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②ど変態霊能者クリフ!

 イズラの飛ばした伝書バトは、ある場所へと行き着きました。

 ここでやっと霊能者クリフ登場です!クリフには弟子がおり、その弟子は、滝行の最中でありました・・・・・・。

 ここはよく、霊能者や占い師が修行に来るゴルゴネという土地である。

 ロックは一人、白のフンドシ一丁姿で、氷のように冷たいゴルゴネの滝に打たれていた。彼の年齢はだいたい36歳程であろうか?

 だが、その目には、大人びた外見とは別物の幼さを表す光が鈍く宿っている。

 南川六之助みなみかわ ろくのすけ。これが実は彼の本名である。

 冷たい滝に打たれながら、ロックは一人、悲壮感に浸っていた。本当は修行なので、「無」にならねばならない場面なのであるが、さざ波のように揺れ動く彼の内面の心が「無」になる事を許してはくれない。

 彼の魂はまだまだ、救済されていないようなのだった。

 

 この南川六之助という男、実は一度自殺をはかって断崖絶壁の上から海へと飛び降りたのだ。だが、彼は死ぬ事ができなかった。この世に内在するあらゆる苦しみから逃げる事が、どうやら許されなかったようなのである。

 六之助は、気が付いたら、中世ヨーロッパ風のこの異世界にたどり着いていたのだった。

 そう、このロックという男は、実は異世界(この場合、地球を表す)から流れ着いたのである。東京という名の人々が忙しく行き交う世界、人々が頭や心、体を忙しすぎるほど忙しく動かしまわる殺伐としたその場所で死を覚悟したことで、この世界に流れ着いてしまったのだ。

 ああ、死ぬのなら、崖からの海への飛び降り自殺ではなく、首つりならば、完全に死ねたのに・・・。そう思いつつ、冷水に打たれるロックの姿は、生きながら死んでいるようで、即身仏のミイラのようである。

 海に流れ着いて気を失っている六之助を助けたのは他ならぬ自分の霊能の師匠、クリフであった。

 実はクリフはまだ17歳なのだが、六之助以上にかなり心が成熟しているように思える。実際、この世界の成人年齢が15歳であるから、この世界の17歳は、日本の17歳よりもかなり大人びた内面を持っている事は確かであろう。ロック自身の霊感もかなり強いという事が分かった時、彼はクリフの弟子となる事を選び取った。


 六之助は自殺に失敗し、この世界に流れつく前の悲惨な自分の人生を走馬灯のように振り返りつつ、その止まる事のない、精神修行に欠かせない自然のシャワーを全身で浴びていた。

 自分の人生は、何なんだろうか?日本からこの異世界へ流れ着き、霊能者のクリフと出会ってからも、六之助は未だに自問自答との戦いである。


 六之助は、ずっと引きこもりをしていたのだった。あの、何とも言えぬ独特な孤立した恐怖感にも近い悲しみの感情が、滝行をしている六之助の体全体を貫いた。

 六之助は、大学を卒業して就職を試みてとある会社の事務職に就いた。だが、なぜか電話対応で同時に二つの事をこなせずにいた。電話対応しながらメモを取る、というような事は、六之助にとっては魔法のような事で、いくら頑張ってもできなかったのである。

 また、相手の言っている事が理解できない時が彼には多々あったりもした。そして、場違いな発言を取り、しょっちゅう人を怒らせてしまったり、といったような生活の中、迷惑な存在として、彼は会社を辞めさせられてしまったのである。

 そうした中、精神科という少しだけ魔法の世界の様な場所に救いを求めたのであるが、脳のスキャンを取り、それが正常だったために、精神科医は六之助を正常な働きができる普通の人である、と診断したのである。それは、救ってくれるはずの精神科という秘密の花園から見捨てられた六之助にとっては、とてつもなく悲しい出来事だった。

 それでも六之助は、決して人生をあきらめるような事はしなかった。何とかなる!自分にはできるっ!そう一念発起して、再び別の職に就いたのであったが、そこでも場の空気を読んだり、阿吽の呼吸が分からず、人の真意をくみ取れなかったりしたために、職場の人々の、六之助に対する目線が、徐々に冷たいものに変わっていった。

 また、過度の緊張状態が続き、人の言葉が聞き取れない事が多い六之助だが、極限までそこの会社で頑張った。

 だが、現実という名の悪魔が、六之助に襲い掛かったのである。六之助は、仕事もできず、人間関係でも場違いな発言をして、人を怒らせる事等ばかりだったために、またしても、会社を首になってしまったのだ。

