19話 大手通信会社社員、電話会議を実現するための会議を始める
説明回って難しいですねえ。挿絵でも書きたいけど絵のセンス皆無でござる……。
タルムンおじいさんが、電話について話がしたい打診してくれた翌朝。
お店の開店準備を早めに終わらせておいた。
まあ、朝っぱらはあんまりお客さんが来ないので一応『Close』の看板を出して待つと――
「お邪魔するのね」
「いらっしゃいませ~」
「いらっしゃいタムちゃん」
タルムンおじいさんは、いつもより凛とした感じでやってきた。
そして後ろからマヤさんが現れる。
「あれ? いらっしゃいませ」
「失礼します!」
2人で来るとはちょいと意外だったな。秘書みたいだ。
「早速デンワに関して話がしたいのね」
「はい」
タルムンおじいさんがいつも座る場所に椅子を出して、電話会議ならぬ、電話を作りたい会議が開催されることになった。
「まずは、理想形でいいのでどんな商品なのか説明してほしいのね」
「は、はい」
理想形……といわれると携帯電話なんだけど、流石に理想というよりは幻想な気がする。
アムに協力してもらっても実現までのイメージが湧かない。
魔力を電波のように、遮蔽物を透過して無線通信……、話しが大きくなり過ぎていると思う。
となるとやはりイメージは黒電話だな。うん、魔法黒電話!
「電話なんですけど、正確な言葉にすれば、『リアルタイム魔法通話装置』といったところでしょうか」
マヤさんはガシガシメモを取る。議事録作成だなこりゃ。
なんか久しぶりに通信関係の仕事をしてる気分になりテンションが上がるなあ。
「つまり、特定の2点間でリアルタイムに会話が出来る装置です。
例えば……、タルムン商店の1階と、どこかのタルムン商店の拠点で話ができるような装置ですね」
「……す、すごい」
マヤさんはメモを取りながら驚いている。
「仕組みは……、メッセージボックスと似ているんですけど、
声を魔力に変換して、その魔力を特定の拠点まで届け、届いた先で魔力を声に戻すんです。
つまり……なんていうかな、魔力のキャッチボールさえ上手く出来れば電話が出来ると思っているんです」
タルムンおじいさんは顎鬚に手を当てた。
「そのキャッチボールが難しいのね?」
「そう、そうなんです。1週間かけてなんていうか、そういう素材を探してみたんです。
こう魔力を伝える……糸みたいな素材」
電話にとっての電線のような素材。
「そんな素材聞いたことないのね」
「いやあ……、この世界ならあるのかもしれないと思ったんですよねえ。ははは」
そんな都合のいい素材は見つからなかった。タルムンおじいさんも知らないってことは恐らく無いと考えたほうがよさそうだ。
もしくは。そんな素材の必要性が無かったのかもしれないけど。
「ふむ……、魔力が伝わればいいのね?」
「そうですね」
タルムンおじいさんは考えている。その凛々しい顔は若かりし頃のタルムンさん、社長だった頃のタルムンさんを見てるような気分だ。
「私は魔法に詳しくないのね。だから無茶なことを言ってるかもしれないんだけどね」
「はい」
「キャッチボールって言うぐらいなんだから、上空に投げればどうなの?」
「魔力をですか?? どうなのアム?」
「空に投げたらどこかに飛んで行っちゃうよ」
「放物線上に出来たりしないの??」
考えたら、『音玉』ってボールみたいだったし。右手を使って放物線を表現した。
「むむむ~、出来るけど~、重さの調整は難しいよ~」
「あれ……根本的な質問なんだけどさ、魔力って重さあるの?」
「無いよ~」
「無いの?? でも『音玉』には重さあるよね」
北のダンジョンで、穴に落ちた僕に投げ込んでくれた『音玉』には軽いけど確かに重さがあった。
地面に転がってたしね。
「んーー! ちょっと違う~。ホントは『音玉』に重さは無いよ~」
アムが『音玉』を作ってくれた。
「これが本来の『音玉』、すっごい不安定だから少しの刺激で破裂しちゃう」
アムが手放した『音玉』は宙に浮いている。
指で弾くと、『ぽーん』とアムの声が流れた。
「そいでね『音玉』にシールドをつけるとちょっとだけ重さが発生するの」
再度『音玉』を作り、外側を紫の膜が覆う。
「ほい」
「わっと」
アムが『音玉』を宙に放り投げた。それをキャッチする。
「ん~……微かに重さを感じるかも」
「触ってもいいのね?」
「どうぞどうぞ」
『音玉』をにぎにぎするタルムンおじいさん。
「それはね~、10秒経つか、叩けば音が鳴るの」
「そうなのね」
タルムンおじいさんは握った拳で軽く叩くと『ぽーん』と言って壊れた。
「壊れたのね」
「ふ~~む」
魔法ってのも中々難しいものだ。
