⑤女たちの会合にて
今日は天気が悪いせいか、体の具合が悪いです。
私の身体は困った事に、天気が悪くなるたびに不調になってしまいます。
いよいよ、クリフとロックは女たちの会合に顔を出します。クリフは若い女の子を沢山目にし、目が♡マークになってしまう事になるかもしれません。
夜は瞬く間にふけてゆき、やがて朝がおとずれた。
イズラが扉を開けると、そこには疲れ果てた表情で目にクマを作ったロックと、睡眠によって栄気を取り戻した、太陽のように元気なクリフの2人がいた。クリフときたら、ロックに襲い掛かった事など露ほども覚えていないのだった。彼が元気でピンピンした姿を見せているのを見て、ロックはこっそり顔をしかめた。
そんな二人を見比べ、特にロックの様子に、イズラはその美しい澄んだ湖の様な碧眼の瞳を大きく見開いた。
「クリフさんはともかく、ロック!あんたは一体全体、どうしたの!?眠れなかったの!?」
イズラはクマを作って青白い顔をしているロックをゆさぶった。
「・・・・・・イズラさん、何で俺だけ、呼び捨てなんですか?それに、この事はいつもの事なんです・・・・・・。」
「いつもの事って何なの!?」
そう言うイズラにロックは目をそらすと、
「とにかく、お腹がすきましたので、朝食をとりたいです!さぁさ、早く外へ行きましょう!」
彼は、話をはぐらかし、クリフとイズラに、食事に行くようにせきたてた。
朝食はイズラもいっしょにとり、その間ロックに事の次第を聞いたのだが、
「いつもの事。」
そう言っただけで、ロックは何一つ口にすることはなかった。
クリフはとにかく食べるという事と女の子の会合という、それこそ動物的な欲求にしか関心が向いていなかったので、好奇心旺盛なイズラも、さすがに事の真相に関する情報を諦めざるを得なかった。
ロックはずっと、我慢強く貝のように黙秘を続けていたので、イズラは永遠にこの謎を知る事がなく終わったのであった。
「これから、女の人たちの会合かぁ~♡」
クリフは完全に浮かれながら、規則的に敷かれた街中の石畳の上を歩いていた。女の人たちの会合といっても、皆既婚者か、恋人を男に奪われた人なのであるが、かなりプラス思考のクリフは、その中に未婚で恋人がいない女性も来ているんではないかと考えているのだ。
こうした師匠のプラス思考ぶりを見て、ロックはクリフが神々しいとさえ感じていた。彼はマイナス思考しかできない性格だからだ。
しばらく歩くと、鼻をつく良い匂いに、クリフはよだれが出るのを抑える事ができなかった。
良い匂いが漂って来る方向を見ると看板をかかげた建物があり、その看板には食べ物の絵が描かれている。その看板を見た途端、クリフは一人、大喜びしながら急ぎ足でその店へ入って行った。
イズラとロックが遅れて行き、その店の扉を開けるとその匂いがいきなり強くなったので、すぐにそこが食べ物屋さんである、という事が分かった。
三人が中に入ると、その店内には沢山の女の人が所せましと、ぎっしり座っている。女性たちは、若い娘から中年の女性まで、様々だ。
それを見るなり、クリフの気持ちは高ぶり、目が♡マークになった。
「クリフさん、どうしたんですか?」
そんな妙なクリフを見るなり、イズラはいかがわしげに尋ねた。
するとクリフは、何の恥じらいもなく言ったのだ。
「この中に独女さんていないかなぁ~って♪♡!」
するとイズラは、顔をしかめて言った。
「はぁ!?何を言ってるんですか、クリフさん!ここは、男を奪われた女の集まりで、一人身の女なんて、一人もいませんっ!」
「でも、ここに一人で来るのが不安だから付き添いで友達と来ていて、それでその友達が独身とかって娘、いないかな?」
そんな事を言うクリフに
「そんな人、一人もいません!皆、パートナーのいる女性だけです!」
と、イズラの言葉は情け容赦がない。
ロックは傍らで聞いていて、彼女の性格のキツさに少しだけ驚きながらおろおろしていると、
「本当にこの人が、あの有名な霊能者のクリフさんなの!?イズラ、この人、偽物なんじゃあないの!?」
と、そういう声がどこからともなく聞こえてきたのだ。
見るとクリフと同じ赤毛の娘が仁王立ちになり、ヘロヘロしているクリフの方をじっと見つめているのだった。
「師匠はこんなんですが、れっきとした立派な霊能者で、腕は確かなんです!」
その女性にロックが言うと、
「あんた、師匠とか言っている人よりもずっと年上みたいだけど、何?人生の落伍者か何か?」
赤毛の少女がそう言った。
”ガーン!!”
