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さて。役目が終わったところで。
さっさとスムラートに向かわないといけないんだけど。
「んー…」
食材を両手に持って、顔ぎりぎりまで近づけて吟味してるのが一名。
「ルカ、そろそろ馬車乗りたいんだけど」
「んー」
いやいや、そんな生返事されても。
本当食材選びだけは手を抜けないんだから。
こうなったのは数刻前。
「なーレイネ、飯ってどうしてるんだ?」
「行き当たりばったりで適当に、」
「よし、今すぐ食材買いに行くぞ」
と嬉々として俺を引き摺って、手当たり次第に店を物色しだしたのが始まりで。
リオンの店を出たのが日が真上から少しだけ西に傾いた頃。
今は…もうすぐ日が沈む。
そして、俺らの両手は既に食材がぎりぎりまで詰め込まれた袋で手一杯。
重いし、これ以上は持てない。
「ルカ、これだけあれば十分じゃない?
スムラートに行くんだし、ここで焦って買うこともないでしょ」
「待った、あとこれだけ。
………………よし、これにしよう」
やっと決まったようだ。
……これを持って馬車に乗るのか。
「あ、馬車乗る前にもっかい酒場戻らせて。眼鏡忘れた」
だからあんなに顔近かったのか。
ルカの視力は裸眼だとそこに何かあるかないかが分かるぐらい。
俺みたいにすぐ隣にいれば大体の顔は認識出来るみたいだが。
というか、その状態で選んだこの食材たちは大丈夫なんだろうか……。
「馬鹿。何でもっと早く気づかなかったんだよ。さっさと戻るよ」
そう言いながらふと何気なしに後ろに視線を向けた時に異変を感じた。
すぐに前に視線を向けてそのまま歩き出す。
あれは三番隊の後ろに控えていたやつの一人だ。
思わず眉間に皺が寄ったのを気配で感じたのか、
「やっぱり?何かいた?
気配はすると思ってたんだが」
馬鹿。
気付いてたんならもっと早く言え。
ふぅ、と呆れて溜め息を吐きながらあいつが何故いるのかを考える。
話をした隊長らしき奴というか隊長に指示されたのか、はたまた他の奴に指示されたのか、…自分で残ると言ったのか。
隊長は……ないだろう。
ものすっっっごい純粋そうだったし。
多分あいつにそんな考えは浮かばない。
尾行して来てる奴は……ただの冴えない騎士っぽいし、自分でというのはないだろう。
ただ、ここに一人で残されたからにはそれなりの実力はあると見た方がいい。
となると残りは隊長ではない誰かに指示された、というのだが。
まぁ、これが正解だろう。
隊長の隣で座って話を聞いていた奴が可能性は高い。
話をした奴が隊長でいられるのはそいつのお陰かもしれないな。
取り敢えず、酒場戻るか。
どの道、眼鏡取りに行かなきゃなんないし、このままスムラートに行くわけにもいかないからな。
そう思って戻って来たのが間違いだったのか。
扉を開けた瞬間、壁に叩きつけられ首に短剣を当てられた。
何コレ、新しい壁ドン?随分物騒になったな、なんて笑えない状況の中、そんな馬鹿げた発想が浮かぶ。
つか、勢い余ったのか、ちょっと切れてるし。痛い。
隣に視線を寄越すと同じ様な状況のルカが。
さぁ、どういうことだろうとワタシを壁に押さえつけているやつに視線を戻すと、三番隊じゃ、ない。
「やぁ、お久しぶりですね、レイネさん。その節はお世話になりました」
そう言って、奥から出て来たのは、アイザ。もう釈放されたのか。
予想外の早さに思わず、眉間に皺が寄る。
「どうも、久しぶりって程でもありませんが。
これは何の仕打ちです?」
そう返すと、やはり気持ちの悪い笑みを浮かべ、
「何の仕打ち、とはこちらが言いたいことですね。
いきなり私達を捕まえてアルミラ王に突き出すとは」
「あれはあなたたちが襲ってきたからでしょう?
