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異世界リアルオンライン  作者: 兎藤うと
プロローグ
3/10

プロローグ 『疑似転生』

アクセスありがとうございます!

 宙に表示されるウインドウを悠斗は呆然と眺めていると、


『これから、凪原悠斗さんのアバター作成を開始します』


 無機質な女性の声が聞こえてきた。


「おう!? しゃべった!?」


 突然聞こえた機械じみた女性の声に、悠斗のテンションは一気にMAX(マックス)へ到達した。

 どこからか発せられた無機質な声だけで興奮状態。昔にもよくあったゲームを早めに進めたいという衝動に駆られるのを抑えつつ、震える指で画面の〇ボタンを押す。


 正直、理性を保っているのが辛い。もう他のことは考えていない状態だ。


『なお、設定したアバターは一部変更できませんのでご了承ください』 


 また無機質な女性の声がそう答える。


「すごい、これがゲーム! 生きててよかったぁー!」

「死んでおるのがな……。まあ、設定の手順はすべてシステムがやってくれる。焦らず、ゆっくり考えて選べ。安心しろ、お主への時間はたっぷりあるからな」


 感動の声を上げる悠斗を尻目に呆れたような苦笑を浮かべる閻華。

 閻華は軽く息を吐いて、真剣な眼差しで画面を見つめる悠斗を、薄っすらと子供を見るような眼差しで笑いながら眺める。

 なにもかも適当そうに見えるたのに、ゲームの話をする前の悠斗とはまるで別人のようだった。よっぽど、ゲームが好きなのだろう、と閻華はそう思った。


『ステップ1、種族を決めてください』


 無機質な女性の声がそういうと、画面に種族が表示される。


『人間』『魔族』『妖怪』『獣』『妖精』『機械』『その他』


 多種多様な種族名。悠斗が知る王道な種族まである。表示される種族名の隣に、なにやら三角形の矢印が表示ウインドウの右、虚空を指している。

 躊躇することなく『人間』の矢印を、タップすると、日本人、外国人、黒人、白人、黄色人、と人種が表示される。しかもまた表示ウインドウの右に同じマークが。 


 今一度戻り、すべての種族をタップして確認し、ある程度種族の説明を読んでから、


「……閻華、これ多くないか?」


 閻華に動揺を隠しきれない声音で言う。


「気にするな。種族なんぞ数えたらキリがないのは当たり前だ。あの世は別世界とも繋がっている。任命された審判部屋では異世界から来ている。だから種族を限定することなどできないのだ」

「具体的なことを言うと?」

「同種族でも性質が違うとか、特徴が違うとか、はたまた食性とか……面倒くさいことに臓器の構造とかも……へっ」


 遠い目をする閻華。昔、なにかあったのだろうと実感させてくれる目をしていた。これ以上訊くと後悔しそうな気がした悠斗は口を(つぐ)んで表示された人種の中から『日本人』を見つけ出してタップし、〇ボタンを押す。


『ハーフにしますか? 純潔にしますか?』


 無機質な女性の声がそう言うと、先程と同じ種族のウインドウが表示される。


「ハーフか、どうせだからハーフにしてみるか」


 悠斗がそう呟くと、数が尋常ではない種族の中から魔族をタップし、魔族の頭がやられそうなほどの情報量の項目からある種族を見つける。そう、吸血鬼である。


 迷わず吸血鬼をタップして、〇ボタンを押す。

「迷わないんだな」

「吸血鬼ってなんかカッコイイじゃん? アニメでもすごい迫力あるし」


 そのような理由で吸血鬼を選んだ。


『ハーフの比率を決めてください』


 すると五対五の割り振りゲージが表示される。適当にゲージを左右に弄ってみると、下のウインドウに種族が持っている特性が入ったり入らなかったりを繰り返す。説明も丁寧に記載されており、外見的特徴もわかるみたいだ。

