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29話 大手通信会社社員、タルムン商店の裏側を知らない①

 さてさて本格的に、タルムン商店に通信網を引くことになった。


 1本目に引いた厩舎とタルムンおじいさんとのライン。

 厩舎の責任者エリックさんは『電話』の実装を大変喜んでくれた。

 電話の存在はタルムン商店関係者の中で噂になり、「ぜひうちにも!」との声は上がったみたい。


 ということで、重要そうな場所から電話を開通させていくことに。


 まずはソロモンシティ西部のタルムン商店の支社に。

 理由はタルムンおじいさんがいる東支社から一番遠いため。

 一番難しいであろう場所を先にやっつけてしまおうという作戦だ。


 2拠点間がかなり遠いため(徒歩だと2時間弱かかる)、疎通テストがなかなか難航したが、アンチマジックウィドーの糸をふんだんに使えたので、ほぼ想定通りの期間で開通させることが出来た。


 続いて北支店、南支店に電話を設置した。

 大体2週間で1本開通するペース。


 タルムンおじいさんは大忙しになった。うちのお店に中々来れなくなっちゃったのは残念だけど、日に日にタルムンおじいさんは元気になっていく。

 仕事をすればするほど元気になるなんて、凄いおじいさんだよ。

 まあ、自分が作った会社だもんね。


 そうそう、そこから少し日が空いて本社と東西南北の支社を繋ぐ電話が開通された。

 本社はソロモンシティ中心街の超一等地にある。

 なんか入る時は緊張しちゃったよ。


 ソロモンシティの中心地は大きな建物が多く、『譜面スコア玉』を発射するのが難しかったが、煙突のように高いパイプを作ることで解決した。

 色々な人と相談すると、アイディアって出てくるもんだね。

 これこそブレインストーミングだなあ~って実感した。


 そして本社と支社を繋ぐ通信網が完備されて数か月後――

 タルムン商店で情報革命が起きた。起きるべくして起きた。

 情報が集積するようになったので、本社では新たに電話対策グループが設置されることになる。


 良いニュースも悪いニュースも他の追随を許さないスピードで全社展開することが可能になった。

 まあ、それは少し先の話。


 僕は順調に電話が広まっていったと思っていた。

 だけど、実はタルムン商店ではひと悶着あったみたい。


 ここからは僕が知らないタルムン商店のお話し。





**第3者視点**


「よ~し! 開通しましたね!」


「やった~」


「ありがとうございます! オイヤーカンゲキヤー!」


「みんなありがとうなのね」


 ソロモンシティ内に点在するタルムン商店関係の建物。

 タルムンがいるのが東支店であり、まず1番遠かった西支店と電話を繋げた。

 その後1番近い北支店。そして今回、南支店と通信網が完成した。


「これでソロモンシティ東西南北が繋がったのね」


「いやあ本当にカンゲキヤー!」


 その後、いつも通りピザで打ち上げが行われる。

 東支店は活気に溢れていた。


 だが、小さな事件と大きな事件が起こる。


**


 電話開通から2週間後、タルムン商店南支店から緊急で連絡があった。


『あ、会長。ご報告が……。ピ――』


 南支店の責任者サザランの声は暗かった。タルムンは嫌な予感がしたものの普段通りのトーンで喋り始めた。


「どうしたのね?」


『その……、大量に仕入れていた『ヒールスライムジェル』だったんですが売れ残ってしまいました……。ピ――』


「なるほどなのね、どれぐらいなのね?」


『……全て……です。ピ――』


 タルムンは一瞬血の気が引いた。だが首を振り冷静であろうと努める。

 上司の焦りはすぐに伝わることをタルムンは知っている。

 それが会長であるタルムンなら尚更である。


「よくわかったのね。今からギルドを中心に売り捌けばなんとかなると思うのね。ちなみに売れなかった理由はわかるのね?」


『ドルゴ商店です。ピ――』


 その一言でタルムンは事情を理解した。


「なるほどなのね、国王軍に先に売られてしまったのね?」


『そうですね……タッチの差だったみたいですが。ピ――』


 タルムンは首を振った。

 タッチの差、それは言い訳でしかない事をタルムンは知っている。

 判断が遅かっただけである。ビジネスにおける1番手と2番手は雲泥の差なのだ。


 ではあるものの、今、サザランにそれを伝えても仕方がないことである。

 タルムンは切り替えて、今すべき最善の事を伝えることにした。


