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魔法の防御をする術を知らない騎士たちはもろに火の球を受け、辛うじて避けた騎士たちも束縛にかかって動けなくなる、というのでやっと半分まで減りましたが。
残っているのは二番隊と三番隊の団長、副団長で。
ここからは一筋縄ではいかない。
休憩しているうちにルカが魔法弾を連射しても全部剣で弾いていく。
足止めにはなってるから十分なんですけどね。
一気に片付けるために水で覆うように騎士たちを飲み込む。
中にいる者は勿論息が出来ずに踠いていますが。
「魔術師の癖に前衛も出来るとは、面倒ですね」
「、」
いつの間にか目の前に来ていたアイザに左肩を思いっきり抉られた。
そのお返しに腹に短剣を突き立てたものの。
唯でさえ体力ないのにこの出血量は、ねぇ……。
神経がやられていないのがまだ不幸中の幸いですか。
抉られた拍子に水は弾けてしまい、騎士たちは濡れたぐらいでダメージは特にない。
短剣を抜き、思いっきりその傷のところを蹴り上げ、電流を纏わせた魔法弾をぶつけたので、アイザは戦闘不能でしょうが。
この傷じゃワタシも碌に動けませんね。
そんなワタシたちの様子を見てルカが舌打ちをしながら、濡れている騎士たちのところへ電気を床に這わせて流す。
勿論濡れ鼠の騎士たちは感電してバタバタと倒れていく。
これで残り四分の一。
だけどまだ三番隊の団長、副団長が残ってる。
「やってくれるね。アイザさんまで倒すなんて。
だけどレイネさんはそろそろ限界かな?」
血が止まらないせいで、頭がフラフラして立っていられず、膝をついて傍観していて。
このままじゃ動けそうにないな、と思っていたら、左肩に光が当たった。
振り向くと、ルカが回復を使っていて。苦手な癖に。
傷は完璧に治らないものの血は止まった。
これ以上出血していたら死んでたかも。
「おやおや、そちらの彼は回復も出来るようで。
面倒なコンビだね」
そんなことを言う副団長に返事を返すこともなく、貧血に見せかけて、いや実際貧血だけども、床に手をついてバレないように、また騎士たちを囲むように円を描いて。
それを元にドームを作る。
そこから漏れた人はルカに相手してもらって。
そのドームの中の空気を抜いていく。
勿論中の人たちは呼吸出来なくなって倒れていく。
それが終わってルカの方を見ると、まだ複数残ってますからね、やはり押されていて。
その騎士たちには鎌鼬を飛ばして、コントロールも碌にせず斬り刻む。
家が大分荒れてますけど。
そこは目を瞑ってもらって。
これでやっと三番隊の団長と副団長のみに。
「へぇ、魔術師二人でここまでやれるとは。
このまま殺してしまうには惜しい人材だ」
そう言いながらも剣を抜いてこちらに近づいて来る。
深傷を負って、この二人を相手するのは荷が重い。
今更ですけど、シルラとか連れて来れば良かったですかね。
「どうしてワタシたちを殺す必要があるんです」
「私達に背いたから。
それだけで十分な理由です」
そう言って振り下ろしてきた剣を何とか避けて、蹴り上げる。
軽々と避けられたものの、少しは距離が出来た。
「団長の許可は下りてるんですか」
そう言うと一瞬だけ動揺した隙に、剣を蹴り落として、そこから動けないように足元を凍らせる。
諦めたように手を下ろした副団長は、
「……何故私が副団長だと?」
そう言う。
団長の一歩後ろで控えていたところとか、先に動いたのとか、
「あなたたちの立ち振る舞いを見ていれば何となく分かるもんですよ。
で、許可下りてるんですか」
そう言いながら団長を見る。
副団長もそちらへと視線を向けた。
本人は目を右往左往させていて、許可していないことが一発で分かる。
「甘い、って他の団員に言われません?」
そう言いながら魔法弾を浴びせる。
流石の身体能力で全て弾かれ傷一つ付きませんが。
「……そうですね。
では、貴方達を殺すことにしましょうか。罪状は反逆罪」
と飛びかかってくるものの、もう遅い。ルカが魔力を貯める方が速かった。
ワタシに剣が当たる寸前で水に飲み込まれる。
そしてワタシの隣まで来てその水に触れて電流を流そうとしたとき。
肉の抉れる音が隣から聞こえた。
振り返るとワタシたちの後を着けていた騎士がルカの腹に剣を突き立てていて。
そいつは水が弾けると同時に剣を抜いて、団長を担いでそのまま出て行った。
何でワタシたちにトドメを刺さなかった……?