その言葉にメンタルのもともと弱いロックは落ち込み、しばし石のように動けなくなり、それから部屋の隅へ行き、
「・・・・・・どうせ、俺なんて、人生の落伍者の、元引きこもりですよぉ~・・・・・・。」
そう、いじいじといじけていたのだ。
女たちを見ると、クリフやロックに対して、大きな不信感を抱いている、という事は、彼女たちの表情から、容易に推測できる。
そこで今までヘロヘロしていたクリフも、やっと事の重大さに気づき、そのヘロヘロ顔をやめ、まじめな表情をしたのだ。
だが、ロックときたら、いじけて隅にこもり、一人いじいじとていた。
そんなロックには一切かまわずクリフは、不信感を露わにしている女性たちの方を向き、真面目な表情で言葉を紡ぎだした。
「それで、本題はここからだ。
この王都で、ヤロー同士がくっつき始めたのは、いつからなんだ!?」
真面目になったクリフに、今まで不信感を強く露わにしていた女どもも真剣な表情になり、クリフを見つめている。
クリフが切り出した話題に最初に答えたのは、イズラと同じ金髪だが、髪が短く、少しボーイッシュな感じのする少女だった。
「それはだいたい三か月程前からなんです。その頃から、何故か分からないのですが、町中の男連中が、次々と恋人同士になりだしたんです。
結婚している男まで、ゲイになってしまって、・・・・・・。
そうした男どもの愛情バロメーターが高まるのが深夜の事で、大体深夜の2時頃になると、男どものホモラブぶりが頂点に達して、街中をイチャイチャしながら歩き回ったり、男同士で性行為を行ったり、とにかく、何かに取り憑かれたかのように、決まって午前2時ごろになるとイチャイチャぶりが強まるんです。
そんな中には、私たちの夫や恋人もいるので、もう、毎晩辛くて辛くて・・・・・・!」
そうして肩を落とし、顔を覆ったそのボーイッシュな少女に近寄り、クリフは言ったのだ。
「そうかそうか、かわいそうに・・・・・・。そんなどうしようもない男なんて捨てちまい、このオレとお付き合いしましょう。オレは、必ずあんたを幸せにしてあげるよ。」
と言ったその途端、
「何よ、この不潔バカっ!」
”ベチンッ!”
その瞬間、落ち込んでいた少女が、クリフにビンタをくらわせたのだ。
「ねぇ、本当にこの人、霊能者のクリフさんなの?」
また、あの赤毛の少女が疑わしげな眼でクリフを見ながらそう言った。
すると、もう既に立ち直っているロックが
「確かに本物です。師匠は過去世で悪い事をしたせいで、一生結婚できない運命にある可愛そうな人です。だから、許して下さい。
必ず師匠ならば、解決できますから。」
とそう言うと、
「へぇ、そうなの、人生の落伍者さん。」
と、今度は40歳ぐらいの中年のオバサンがそう言ったのだ。そう言われ、ロックはまたもやお化けのように青ざめ、部屋の片隅に座り込んで落ち込みオーラを出し始めたのだった。
「ら・・・・・・落伍者だけど、やっぱ言われるとキツイなぁ~・・・・・・。」
ロックはどこから持ってきたのか、大きな巻貝をヤドカリのようにかぶり、そう言ってまた隅に引きこもった。
クリフが数々の若くてきれいな女の子たちを口説きまくったせいで、話し合いはかなり長びいたのだが、最終的には、クリフとロックが今夜、男どもが活気づく時間帯に街に乗り出すような流れになった。
そういう流れにすることができ、ロックは心底安心し、深く安堵のため息をもらした。一時クリフが女の子たちを口説き回し、信頼を失うような事をやってのけていたからなのだ。
ともあれ、これから二人はホモ春華咲く街中へ出て行かねばならない。依頼を受けた後、特に男運の良いクリフは憂鬱な気持ちを拭い去れないのであったが、依頼なので、気を引き締めるがごとく、シリアスな顔を保っていたのだった。
やはり女の子の会合で、クリフは口説きまくっていました!
次の話では、いよいよ真夜中の街中に、クリフとロックが出て行きます。