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「取り敢えず、知り合いの情報屋にはそれとなくあなたたちの情報を漏らさないようには言っておきましょうか」
とは言ってもバレるのも時間の問題…
と、その後のことをどうしようかと考えていれば玄関のドアが叩かれる音が聞こえた。
誰でしょうか…、こんな町から外れたところに用なんて…
と考え、1つの可能性が浮かび上がる。
早ければシーリアの騎士はこちらに着く頃。
まだカルアたちのことがバレていなくても、こんな国境付近なら何か情報を求めて訪ねてくるかもしれない。
「シーリアの騎士かもしれませんね。
追い払って来るので、あなたたちは奥の部屋にいてください」
「え、でも、危なくない?」
「あなたたちがいることがバレる方が危ないでしょう。
いいから、さっさと奥に行って来なさい」
と、ぐたぐだ言ってるカルアとシルラを押しやり、玄関の扉を開ける。
……ビンゴ。
「どちら様でしょうか」
「隣国のシーリアの王族直属の騎士団の者だ」
でしょうね、シーリアの騎士団は国の紋章が入った腕章を付けている。
それを見れば一目瞭然なんですが……
「はぁ、そのような方がうちに何の用でしょうか」
「殿下とその護衛の騎士を探している。
何か知っていることはないか」
随分威圧的な態度ですね…
しかし、ワタシたちアルミラの人間は本来、シーリアに殿下がいるなどといったこと聞いたことがありません。
前王の子供は死に、現在の王には子供はいませんから。
馬鹿なのか、鎌をかけてきているのか…
「殿下…?
何のことでしょう?」
「惚けるな!お前はシーリアでも有名な情報屋だ。何も知らないわけがないだろう!」
殺されたくなかったら、吐け、と首に剣を当てられる。
しかし…
「物騒ですねぇ。こんなものを人に当てるなん……って!」
そう言って玄関の扉を開ける前に右手に貯めていた魔法を相手にぶつける。
今のは微弱な電気を走らせた攻撃魔法なので、しばらくは動けないはず。
しかし、カルアたちのことよりワタシの素性が知られているとは…
不味いかもしれない。
「貴様っ…!
何をした……!」
「何って、あなたがそんなもの向けてくるから攻撃しただけじゃないですか。
正当防衛ですよ、正当防衛」
少し距離を取りながら、右手にもう一度魔法をバレないようにため、相手の様子を伺いつつ、どうするかを考える。
攻撃してしまった以上、簡単には帰ってくれないでしょう。
「ワタシはあなたたちの求めている情報は何も持っていませんよ。
今、シーリアに殿下がいることを知りましたし」
さて、どう動くか…
「これは失礼しました。
私の部下が手荒な真似をしてしまったようで」
左腕の袖に1本の青いライン。
第二騎士団の副団長ですか…
また面倒くさそうなのが来ましたね。
「あぁ、私、シーリアの第二騎士団副団長、アイザと申します。
この騎士からお聞きになったとは思いますが、殿下について本当に何も知りませんか?
シーリアでも名高い情報屋の貴方なら、何かご存知ではないでしょうか」
そう、薄ら笑った顔をこちらに向けて言う。気持ち悪い。
「先ほども言いましたが、ワタシはシーリアに殿下がいると、今知りました。それに…」
「本当にそうでしょうか。
私もこの騎士も、シーリアの殿下だとは一言も言っていません。
どうして、シーリアの殿下だとご判断なさったのでしょう?」
「シーリアは王が変わってから同盟国はアルミラだけ。
ここの殿下は利口で、わざわざ他国にまで迷惑をかけるようなことはしませんし、そんな情報もありません。
シーリアとその北と東の国は関係が良好ではないので、双国ともシーリアに助けを求めるとは考えにくい。
そうなると、シーリアには殿下がいて探していると考える方が妥当かと。
そして、その目的は恐らく、殿下の暗殺…ではありませんか?」
「成る程。
しかし、殿下の暗殺とは面白いことを仰る。
後継者が出来るとは喜ばしいこと。
なぜ、そのようなことを?」
「その殿下は本家の人間ではありませんか?
今シーリアを支配しているのは分家の人間。
8年前、反乱を起こしてまで勝ち取った国の支配。
国を継がせるとしたら、同じ分家の人間でしょう。
しかし、8年前全滅させたはずの本家の人間が生きていたら?
今のシーリアは、国民の不満が高まり、不安定なようですしねぇ。
皆、聡明とされてきた本家の、しかも殿下が生きているとなれば、当然国民は殿下側に付くでしょう。
殿下を首謀者にして反乱が起こるかもしれませんねぇ。
となると、国民に殿下の存在を知られる前に殺さなくてはならない。
だから、こうやってお忍びでアルミラに来たんじゃないですか?
でなければ、アルミラの王に、正式に依頼をし、許可を取って探しに来るでしょう。
シーリアの騎士が来る場合、アルミラの情報屋にはすぐにその情報が入るんですが…
その情報がワタシのところに来てないということは、あなたたちはお忍びでやって来ていて、こっそりと殿下を見つけようとしている……
これっておかしくありませんか?
まるで、暗殺でもしようとしているかのような…
そして、殿下なんでしょう?
そんな馬車も用意せずに迎えが来るなんてあまりにも無礼ではありませんか?」
「ふふ……ふははは!
そうです。その通り。
この短時間で情報がないこと、私達の装備からだけで、私達の目的を見抜くとは……
貴方は余程切れ者のようだ。
シーリアでも名高いだけはある。
だが……、私達の目的をそこまで知られては厄介だ。
殿下の情報を吐いてもらって、死んでもらおうか」
「だから、殿下のことなんて知らないって言ってるじゃないですか。
ワタシ面倒事は嫌いなんで、あなたたちの目的を黙っておけって言うのなら、黙ってますよ。
それでも、殺すと言うのなら……
仕方がありません、応戦しましょうか」
それが合図となって、次々とワタシに騎士が向かって来る。
相手の騎士は50人程…
取り敢えず、目眩ましの魔法を使い、その一瞬に、前線にいる数名の足下に地面から足が動かないように束縛の魔法をかける。
そしてワタシ自身にも薄く魔法を張り、触れると先程と同じ、微弱な電気を流れるようにする。
見えていないから、この魔法には気付かないでしょう。
相手に魔術師がいないことが不幸中の幸といったところですか。
そろそろ、目眩ましの効果が切れる。
さぁ、これで何人削れるか…、と考えていたとき…
バサッバサッ
鳥?
にしては随分大きな影だ……
と思って空を見上げると、あれはワイバーンの子供?
何であんな凶暴な魔物がここに…
それに何かが降って……。
「うわあああぁ!」
………人?
色々と突っ込みたいところはありますが……、放置で。
多分自分で受け身取りますよね。
「わあぁぁ!
お、落ちてる!ど、ど、どうしよ!
受け身ってどうやって取るんだっけぇぇぇ!」
〜〜〜あぁ!もうっ!戦闘中に空から人が降ってくるとか何のイベントですか!
目眩ましが切れるまでに間に合えばいいんですけど…。
落ちてくるであろう位置に、地面ギリギリから、シールドのような防御魔法を何重か張る。
そして1枚目に当たる直前に防御魔法に攻撃魔法をぶつけて、順番に壊していく。
そうすることで、壊れたときにおこる風で落ちてくる勢いがなくなり、ゆっくりと着地出来る……はず。
ドサッ
「あぁ〜〜、こ、怖かったぁ!
もう!ワイバーン!急に落とさないでよ!」