20話 大手通信会社社員、社外活動を開始する
タルムンおじいさん達と会議をして2日後、僕たちはタルムン商店に向かった。
「……な、なんじゃ」
「こりゃ~」
前回、伺った時とは明らかにタルムン商店が変わっている。 僕とアムは口をあんぐり開けた。
「いらっしゃいなのね~」
タルムンおじいさんが出迎えてくれた。
「おはようございます」
「タムちゃんおはよ~」
「おはようなのね」
「こ、これはどうゆうことですか??」
「いろいろ実験の準備をしてみたのね」
「いやいや…………これはやりすぎでしょう」
タルムン商店1階は事務所になっている。
落ち着いた雰囲気の事務所だったんだけど――
「この配管……どこから持ってきたんですか??」
「ウチの専属大工に作ってもらったのね」
今は木製と思われる配管が色々張り巡らされている。
たった2日でだよ。凄すぎるよ。
「これを使ってお話ができるか確認するのね。
ちなみに、遮蔽物が無ければ500メートル先でも真っ直ぐ届いたのね」
「ご、500メートル?? どうやって確認したんですか??」
こんな街中で500メートルもの直線無いはずだ。
街から出て荒野ででも糸電話を使ったのだろうか??
「それはね~、彼に協力してもらったのね」
タルムンおじいさんの指差した先には、何か打ち合わせをしている輪の中の中心にいる男性。
栗色っぽい髪でスラっとした男性。
「オイヤー、ちょっと来てほしいのね」
「はいー!」
スタスタ歩いてくるオイヤーと呼ばれる人物。
あれだね。仕事ができる人物特有の自信に満ち溢れた顔をしている。
「こちら、デンちゃんとアムちゃんなのね」
「おお! 噂のご両名でございますね! オイヤーと申します。
メッセージボックスの際はありがとうございました。オイヤー、感謝感激ヤー」
「……へ」
「ぷぷ、なにそれ」
変なオヤジギャクに少し硬直してしまった。
まあ、タルムン商店の人達にとってはいつもの事みたい。
「オイヤーは優秀なんだけどね、ちょっと変わりものなのね」
「おいやおいや、滑ってしましましたね! オイヤー失敗ヤー」
すごい強引なギャグだな。アムは楽しそうだけど。
「そんなことより、500メートル届いたことに関して説明してほしいのね」
「その件ですか。この建物の3階からですね、500メートルほど先にある厩舎に向けて『デンワ』とやらを使ってみました。
発射側と受信側を切り離して使わせていただいております」
糸電話の糸は外したんだね。まあ、糸はおまけだったし。
僕の日曜大工だから再度付けようと思えばいつでもつけれるしね。
「なるほど」
「何度か実験した結果……、正確には30回を3セットやりました。
『デンワ』の発射側を固定し、目標に向けて声を吹き込みました。
その結果、多少の誤差はあるものの同じ地点に発射された魔力は命中しておりました。
勿論、声を聞き取ることも可能でした」
「おおー、本格的な実験ですね!」
これだけちゃんと実験してもらえているとありがたい。
『多少の誤差』が少し気にはなるけど、長距離通話がかなり現実的になった。
「ここから厩舎までは大体500メートル。オイヤー、540ヤードは問題ないことを確認ヤー」
「スゴイヤー」
アムちゃん……ノリがヨイヤー。まあ気を取り直して――
「え~っと……、ちなみにタルムンおじいさんはどことどこで通話したいんですか?」
「そうねえ、とりあえずは北支店と南支店、あとは東支店管轄の厩舎とお話しできると嬉しいのね」
「ははは、デン様。会長と連絡を取りたい場所はいくらでもございますよ。
どうしても現場では判断しきれないことが多いですし。判断が遅れてチャンスを逃すことも多いもので」
オイヤーさん……良いこと言う。だけどダジャレが抜けているよ。
「こ、こりゃ~、電話を完成させるしかないやー」
「はっはっは」
オイヤーさんは笑ってくれたものの中々冷えた空気の中、電話作成が始まった。
おやじギャグには、鋼のハートが必要だ。
****
糸電話を改良したものを持参した。もう糸が付いてないんだけどね。
送信用のバケツを2つと、受信用のバケツ2つ作った。
元々は直径10センチの魔法陣だったが、シールドを付与するため20センチサイズ魔法陣になっている。
受信用の魔法陣に変更は無かったけど、一応サイズを合わせるために作った。
「さて、まずは新たに作った分で実験しましょうか」
「やってみるのね」
まずは真っ直ぐなパイプでやってみることにする。
1階を端から端まで繋ぐパイプで送信と受信を試してみる。
シールド無しだと、本当に真っ直ぐじゃないと到達しないが、シールド有りだとパイプがあれば少しぐらいのズレはパイプが補正してくれる。
「う~~む、これなら……直線なら問題なく電話作れちゃいそうですね!」
「凄いのね~、本当にできそうなのね!」
マジで電話が作れるかもしれない。そう思うとテンションが上がる。
