オレンジ色の髪で…以下略 海竜(の守護する地)編
暇。暇だー…。
ゲームの新作も漫画や小説の新刊もない、アニメも終わっちゃったし読んでるWeb小説の更新も止まってる…いい感じに全部重なって実に暇だ。あまりにも暇なので八竜の所に遊びにきてみた。
ら、どうやら話し合いをしているようで上も下もない淡いクリーム色の不思議空間に八人は居た。
「少しだけど、バランスが崩れ始めたみたいだね」
「そうだな、海竜の所が少々強すぎる。力を殺がねば」
「確かに。なら俺のとこだし大津波で…」
「はいはーい!私も混ぜて!」
各々がびっくりした顔をして私の方へ顔を向ける。
いやー、中断させて申し訳ない。
まぁ、真剣な話し合い、ましてや世界の調整の話になんか普段は口出ししない。
けど本当に本当に暇なんだもんさ。
「力…勢力を弱めればいいんだよね?ちょっと時間かかるけど私にさせてくれない?」
「太陽…貴方が下に降りたら人間達は…」
「だいじょーぶ。人間なんて山の大きさは分かっても、宇宙の大きさは理解出来ないよ」
心配そうな顔をして私に言葉を返した水竜。
月に似て慈愛に満ちてるなぁ、ホント。
「海竜」
「は、はいっ!」
私が名前を呼ぶと海竜は緊張した顔と声で背筋を伸ばした。
お洒落な海竜は貝を使った髪飾りや耳飾りをしていて、それらがシャラリと音を立てる。
そんなに緊張しなくても、と笑ってしまった。
「ちょっと私に貸して欲しいな。最悪、首都をなくす程度に抑えるから」
「う…そ、その程度なら…」
八竜にとって大切なのは世界のバランスをとる事であって人間達の主要都市を守る事じゃない。
渋々ではあるが、完全な否はないらしい。
- - - -
はじめに太陽と月があり、太陽と月は世界を作った。
やがて世界に生命が芽吹くと彼らは世界の守護神として八頭の竜を作った。
竜達の強い加護の地に人が集まり国となった。
その中の一つ、海竜の守護する国が我が海の国である。
なーんてかっこつけてみるくらいに今、私は上機嫌だ。
なぜなら海竜の守護する地で私が行った事が上手くいっているから。
やる事は簡単。
私は男性体だからBLではあるが、「ひょんな事」から知り合った国の中心人物や海賊達で逆ハーレムを築き彼らもろとも断罪されるだけ。
好都合な事にライバル役に転生、しかも破滅エンド絶対回避!な転生者がいる。
後継者は彼らしかいないから、最後に転生者(女性)一味を消してしまえばこの国の勢力は落ちるだろう。
ちょっとした仕掛けもしてあるし…あーもう!断罪の日が楽しみだ!
- - - -
という事でやってきたわくわくな断罪の日。
王城の夜会の会場にて、テンプレ的に逆ハーレムメンバーは衛兵に連れて行かれた。
目の前には真っ赤なドレスを美しく着こなすきつめの女性。
凛とした空気をまとい彼女が口を開く。
「この国の新しい女王としてあなたを許す訳にはいかない。衛兵、この者も…」
「…ふ、は…あは、あっはははは!!」
ああもう駄目だ、あまりにも上手くいき過ぎておかしくて仕方ない。
ついつい腹を抱えて爆笑してしまった。
女王様はわずかにひるんだようだが直ぐに厳しい声で衛兵に命令を出す。
が、それは叶わなかった。
「彼女の懐刀である暗殺者」が私の周りにいた兵士を全て切り殺してしまったから。
今の私は最高のゲス顔で笑っているに違いない。
「ノワール!何を…!?」
「ヴァイス、女王以外狩りつくせ」
「了解した、我が主」
おっと、場の雰囲気に流されてうっかり命令してしまった。…まぁいいか。
漆黒の暗殺者は短く返事をし城全体に魔法陣を展開して女王以外の命を全て奪いさった。
真っ青になり驚きの顔を隠せない彼女にまた笑いが込み上げてくる。
「ノワール…なんで…」
小さく呟かれたのは懐刀だった男の偽りの名。
信じられないのも無理はない。
幼い頃に暗殺を失敗させて以来、彼女を至上の主と仰ぎ恋い慕い続けていた彼の裏切りにあったのだから。
新しい名…ノワールと名付け、たいそう可愛がっていたね。
まぁ、全部私の仕込みな訳だけど。
「よくやった」
「もったいないお言葉です」
傍らに跪くヴァイスの黒く長い髪を指先で掬い褒める。
俯いていて顔は見えないが実に幸せそうな雰囲気が伝わってきた。
髪から手を離し、役者のごとく大げさな程両手を広げ女王に向き直る。
「さて、女王様。協力ありがとう、おかげでスムーズに事が進んだよ」
「協力…?っ…!全部あなたの…!」
「そう、シナリオ通り。いやー、いい暇つぶしになった。うん」
いい笑顔を向けてみたが彼女は気に入らなかったようで、鬼のような顔をして最大火力の魔法を放ってきた。
瞬時に動こうとしたヴァイスを止め軽く手を振る。
それだけで魔法は綺麗に全て消えてしまった。
彼女が放ったのは火の力。火は太陽の属性だ。太陽たる私にそんな魔法が効く筈がない。
「誤解のないように言っておくけど、これは調整の一環だよ。私は存分に楽しんでたけど…海竜が津波で全て流そうとしてたのよりはマシじゃないかな?」
「調整?世界の守護竜とかってやつ?人間はあんた達のオモチャじゃない!」
…凄い自惚れた言葉にキョトンとしてしまった。
えぇー…どう説明しよう。
「そうだなぁ。例えるならこの世界は庭で八竜は庭師、みたいなもの、かな。庭師は庭を手入れするのが仕事で、そこで巣を作る虫の管理をするのは仕事じゃない。て言えば分かる?」
「人間と虫を一緒にしないで!」
うわぁ話通じない。
「主、この者に慈悲は無用かと」
ヴァイスの言葉にショックを受けたように黙る女王。
目に涙を溜めつつ気丈にもこちらを睨んでくる。
もっとも、そんな彼女に感じるものなんて私にもヴァイスにもないけど。
「そうだね。協力してくれたお礼を、なんて思ったけど仕方ない」
肩をすくめると、ノーリアクションで女王の命を奪う。
ついでに『私の力で生み出した』ヴァイスも消してしまう。
現地の人間を使って万一裏切られたら腹立つから、絶対に裏切らないようヴァイスを作ったんだけど…ちゃんと役目を果たしてくれて良かった良かった。
転生者一味はパーティーが始まった時点で消してあるし、あとは放置で大丈夫でしょ。
あー面白かった!
愛しい我が家にかーえろ!