アムは魔力に重さが無いって言ってたけど、正確に言うなら空気より軽い粒子ってとこだろうか。
ヘリウムガスとかに近いのかもしれない。まあ地球と大気成分が同じなのかわからないけどさ。
「でもあれですね」
マヤさんが話し出した。
「ん? なんなのね?」
「あ、大したことじゃないんですけどぉ……」
「言ってみるのね」
モジモジしながらマヤさんが話し出した。
「これって、上からならパイプとかに入れて届けれますね。ピンボールみたいに」
「ああ、なるほど」
確かに衝突を少なくすればパイプとかに入れても大丈夫そうだ。
「でもそれだと、上からの一方通行になっちゃいますね」
「あはは、そうですよね。忘れてください」
ただ、パイプを通すのはいいかもしれないな。水道っぽいね。
屋上のタンクからパイプを通って、特定の部屋まで水を配給するイメージ。
「……ねえ、昨日の糸電話見せてほしいのね」
「糸電話~? 待ってて~」
アムが2階から糸電話を持ってくる。
「ありがとうなのね。使ってみてもいいのね?」
「いいよ~」
入力側のコップを持つタルムンおじいさん。
「――!」
魔力に変換された声が床に向かって斜めに飛んでいく。
そして床にぶつかり……
「無くなっちゃったのね」
「そうですね」
タルムンさんが発射した魔力は弾け、そして霧散していった。
「アムちゃん、これにさっきのシールドはつけれるの?」
「ん~、たぶん」
「ふ~むなのね……実験したいのねえ。ん~なのね」
タルムンおじいさんは顎鬚をモシャモシャしながら考えている。
そんな時、お店の入り口に人影が。
「ちょっとすいません、お客さんかも……」
「は! ごめんなのね! 考え事してたのね~」
「いえいえ」
僕は入り口を開けてお客さんらしき人の対応をする。
ギルドの人で、急な仕事でロングソードが欲しかったみたい。対応して電話会議に戻った。
「お待たせしました」
「すまないのね」
「いえいえ」
そろそろお客さんが増え始める時間だ。
僕としてももう少し煮詰めたいとは思うんだけど。
1つ1つ試していけばいいかなって思ってた。
でも……完成に対する熱意はタルムンおじいさんのほうが上みたいだ。
「デンちゃん、アムちゃん。言いにくいんだけどね。今度は良かったら丸ごと1日欲しいのね」
「い、1日丸ごとですか??」
「うん……なのね。日当は払うのね!」
確かに1日丸ごと使えばかなり進展する気がするな。
タルムンおじいさんに協力してもらえるのも大きいし。
「いいぢゃん。やろ~よデン~」
「そうだね、次の休みの日が明後日なんですけど明後日とかどうでしょうか?」
「ありがたいのねえ。明後日の朝、事務所に来てほしいのね。出来るだけ準備しておくのね!」
タルムンおじいさん、やる気満々だ。
「はは、わかりました」
「あと、この糸電話借りてもいいのね~?」
「僕はいいですけど……」
「アムもいいよ~」
「ありがとうなのね~、お願いついでにもう一つだけど、シールド付きの魔力を発射出来る糸デンワを作れるなら作ってほしいのねえ」
タルムンおじいさん、物腰は柔らかだけどグイグイくるな。
「オッケーイ☆」
「色々すまないのね。お代を払いたいところなんだけどデンちゃんは断りそうだから、お昼ご飯でも買っていくのね」
「ありがとうございます」
「作れるだけ貰うのね」
そんなわけで急遽30個分のハンバーガーを作った。
当店はハンバーガ屋さんになってきているね。調理器具も増やしたし、料理の腕もかなり上達した気がする。
【武芸】スキルLv1がなかなかいい感じで包丁捌きをサポートしてくれてるんだよね~。
千切り、みじん切り、短冊切り、桂剥き、どれもかなり上手になった。
料理というか、包丁の扱いは元々上手くなかったけど、スキルの補助もあってか思い通りに包丁が動く。
スキルって偉大だな。
さてそんなわけで2日後に向けて準備を始めた。
といっても声を魔力に変換する『譜面』魔法陣を搭載したコップを新調するだけなんだけどさ。
今回は音から魔力に変換後、更にシールドを装着するオーダーが入った。
魔法陣が少し大きくなったのでコップからバケツにサイズアップ。アムは結構四苦八苦していた。
アムが魔法で難儀しているのが初めて見たのでちょっと新鮮だった。
「シールドは音魔法じゃないから魔法陣にするのムズカシー」
だってさ。
アムが日ごろ簡単に作り上げている魔法陣だけど、かなり高度な魔法陣みたい。
確かにかなりコンパクトな魔法陣だけど、かなり複雑だ。
盗用される心配はかなり低そうだ。
無断利用とか、著作権の侵害とかの心配が無いってのはありがたいな~なんて、現代的な事を考えたりしつつ2日後を迎えるのだった。




