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取り敢えず無事なようなので、放置して敵の方に向き直ると、目眩ましの魔法が解けたようで、1人目の前にいた。
慌てて距離を取ろうとしましたが、少し遅かったようで左腕を剣が掠めた。
相手もさっきワタシ自身にかけた微弱電流の魔法が効いたようで、痙攣して倒れた。
さっきの束縛で仕留めれたのは十程で。
出来るだけ距離を取ろうと、攻撃をぶつけていきますが、大分近づかれていたので、詠唱している時間がない。
中々数も減らず、ちょっと厳しいな、体力も失くなってきた、1回防御を張って、隙が出来たら特大の攻撃魔法を打つか、いやでもそれは後々魔力が失くなって困るな、とか考えていたら、急に視界の端に何かが通り、敵に突っ込んで行く。
何だ…?と思ってよく見てみると、人。
さっき落ちてきた奴でしょうか?
っていうか、素手?
「ちょっと、ちょっとぉ!
あんたら何してんの!
こんな大人数で1人を襲うとかフェアじゃないでしょー!」
と叫んでいる。
大丈夫ですかね、あの子の頭。
戦闘にフェアも何もないでしょう。
馬鹿なのかなー、馬鹿はカルアで手一杯なのに。
でも、戦闘能力は高い。
前衛の割にスピードが速く、次々と気絶させていく。
ただ、絶対に殺しはしない。
意識的にか無意識的にか…
敵がいきなり出てきた子供に狼狽えている内にワタシは距離を取り、あの子に気を付けながら攻撃魔法を連射していき、視界が開けたと思ったら、敵が全員倒れていた。
アイザも倒れている。いつの間に。
前衛って便利だなー、と思いながら、アルミラの王に突き出すために、全員を一旦気絶させ、束縛の魔法をかける。
この人数をワタシ1人では運べないので、運び屋を呼んでおく。
そのうち来るでしょう。
さて、
「あなた、誰ですか」
「オ、オレ?
オレは、ティル!」
「何処から来たんですか」
「シーリア!」
「何歳」
「19!」
「あのワイバーンは何ですか」
「あ、あの子?
あの子はポットって言って、オレの友達!
ここまで連れてきてくれたんだ!」
「友達にしては随分薄情ですね。
落とされてたじゃないですか」
「い、いや、ほら、子供だし!
背中には乗れないから、咥えてもらったら、疲れたみたいで口開けちゃったんだよ!」
「だから落ちてきたと。
いい迷惑でしたよ。戦闘中に降ってくるとか。
あなた、受け身も取れないみたいですし」
「う……、で、でも勝てたし!」
「あなたがいなくても勝てましたけど。
むしろ、邪魔されましたね。」
「な、何で!?」
「あなたに気を取られているうちに敵に近づかれて、怪我したんです」
「え!?ごめん!
どうしよ、薬草どこやったっけ、」
「いいです、自分で治せます」
「レイネー!」
あぁ、面倒くさいのが増えた。
馬鹿は1人で十分なんですけど。
「うわ、人がいっぱい転がってる…
あ、レイネ怪我してるじゃん!
腕貸して!」
と、すごい勢いでこっちに来て、強引に手を取られて回復魔法をかけられた。
「自分で治せるんですけど」
「え?
レイネ、回復魔法苦手でしょ?」
「このぐらいの傷なら治せます」
「そ?まぁ、いいじゃん!
僕たちを守ってくれたお礼ってことで!」
本来なら怪我しなくて済んだんですけどね。
「わぁ、凄い!治ってる!」
「でしょ!
僕、回復魔法が得意なんだ!」
「そうなんだ!
オレはね、前衛なの!」
「武器は?何使うの?」
「ううん、使わない!