アルミラ王は国民に手を出した者は皆反逆者と見なすんですから、あなたたちを王に突き出すのは当然のことでしょう?」
「ふっ、これだからアルミラは……。
そんな甘いことばかり言ってるようじゃ、その内潰されますね」
別にワタシは愛国家でもありませんから、構いませんけど。
潰れたら潰れたでこっちに来ますし。
「で、いい加減ティルやカルアの居場所を吐いていただけません?
ジルも言い包めたみたいですね」
困った人だ、なんて言われますが、そりゃそうでしょ、正直に言うはずもない。
というか、
「オウジサマのこと呼び捨てなんだな」
そうルカが口を挟む。ごもっとも。
やっと腹の内を見せましたね、隠せてませんでしたけど。
「ふん、あんなやつ王子だと誰が認めるか。
邪魔者はさっさと排除しないとな。
で、何処にいる?」
「知りませんよ。
あなたと会ったときティルが現れて後、そのまま一緒に何処かへ行ったんですよ」
あなたたちが気を失っている内に、そう皮肉を付け足すと、アイザは口元を引き攣らせるも、
「へぇ、ではやはり、あの時あなたと一緒にカルアはいたということだ」
そう言った。
やはり馬鹿ではないようで。
「そうですね。
でもあなたたちの思惑を分かっているのに、そう簡単に渡す訳ないでしょう」
「初めから貴方は分かっていたんですね。
でも、それは私達からすれば反逆に当たる。
ということで、大人しく始末されてください」
そうアイザが言うと同時に、ワタシたちの動きを止めている騎士が、首に当てている短剣に力を込める。
「いいんですか?」
手が止まる。
それでも結構切れてますけど。
まぁ、致命傷にはならないですかね。
「どういう意味です?」
「そのままですよ。
今殺してもいいんですか?
もしかしたら、この後彼らに接触する予定だったのかもしれないのに?」
「彼らは自力で探し出すことにします。
貴方達を野放しにする方が私達には不利益ですからね」
そう言い終わらないぐらいに目の前の騎士を蹴り飛ばす。
ワタシの意図を分かってかルカも同時に同じ事を。
取り敢えず、その騎士たちは動けないように束縛の魔法をかけておく。
手足を拘束しなかったのが相手方のミスですね。
「そちらがその気ならワタシたちも応戦しましょうかね」
「ふん、今回は前回と違って二つの隊が相手ですよ?
そちらの彼も前衛ではないようですし、貴方達に勝ち目があるとでも?」
まぁ、確かに前衛がいないのはちょっとキツイですけど。
これでも最近までコンビ組んでクエストやってたんですし。負けませんよ。
「さぁ、どうでしょうね。
やってみなけりゃ分かんないですよ」
そう言うと同時に床を蹴って騎士たちに突っ込む。
驚いたように目を見開き、慌てて剣を抜く騎士たちを容赦なく斬りつける。
ここで前みたいに気絶させるだけではまた後々面倒になりますから。今回は殺すつもりで。
さ、ここからはワタシの体力次第ですね。
そうして五人程を一気に片付けると、周りの騎士がピンと気を張る。
今更遅いんですけどね。
今の一瞬で前にいる内の半分程の騎士の足元には束縛の魔法がかけられている。
勿論ルカの仕業だ。
ワタシに斬りかかろうと一斉に飛びかかろうとした騎士たちは皆、足を取られて床に倒れそのまま身動きが出来なくなると同時に、その塊を囲うように円を描いてその中に電流を流す。
感電した騎士たちは動かなくなった。
そうして大体四分の一程度は終わったものの。
もう一度ルカが足元に束縛をかけてますけど、先程ので警戒している様で、動く気配がない。
じゃ、こっちから仕掛けますかね。
一瞬だけルカと視線を合わせてから、騎士たちにまた突っ込む。
今度は相手も戦闘態勢に入っているので、簡単には倒せない。
束縛は足元のラインを越えない限りかかることはないので、騎士たちは後ろに下がりながらワタシの相手をする。
やはり前衛が本業の人たちには敵わなくて、少しずつ小さな傷が出来ていく。
一旦後ろに下がると、人の半分程の大きさの火の球が幾つか騎士たちに飛んで行く。
残り半分。