 それからも六之助は頑張り、様々な職についてみたが、一度としてうまくいった事がなく、首になる。六之助の人生は、会社を首になる事の繰り返しだった。そのような事が延々と地獄のように続き、いつしか彼は、完全に自信を失っていった。

 ・・・・・・自分は、他の人ができるような事ができない・・・・・・!そのような絶望的な感情がピークに達したのは、六之助が36歳の誕生日を迎えてしまった夜の事である。

 彼は眠りについた家族を起こさぬよう、そっと家を出て、一人薄暗い海へと向かった。そして暗い闇の様な海に、吸い込まれるように落ちていったのだ。六之助は断崖絶壁から飛び降り、一人自殺を図ったのだった。


 だが、六之助は死ぬことができなかった。このクリフたちのいる、日本でも地球でもない、不可思議な魔法の存在する世界に流れ着き、一命を取りとめてしまったのである。

 自分が生き残ってしまった事に落胆し、一人浜辺で打ちひしがれていると、クリフと称する17歳程の赤毛の青年に声をかけられたのだ。


 この頃、海に出る亡霊の難事件を解決しに、クリフがこの場所を訪れていた矢先の事である。


 それから六之助は、この世界にあわせて「ロック」と名乗るようにして、クリフと行動を共にしている。

 クリフとはかなり年齢が離れているのだが、ロックは、クリフの弟子として霊能者を目指すように、今は彼について修行中の身である。

 いつものように、滝行の最中にまた、悲しい日本での思い出の記憶が沸き起こってきてしまったので、ロックは、その場から逃げるようにして滝行を終わらせ、師匠であるクリフの姿を探した。


 「うっひょぉぉぉぉ~!♡見える見える、よぉぉ~っく、見えるぞぉぉぉぉ~~~!やっぱりこの望遠鏡は、高かっただけあって、細部まで、見え見えだぁぁぁぁ~~♡♡♡」

下品な声を聞いた時、ロックの口からは、ため息が漏れた。

 「師匠、また、女の子の着替え、覗いているんですか?」

ロックの方がクリフよりもかなりかなり年上なのだが、それでもクリフは自分の霊能の師なので、36歳のおじさんだが、17歳の青年に敬語で話す。

 クリフは今まさに木に登り、一つの建物の部屋へと望遠鏡を向けている。

 「やっぱり女の子は良いなぁぁぁぁ~~~。オレも、何としても、可愛い娘をゲットするぞぉぉぉ~~~!」

そんな陽気な発言で浮かれているクリフに対し、ロックは、少しだけ冷めた口調で木の上のクリフに言ったのだ。

 「水をさすようですけど、師匠。確か、師匠の背後には水子霊が999体、女性の色情因縁霊が1000体以上連なって憑いているんで、女の子には、縁が無いはずじゃあ・・・・・・。」

 「え~い!それを言うなっ!オレの師匠にそう言われてるけども、たとえそうであろうとも、オレは、絶対に美人でかわいい女の子を恋人にする事、諦めてないぞっ!」

そう言うクリフに対し、ロックは少し不思議そうな表情で言った。

 「その水子霊と女の色情因縁霊、師匠自らが取る事はできないんですか?」

 「ああ、・・・・・・それは無理だと言われてる。オレはどうやら過去世で海賊だったらしく、沢山の女の子を犯し、沢山の悪事をはたらいて、そのバチが当たってそいつらが憑いているらしいんだ。それで今生は霊能者になって、人を救うようになっているらしい。

 オレは女性運はまるっきりダメだが、ババ運と男運はとても良いって言われてる。まぁ、そんな運、いらねぇんだがなぁっ・・・・・・。」

クリフが少しため息まじりにそう言うと、ロックは言った。

 「でも師匠、ババ運が良いって、良いことじゃあないですかっ!?」

 「何だとっ!?しわしわのバアさんにキスを求められたりする、その恐怖をお前は知らないから、そう言える!しわしわのバアさんとしかイチャイチャできないその不快さは、お前には分からんだろーがっ!」

 「でも師匠。年上の女性は、それなりに沢山の経験をしてきて、色んな面で、支えになってくれる温かな存在ととらえると、素敵な事だと思うんですが。」

 「何が素敵だっ!年上すぎるんだよっ!しわしわのバアさんばかりにもてるわけだからよっ!だが、オレの師匠にそう言われてたって、オレは絶対に若い女の子の恋人を何としても作ってみせるぞっ!」

