34
「彼ら?他にもいるのね〜」
「ティルもバロンもいますよ?」
「……あいつらに巻き込まれたのね?」
物凄く意外だ。能天気な割に頭はティルと違って良いらしい。
軽く頷いたと同時にまた部屋の扉が開く。
そこにいたのは騎士を数人連れたシーリアの現国王で。
「貴様ら二人か。
余計なことを企てているというのは」
先程までの話は聞こえていなかった様子の国王が言う。
余計なこと、と言うのは反乱の事でしょうかね。
シーリアにとってはとても有益な事だと想いますが。
「魔術師はどっちだ?」
「ワタシですが」
「ちょっと着いて来い」
他はゆっくりしてろ、と言うので渋々立ち上がる。
ワタシはゆっくり出来ないのか。
行き着いた先は最上階の国王夫妻の寝室。
え、ワタシは回復魔法ほぼ使えませんよ?
そんなワタシの心配虚しく扉が開けられる。
当然そこには王妃がいて。
「あら、貴方、お帰りなさい。
そちらの方は?」
「あぁ、紹介する。
魔術師の……、お前、名前は?」
「レイネです」
「レイネさん、ね?
どうぞよろしくお願いしますわ」
彼らの体勢は、国王が後ろから王妃を抱き締めている状態。
ナチュラルにいちゃいちゃしないで欲しい。
対応に困ったのでお付きの人に視線をやると、苦笑された。えー。
「で、何故ワタシはここに連れて来られたんでしょう?」
適当にその辺のソファに座って背凭れに体重をかけながら声をかけると、図々しいと思ったのか何なのか、口許を引き攣らせたものの、特に何も言うことなく話を始めた。
「という訳だ」
それから暫くよく分からない惚気も混ぜられながら、記憶障害の経緯を聞いた。長い。惚気の所為で長かった。
ま、予想通り王妃が騎士たちを眠らせるのに失敗して自分が後遺症を患うっていう馬鹿な話ですよね。
で、その後遺症を治せということらしいですが。
しょうがないので、取り敢えず試してみたものの。まぁ、当然治らない訳で。
「やはりあの餓鬼じゃないと駄目だということだな」
その様子を見ていた国王がポツリ呟く。
「あの餓鬼?」
「カルアだ。前国王の息子のな。
お前もあいつといたんだ、知ってるだろう」
何故それが分かっていて簡単に記憶障害の話をすることが出来たんでしょう……。
一応国家機密でしょ、それ。
「まぁいい。
お前らがいればあいつも近々釣れるだろう」
「もし彼がワタシたちを助けに来なければ?」
「勿論処刑だな。
反逆者なんだ、当然だろう」
寧ろまだ生かしてもらえてることに感謝するんだな、と言われますが、全部あなたたちの都合じゃないですか。
そもそも殺されるって分かってたら捕まってませんよ。
「そうですか。
もう戻ってもいいですか?」
随分潔いなと返される。
だって殺されないですし。
「待て、お前レイネと言ったな?」
「そうですけど?」
「何処かで聞き覚えがある名だな」
「情報屋ではないでしょうか」
空気と化していたお付きのひとが言う。正解。
気付かなくて良かったんですけど。
「あぁ、成る程な。情報屋か……。
ならあの餓鬼以外で治す方法を知らないのか?」
「さぁ。記憶障害の治療法はまだ研究段階ですからね。
カルアでも治せるか分かりませんよ?」
「役立たずだな。
もういい。部屋に戻れ」
そう舌打ちされて、強引に部屋を追い出された。
お付きのひとにまた案内されて部屋に戻る。
周りの景色を確認しながら調べた地図と差がないか、確認しながら視線を移しながら歩く。
この通りは変更なし、ですか。
「ワタシたちはこれからどうすれば?」
「特に何も指示がありませんので、部屋で好きにしていただければ。
部屋から出るのは禁止ですね。
食事なども全てお持ちします」
設備が完備だからあんな豪華な部屋が当てられた訳ですか。