 吸血鬼の比率が高いとバットステータスとともにより強力なスキルを身に着けられるらしい。人間の比率が高いと強力なスキルは身に着かないが、安定したステータスがつく。


 さすがにどのようなスキルが着くかまではわからない。ヘルプでサポートに訊いてみても、そこは現実と同じ、才能や努力の結果から自分のステータスが決まる。つまり、この場合はランダムということになる。正直なところ、悠斗は人間の形を保ちたい。

悠斗の理想は人間の姿でありながらの吸血鬼。だから自然と比率も決まってくる。

人間と吸血鬼、七対三。吸血鬼の外見的特徴が出ない位置。吸血鬼の能力を生かせるギリギリの割り振りである。

 強力なスキルは欲しいが、人間の外見を保つためだから仕方がない。たとえ半端な種族だと言われても、後から来るであろう不安を想像しつつも、〇ボタンを押して次に進む。


『ステップ2、性別を決めてください』


 性別と聞いた悠斗は少し考え、昔のことが頭をよぎる。よく同級生の男女らに、女の子? とよく言われ、女装させられそうになったことがあった。そんなこともあったな、と一人で懐かしみながらも、男性を選択し、次に進んだ。


『ステップ3、髪色、目の色を決めてください』


 色素が物すごく薄い灰色の髪と黒の瞳。それが今の悠斗の色だ。今なら変えることができる髪色だが、この髪と瞳の色はかなり気に入っているので変えたい気もなく、悠斗は一番下にある現状維持を選択して次に進む。


『ステップ4、通貨を渡しますのでお好みの装備をそろえてください。なお、武器が決定された時点から武器の熟練度が自動的に表示されます』


 無機質な女性の声が言い終わると通貨が渡されたようでウインドウに表示される。


「五六四一……、おいこれ、俺の財布に入っていた金額じゃねえか!」

「まあまあ、一本無料で武器を手に入れられるし、また装備を整えられるのだからウマウマじゃないか。――おっ? なんか送られてきたな……おっ! 良かったな悠斗! あと一万追加だ。なんだかお主の部屋の棚の右端に挟んであったお札が巡り巡ってここまで来たみたいだな。ま、これで一五〇〇〇以上だな! よかったよかった!」

「俺のヘソクリ!?」

「お年玉でもらったお金をヘソクリというのか。面白いな」


「しかも一年前になくしたヤツ」

「まあ、妹に盗られたヤツだしな」

「あの畜生か……」


 死んで初めて知った真実に、悠斗は妹に新たな殺意を覚えるしかなった。しかし、少しだけ気になることが一つできた。


「今思ったけど、閻華。さらっと現世のこと話してない?」

「金の出所と経緯くらいいいだろ」


 平然と言う。決まりとは何なのか? 少し閻華に対して不満を抱く。なにか具体的なことを思い浮かべるつもりはないのだが、面倒くさくなった悠斗は考えるのをやめた。


「まあまあ、その話はいいだろ。今の問題はお主の武器だ。金があるなら良い物を買えばいい。あと、あまり文句をいうものでもないぞ? 文無しは一本と初期配布の装備一式だけで世界に降り立つ。それを考えるとお主は幸運だということを喜べ」

「あ、は、はい……」


 閻華の勢いに負け、この話は終わった。なにも言えなかった悠斗は、アバター作成に戻り、武器を選びを開始する。

 


 近距離武器。

 中距離武器。

 遠距離武器。



 三つの選択が現れ、虚空を指す矢印まで表示される。二度目となると虚空にウインドウが現れても驚くことはなかった。ゲーム要素に興奮しているからなのだろうか、そういうことは一切気にしなかった。

 近距離武器をタップし、一番上の片手剣を選ぶ。武器は最初から決まっていたので支障なく進める。具体的には片手剣を選んでから表示された選択肢から片手直剣を選んだ。片手剣の項目も頭痛が起きるくらいの量だった。

 だけど、片手直剣という想像できるほどの悠斗の好み。大抵の武器なら悠斗の好みの範疇だ。しかし群を抜いて好きなのは選んだ片手直剣。真っ直ぐな刀身と切っ先鋭き両刃。断面が四角形の刀身も良いが、六角形の刀身が悠斗的にドストライクである。

