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22話 大手通信会社社員、働き過ぎる

 朗報が。


 皆さんの努力のお陰でパイプの材質に適した材料が見つかった。

 それは『アンチマジックウィドーの糸』とのことだ。



「あれ……聞いたことありますね」


「『絶縁魔紙』の材料なのね」


「ああ~! なるほど」


 『絶縁魔紙』はメッセージボックスの時にお世話になったなあ。

 実物のアンチマジックウィドーの糸を見せてもらったけど、糸の束は絹糸のように綺麗だ。


 大工のダイナさんが【変形(トランスフォーム)】のスキルを使い、アンチマジックウィドーの糸をパイプ状にした。


「こんなもんをパイプ状にするなんて専門外なんだ……けーどねっと!」


 糸が綺麗にカーブしたパイプ状になっていく。【変形】スキルすげえなあ。


 実際にアンチマジックウィドーの糸を使ったパイプを使って通信をしてみると、音声欠損が減った。

 更に音も良くなった気がする。嬉しい誤算だった。


 まあ、なんでアンチマジックウィドーの糸がパイプに適しているのかはよくわからない。

 魔法を弾く特性が、魔法の状態維持に役立っているのだろうか?


 ただ、1つだけ残念な点があった。


「アンチマジックウィドーの糸はそんなに在庫無いのね」


「『絶縁魔紙』ぐらいにしか使い道ないですからね……」


「ふ~~む、今後は出来るだけ仕入れるようにしないといけませんね」


 ソロモンシティの近くではアンチマジックウィドーは生息してないらしい。

 交易頼みなので、大量に入手するのは難しいみたいだ。


 残念だけど、前進したことには変わりない。良しとしよう。


**


 技術的には電話を開通させる目途はたった。とにかくまずは1つ開通させてみよう!


 設計図はこんな感じだ。


 ■タルムン商店東支店待合室→→→パイプ→→→タルムン商店東支店屋上→→→空中→→→厩舎事務所屋上→→→パイプ→→→厩舎内一角■


 つまり……、

 ①タルムンおじいさんが待合室から送信器に話し『譜面玉』を発射

 ②『譜面玉』がパイプを伝わりタルムン商店東支店の屋上まで進む

 ③屋上から厩舎方向に『譜面玉』が発射される

 ④『譜面玉』が二点間の上空を通過する

 ⑤『譜面玉』が厩舎事務所屋上に設置されたパイプに侵入する

 ⑥『譜面玉』がパイプを伝わり厩舎の一角まで到達

 ⑦『演奏』魔法陣まで到達した『譜面玉』が声に変換する


 こんな感じだ。

 さて……1つの区切りとなる実験開始だ!


**


 まず改善が必要だったのは、受け手側のパイプだ。

 ⑤番だね。上空を通過した『譜面玉』がパイプに入る場所。

 タルムン商店屋上から発射された『譜面玉』は真っ直ぐ進むんだけど、上下左右に少しばらける。

 といっても半径20cm以内ぐらいだから想定範囲内だ。


 恐らく風か、湿度が抵抗になっているんだろう。


 改良した結果、屋上パイプの先端は末広がりな感じにした。ラッパとかホルンみたいに。

 更に材料をアンチマジックウィドーの糸にすることで衝突のダメージを出来るだけ少なくなるように配慮。


 それでも音の欠損はかなりある。

 もったいないけど、アンチマジックウィドーの糸をふんだんに使い、全てのカーブを音声欠損対策済みにした。糸は殆ど在庫切れに近い状況になってしまったけど。


 ただ、事前に様々な実験を繰り返したおかげで、想定外のインシデントは無い。

 意図しない動きをした場所があれば、確認して、改善して、検証する。

 わかりやすいPDCAサイクルで仕事を出来るので、スムーズに問題を片付けれた。

 いいね! こういう仕事ってやってて気持ちいい!


 双方向から一応音声通話が出来る状態までは3日で出来上がった。いいペース!


 まだ完成じゃない。そこから疎通実験を繰り返し、丁度いいピー音の長さを割り出す。

 後は最長どれぐらい喋れるのかも再度実験しなければ……


 あ、天候も大事だよね。雨や強風の影響はあるのだろうか。

 無線LANだと天候が影響したりするんだよな~。


 昔、海外と日本の通信網を構築するときに、無線LANだとスコールの時通信できないってクレームが上がったなあ。


 そうそう! 思い出した!

 仕方なく銅線で通信網を引き直したんだけど、銅線盗まれちゃってまたクレームになったんだよね。

 途上国だと、銅線ってお金になるから盗まれたりするんだって。

 いやはや懐かしいなあ。


 後は…、ああ輻輳も気になるな。

 『譜面玉』がバッティングした場合はどうなるんだろう……。

 双方向から『譜面玉』を発射した場合は恐らく『譜面玉』が壊れると思うんだけど。



 う~~む、検証材料は尽きないなあ! 頑張らないと!!

 製品リリースまでもうひと踏ん張り! よーし!


 苦いコーヒーが美味いなあ。





**その頃……タルムンメンバーズ視点**



「今日もデンちゃん来てるのね」


「……すごいですね」


「オイヤー、あんなに働き者初めてヤー、驚きヤー……」


 デンはタルムン商店に入り浸りになった。


 デンは1週間のうち1日はお休みなので、その日はタルムン商店で朝から晩までずっと実験をしている。

 休み以外の日もほぼ毎日通い、夜な夜な実験を繰り返していた。


 初めのうちは、タルムン商店の人達もタルムン会長のために頑張ってくれているデンに感謝していた。

 夜な夜な頑張ってくれているので、すぐに『デンワ』とやらは完成すると思っていた。


 だが……デンはこだわった。音質や音量、特殊条件下でも通話ができるか等。

 デンが作りたいと思っていたのはまさしく『電話』であり、リアルタイム通話を実現しようとしていた。

 だがタルムン商店の面々のイメージしていた『デンワ』はトランシーバーレベルだった。


 そのゴールイメージのズレがタルムン商店の人達を困惑させた。

 デンのこだわりが、途中から理解できなくなっていった。



「……いつ完成するのかね?」


「もうすぐ……じゃないでしょうか? オイヤー、この前『ソツウ』確認とやらを手伝った時はもう十分使えてましたよ」


「私も、え~っと『ジュワキ』ってやつの改良を手伝ってた時、普通に使えてましたよ。

 なんか……『ヒュッコの木のほうが音質がいいですね!』とか言ってましたけど、音質ってなんのことやら……」


「「う~~む……」」


 タルムン商店の面々は知らない。


 デンの務めていた大手通信会社は非常に素晴らしい会社だ。

 サービス残業なんて無いし、水曜日と金曜日はNO残業デー。

 仮に残業する場合は上司に言わないといけない。


 ただ……、SEにはどうしても残業しないといけない時があったりする。

 トラブル発生、納期間際、急な欠員……。


 デンも何度か月に100時間近く残業したことがある。まあ極たまにだが。


 そんなデンにとって自分の店とタルムン商店でのダブルワークなど屁でも無かった。

 むしろ電話作成に関しては、やりたくてやっているので趣味に近い。

 非常に楽しんでいた。



 そんなこんなで電話作成を始めてから3週間近く経過した。

 完成は目前に迫っていた。

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