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Prologue

 夢を見ているような気がした。けれどもしそうだとすれば、夢喰いの獏でさえ憐れみの視線を返すような、とんでもない悪夢だ。



 黒煙を噴き上げながら轟々と立ち上る炎は血飛沫のようで、引き寄せられるように一輪だけ買った深紅の薔薇のようでもあった。


 薄いフィルムを通して指先に棘が刺さる。痛みはない、あるのは空っぽの()という抜け殻だけだ。

 視界は煙に似た濁りが直視を阻んで、熱も風もすべてが遠い。微睡みながら無声映画を観ているようで。今ならあの炎に巻き込まれても、むしろ安堵しながら眠れそうだ、と頭の片隅でぼく(・・)が笑った。


 内側も外側も僕は僕としてここにいるのに、そのどれもどこにも居ないような、そんな感覚。僕は初めから居なかったのかもしれない。ぼくは誰かの幻想の中に生まれた何かの影なのかもしれない。


 そんなことある筈がないのに、何も考えられない僕の脳は、そんな馬鹿げたことをさも真実のようにちらつかせる。いっそ、本当に何も、考えられなくなればいいのに……。



 どん、と鈍い物音がした。

 燃えているのは離れで、音がした母屋にはまだ火の手が回っていないことに、たった今気が付いた。目が、醒めた。

 踏み出した足元で、ぐしゃりと何かが潰れる音がする。その音は何よりも現実だった。



 その瞬間から僕の中に充満する思いはただひとつ。本宮栞理(もとみやしおり)を――母さんを、助け出さなければ。



 それができなければ、探し物探偵など、捨て去ってしまっても構わないから。



  

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