 悠斗が片手直剣を選んでから、鍛冶屋が作成したらしい武器がウインドウに現れる。

 序盤でよくある数種類から武器を選択すると思い、自分に合う武器を探しながら武器の説明を確認すると、ある違和感に気づく。


「この鍛冶師の作者名? 説明欄もすべて違う……。これって……」

「疑似転生する世界の鍛冶師が作成した初心者でも使える武器だ。作者によってはかなりスペックの高い武器があったりと、たまにだが、掘り出し物が見つかったりもする。あと、強化すれば魔剣クラスの武器に化けるヤツもあるから、よく探しとくといいぞ」

「おお、わかった」


 そうなると、探すのは一苦労になるだろう。武器の性能は重要だが、攻撃力、丈夫さ、耐久力、能力、その他、といったプレイヤーのステータスにも影響するすべてのパラメーターまで見通さなければならない。だが、性能だけで決めてしまうと自分のプレイスタイルに合わないことがある。だから、それすら見極めなければいけない。


 じっくりと説明欄と武器のステータスを見ていく。どれくらいの時間が経ったのかは悠斗にはわからない。

 そんな悠斗を、閻華は笑みを浮かべながらず待ってくれている。だから、自分に見合う武器を見つけたかった。

 画面をスライドし、武器をタップし、武器のステータスを見て、説明欄を読むことを繰り返していく。すると、ある片手剣に指が止まる。


「おお、これはなかなか……」

「いいのが見つかったのか?」

「ああ、それはもう俺が納得できる」


 悠斗がお気に召した武器。片手剣の(めい)を〝ヴォルケ・ア・ブレード〟。初心者が使う武器にしてはカッコイイ名前の片手剣である。初期の自分のステータスを手探りで確認しても、悠斗に影響する武器ステータスも申し分なかった。攻撃、耐久は初期の武器にしてはかなり高い。丈夫さ、魔攻は攻撃には劣るが他のと比べると高いほうだ。しかし、防御と魔防といった自分に付与されるステータスはかなり低い。攻撃力とかが高いならば当然だろう。だが、悠斗のいつものプレイスタイルに合っているので文句はない。


 デザインを確認してみてもカッコイイ。真っ直ぐな灰色の刀身と白くきらめく両刃の剣。刀身はシンプルで曲も凹みもない真っ直ぐな剣。この作成者にとってかなり丹精(たんせい)込めて作り込んだのがわかる。


「……えっと、作者名は、カナリア」

「名前から察するに、女だろうな」


 横から画面を覗き込んできた閻華は、少し考えたすえに言う。だが、悠斗はそれとは逆の答えだった。


「いやいや、ないない」

「なぜだ? 女のような名前だろうに」

「いや、現実だったら大抵そうだろうが、ゲームプレイヤーは違う。女性アバターが可愛いから使う男性も少なくはないが、女性になりすまして男性を騙す悪質な奴も少なくない。性別や写真もないこの場合は、名前が女性のようにしとけば、無知な奴は女だと疑問も抱かず近づく。つまりこれは鍛冶屋の経営を向上させるための詐欺だ!」


「偏見にも程があるな」


 仮想世界で性別に期待するほど悠斗も馬鹿ではない。一度も経験しなければの話だが。


「……お主、そんな想像力があるならクリエイターにでも目指せばよかろうに……。一つ言っとくが、ステップ2で性別を女性で選んでいるなら、転生したら元が男性であろうと女になってしまうぞ。あとはすべて意思次第だが、普通の女性と変わらん。だから性別を騙す以前の話だぞ?」

「……マジで?」

「マジだ。ついでに言うと霊魂(れいこん)に性別などない。あくまで肉体を持ってからの話だ。あとお主が混乱しないように言うが、お主は記憶があるから霊体でも男として存在できているのだからな? 記憶がなかったら今は無性だからな?」


