入る前からの知り合いである。


「総隊長は?」


 強面の総隊長ダールトンが、現総隊長に聞く。

 見た目だけなら完全に彼が総隊長だ。


「私は単身で戻る、一刻も早く戻りたいからな」


「お1人でですか??」


「ああ。それともダールトン、一緒に来るか?」


「ははは、ご冗談を」


「よし! では暫しの間体を休め、出発に備えろ!」



**


 

 総隊長は小高い丘の上に立ち、鎧を脱ぎ収納スペースに入れた。収納スキルレベルはデンと同じ2だ。


「総・隊長殿~」


 ウッドブレスが嫌味っぽく『総隊長』と呼ぶ。


「なんだ、気持ち悪い。いつもみたいに呼べばいいだろう」


「へへへ~、まあそうなんすけどね。一応周囲の状況報告っす」


「うむ」


「周囲にほとんどモンスターいません。不自然なぐらいに」


「――そうか」


 昨日まで攻略組は猛進していた。

 何せほとんどモンスターがいなかったからだ。

 これまでの遅れを取り戻そうと、最前線基地をかなり押し上げたタイミングで防衛線からモンスターが湧き出たわけだ。


 最前線と防衛線が間延びしたタイミングに偶然・・モンスターが発生したのだ。


「やっぱなんかおかしいっすね」


「まあ、それはあとで考えよう。部隊を頼むぞウッドブレス」


「お任せあれ~」


「ふ。じゃあ行ってくる」


 総隊長は防衛線の方向かって飛び跳ねた。

 だが落下せずそのまま突き進む。まるで飛んでいるかのように。


「いってらっしゃい。『妖精剣のナフラテスカ』」


 ウッドブレスは飛び立った妖精をずっと見ていた。

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