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大学の講義を受けている若者がいた。
今年入学したばかりのその青年は、特にこれといった特徴は無いが、独りをこよなく愛しているのか、周囲の席には他の生徒は見受けられない。
他の理由を挙げるとするのならば、この単位を積極的に取ろうとする生徒があまりいないということくらいだろうか。
講義も中盤に差し掛かった頃だろうか、携帯電話のバイブ音が淋しい部屋に鳴り響いた。
音源へと睨みを利かせる講師の先生。
別名、Mr,バーコード。
本名、林 森増
名前のわりには淋しい頭、が生徒からの共通認識であった。
「先生。申し訳ありません。多分妹の事で、小学校のほうから…」
携帯電話の主がそう応える。
独りでいた生徒だ。
「またかね?妹さんが体が弱いことは知っているが、毎回のようにわたしの講義のときにならなくともいいような気がスルンダガネッ!!ええい、講義の邪魔になる。さっさと部屋を出て、電話に出てきたまへ。そして、さっさと迎えに行きなさい。」
どうやら、これが初めてではないようだ。
言われた本人は、短く「はい。」と言い、廊下へと飛び出していった。
所変わって、ここは小学校。
義妹が通っている。
父の再婚相手の女性の娘で、名を『零華』という。
普通なら、麗華って名づけそうだが、零なのである。
まあ、それを言ったら俺なんて…
錐 力
前からでも、後ろからでも読めるだろう?
そう言って、ドヤ顔した父のことは忘れない!
ふと、何年も前のことを思い出しているときだった。
保健室から出てきたらしい義妹と保健室の先生。
「気休めだけど、冷えピタおでこに貼っておいたわ。病院とまでは行かないのでしょうけど、専用のお薬がご実家にあるんだったら、早く飲ませてあげなきゃね?」
「はい。ご迷惑をおかけします。ほら、零華も頭下げとけ。」
「ん。はぁぃ。」
俺の言葉に、けだるけにしながらも、返事をし、保健室の先生に向けて頭を下げる零華。
保健室の先生は、苦笑いしつつ、片手を上げて応える。
「そんじゃ、今日はもうお休みって担任の先生が届け出も出したし、さっき鞄のほうも玄関の所に持ってきてもらっていたから、ね。リキくんも、あんま無理しちゃダメだからね?」
保健室の先生にすっかり名前も覚えられてしまったなと、照れくさげに頬をかく。
「単位に問題は今のところないので、お気になさらずに。思ったよりも、緩い感じで助かってます。」
「こらー。確かに、入学が厳しいながらも、それ以降は楽だと言われがちな日本の大学だけれども、そんなんじゃあー、立派な大人になれないわよ?まあ、私も大学院にあがる前の、普通な大学生の時は余裕があったけれども…っと、話し込んでる場合じゃなかった。ちょ、教頭先生もそんな睨まないでくださいよ!」
「…いや、睨んでるわけじゃないんだけど。零華くんが手持ち無沙汰のようだよ。」
職員室から廊下に顔を覗かせる教頭先生から指摘されて、しまったという顔をする二人。
たしかに、ぼけーっとしている零華が二人の視界に映った。