「……え? じゃなに? 元男であっても女性を選んだら完全な女になるってか!?」


 そう言って新たな可能性を見出す。一瞬、女性の世界で生活するのも悪くない、と考えたが悠斗は男一択を決断する。絶対女性を選ばない。苦渋の決断でもない。自分のことは頭の隅に置いておくとして、今は相手のことだ。


「……、そうか。男でも本物の女になれるのか」


 その世界で前世の性別は皆無に等しい。たとえ元が男であったとしても、疑似転生先の世界での性別こそが真実の姿となる。これはこれで、人を救う選択でもあるということだ。性別での悩みは少なからずあるから。

「お主はちと考えすぎだ。この世界に前世は絡まないから安心しろ」

「うん。大丈夫だ。もう強引に納得したから」

「たまにお主が心配になるわい……」


 閻華は呆れたように言う。それに対して悠斗は苦笑いを返すことしかできなかった。

 鍛冶師のことは自分の中で踏ん切りがつき、悠斗は武器選びに気を取り直す。

 ウインドウをタップし、少々お高い〝ヴォルケ・ア・ブレード〟を無料のほうで選択し、また片手剣の一覧から〝始まりの剣〟という武器をを選んで計二本を購入する。


 一本だけ無料で手に入るのは大変美味しい話だ。妙なお得感を感じながらも悠斗は最初の装備選びの画面に戻る。 

 次は遠距離武器を選択。項目から片手銃を選び、次に表示された中から片手魔銃を選択。その中から適当に攻撃力が少し強めのを二丁購入。〝一式マジックガン〟というかなり適当な名前の武器だったが気にしない。銃だけだと装備を固定できないため銃用のホルスターを二つ購入する。ホルスターも適当に初期装備でレザーシリーズ一式貰えるらしく、悠斗は最後に〝グレーケープ〟という装備の上に着るローブを購入した。

 所持金も残り少ないところで買い物をやめ、自分のアバター画面を開く。二刀の剣と二丁の銃と別々に合わせ、〝ヴォルケ・ア・ブレード〟を右手で抜けるよう柄を右肩に向くよう斜めに装備。〝始まりの剣〟は左手で抜けるよう右の腰に装備する。


 銃は腰の交互に装備。そして、レザー装備の上に羽織るように〝グレー・ケープ〟という腰までしかない灰色ロープを装備した。

装備にあたって、悠斗が驚いたことがその自由性。どこにでも装備ができ、自分の思うがままに装備ができる。使いようによっては理想を貫けることはとても嬉しい。

 ちなみに、まだ死んだときと同じ服装である。閻華の話では疑似転生と同時に実体化して装備されるらしく、このアバター作成が終わるまでは装備されない。


「ほう、二刀流に二丁拳銃か」

「生きてた頃にプレイしてたゲームのアバターに近づけてみたんだ。個人的に気に入っていたんだけど、俺には似合わないかな?」

「わしはその組み合わせは大好きだぞ。なにも恥じることはない」

「そ、そうか? ありがとう」


 美女から褒められると素直に照れてしまう。悠斗はニヤける顔になるのを堪えつつ、画面をタップして次に進もうとすると、閻華がぼそりとなにかを呟いた。


「……ま、二刀流使いはあまり評判がよくないのだがな」

「ん? なんか言った?」

「空耳だろ」


 悠斗の質問に閻華は適当にはぐらかした。


『測定中……。あなたの熟練度が設定されました。確認してみてください』


 無機質な口調で言うと、武器熟練度の画面が表示される。

 表記もは二刀流、片手剣、二丁拳銃、片手銃、となっている。予想では二刀流と二丁拳銃だけだと思っていたが、片手武器も表示されるらしい。

確認し終わると、悠斗は〇ボタンを押した。


『最後のステップです。あなたの名前を入力していきます』


 これからの人生をともに付き添う名前を決める時が来る。

 悠斗は少し緊張しつつも深呼吸して心を落ち着かせる。そして、目の前に表示されるウインドウに目を向ける。


『まず、名前に必要な枠数を決めてください』

 

