④時計台の下の美女
いよいよクリフとロックが、エフェレリア王国へ入って行きます。
そこで彼ら二人は、美しいイズラと初めて出会います。
そして、時が川のように流れ、動いてゆきます。
クリフとロックは、二人仲良く漫才のような会話を重ねつつ、エフェレリアの土地へ向けて歩を進めていった。そして、エフェレリア王国の城壁都市の中に、輝く夕暮れの光と共に入っていったのだった。
夕日はあっという間に沈み、今やこの王都エフェレリアは、夜闇のカーテンに包まれている。この王都エフェレリアは、とにかく伝説のオッパイ聖人マザー・テルサンで有名だ。
クリフとロックが街明りの中、街中を歩いていると、露店で様々なテルサングッズが売られていた。マザー・テルサンのメダイや、お守り。そして、マザー・テルサンの顔が描かれてあるテルサンまんじゅうや、テルサン恋おみくじ、さらに一振りすればマザー・テルサンに変身できるという子供用のおもちゃのテルサン・ステッキ、それからテルサンの顔が大きく描かれたテルサンちょうちん等々・・・・・・と、様々である。
そして、さらには、はくと”夜の生活”が強くなり子宝に恵まれるというパンツ、それから母乳の出が良くなるという、テルサン聖堂の修道士が祈祷したブラジャーなんてものまで売っていたのだ。
と、ある露店で、その祈祷済みのピンク色のヒラヒラのレースがついたブラジャーを、シワシワのバアさんが手にし、お金を払い、購入していた。
「それ、娘さんへのお土産ですか?」
何気なくロックがそう尋ねると、そのバアさんは、頬を赤らめながら言った。
「いや、違う!これはわしのいわゆる”勝負下着”なんじゃ。あっちに売っていた夜の生活が強くなるおパンティーも購入したぞっ!さぁて、男でも逆ナンしに出かけようかのぅ!」
そう言ってトコトコと歩き出してゆくのである。
そのバアさんはどう見ても80歳以上と高齢そのものである。にもかかわらず、テルサンの奇跡にあやかり、勝負下着で男を逆ナンしてまた、小作りまでしようともくろんでいるのだ。
「いやぁ~、おどろいたなぁ~。女の人って、いつまでたっても女性なんですね。」
「いや、あのババァがかなり特殊すぎるほど特殊なんであって、あんなババァ、どこにでも居るもんじゃあねぇっ!!」
クリフは露店の橋の狭い路地に身をひそめ、隠れながらそう言った。
「そっか、師匠はババ運がかなり良いんでしたね。ってことは、さっきのおばあさん、師匠の姿を目にしたら、逆ナンする事間違いなしですね。」
「おめぇにしちゃあ、冴えてるなっ!・・・・・・その通りだ。」
クリフはまだ路地に身をひそめながら、つぶやくようにそう言ったのであった。
クリフとロックは、テルサンの眠る夜の霊廟を訪れた。霊廟はライトアップされ、神聖な感じというよりは、むしろ不気味な感じの空気を漂わせている。
霊廟につくと最初に出迎えたのは両端の天使の像であった。その天使は男性といえば男性に見え、女性と言えば、女性に見える、というような不思議な容貌をしていた。この両方の天使の像より奥は細い通路のようになっているらしい。
「この天使さん、男なのかな、女なのかな?」
ロックがそう言うと、クリフは
「分からん!だが、天使というものは、本来性別が無いとも言われてるかんな。あんないい体持ってるのに、エッチもできんとは、何とも可愛そうだよな。」
と物憂げに言い、その天使を自分自身と重ね合わせるクリフであった。
また、空気読めないK・Yなロックが、さらにクリフを物憂げにするような言葉を口にした。
「そうっすよね、何しろ師匠は過去世は大海賊で、実に沢山の女を犯した、ということで、今生では結婚もできないんですよね。でもね、師匠、良いじゃあないっすか、だって、師匠の師匠には、男運とババ運は、良いって言われてるんっすから♪」
”ドゴッ!!”
