21話 大手通信会社社員、原因追及で魔法を化学する
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大工のダイナさんにゴム製パイプを作ってもらい、電話実験再開して2時間後。
「おお! 通過した!!」
『譜面玉』が緩やかなカーブを突破する。
時間は17時を過ぎた。仕事が終わった職員たちも合流し、20人以上の大所帯になっている。
大半は野次馬なんだけど、力作業が必要な時は積極的に手伝ってくれる。
なんていうかな、一致団結感が頼もしいよ。
「ふい~~、これでデンワできるかな~? デン?」
「はは、やってみないとわからないけどかなり大きな一歩だと思うよ!」
「わ~い。でもお腹空いた~」
確かにお腹が空いた。昼ご飯も適当に済ませ実験してたからなあ。
「ピザでも頼むのね。マヤ、みんなの分のピザを頼んでほしいのね。私にツケておいていいから」
「みんなって、ここのみんなですか!?」
「そうなのね。今日は私のオゴリなのね」
歓声が上がる。高校生の時、文化祭の準備したときを思い出すなあ。
同じ目的に向かって居残って準備をする。妙にテンションが上がった記憶がある。
あの時は先生がみんなに肉まん奢ってくれたっけ。
なんか懐かしい。
とは言ってもまだ電話は完成していないからね。
今日中にある程度形にしたい。
ピザを食べつつ、僕とタルムンおじいさんとオイヤーさんを中心に電話試作機の製作に取り掛かる。
『譜面玉』がカーブを通過できたので、まずは入り口から2階まで通話できるか疎通確認をすることにした。
実験用に1階から階段まで直線のパイプを引き、1度カーブをさせて2階廊下までパイプを作る。
さあ……どうなることやら。
**
1時間後。
何人かは帰ったが、1階に設置された受信用バケツの前にはまだ15人以上の人がいた。
そして――
『あー、こちら2階オイヤーです。ど――』
受信用バケツからオイヤーさんの声が聞こえてくる。そして周りから歓声が上がる。
「おおー! 聞こえたぞ!」
「すげー!」
様々な歓喜の声。
2階にいたオイヤーさんもその反応で成功したと確信したんだろう。
嬉しそうな顔で駆け降りて来た。
タルムンおじいさんやマヤさんも嬉しそうだ。
ただ1人喜んでいないのが僕だったんだけどさ。
「ねえ~? どうしたの~。デン」
「ん? ああ、ちょっとね」
唯一アムだけが喜んでない僕に気付いたみたいだ。
通信は出来たんだけど、気になるのは音飛びだ。
音飛びの原因が、カーブなのか距離なのか、それとも別の原因なのか。
まあ、とりあえず区切りも良いのでこの日はこれで終了となった。
****
翌日。
店を早めに閉めて再度実験のためタルムン商店に向かう。
やはり……悪い予感は的中してしまった。
パイプを流用して1階から3階までの疎通確認を行い、更に4階(屋上)までも実験してみた。
そして通話区間の距離を延ばせば延ばすほど、音飛びはひどくなった。
(やっぱ、簡単に上手くいかないよな……)
妙に美味いと感じるコーヒーを頂きながら物思いに耽る。
音飛びの原因追及と解決をせずに電話を開通すれば、粗悪な通信網になってしまう。
この回線1本だけならその場凌ぎで何とかなるかもしれないけど、敷設数を増やしていくなら早めに対策を打ったほうがいい。
結構時間も必要そうだなあ。でもまあ、乗り掛かった舟だ。そもそも企画したのも僕だし。
日中はお店オープンさせて、仕事終わりに疎通確認作業か……。
ふふふ、なんか夜まで働くなんて昔を思い出すね。
繁忙期のSEに戻ったみたいで、ちょっと楽しくなってきたな。
**電話疎通確認プロジェクト始動**
とりあえず、音飛びの原因追及を始めた。
恐らくカーブが原因なんだろうけど、断言は出来ない。原因を断定するために実験することに。
直線であれば問題無く疎通確認が取れているルートにカーブを追加してみる。
結果、少しだけ音が飛ぶ。
カーブを2つにしてみる。
更に音飛びが酷くなった。やはりカーブが原因とみて間違いない。
アムにカーブを通過した『譜面玉』を確認してもらう。
アム曰く、『譜面玉』の一部が魔力欠損しているとのことだ。
なるほどなるほど。
**
『譜面玉』に負荷実験をすることにした。
発信者側に同じセリフを言ってもらう。15回お願いした。
15回中、カーブを1回通過するケースを5回、カーブ2回を5回、カーブ3回を5回だ。
言ってもらったのは『こちらオイヤーです、マイクのテスト中、どうぞ』。
カーブ1回通過だと『こちらオイヤーです、マイクのテスト中、――』。
カーブ2回だと『こちらオイヤーです、マイクのテスト――』。
カーブ3回だと『こちらオイヤーです、マイクのテ――』。
なるほどなるほど、手前の音声は欠損せず、後に入れた音声が欠損していることが分かった。
推測になるけど『譜面玉』に入れた音声は、中心から順に記録されるんではないだろうか。
そして最後に入った音声は、『譜面玉』の外側にあるのでカーブを通過した際に損傷しやすいのでは?