 無機質な声がそう言うと枠数の選択が表示される。今まで気づかなかったヘルプによると、この枠数は苗字と名字を指すらしく、人によってはかなり長い名前の者もいるらしい。そのため、自分好みに枠数を決めなくてはいけないらしい。悠斗は生まれてこの方苗字と名字は一つずつなので二枠を選択する。その前に三つ以上を知らないし会ったこともない。ついでにこの名前の枠の間に『・』や『=』とか付けられるらしい。


『メインネームとサブネームを入力してください』


 そう言うととメインネームとサブネームの順で表示される。

 ヘルプによるとメインネームは自分の本名。サブネームは自分のハンドルネーム。という感じらしい。悠斗からすればメインはともかくサブは意味あるのか、と疑問に思ったが、自分が忘れることを考慮すると需要はあるみたいだ。名前の変更は可能なので、ここで葛藤を起こさず気楽に決められる。

 妄想を膨らませながらも悠斗は入力していく。


「俺の名前は、ナギト……、いや、ハルト=ナギハラだ」


 一瞬少しだけ迷ったが、名字はハルト。それに繋げて苗字はナギハラ。すべてカタカナにしたのはなんとなく。なんとなくこのほうがいいと悠斗が思ったからだ。名前自体には人生において不満は抱いてはいない。むしろ気に入っているくらいだった。


 サブはナギト。ナギトという名は悠斗にとって馴染み深いあだ名だ。懐かしむように微笑みながらも、そう記入して躊躇せずに〇ボタンを押す。


『変更は可能ですが、この名前でよろしいすか?』


 もう一度〇ボタンを押して、アバター作成を完了する、を押した。


『それでは、ハルト様にシステムのアップロードと更新を開始します』


 無機質な女性の声がそう言うと、Now Loading、と表示される。

 これからともにする身体の作成が終わると、悠斗は達成感とともに一息ついた。


「お疲れさん。自分自身の身体を作るなんて実に新鮮だったろ」


 途中から無言でいた閻華は、微笑みながら悠斗に感想を訊く。


「そうだね。こんな貴重な体験は初めてかな。まさか自分の分身じゃなくて本体を作成する日が来るなんて思いにも思わなかったよ」

「まあ、感想としては妥当だろうな。一生をともにした外見を、中身をすべて自分の理想に作り変えてしまうのだからな。一部、変えない人もあるがな?」


 閻華がそう言って悠斗のほうを見る。


「ん? そんな外見を、って……そもそもアバター作成時に外見を変えるようなものは出てこなかったよ? えっ、なにあったの?」

「いや、おそらく目の色と髪の毛の色を変更しなかったからじゃないか? 本来なら出てくるはずなんだかな」

「それってこのシステム自体ぶっ壊れてるんじゃ……」

「いや、単に悠斗の身体が変更する必要がないと思われたんじゃないのか?」

「なんで!?」


「いやだって……のぅ? 顔面は整っているし、なにより男の面持ちを持ちながら女顔よりなんだからな。それに体型だって痩せ型にしてはしっかりしているし、身長も男の平均より少し高め……総合するとかなり良い男だぞ? なんなら女装させても身長高めの美人で突き通せる。ついでに女子同士のいけない恋にも発展できるだろう」

「ちょっと待てなぜ女装の話が出てくる。半ひきゲーオタがそんな属性を持ってるわけじゃないか。やめてくれマジで」


 否定したい事実。悠斗は男として、できればカッコイイと言われたい。間違っても可愛いなんて言われたくない。淡い願望だが、可愛いと言われたら男の尊厳がなくなる。それだけは悠斗でも無視できない死活問題である。