クリフは、静かに怒りを燃やしながら、隣を歩くロックの左側の頬をこぶしで殴った。
「いってぇ!何するんすか、師匠!」
「確かにな、・・・・・・!確かに、オレは、オレの師匠に、前世悪い事したせいで、水子と女の怨念霊が背後につき、結婚は無理で、男運とババ運だけが良いっていわれたさ!でも、オレは、んな因縁なんつーもんに負けねぇーんだ!この現実世界で頑張れば、きっと、ナイスバディ―の女の子と結婚できるって信じてる!」
そう言うクリフにロックは、不可思議なものでも見るような瞳で言ったのだ。
「でも師匠、師匠はもう2千回以上女の子にふられてるって、この前言ってたじゃないっすか。やっぱり、運命は変えられないんですよ。」
「え~い!やかましいわいっ!お前のそのマイナス思考、どうにかなんないのかっ!?」
「師匠こそ、あんまりにプラス思考すぎて、まるでバカで、変態にしか見えないっすよ!」
「師匠に向かって、その言葉はやめろ、しまいには、お前を人食い人種の所へ肉として売り飛ばすかんなっ!」
「そんな恐ろしい事、よく考えられたもんですね!」
等、二人があれこれと言葉のやり取りをしながら狭い通路を進んでいると、突如として視野が開け、そこには、青白い光でライトアップされた大きなバアさんの像が浮き上がったのだ。その像こそ、伝説のオッパイ聖人マザー・テルサンそのものであった。
マザー・テルサンは聖女である。だが、そのどデカい像は、どう見ても不気味な感じで、どデカいう山姥を目にしているような感覚だ。
「神よ、汚らわしき私をお許しください、神よ、汚らわしき私をお許しください、神よ、汚らわしき私をお許し下さい・・・・・・。」
クリフとロックが入ってくるやいなや、何かの魔法の力で仕組まれているそのバアさんの像が突如しゃべりだした。
そこでクリフは疑問を抱いたのだった。
「聖女なのに、なぜ”汚らわしき”、と言うのだろうか?それに、このエフェレリアの国に入ってから、悪霊特有の邪気といったものが全然感じられず、むしろ清らかだ。」
そうシリアスな表情をして言うクリフを、ロックがせかすように言った。
「師匠!もうすぐイズラさんと会う時間帯ですよ。」
と、その言葉を聞いたそのとたん、クリフの表情が一瞬にして、だらしないにやけ顔になった。
「ウッフェフェフェ♡もうすぐイズラちゃんと会えるんだなぁ~、どんな女の子なのかなぁぁぁぁぁ~~~?」
そしてだらしなく口からよだれをたらす師匠クリフを、ロックが無理やり引っ張って、待ち合わせの時計台の場所へ行ったのであった。
外に出ると都中は、深い霧に包まれていた。伝書バトの手紙に添えられていた地図を頼りに、その時計台へと感覚と、僅かに見え隠れする霧の中の景色を頼りに歩いていく。
もう、夜になっているので、三つの輝く月が空にのぼっているのをロックはもう慣れたような目つきで目にしながら、時計台へとクリフと共に急いだ。
ロックはどうも方向音痴な所があるので、クリフが無理やりロックの手を引いての移動に変わっていた。
「まったく、いい年して、世話のやける妙弟子だぜっ。」
クリフがそう言うと、ロックは少し悔しそうに
「師匠こそ、一生結婚できないじゃあないっすか!?」
「また、んな事言いやがって!オレ様の人生は神に選ばれた、幸せなものなんだ!だから、絶対にまだ見ぬ素敵な女の子と赤い糸で結ばれてるっ!絶対に・・・・・・絶対にそうに決まってるっ!!」
クリフはいささか霧のせいで不安になってるのか、いつもよりも少しだけノリが悪いような気がする。
しばらくあんなこんなを二人がしゃべりながら歩いていると、ぼんやりと時計台のような場所が、三つの月の月明かりに照らし出されて、見えてきた。
と、
「うわぁっ♡あれがイズラちゃんかっ!」
時計台の下、深い霧をかき分けるように行くと見えてきたのは、赤い花の髪飾りをつけた、長い金髪の髪の少女であった。
少女はだいたい16歳といったところであろうか。とにかく金髪碧眼のとてつもなくかわいらしい女の子なのである。クリっとした大きくてよく動く瞳が印象的だった。
「こんにちは、クリフさんですか?」
女性特有の甲高い声で彼女が言うと、クリフはデレデレしながら、
「そうです♡はじめまして。霊能者、クリフです♡」
と、最初からいやらしくも♡を語尾につけながら話し始めたのだ。
「師匠、初対面の方に、♡をつけるのは、失礼ですよ!」
そう言うロックを見て、イズラと思われるその女性は、言った。
「あら、あなたは、クリフさんのお父様か何かかしら?」
そう言われ、ロックは瞬時にして落ち込み、ミイラのように小さくなってしまった。
「ああ、こいつは、オレの弟子なんだ。すんげぇー年上だが、根が幼い奴さ。ところで、お姉さんはイズラさん?」
「はい、私が依頼主の代表のイズラです。」
「依頼主代表とは?」
「その事は、ちょっとここでは何ですので、あなた方のためにご用意した宿で、お話いたします。」
そう、凛とした鈴の音の様な声で言って歩き出すイズラのあとを、デレデレのクリフとロックが追いかけた。