そう勢い込んで言う師であるクリフに対し、ロックは、ちいさなため息をつき、仕方なさそうに言ったのだ。

 「はいはい、・・・・・・分かりました、よ。」


 こうしてロックとクリフが実にくだらなすぎるやり取りをしていると、空から小さな白い存在がこちらに向かって飛んできたのだ。

 それはみるみる大きくなり、ハトの姿となり、クリフの右肩にとまったのだった。


 「うっひょぉぉぉ~~~♡ねぇちゃん、下着、刺戟的すぎぃぃぃぃ~~~♡♡♡!」

クリフときたら、右肩に白いハトが止まっているにもかかわらず、ハトの存在を無視し、女の子の部屋をのぞくという動作を繰り返していた。

 ”クルッーーー!”

 ”ドツン、ドツン、ドツンッ!”

ハトも無視され、頭にきたようである、クリフの首を思いっきり、そのくちばしでついばんだ。

 「うわっ!痛ってぇぇぇ~~~!」

クリフは何か鳥が右肩にとまっているのを分かっていたにもかかわらず、無視していたのだが、そこで右肩の白いハトを睨みつけ、言ったのだ。

 「こぉら~!オレ様の快楽タイムを邪魔すんじゃねぇぇぇぇ~~~~~!邪魔すっと、てめぇ~を、丸焼きにして食っちまうぞっ!」

クリフは低い声で右肩にとまるハトに向けてドスをきかせると、

 ”クルックー!”

そのようなクリフの態度に、ハトは陰気な目つきで彼を睨みつけつつも、使命感を帯びた目で、自分の足についている小さな手紙を示したのだ。

 「ゲッ!こんな素敵なエロエロタイムの時に限って、仕事の依頼かよぉぉぉぉぉ~・・・!あ~あ、めんどくせぇなぁ~・・・・・・。」

クリフはいかにも面倒くさそうな表情で、伝書バトについている、その手紙を取った。

 そのようなクリフに対し、ロックは羨ましさの入り混じった輝きを宿す瞳にて彼を見つめ、言ったのだ。

 「師匠!お金になるきちんとした仕事が来るって、めっちゃ、喜ばしい事じゃあないですか!?」

 「ああ、お金になるのは良いんだが、このようなオレの大切な時間帯に来るのは、ちょっと・・・・・・」

そう面倒そうに言いつつ、クリフは、その手紙を開きはじめた。

 このように、普通に仕事が入ってきて、一人前の生活をしているクリフを羨ましそうに少しの間見つめていたロックであったが、自分の引きこもりの頃の体験をクリフに重ねて見ている自分の事が少し恥ずかしくなり、木の上に登っているクリフから目をそむけた。

 ロックは、お金になる仕事を日本で行おうとしていたのだが、ことごとくダメになっていたのだ。それをいつもこの青年クリフは、難なくこなしている。そのような姿を見て、いつも羨望の入り混じった悲しげな瞳でクリフを見つめるロックだった。

 しばしの間、ロックが自分の世界の感傷に浸っていると、

 「おおっ!」

木の上のクリフがいきなり声をあげたのだ。

 「この手紙、ピンク色で香水がつけてあって、差出人がイズラとなってるっ!これはこれは、若い女の子だっ!やっほっほ~~~♡!」

 ”ドスンッ!”

 「うぁあ、痛ってぇぇぇぇ~~~~~!」

クリフは若い女の子からの依頼ということで、かなり興奮し、その興奮した勢いで、木からまっさかさまに落ちたのだ。

 だが、このクリフという青年、かなりの変態体質なので、ケガなど全くしなく、木から落ち、地面に穴があき、その穴の奥底に彼の体は、落っこちてしまった。

 「師匠、大丈夫ですかぁぁぁ~~~~~!」

ロックがかなり深くあいた穴の奥底に向けて呼びかけると、クリフは

 「ああ、大丈夫!これしきの事でへこたれてたんじゃあ、ギャルをゲットできねぇぜっ!今から上がってゆくぜぇぇぇぇ~~~~~!」

そう言うやいなや、変態のクリフは、自分の首をろくろ首のように長く長く伸ばし、伸ばしたらアゴを穴の入り口につっかけ、それから首を短くして体を引き上げ、この穴から脱出したのである。

 その異様な光景に、もう慣れっこになっているロックは、表情一つ変えずに見ていたのであった。


 

 


 

 

 こんな変態な彼、クリフに難事件なんてもの、解決できるのでしょうか?

 少々不安であります。

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