後に入れた音声のほうが脆弱性が高まると想定されるわけか……。
なるほどなるほど。
**
音声の欠損対策を練る必要がある。
ただ、その前に1点確認しておくことにする。
それは『譜面玉』の最大許容量だ。1回にどれぐらいの音声を録音できるかを知りたい。
アムに確認したところ、「結構入るよ~」とのことだ。
さて、再度オイヤーさんに協力してもらう。
言ってもらったのは『こちらオイヤーです。こちらオイヤーです。こちらオイヤーです。こちらオイヤーです。こちら――』
1分間続けて言ってもらうことにした。念のため3回お願いした。
結果としては、30秒ぐらいで一度音声が欠損した。
30秒まで録音が出来るということで間違いなさそうだ。3回とも同じだったし。
恐らく30秒以上喋ってしまうと、録音→発射→インターバル→録音って感じなんだろうね。
まあ、30秒以上話さないようにしてもらえばいいか。
なるほどなるほど。
**
さて、音声の欠損対策に取り掛かる。
タルムン商店のみんなは、パイプの材質に苦心してくれているみたいだ。
連日大工のダイナさんが呼び出されている。
これだけパイプを作った大工さんは中々いないのでは無いだろうか。
「早く……完成させろよ!」って怒られちゃった。ちょっと申し訳ないな。
何か良い材料が見つかるといいな。
そっちは任せることにしよう。僕は音声欠損対策として1つ作戦を立ててみた。
音声欠損を無くせれば理想的なんだけど、いっそ欠損してしまう前提で通信すればいいのではないか? と考えている。
つまりあらかじめ『譜面玉』に『吹き込んだ声 + ピー音』を記録させてしまおうということだ。
そうすればピー音が欠損してしまっても問題ないはず!
それにピー音が入るほうが、会話のキャッチボールがしやすいだろうし。
アムに相談したところ、「できるよ~」との回答。
早速実験してみると、思った通り上手くいく。
『マイクのテスト中です。ピー』
いい感じのテスト音声が聞こえてきた。
カーブ1回通過の場合と、2回の場合、3回の場合で最適なピー音の秒数を割り出す。
何度も実験をし、メモし、最適秒数が明らかになっていく。
理科の実験みたいで楽しいな。昔から理科好きだったんだよなあ。
カーブ3回まで調べると、今度は4回目、5回目が知りたくなる。
無理言って4回カーブと、5回カーブありのパイプを作ってもらう。
4回5回のカーブでも実験をすると、規則性が見えてくる。
カーブの回数が多いほど音声欠損は多くなるんだけど、何故か欠損秒数は少なくなることがわかった。
1回カーブで大体1秒欠損するんだけど、5回カーブの時は5秒ではなく4秒ぐらい。
これは朗報だった。『譜面玉』にかなり負荷をかけたとしても、もしかしたら音声欠損は莫大にならないかもしれない。
いやあ~面白いな。魔法を化学してるって感じだ。
なるほどなるほど!
でも……おかしいな。みんなの僕を見る目が変わっている。
若干引かれている気がするな。なんでだろう?
なんでだろう?