「では十二時頃食事をお持ちします」
とワタシが部屋に入ったのを見届けて部屋から去って行った。
戻って来たはいいですが、どうしましょう。
この部屋防音なので、通信出来るのはいいですが、動き回れないですし。
つか、視線が痛い。
「何でしょう」
「何の話だったのー?」
そう率直にソルナさんが聞いてくる。
ルカにも一応伝えておくために左手首に手を翳すと。
『何かあったのか?』
「過保護か」
第一声がそんな心配そうな声て。
吃驚したわ。
『うるせぇよ。
……その様子なら大丈夫だな。
で、どうした?』
だから過保護か。
「王妃の記憶障害の話です。
やっぱりね、あの魔法使ったみたいですよ」
『で、失敗したってか』
「そ。あれは禁忌の魔法でしょう。
罰を受けたみたいですよ」
『割と普通に使ってる俺らが言うのもなんだがな』
「そうなんですけど。
要は自業自得ってやつですね」
『そう言わざるを得ねぇな。
罰も知らずにあの魔法を使ったのが悪い』
「こっちの報告はそれぐらいですね。
そっち何かありました?」
『いや、特に……、あぁ、ナガルがソラトの兵士たち連れて来てるとこで、ティルの叔父のとこ行って、ティルの親父の形見取りに行くところだ』
「結構変化ありますよね、それ。
つか、ラルさんか」
一人で国民守った人でしょ?と返すと、何でも知り過ぎてて引く、と返された。今更。
「それで思い出した、ソルナさんも一緒にいます」
『ソルナって誰だ?あぁ、ティルの母親か』
あの馬鹿がお母さん!?とか叫んでそうですね。
「そうです。王宮四階十五です。
ラルさんに伝えといてください」
『四階十五……、有ったここか。分かった』
「そういえば資料あれで足りました?」
『ドン引きだ』
どんな返事だ。足りたか足りなかった聞いてるのにドン引きって何だ。
さっきから引き過ぎでしょう。
「あそ。
後、こっちに来るタイミング教えてくださいね。
少しぐらいなら騎士たちこっちで何とかするんで」
『何とか』
「何処かの部屋に閉じ込めるとか」
『あー、その手が有ったか』
「眠らせるのは無理でしょ、時間的に」
『そうだな。
けど、お前ら自由に動けないのにどうやって部屋に集めるんだよ?』
「騒ぎを起こしてみるとか」
『それお前らが危なくね?』
「ソルナさんいますけど。
ラルさんも来るし」
あー、そうかティルの身内だもんな、規格外だよな、と納得してる。
遠い目してそうだなぁ……。
じゃあ後よろしく、と言って通信を切ると、
「あの魔法ってー?」
そうか、そこからか。
「睡眠魔法です。
八年前に王妃が反乱の時に使った魔法ですよ」
「その魔法を使うと記憶障害になるってことー?」
「使い方によりますけど。
あの魔法には使われた方に少なからず後遺症が出るので、禁忌とされてるんです。
そういう魔法には罰が付いてて」
「罰?」
「魔術師はそう呼んでます。
禁忌の魔法を使った時にその分の報復が返ってくるんです」
じゃなきゃ、いくら禁忌と言っても簡単に使えるでしょ?
「あぁ、そうゆーこと」
「……王妃は?」
「知らなかったんじゃないですかね。
普段自分で魔法使うなんてこと無いでしょう?」
どの魔法が禁忌か分かってなかったとか、そう付け足すと、二人とも納得した様に頷いた。
ご理解いただけたようで。
そこで、ドアを叩く音がして。
「昼食をお持ちしました」
そう言って数人が入って来る。
その手に持つのは随分と豪華な料理で。
見るだけでお腹一杯になりそうな量。
ソルナさんが大食漢というのは本当でしたか。
「一時間後片しに来ますね」
そう言って大きなテーブルギリギリに並べると出て行った。
駄目だ、食欲湧かない。




