31話 大手通信会社社員、タルムンの親子関係を知らない
投稿出来ず申し訳ないです。今日から50話ぐらいまでは毎日アップします!
オイヤーからの報告に、その場にいる全員が凍り付いた。
モンスタースポーンから連想される最悪のニュースは、大量発生したモンスターがソロモンシティに押し寄せてくることだ。
事実、モンスタースポーンが原因で廃墟になった町が複数ある。
「……流石に情報不足なのね。報告をくれた職員から話を聞きたいのね」
「だと思いまして、すぐにデンワに出れるよう待機させております」
「流石なのね。素晴らしいのね。行くのね」
タルムンは部屋を出て、小走りで階段に向かい、駆け降りる。
追いかけるようにオイヤー、マヤが追走し、タルナードもついていく。
マヤはタルムンの体を心配しアワアワしている。
タルムンは少し息を切らしながら、電話まで向かう。腰の痛みは気にしないようにした。
そして呼び鈴を鳴らすと、すぐに反応が。
『み、南支店フェルナンドです! ピ――』
フェルナンドと名乗る人物の声が電話から聞こえてきた。
タルムンは既知の人物では無かったが、国王軍基地から戻ってきた当人だとすぐに理解した。
そしてひどく緊張していることも。
タルムンは努めて柔らかく話しかけた。
「お疲れさまタルムンなのね。状況を教えてほしいのね」
『わ、わかりました! えっとですね。最近国王軍の基地に立ち寄るようにしているんですが。ピ――』
「素晴らしいのね」
タルムンは一度、『国王軍とはパイプを作ったほうが良い』とアドバイスをしたことがある。
タルムンはアドバイスをしっかり実行していることが確認できて嬉しかった。
『そ、それでですね、いつもみたいに立ち寄ると誰もいないんです。全員出払ってしまったみたいでした。ピ――』
「ふむふむ」
『基地は許可なく入ってはいけないので、入り口から何度も誰かいないか叫んだんです。ピ――』
「ふむ」
『そうすると、救護班らしき人物が来て、『警戒していない場所からモンスターが出て来た! 街に帰って伝えてくれ』と……ピ――』
「ふむ」
『えっと……以上です』
タルムンとタルナードは同じことを思った。「それだけなのか?」と。
タルムンは返答しなければと思い、とにかく喋りだした。
「そうなのね……。あ、ありがとうなのね! ちょっと待ってほしいのね」
明るく感謝しつつ、タルムンは考える。
(情報が少なすぎるのね……)
タルムンは得られた情報から、最良のケースと、最悪のケースを考える。
最良は、実は何も無かったケース。
緊急事態で、国王軍は出払っていたが、実は大した被害が無かったケース。
事実、フェルナンドからは負傷者や被害報告は無かった。
フェルナンドが基地に向かった時は、緊急で出動したため基地がもぬけの殻だったが、少数のモンスターが出て来ただけだったので、程なくして討伐が完了し今頃はいつも通りに戻っているかもしれない。
ありえなくはない。
最悪のケースは……。
実は国王軍が負けてしまった場合だ。全滅していたとすればソロモンシティにモンスターが流れ込んでくる可能性もありえる。
そうでなくても、劣勢の可能性は十分考えられる。
すぐさま人的応援が必要かもしれない。医療用品が不足している可能性も考えられる。
そうなれば緊急事態である。
なにせ国王軍が負けてしまえば、ソロモンシティはかなり危険な状態になるのだから。
タルムンは考えた結果――
「サザラン! そこにいるのね?」
『は、はい。ここにいます。ピ――』
タルムンは南支店の責任者サザランに話しかけた。
「基地に対して医療物資を中心に必要そうなものを届けるのね。全力で」
『は、はい。ですが……宜しいので? ピ――』
「かま……」「ちょ、ちょっと待つだね!!」
タルムンの決断をタルナードが待ったをかけた。
「なんなのね?」
「物資を送る決定は早過ぎるだね。何もない可能性のほうが高いだね!