クリフは実に幸せであった。ただし、宿でイズラの話を聞くまで、なのであるが・・・・・・。
クリフはこの金髪美人の美しいイズラと恋仲になろうと、どうやって取りあおうか、華々しい事を沢山よだれをたらしながら考えていたからである。
「あの・・・・・・クリフさん、さっきからよだれがすごいのですが、お腹すいてるんですか?」
少し気味悪そうにそう言うイズラに、
「いえ、ちょっと夢見タイムに入ってるだけなんで、放っておいて大丈夫ですよ。」
そう、ロックが言った。
そして、宿での事である。
「ええぇぇぇ~~~~~!?イズラちゃんって、彼氏いるのぉぉぉぉぉ~~~~~~!?」
クリフの大声に、イズラはもう少しで椅子から転げ落ちる所であった。それ程にクリフの声は下品で大きかったのである。
実は、そうなのであった。イズラは奇しくも恋人がホモの”受”であり、それが許せないが、何にもまして、男なんかに自分の恋人が取られたのが、許せない!そう思ったので自分が立ち上がった。そして、恋人、婚約者を男に取られた女たちで団体を組み、皆でクリフに依頼をした、というその一部始終を話し終えた所。
ロックは、何とも言えぬ渋い表情をしてその話に聞き入っていたし、クリフなんか、あまりのショックに棺桶に自ら閉じこもっているというざまだ。
「・・・・・・んで、ロックさん、本当にこの棺桶に閉じこもってる男が、霊能者クリフなの?」
あまりにも情けないクリフの様子に、少し不安な表情をしてイズラが聞いてきた。
「はい。あんな変態ぶりの俺の師匠ですが、かなり優秀な霊能者なんです。だから、信頼してください。」
そこで少し考えていたイズラだったが、何かを割り切るかのように、今まで組んでいた両腕をほどくと
「分かったわ!はっきり言って、何だか頼りなげだけど、私たちが頼んだんだもんね。だから、信頼して、任せてみる!」
とそう言ったのだ。それからイズラは続けて言った。
「ところで、今日はもう、夜遅いわ。明日、私の仲間たちを集めて、詳しい事を話すわ。だから、今日は、もう眠って。」
その言葉は旅で疲れ果てているクリフとロックにとっては、申し分のない言葉なはずである。
だが、ロックにとってはかなり憂鬱であった。
「眠ってって、俺とクリフさん、二人いっしょですか!?」
「えっ!?」
ロックのその言葉に、イズラは汚いものでも見るような、そんな目になったのだ。
「ひ・・・ひょっとして、あんたたちも、男同士で、できてるんじゃあ・・・・・・」
「いや、断じて、違う!・・・・・・んだけど、半分は当たってる、かな・・・・・・?」
そう、ロックは言いづらそうに言ってきたのだ。
「じゃあやっぱ、ホモホモだってことよね!?」
「いや、違うんだっ!」
「じゃあ、男同士なんだから、良いじゃないっ!?」
「・・・・・・でも、色々と事情があって、師匠とは別の部屋に・・・・・・」
そう、しどろもどろに言うロックに、短気なイズラは段々腹が立ってきた。
「あんた、年行ってるくせに、目の輝きは子供っぽいし、言ってる事も、ホモっぽいし、もう、知らない!とにかく、あたしも今日も仕事で忙しかったから、疲れてるの!だから、明日、また来るから、じゃあねっ!」
そう言って何とイズラは、この部屋に鍵までかけて出て行ってしまったのだ。
「ま・・・・・・待ってよ、イズラさ~ん・・・・・・。」
この部屋に、ロックの報われぬ小さな声だけがこだましたのであった。
「何落ち込んでんだ、ロック!ほら、明日は女の人♡たちと会うんだから、今夜はさっさと眠るぞっ!」
そう言ってクリフは一人、眠りについた。
と、眠りについた途端、ロックは恐怖心を思いっきり顔に露わにしたのだ。
「・・・何も起きませんように、な~んにも起きませんように、何も起きませんように・・・・。」
そう、ロックは何故か一人、いびきをかきはじめたクリフの横で、眠るよりも、念仏を唱えるようにそう、ぶつぶつ布団の中で唱えていた。
変化はロックも疲れのため、うとうとと眠りに入り始めたその時に現れた。
いびきをかいて熟睡しているはずのクリフの身体がいきなり、ムクリと起き上がったのだ。
起き上がったクリフの目は開いているのだがうつろで、どうやら意識は眠っていているらしい。今のクリフは、夢遊病者そのものである。
クリフの身体が眠りに入りかけたロックの所まで来ると、突如、眠りかけているロックの毛布をゆっくりと引きはがした。
そして、うつろな目をしたクリフは突如、とんでもない事を口にしたのだ。
「なぁ、やろうぜ!」
「!?」
ロックは、ただならぬ様子に、もう既に目をさましていたのだが、やはり今夜も夢遊病者のクリフが来てしまったのだ。
実はクリフは普段は満たされない性的な欲求を、男であるロックで無意識のうちに満たしてしまっているのであった。
そして、ロックは今夜もこの夢遊病者クリフの犠牲になってしまったのであった。
何とクリフは、ロックで欲望を満たしていたんですね。無意識のうちに。
そんなクリフが幸せになれる時は来るのでしょうか?はたまた、次なるステージは、どうなってゆくのでしょうかっ!?