しかも副団長放置ですし。
まぁ、いいか、それよりルカの傷を塞がないと。
貫通している傷を完璧に治す程ワタシも魔力は残っていないので、出血だけ止める。
「ってぇな……」
「あ、意識はあるんですね」
てっきり気絶してるかと。
「あぁ、何とかな。
つかこの屍どうするんだよ?」
そう言いながら立ち上がって部屋を見渡す。
副団長以外は多分もう死んでるでしょうね。
「その前に眼鏡取ってきたらどうですか?」
「……それもそうだな。
もうこのまま行くだろ?」
「そうですね。
服が破れてるのを隠せる物も持って来てもらえると尚良し」
とルカの自室のある二階に行かせて。
辺りに散らばってる荷物やら食材を使えそうな物だけ詰め直して、何とか立ち上がる。
あー、くらくらする……。
ぐっと目を瞑って耐えているとルカが下りてきたようで。
ゆっくりと目を開けるとストールを肩に掛けられた。
ルカは白のシャツを着ていたのを普通のTシャツに着替えていて、眼鏡も眼鏡を掛けていた。
右手に持てるだけ持って、残りはルカに渡して酒屋を漸く出た。
副団長の足元の氷はゆっくりと溶けるように魔法をかけて。
丁度来た馬車に乗って、酔い止めを慌てて飲んで。
荷物を置いて座ると同時に眠気が襲って。
今寝たら次起きれる自信ないなぁ、と欠伸をしながら何とか眠気に耐える。
ルカも同じ様子で。
辺りはすっかり真っ暗で馬の蹄の音と馬車を引く音しか聞こえない。
それもまた眠気を誘っていて。
何とか残っている魔力で自分に電流を流しながら耐える、耐える。
これで乗り過ごしたら意味ないからね。
そんなことをずっと繰り返しながら必死に意識を繋ぎ止めていると、辺りがゆっくりと白く染まって。
あ、日が昇るな、と思いつつ眠気に耐えて。
辺りの景色を見てスムラートに着くのは昼頃になりそうだと考えながら眠気に耐えて。
そうして漸くスムラートに着いた。
眠気に勝った。まだ眠いけど。
ズルズルと重い体を引き摺りながら、ナガルだかナカズだかの家だと言われているところまで歩いて、ノックも無しにドアを開けると、直ぐの廊下にナガルだかナカズだかがいて。
それを見たところで記憶が今まで飛んでる。
多分そこで倒れたんでしょうね。
「ということがありまして」
とここまでの経緯をざっくり掻い摘んで話し終わると、溜め息を吐かれた。何故。
「後半兎に角眠かったのと、殿下もいないし傷が治せないからと、こいつのとこに来たのは分かったが」
そう、ワタシたち二人とも魔力がほぼ残ってないし、カルアもいない、じゃあナガルだかナカズだかのとこに行って取り敢えず治療してもらおう、ということでここまで来ていて。
目を覚ませば、もう辺りが赤くそまっていて、聞けばここに来た日の夕方ではなく、もう一日経った日の夕方だったと。寝過ぎだ。
傷には綺麗に包帯が巻かれていて、ちゃんと治療してくれたんだな、と安心。
バロンたちは今日の昼頃に着いたんだとか。




