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穴があったから入ります。

作者: たかやん

縦型の信号機が、深々と降る雪景色の白に鮮やかな赤を映しだす。

時刻は午前2時27分。

街は静まり、ぎゅっぎゅっと雪を踏み締める私の足音だけが辺りを木霊する。

などということもなく、コンビニから流れる軽快なナンバーは自動ドアが開閉する度に抑揚を変え垂れ流されるし、少し先のファストフード店では全席禁煙の煽りを受け寒空の下で煙を扇ぐトラックドライバーがライターを火打ちする音がする。

あゝ、1人になろうと外に出たものの、真の静寂とはほど遠い。却って部屋に籠っていた方がいくらか穏やかに過ごせたのかもしれない。と私は歩を進めながら小さな溜息をついたのであった。

1人になりたかった。或いは1人でいる実感が欲しかった。多感な時期の夢見る少女のような、妄想に蕩けきった表情でふらりと我が家を出てからかれこれ1時間近くが経過しようとしていたが、その望みが叶えられる気配は一向になかった。

「…さむい。」

言うまいと思っていた言葉が、疲労や倦怠感、思考停止等の要因からついつい口を滑って溢れ落ちてしまった。この寒さを認めるということは、無秩序な衝動に駆られた自分の無計画さを暗に肯定することになってしまう。

遅かった歩みはさらに歩幅を縮め、今にもその爪先を180度転回させてしまいそうだ。

「帰ろっかなー…」

独り言を白い息と共に吐き出しながらも、私の頭はこの徒労に終わる時間に何か意味を求めようと鈍い思考を巡らせていた。

意味なんてなかった。ただ衝動的に、目の前の見慣れた風景が嫌になっただけだ。何か辛いことがあった、自分を見つめ直したかった、そんな鬱漫画の主人公のような大それた願望を持ち合わせることすら、きっと私には出来ない。ただ誰からも振り向かれないモブキャラのまま、人生という名のルーチンワークをこなして行くだけだ。

半ば諦めの入った、先程とは比較にならないほどの大きな溜息を1つ吐く。

ほらね?何も変わらない。だって私自身が変わろうとしないんだから。あーあ神様今すぐ私を家まで送り届けてくれないかなー、なんて随分と身勝手な願望を、いるかも分からない神様へ投げつけるように空を仰ぐ。

ハイハイなにもないですよねーわかってますよー

チッと、小さく舌打ちをして視線を前方へと向ける。

……えっと…、アレ…なんですかね…?なんか光ってる?…穴?

私の目の前に穴が広がっていた。およその大きさは直径1mちょっと、綺麗な円だ。しかも穴の中は真っ白い光で埋め尽くされていて、内部の構造は窺えそうにない。

何がおかしいかって?んなもん決まってるでしょ!まず、穴が私の目の前にあるってことですよ!…いやこれじゃ少し分かりにくいか…。まず穴は地面に空いた縦穴では無く、壁面に穿たれるような横穴タイプだ。でもココは壁面でもないし、地面の盛り上がった斜面でもないただの平坦な雪道で、穴は宙空に浮かんだ状態で口を開いているのだ。コレを変と言わずしてなんと言う?

一通り自分の中の絶賛混乱中の私に脳内で説明をし終わると、私は意を決してこの謎の穴の調査に乗り出す。

この時この瞬間、この選択を私は後々後悔しつつもそれなりにエンジョイしていくのだった。

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