話をしているうちに更新が終わり、またべつのウインドウが表示される。


『次に霊魂へのアバター情報の受肉、実体化の準備を開始……完了――』


 また次のウインドウが表示される。


『疑似転生の準備を開始……完了――』


 またまた次のウインドウが表示される。


『システムを肉体への融合の準備を開始……完了――疑似転生におけるすべてのセッティングが完了しました。しばらくお待ちください……』

これで終わりかと思い、悠斗は安堵の息を吐く。


「おめでとう、悠斗。ここでの全工程を終えた。あとは疑似転生のみだ」 

「おお……もうすぐ疑似転生か……やべっ、妙に緊張してきた!」


 もう少しでこの身体と目でファンタジーゲームを味わえる。それを考えただけで、身体の震えが止まらない。抑えるだけでも一苦労だ。


「いいぞいいぞ。その好奇心とゲームへの情熱さえあれば一人で生きていけるだろう」

「なに言ってんだ、閻華。一緒に来るんだろ? なら一人じゃないじゃん。仲間と一緒に旅するなんてワクワクするじゃないか。ゲームは一人よりみんなでプレイするほうが楽しいしな。ゲームが混じってる世界ならきっとそうだ」


 悠斗の言葉に閻華は目を見開く。それは一瞬のことだったが柔和な笑みを浮かべる。


「そうだったな。これから一緒に、冒険するのだな。ま、それは置いといてまずはお主の疑似転生が先だ。そろそろ準備も終わるころだろう。先の話はそれが終わってからな」

「そうだな。まずはこれを終わらせてからだな」


 そう言っているうちに更新が終わり、新たなウインドウが表示されると、


『記憶の消去準備を開始します。整い次第、疑似転生および転移に入ります』


 衝撃的な発言が飛んできた。


「……、えっ?」


 一瞬思考が止まり、頭が追いついてきた頃には反射的に閻華のほうに振り向いていた。


「おい、閻華!? これはどういうことだ!?」

「あー、言ってなかったな。疑似転生とはいえ、転生するのだから前世の記憶は消えるだろ。祖先が生まれ変わっても、前世の記憶を憶えていないのと同じで」


「は、えっ? じゃなにか? 記憶が消えたら閻華と一緒に冒険する約束が消えちゃうってことじゃないか!? 今までの話は全部嘘だったの!?」

「嘘じゃないぞ? しっかり約束は果たすぞ。記憶の消えたお主とともに」


 閻華は爽やかな笑みを浮かべて言う。


「忘れてる時点で約束もクソもないだろ!?」

「まあまあ、安心しろ。消えたからと言って死にはせんから」

「そっちの心配をしてるんじゃねえよッ!」


 悠斗は全力のツッコミをするも、小さく舌を出してイタズラっぽい笑みを浮かべる閻華。全然嬉しくない。可愛いことはべつとして、今はそれどころではない。


「これじゃ、唯一の友達のことまで忘れちまうだろ!」

「すまんな。だが、これは必要な手順なのだ。お主には未練を残してほしくないからな」

「閻華……」

「まあ、お主のポジティブ思考の持ち主なら大丈夫だろ。どうせわしもついていくのだからな。またお主とは初めましての関係になるが……その時は罪滅ぼしにわしがお主の彼女にでもなってやるわい」

「俺はそこまでチョロくねぇぞ!? もし記憶が消されたからってそう簡単に落とされてたまるか!?」


 悠斗が声を荒げながらも、時間はあっという間に過ぎていき、


『準備が整いました。……疑似転生完了。異世界へ転移します。ご武運をお祈りします』


 無機質な女性の声が最後に言ってウインドウが消えた。



 ――刹那、地面の黒いなにかが開いた。



 そして、悠斗の身体は重力とともに下へ、


「……あの、閻華、さん?」

「また会おうな。ハルト」

「――ッ!? うああァァァァァァァァァァァァ――ッッッ!」


 悠斗は絶叫は段々と遠くなっていく。

 落下していく悠斗の身体。上空に放り出された彼はジタバタと暴れながら落下する。

 雲を突き向け、地上が見えたところで自分のアバターに装備させた物が頭から次々と実体化し、悠斗の身を包んでいく。防具の実体化が終わる頃には、武器が装備が始まり、四つの武器の実体化が終わる。

 そして、悠斗の身体は淡い光包まれて、静かに霧散するようにハルトは消えていった。

読んでくださりありがとうございます!

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