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「それはいつのこと?」


捨てられた時?それとも親が目の前で死んだとき?そう短剣を拾いながら言い、視線を合わせる。


その眼の色は青。

顔立ちとかは割と似てる方だけど、そこは似なかった。

というか俺が違うんだけどね。


元々俺の家系は騎士。

前衛か中衛か後衛かはバラバラだったが、アルミラでは数少ない騎士一家として有名だった。

そしてその家系に生まれた人間は皆眼が青かった。


そんな中魔力を持った俺が生まれて。眼は黒かった。

騎士同士の純血ばかりが結婚しているのに、魔術師が生まれるのはあり得なかった。

俺が魔力ランクが高ければまた違ったんだろうが、ほぼCなんだから疎まれるのは当然だった。


親はよくそれで喧嘩していたし、ずっと虐待だって受けてきた。

そんなに嫌なら魔術師と分かってすぐに消せば良かったのにと思う程に。




そこで城全体に響き渡る轟音で思考が遮断された。

どうやらバロンたちが到着したようだ。

この音は魔物達が暴れる音だろうか。

そう思うと無意識に口角が上がっていたらしい。


「何が可笑しい」


「いや、もうすぐでお前たちも終わりだなぁと思って」


そう言うとあいつの眉間に皺が寄る。


「反乱でも起こすつもりか。だとすれば、」


カルアが首謀者か、そう呟いた。

流石。察しが良いね。

俺が否定しないのを見て溜め息を吐いた。


「ならお前はどうして参加した。

アルミラの人間なんだから関係ない筈だろう」


「偶然カルアたちを拾ってそのまま任務になったってところだね」


「騎士でもないのに宮で働いてるのか」


「あなたが出て行った所為で俺しか後継ぎがいないからね」


勿論情報参謀としてだけどね。

一応師団には入っているものの、戦闘に加わることはほぼない。

別に加わってもいいんだけど、あいつらが絶対止めてくるし。


「なら俺が戻ればお前の居場所は無くなるな」


そう歪んだ笑みを浮かべながら言う。

本当いつからこんな歪んだんだか。


「無理だよ。だってお前はここで死ぬんだから」


「俺が死ぬ?戯言を。死ぬのはお前だ」


と言い切るかどうかに斬り込まれる。

取り敢えず短剣で受け止めたものの、あんまりこんな斬り合いをしてたら俺が保たないしね、どうしようか。


ふっと身体を後ろに引き、体重をこっちにかけていた所為でふらついたあいつの剣を持っている側の手首を掴み、

思いっきり熱を与え火傷させる。


小さく悲鳴を上げて剣を落とし、左手で右手首を抑える。

そんなことしたって痛みは無くならないと思うけど。

そのまま魔法弾を連射して畳み掛けたものの、剣をさっと左手で拾い、それはほぼ避けられる。

当たったとしても掠るぐらい。

やっぱり運動神経いいよね、騎士って。


避けた先に氷を突き出させても剣を床に刺してバク宙して躱したり、割ったりで中々当たらない。

魔法弾の一つを跳ね返され、思わず避けると同時に攻撃の手が止まった。


すると、直ぐに斬りかかってくるのは分かりきったことで。

つか何で剣で魔法を弾けるんだ。魔法耐性でもしてんのか。

取り敢えず最小限の往なしたり躱すものの、全ては完璧に避けきれず、小さな傷が増えていく。

結構不味い。魔力もそこそこ使ってるし。


だけど、あいつももう右手は使えなさそうだ。

だとすれば左手も潰してしまえばあいつは戦えなくなる。

手始めに電流を流そうと魔法を使うと、何かを察知した様に直前に避けられた。

思わず舌を打つ。騎士には魔力の流れは見えない筈なのに、どうして避けれた?


「お前魔法を使う時に左手が軽く動くな」


心の声に答えるかのように言われた言葉。

この短時間で癖を見抜かれた。

だけど、その弱点を教えちゃうってどうなの。

確かに癖だから簡単には治せないけども。


俺も大分息が上がってきたが、あいつはあいつでさっきの火傷が痛むのか眉間に皺を寄せ、汗が流れ少し息が上がってる。

どっちが最期まで保つか。


「どっちも、と言うかその後もだな」


何を唐突に、あぁ、"いつ"の答えか。


「そう。取り敢えず俺は死んでると思ってたってことね」


「そうだな。だってお前は要らない子だろう?

