40
というわけでナナシの場所まで来てみると、生きた屍がごろごろ転がっていて、思わず苦笑が浮かぶ。
「順調、みたいですね」
この惨状を順調と言うのもどうかとは思いましたが、こちらとしては上手くいってることに変わりはありません。
「おや、もう出てきたのかい」
そうは言うものの大して驚いた様子はない。
「魔物たちに活躍してもらいましたからね、簡単に出れましたよ。
コトハたちはそろそろバロンたちと合流するころじゃないですか」
そうかい、とその報告には興味を示さない。
バロン以外のことはどうでもいいってことみたいですね。
そんな様子に肩を竦め、
「アルミラの騎士と魔術師が数人何故だか来てます。
金に近い茶髪の背の高い馬鹿と焦げ茶の髪のお守りが指揮を執ってます。
こちら側の加勢なので、シーリアの援軍だと思って攻撃しないように指示しといてくださいね」
それだけ伝えに来たと踵を返しましたが、
「亡命するという可能性はあるだろう?」
主語のない問いかけに足を止める。
勿論。でも、
「亡命したとしても行き着くのはアルミラ。
何の問題もありませんよ」
同盟を組んでいるアルミラにしか退路は作られていない。
アルミラに来たら来たでジークたちが対応するでしょうし。
寧ろストレス発散ってマシルたちみたいに嬉々として相手しそう。
そんな頭が痛くなりそうな発想に思わず頭を軽く振る。
そう、とだけ返事をしたナナシはもう話をする気は無い様で、背を向けられた。
仕方がないので、その場を離れまた城の中へと戻る。
ナナシにはああ言ったものの、片をつけるのはシーリアの方がいい。
退路を断つにはシステムをダウンさせて扉を全て閉じてロックを掛けてしまうのが早いだろうか。
全てをロックしてしまうと階段や通路の扉もロックされてしまいますね、それだとバロンたちも閉じ込められる。
退路のところの扉だけ閉じれるようにちょっと弄ってみましょうか。
そう思い、一つ上の階の一番奥のシステム管理の部屋へと急ぐ。
ドアを開けるとそこには勿論管理官たちが。
騎士程強いわけでもないので軽く手刀などで気絶させ拘束する。
それを端へ転がし、起動されたままの機器を操作していく。
監視カメラを見ると王様たちはまだ退路に辿り着いていない。
バロンたち、というかティルが一階と地下との間の階段付近で暴れているのも映っている。
その様子だと王様たちが退路に着く方が早いだろう。
逃す前にと取り敢えず色々機器を弄る。
随分古い型の機器の所為で扱い辛い。
こんなんだから簡単に情報抜かれるんですよ、何て若干いらいらしながら、兎に角色々弄って色んな画面を引っ張り出してくる。
その内の一つに非常と赤く強調されその文字の上にカウントダウンしている数字が映ったものが出てくる。
そのカウントダウンを止め、さっさと消し、他の画面を弄りまた非常の画面が出て消し、というのを数回繰り返すと、見つけた。
ロックを掛ける扉の選択肢。
それを退路の入り口とその一つ奥のところ選択し、実行。
すると気立しいサイレンのような音が城中に響き、低く鈍い音と同時に地揺れが起こる。耳痛い。つかあの扉そんな勢いよく閉まったら危ないでしょ。
その音か衝撃か、で目を覚ました管理官たちが纏まりもなく騒ぎだす。
そんな同時に喋られたら何言ってるか分かんないよ。
煩わしくて声が出ないように魔法をかける。
……声帯潰しただけだし息は出来る、筈。
監視カメラに視線を送ると、王様たちの前を歩いていた全体の三分の一程は入り口とその先の扉の間で閉じ込められている。
あんな狭い空間に大人数いたらすぐに酸欠になりそう……。
自分でやったこととはいえ、少し不憫になる。
その隣の入り口手前を映すモニターには、突然目の前で固く閉ざされた扉に慌てる王様たち。
扉を叩いたり魔法をぶつけたり……。
自分たちで作ったんだからそんなことで壊れない強度だってことぐらい知ってるでしょ。
そこから少し離れたモニターには突然のサイレンと地揺れに驚くバロンたちと、丁度戦い終わったティル。
その足元には無残にも真っ赤に染まった肉の塊。
それはどこがどこの部位か分からない程。
八年前は副隊長、現在はティルの父親の座を奪ったアイザ。
ティルがそこまでしたくなる理由も分からなくはない。
が、ティルがあれだけ簡単に人を殺すことが出来るとは少し意外だった。
魔力も体力も殆ど使い切ったワタシに出来ることはもうこれぐらいで。
バロンたちと合流しても足手纏いになるだけなので、取り敢えずその辺にあった椅子に腰掛ける。
そのときに視界の隅に映った踠いている物体。ワイヤーで縛ってるんだからそんなに暴れると肉切れるよ。
飛び道具とかコトハたちに持って行かせて正解だった、だって使わない。あの人たちも使うか分かりませんが。
何てぼーっと事の成り行きを見守ることにしましょうか。
それから片が着いたのはすぐのこと。
結局ほとんどティルがやった様なもので、他は後ろで援護をする程度だった。
この程度で今まで国が機能していたのが不思議な程の呆気なさ。
それを見届け、先にマシルたちの方へと向かう。
「あ、レイネー!終わったねー!」
と声とともに前から飛びつかれた。重い痛い腰折れる。
「反乱はね。まだ後片付けあるから」
取り敢えず思いっきり頭を叩いて引き剥がしそう言う。帰りたい。
外にも中にも散らばる屍たちをバロンたちはどう処理するつもりなのだろう。
「取り敢えず主犯格のとこ行く?」
「そうね、主犯格ってかもう王様になるけど」
うちの魔術師たちはこっちに残るように指示して、三人でバロンたちのとこへ向かう。
「お疲れ様です」
と合流すると、全員が全員後ろの二人へ視線を向け、誰、みたいな顔をする。
ナナシだけはすぐに納得した顔になりましたが。
その後、皆で寄ってたかってバロンを質問攻めにすると、逃げられた。
仕方が無いので、後片付けは手伝ってあげましょう。
そのためにうちのに待機させてましたし。
じゃないと、このメンバーだけで片付けることになりますから。それは無理。
屍は後で供養できるように一旦部屋に集め、怪我人はまた別の部屋で魔術師たちに手当てを、白旗を上げた人たちは一応拘束し、これまた別の部屋部屋へ。
フランの死体はうちで回収して供養をする。
城の修復はカルアたち元の状態を知っている人たちに任せ、掃除は騎士たちに。
というのが辺りが暗くなった頃に漸く終わる。
反乱より片付けの方が時間かかるってどうなの。
「疲れたー!!帰る帰っていい?」
片付けと後処理が苦手なマシルが一番に声を上げる。ワタシも帰りたい帰る。
その前に逃げてから少しした頃に帰って来たバロン含めたメンバーにマシルとシンの紹介を。
「こっちの煩いのがマシル。マシルのお守りがシン。
マシルが騎士の代表で、シンが魔術師の代表。
うちに来た時はこの二人ともう一人魔術師代表のジークが出迎えてくれます」
うちには魔術師が多いから一人では纏められない為、代表を二人選出する。
「お前は?その二人と仲が良いのを見ると何か役職でもあるんだろう」
「あぁ、参謀です。時々情報収集も」
それで情報屋か、その呟きににっこり笑い頷く。
「さ、そろそろ帰りましょうか。
ワタシも溜まってるだろう仕事をしないといけないでしょうし」
そう言うと分かりやすく、動揺した二人を殴ってマシルの馬の後ろに跨った。