おっさんが貸してくれないの!」
「ちょっと待った。
おっさんって誰ですか」
「んとね、第一騎士団の元騎士だよ!」
「名前は?」
「バロンだ」
「あ、おっさん!」
その隣にはシルラ。
知り合いか…?と考えて、そうか、シルラも元騎士だから、バロンとは面識があるのか、と納得。
「バロン先輩、この人がレイネです」
「どーも。レイネです」
「あぁ、ということは、お前か、殿下とシルラを助けてくれたのは」
「そうですね。
こんな大事になるんだったら助けなかったら良かったと、絶賛後悔中ですけどね」
「………感謝する。
そこにいる受け身が取れなかった奴はティルだ。
迷惑をかけたようで、すまない」
「いーえ、受け身の取り方ぐらい教えてやってくださいね」
「あぁ、悪い。
身体に叩き込んだつもりだったんだが」
「馬鹿だから頭じゃ分からなかったってことですね」
助けて損した。怪我もしたし。治ったけど。
「そういうことだ。
ティル、こいつがシルラ。
お前の隣にいてるのが殿下……カルア様だ」
「シルラとカルアだね!
おっさん、殿下って何?」
「そんなことも分からんのか。
殿下とは王子のことだ。
カルア様はシーリアの殿下だぞ」
「でも、王様に子供なんていなくない?」
「今の王にはな。
前王の息子だ」
「じゃあ、逃げて来たんだ」
「そういうことだ」
「で?2人は何しに来たんです?
ティルは逃げて来たと言ってましたが。そもそもなぜアルミラに逃げて来たんですか」
「第一騎士団現団長からだ。
私は殿下がアルミラにいると知っている」
なら、8年前の反乱のときはまだ騎士として働いていたということですね。
となれば、カルアの居場所を知っていてもおかしくはない。
ですが、どうして他の騎士はカルアの存在を今更知ったのか。
恐らく、当時カルアの生存を確認したのはバロンとシルラと当時の団長といったところ。
シルラはカルアとともに亡命し、団長は反乱で亡くなった。
バロンはカルアの生存を誰にも言わなかったんでしょう。
しかし、今になって誰かがカルアの生存を嗅ぎつけ、当時副団長だった現在の団長がバロンのところにやってきたのでしょう。
「何故逃げて来る必要があったんですか。
カルアは亡くなったと言い張れば済む話ではなかったんですか」
「今の2つでどうやってその結論に辿り着いたのか知らんが、ティルは第一騎士団の前団長の子供だ。
元騎士の私が訓練していたし、前団長の子供ともなれば、いまの騎士団が欲しがるのも無理はないだろう。
だが、私は腐った現王に使えさせるつもりはないし、ティルもそのつもりはない。
だから、捕まえられる前に逃げて来たんだ」
「ティルの母親は?」
「騎士団に捕まった。
だが、あいつは自分で逃げることは出来ないが、殺されることはない」
「殺されない、ねぇ……。
なら、放置でいいですね。
現団長は前副団長ですよね。
知り合いじゃないんですか」
「知ってはいるが、私はあいつを好いていない。
あいつは現王に陶酔しきっている。
そんなやつにあいつを渡せる訳ないだろう」
「あー、現王の方が騎士や一部の上流階級の人間には待遇がいいみたいですしね」
「あぁ。
それで?お前たちの方は何があったんだ?」
「おたくの国の騎士が、カルアたちを殺すために情報収集に来たんですよ」
「バレたのか?」
「いや、ワタシの家にいることは知られていませんでした。純粋な情報収集です。
知らないっつってんのに、帰ってくれないからこんなことになっちゃいましたけどね」
「………そうか。
国境付近だからな。
人の行き来が分かるここは、情報収集には適した場所だったんだろう」
「そうでしょうね。
ところで、ティルは素手で戦うんでしょう?
ワタシとカルアは魔術師、シルラは鎌時々銃でしょう。
あなたは何を使うんです?」
「剣だ。
シルラは元々中衛で銃を専門としていたはずだが……」
「レイネと殿下が魔術師ですからね。
俺が前衛の方が都合がいいんですよ」
吃驚した。相変わらず存在感ないですよね。
気配が薄いくせにいきなり出てきたら吃驚するに決まってるんですけど。
「成る程な。
だが、鎌…なのか?」
「一振りで2、3人一気にいけるから楽なんですよ」
「ボロ布のパーカーを着せてフードを被せれば、死神の出来上がりですからね。
敵が慌てて逃げて行くんですよね」
「お前、それが目的だったのか!」