一番始めにお前を殺せと言った筈なんだがな」


まさか未だ生きてるとはな、そう嫌悪感を前面に出した表情をする。

要らない子は母様の口癖だったな、なんてこいつと話すと嫌な記憶しか出て来ない。


「どうしてあの人たちまで殺したの」


要らないのが俺ならあの人たちを殺す必要は無かった。

あなたには優しかったんだから。


「あいつらの所為でお前が生まれたんだ、殺すのは当然だろう」


生みたくて生んだんじゃないし、生まれたくて生まれてきた訳じゃない。

それでも、


「お前の所為で全部壊れたんだよ」


そう言うこいつも俺の所為で壊れたのかもしれない。

その言葉に目を伏せた俺に斬りかかって来る音がする。


「そう。それでも今は俺を必要とする人だっているんだよ」


そう言って目を開けると剣の切っ先は目の前。

それを左に躱すと避けられないと思っていたのだろう、目を見開く。

風を裂いただけの剣を持つ左手の手首を切り落とす。


「終わりだね、フラン兄さん」


その痛みに耐え兼ね崩れ落ちた兄さんの首に短剣を当てて言う。


「痛い?心配しなくてももう直ぐその痛みだって感じなくなるよ」


「お前は親を恨んだことはないのか」


そう途切れ途切れに聞いてくる。

そうだね、


「そりゃ、あるよ。

でも、だからって殺していい人達じゃなかった。

あの人達はあんなでも国の重役だったし、騎士として必要だったでしょう」


それを兄さんはいとも簡単に殺させ、人に罪を負わせ、自分は逃げた。

本当は兄さんがあの家を継がなければならなかったのに。

俺よりも親よりも兄さんが一番の大罪人だよ。


そう答えると、諦めたように俺に兄さんが使っていた細剣を渡す。

それを素直に受け取ると、


「お前も知ってるだろう。

これはその短剣と一緒にあの家に受け継がれていたものだ。

あれだけ短剣を使いこなせたんだ、これだって直ぐに使い熟せるようになる。

さぁ、さっさと殺せ」


そう言う。

短剣から細剣に持ち替え、構える。


"悪かった"

最後に聞こえたのは謝罪の言葉だった。








あの後バロンたちの元へは向かわず、城の外へ出る。

魔物とソラトの兵だけにしてはシーリアの減りが速い気がする。

何があったのか、と遠くから眺めてると、ものっ凄いテンションの高い声が聞こえてきた。あぁ、あの馬鹿か。


「ちょ、待て待て!お前は暴走するな面倒くさい!」


馬鹿が来てるとなると、やっぱりお守りも来てるよね……。

首根っこ掴まれて動きを止められてる馬鹿たちの元に後ろから近付き、馬鹿の頭を思いっきり叩く。


「いったあああああああ!!」

「うぉっ!」


その声に吃驚して手を離したお守りと、衝撃に蹲る馬鹿。


「あぁ、レイネか。吃驚した」


「痛い!ねぇ痛いんだけど!」


「うるさい馬鹿」


ちょっと久しぶりに会ってその仕打ち酷くない!?とか騒いでる馬鹿は放っといて、


「シン、どこまで連れて来たの」


そう聞くと、分かりやすく肩を揺らして目を逸らす。


「え、と、第一の半分ぐらい……?」


全員じゃないだけマシか。

そもそも第一じゃなくて良かったけども。


「上は?二人だけ?」


「あ、うん。ジークはアルミラに残ってる」


「そ。で、お前らはアルミラが平和で暇だから、この機に乗じて暴れに来たと」


「そう!でも弱くてつまんない!」


まぁ、そうでしょうね。

統率も取れていないし、魔物にも殺られてるからね、物足りないでしょ。


「ま、殺さなければ好きにしていいよ」


「レイネは?どうするの?」


「主犯のとこに合流しに行くわ。

その前にソラトの兵士の将軍に話通しに行かないと、か」


行ってくるわ、と言ってマシルたちと別れる。

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