それに……仮に何もなかった場合、タルムン商店は笑いものだね!」
タルムンが想定した最良と最悪を、タルナードも同じく気付いていた。
だがタルムンは少なくとも自身が想定したレベルの事はタルナードも想定できると知っていた。
タルムンは誰よりもタルナードの頭が良いことを知っているからだ。
だからこそタルナードが反対することも想定していた。
「確かに、何も起きていない可能性のほうが高いのね。
ただ、今動かないと手遅れになる可能性もあるのね。わかるね? タルナード」
「……いや、でもダメだ。緊急事態か判断するにはやはり情報が少なすぎるだね。
再度確認に向かわせて……、後は……そうだ! 街の管理局に報告すべきだね」
「タルナード。管理局には報告すればいいのね。
ただ一刻を争う可能性も否定できないのね。早急に支援物資を送るべきなのね」
タルナードは迷っていた。
迷ったらまずは止まりたいというタルナードの心理的な癖は、止まる理由を絞り出す。
特にタルナードは頭の回転が速い。思いついた理由の中から一番歯止めになるであろう理由チョイスした。
「こ、国王軍がモンスタースポナー討伐で失敗した例が無いだね。
こ、今回に限って失敗する可能性は低い……低すぎるだね」
事実、公に公開されている情報で国王軍がモンスターポーン討伐に動いて失敗したケースは無い。
町が滅びたケースは、そもそもの発見が遅すぎて対応できなかった場合だからだ。
それでもタルムンは引かない。
「責任は私がとるのね」
「か、確証があってからでも……」
「タルナード!!」
タルムンは声を荒げた。タルナードは目を見開き硬直する。
タルナードは41歳だが、41年間荒げた父の声を聞いたことが無い。怒られたことも無い。
**
タルナードは30歳までソロモンシティから遠い場所で働いていた。
タルムンが自身の近くで働けば『タルムンの息子』として見られるので、遠くの町で『ただのタルナード』として働くように勧めたのだ。
タルナードは少し寂しかったが、父の言う通りだと思い遠くの町で頑張ることにした。
30歳、仕事も順調であり、嫁を貰い子供も生まれた。
そんな頃タルムンが体調を崩したと連絡が入る。仕事は順調だったがソロモンシティに戻る決断をする。
タルナードは思っていた。タルムン商店を継ぐに値するぐらい成長したはずだと。
俺なら出来るはずだ! そう思っていた。
そんな思いはすぐに打ち砕かれた。
父の築いてきた実績はとんでもなく、ソロモンシティで1、2を争う商店になっていた。
タルナードが帰ってきて見た父は、衰えていたし昔のようなハツラツさは無かった。
だが、全ての判断が的確で、経営プランは幾重にも策が練りこまれており穴が無い。
タルナードの小さな自信はすぐに木っ端微塵となり、タルムンの経営手腕を見て、タルナードは父に勝てないと悟った。
だが、タルナードは社長職に就かねばならなかった。
結果タルナードは、ミスはしないように仕事に取り組むようになる。
父に失態を晒したくなかったから。
更に優秀な頭脳を持つタルナードは、危険予知能力がずば抜けて高かった。
石橋を叩いて渡るタイプ。負けは少ないが大勝ちもしないタイプ。
それ故ミスはしないが、勝負のできない男になっていった。
**
「失敗したっていいのね。取り戻せない失敗じゃなければどんどん失敗したらいいのね」
「で、でも」
「リスクを取らないと、大きなリターンは望めないのね。
タルナードは頭がいいのね。だから想定される失敗が頭に浮かんでしまうのね。
だからリスクをとることに臆病になってしまうのね」
確かにその通りだと、タルナードは思った。
リスクを考えれば考えるほど、動けなくなる自分がいる。
だからこそ、無難に、保証を求め、安全なこと以外やらなくなった。
その結果得られたのは、安定飛行だが伸び悩むタルムン商店だ。
「失敗を恐れることは悪くないのね。誰だって失敗はしたくないのね。
だけどそれはリスクをとってから考えればいいのね。
大丈夫なのね。タルナードならどんな失敗をしてもリカバリー出来るのね。
先読みする力は、父さんなんかよりずっと優れているのね。
だから――」
タルナードは目頭が熱くなった。5年前であれば泣き出していたかもしれない。
だが、彼は社長なのだ。泣いている場合ではない事はわかっている。
「もういいよ! 早く支援物資を送ろうだね!
父さんはそのデンワを使って全支社に連絡、俺は急いで本社に戻り状況を伝えるだね。
管理局に対しての報告もこっちでやるだね」
「タルナード……」
「一刻を争うなら、ギルド関係にも連絡したほうがいいだね。戦力が必要になるかもしれないだね」
「それでは、ギルド関係は私、オイヤーが話してまいります!」
「よろしく頼むのね」「よろしく頼むのね」
親子の息がぴったりと合った。
はにかむ父と照れる息子、そして束の間の優しい時間。
「それじゃあ、私はデンワするのね!」
「じゃあ、俺は本社に戻るだね」
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「これは……ひどい」
タルムン商店南支店から先発隊として馬車5台が基地に到達する。
馬車の先頭を走っていたフェルナンドは基地に駆け寄った。
そして基地入り口から国王軍の惨状を見て、そう呟いた。
基地は負傷者でごった返しており、いたる所からで呻き声を聞こえてくる。
フェルナンドが4時間程度前に訪れた時とは状況が一変していたからだ。
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