なんたって理論的に言えば、2つの拠点間に直線のパイプを繋げば電話を作れちゃうんだから。
だが、直線のパイプを繋ぐなんてそうそうできるものではない。
ソロモンシティは坂が少ないけど、それでも建物は多いし。
「問題はカーブですね」
「そうなのね」
シールドを張った魔力でも、一定の衝撃が加われば破裂する。
かといってシールドを強くするには魔法陣を更に大きくする必要があるし、魔力も多く必要になる。
シールドを最低限に抑えつつ、曲がったパイプを通過できるかが焦点となった。
**
2時間後。
「う~む、なかなか上手くいかないですね」
「そうなのねえ」
『音玉』のカーブ通過実験は上手くいかなかった。ちなみに厳密には『音玉』では無いらしい。
『音玉』は音そのものを封じ込めているので、壊れると音が鳴る。
それに比べて、送信用のバケツから発射された玉は、壊れても音が鳴らない。
『譜面』の魔方陣を通過した声を再生するには『演奏』の魔方陣を通過しないといけない。
てことで『譜面玉』ってとこかな。
「やっぱり衝突に弱いんですね」
『譜面玉』はかなりの速さで射出されるからな~。
まあゆっくりよりは良いか。ゆっくりだとリアルタイム通信にならない。
一般的なL字のパイプでは通過時の負荷に耐えられないみたいだ。
「カーブを物凄~く緩やかにするしかない……のかもしれないのね」
「素材も柔らかい素材のほうが良いかもしれないですね」
ふ~む。新たにパイプを用意してもらって後日実験ってとこかな。
そう思っていた。
「フム。それではオイヤーがゴム材をとってきましょう」
「よろしく頼むのね!」
オイヤーさんは立ち上がり、マヤさんに指示を出す。
オイヤーさん、真剣だからギャグ言わなくなってるし。
「マヤ! 大工を急ぎで手配してくれるか? 私は素材を取ってくる」
「わかりました!」
呆然とする僕。あれ……今日やる気なのかな??
「あ、あの」
「なんなのね?」
「パイプってそんなに簡単に作れるんですか?」
「大工さんなら簡単にできるのね」
異世界大工……どれだけ凄腕なんだよ。
ちなみにアムはのんびりお茶菓子を食べている。マイペースっていいね!
**
30分後。
「連れてきました!!」
「――ど~も~」
マヤさんが連れてきたのは、赤毛でロングな三つ編みを左右に。
まさに赤毛のアンみたいな女性だった。ツナギを着ているけど……大工??
大工ってのは、おっさんかヤンキーに相場が決まっているでしょう。偏見かな。
「急に呼び出してすまないのね」
「ハア~ア。別にいいんだけどさ、二日酔いだからそんな大掛かりなことはできないよ?」
「大丈夫なのね、パイプを作ってほしいのね」
「ま~~~~たパイプかよ? いいけどさ」
タイミングよくオイヤーさんが戻ってきた。
「おや、ダイナ。いつもすまないね。オイヤー……」
「カンゲキヤーってか? 二日酔いなんだよね、さっさとやっちまおうよ。
んでさ、何作ればいいのよ?」
オイヤーさんの鉄板ギャグが潰されてしまった。カワイソウ。
「うむ、このゴム材でパイプを作ってもらえないだろうか? 緩やかにカーブしたパイプを」
「ゴムかよ~、めんどくせ~な。ほれ貸しな」
大工? のダイナさんはゴムの塊を受け取り、くるっと一回転させるとあら不思議ゴム材が円柱形に。
お次は円柱型のゴム材をシャカシャカ振りだすと、下にゴムの塊が落ちた。空洞のゴム管が出来た。
最後に両手でゴムパイプを曲げると、あら不思議。緩やかカーブのゴムパイプが完成した!
「す、すげええ!!!」
「おわ! びっくりした! なんだよおまえ~大声出すなよ」
「ご、ごめんなさい」
ゴムの塊がいとも簡単にパイプ状になるんだもん。そりゃびっくりするよ。
「なんだよ、初めて見たのか? 【変形】のLv4なんてゴロゴロいるだろ」
「は、初めて見ました。凄いですね!」
「っへ、おだてても何も出ねえよ」
ダイナさんはちょっと照れた。口は悪いが可愛い人である。
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―スキル【変形】―
物体の形状を変更できる。
Lvが高ければ高いほど、より硬いものの形状を変化させることが出来るようになり、より繊細な作業が可能になる。
Lv1だと、食材の形を変化させたり出来るレベルだが、レベル4だと鉱物などの硬い物質も変形可能。
建築、鍛冶など汎用性の高いスキル。
高レベルになると、装飾品技師として引く手あまたになる。
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なるほど、タルムン商店に張り巡らされたパイプは、【変形】スキルが使える大工さんたちが尽力してくれたお陰だったんだね。
便利なスキルがあったものだ。
これで上手くいけばいいんだけど……。