「とりあえず、片っ端からギルドを訪ねて、売れないか交渉してほしいのね。

 ある程度の赤字は構わないのね。とにかくスピードが勝負なのね」


『わかりました! ピ――』


「明日の朝、どれぐらい捌けそうか連絡欲しいのね」


『わかりました。では行ってきます。ピ――』


 タルムンは一息ついた。

 ヒールスライムジェルは、ヒールスライムから手に入る一品だ。

 ヒールスライムは微弱ながら金色に発光しているスライムで、弱いが生息地が非常に綺麗な山の中である。

 疲れた体を癒し、微量ながら魔力も回復してくれる。


 ただ、ヒールスライムが死んだ時点から効果はどんどん弱まっていき、最後はただのスライムジェルになる。

 密閉保存すればある程度保管可能だが、2週間もすればほとんど効果が無い。


 タルムンはモンスタースポーン討伐に来ている王国軍が定期的にヒールスライムジェルを欲していることは掴んでいた。

 タルムンは2週間ごとに要望が上がってくる規則性に気付き、大量に手配するように指示を出したのだ。


(どうして……間に合わなかったのね?)


 ふとタルムンは疑問に思った。

 何故今日、連絡があったのか。

 国王軍から要望が上がったのは2日前。仕入れたのはバッチリ4日前のはず。


 なぜドルゴ商店に負けてしまったのか。理由がわからなかった。

 国王軍とドルゴ商店が癒着的な関係にある可能性も視野に入れなければならないと考える。


 とはいえまずは大量に余ったヒールスライムジェルの処理が優先である。

 タルムンは切り替えて、西支社、北支社、そしてオイヤーに事情を説明し売り捌く準備を始めた。



**


 2日後。

 朝一番に腰の療養のために治療院に向かう。

 治療が終わるとデンの店に立ち寄り、卵焼きバーガーを食べてから出勤する。

 タルムンの週に1度の楽しみである。最近忙しくなってきて行けなくなりそうなのが嬉しくもあり悩みでもある。


 デンとアムの笑顔に癒され、店を後にするタルムン。


(なんとかヒールスライムジェルは捌けそうで良かったのね)


 昨日のうちに売り捌ける目途が立ったので、悠々と出社する。

 腰は好調、お腹も膨れ、目下の課題はほぼ解決。

 非常に良い気分で出社するタルムン。


「おはようなのねー」


 タルムンは微妙な空気を感じ取る。

 電話を導入した頃か、メッセージボックスを取り扱い始めた頃だったかわからないが、タルムン商店東支店は非常に良い雰囲気が良くなってきた。

 東支店の大多数が楽しく仕事をし、その結果売り上げは好調。好調な売り上げはやる気に繋がる。

 そんな良いスパイラルが、東支店を盛り上げていた。


 いつもの明るい雰囲気が出迎えてくれると思っていたタルムンは首を傾げた。


「会長」


 マヤが話しかけてきた。彼女はそそっかしさはあるものの行動力がありタルムン商店に無くてはならない存在になってきている。

 結婚も控え、公私共に好調である。


「何かあったのね?」


「その……息子さん……いえ、社長がお見えです」


「タルナードが? 何しに来たのね?」


「それが……よくわからないんです。突然現れて『東支店はミスが多すぎる!』と。

 それで社内を回って色々嗅ぎまわ……、いえ、ご指摘して回っております」


「なるほどなのね」


 タルムンは頭が痛くなった。せっかくの良い雰囲気を息子であり現社長であるタルナードがぶち壊していることに。


「とにかく会いたいのね。どこにいるのね?」


「今は、2階ではないかと」


「行くのね」


「え!? でもお腰が……」


「放っておくと何をしでかすかわからないのね。悪いけどついてきて欲しいのね」


「わかりました!」


 タルムンはマヤを引き連れて、2階に向かった。


**


「――こんな杜撰な処理をしているようではダメだね」


 部屋の中から聞こえるタルナードの声。

 タルムンは久しぶりに聞く我が子の声に、多少の懐かしさを感じた。


 昔は仲が良い親子だった。

 今、仲が悪いわけではない。ただ、ここ数年体調が優れなかったタルムンは、意図的にタルナードと会わないようにしていた。


 社長として頑張っているタルナードに、自身の疲弊した姿を見せたくなかったからだ。

 父としての意地であろう。


「行くのね」


「は、はい!」


 実の息子になんと声をかけていいか頭で整理は出来ていないが、タルムンは重い扉を開けた。

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