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ふむ。

あいつまた私に子守を押し付けたな。


「シルラ」

「はい」

「お前は殿下と共に王宮行きの馬車に乗れ。顔は隠せよ。ティル、お前は私と行動だ。コトハ」

「二人を一般客として同じ馬車に押し込み、その後ろ離れたところをカロと走ります」


私の指示を聞かずともそう答えたコトハは既にカロの手綱を握っている。どうやって手懐けたのか。私のカロが。


「何かあれば躊躇いなく射抜け。出来るな」

「はい」


こくりと頷いて長い髪を頭の後ろで束ねる。


「お前らもわかったな」

「は、はい」

「バロン先輩はどうするんですか?」


困惑しつつも頷くコトハの両親を見て今更事情を話していなかったことを思い出す。まあ、話す気もないけれども。


「少々新しい魔物が目立ち過ぎるし、慣れるまでティルから離せない。私たちは森を抜けるルートで行く。お前達は街頭を馬車で抜けるルートだ。途中何度か宿に泊まれ。到着日時をずらすぞ」

「レイネは」

「あいつは既にこちらの意図をわかって行動しているだろう。レイネ、私、お前達の順で到着したい。何かあれば、殿下。火の魔法を打ち上げてください」

「? はーい」


ティルは獅子の世話で聞いておらず、殿下は話し自体がちんぷんかんぷんだったようだが構わない。短期間とは言え隊長にいろはを習ったのだから、タイミングなどはシルラが指示できるはずだ。コトハの両親は冴えない夫妻にしか見えないかまず問題ない。


「じゃあ、気をつけて行けよ」

「はい」


そうしてシルラたちを追い出した。決して厄介払いとかではない。殿下は保護対象だが、決して弱いわけではないし、あれだけの戦力を振れば私とレイネがいなくともそこまで危険度が増すわけでもない。シルラは自分で作戦を立てられずとも指示から予定を組み立てることはできるはずだから、何とかなるはずだ。あのメンバーで一番頼りにしているのはコトハと言うことはあいつには内緒である。


「じゃあ、ティル。私たちも行くぞ」

「うん、おっさん。けどどうするの?ガオー乗せてくれるかな、おっさんのこと」

「一応聞くが、獅子の魔物の名前か?」


当たり前のように頷くティルに頭を抱えたくなる。なんだろうか、ネーミングセンスのなさは母親譲りだと思うのだが、もしかして一族の呪いか何かなのだろうか。こんなに色濃く残念な面を遺伝しなくてもいいのに。


「でもおっさん、レイネとかがどうやっていくのかしんないけどさ、ガオーで行ったら一番早くつくと思うよ?」

「わかっている。私たちは…ガオーとの連携を練習するのに時間がかかるからだ」


ガオーはこれから必ず戦力として使うことになる。いざという時に攻撃パターンがわかりませんでした、とかでは困るのだ。ここの能力がどれほど高くとも、指揮する人間によって、強さとは如何様にも変わるのだから。


「なるほどー、わかった。がおー、がんばろー」

「がぁあ!」


鳴き声ガオーじゃないのかよ。




一先ず森に行き、地図を見る。この森には湖があるようだからそこを目指して進み、城までは小さい集落を転々としよう。ティルにも一応そう伝え、ようやっとがおーに向き直る。


「お前の攻撃パターンはなんだ?」

「がぁあ!」

「尻尾で払うのと叩くのと、爪と、牙と…」

「物理的なのばっかりだな」

「がぁ、がああ!」

「火吐けるって」

「嘘だろマジか」

「がああ!」

「頑張れば毒もいけるぜ!」

「…それは嘘だろ」


ドヤァという顔をするティルとがおーを殴りつけてから少し思案する。以外と攻撃パターンは豊富なようだが、そもそもその大きな体が既に武器になるのだ。連携をしっかり考えれば、これはいい拾い物だ。


「ティル、今のお前の友達で戦闘を得意としてる奴らを呼べ」

「全員?」

「全員」


わかったー、と言ってティルがまた奇行をする。暇そうながおーと奇行に走るティルと待つ私。かなりシュールな光景が出来上がっていた。


ああ、カロが恋しい。


ついそう思ってしまうくらいの時間が経った頃、ティルの終わったよーという声が届いた。


「…予想よりも少ないな」

「おっさんが求めてる戦力ってがおークラスじゃないの?それならこれだけだよ」


さらりと答えるティルを凝視する。まさか偽物じゃないだろうな。

ティルがまさか私の意図を察して行動するとは思わなかった。戦力の選別はこれからするつもりだったのに、その手間が省けてしまった。喜ばしいことなのにちょっとさみしいみたいな、親の心境をしみじみと思う。


「それで、そいつらの攻撃パターンと名前は?」


横一列に並ばせているティルに聞くと左端から順に紹介された。見覚えのあるやつもない奴もいるようだ。いつの間にこんなに集めたんだか。


「この子はー、らるり」

「きゃあ」


女の悲鳴みたいな鳴き声で鳴く。背中に小さい羽が着いているがとても飛べそうにはない、イノシシみたいな魔物だ。魔物に詳しくはないので種類はわからない。


「頭突きとー、突進とー、ちょっと飛べる」

「まあ、想像通りだな」


その羽根で飛べるのか、とコウモリみたいな羽根をみているとらるりという呼びやすいんだかなんだかわからない名前のイノシシは急に震え始めた。


「おい?どうした」

「ああ、あとね、この子剣上手いよ」

「何を言ってるんだ、イノシシが剣なんか振り回すわけないだろう」


震えるイノシシを気にすることもなく説明を続けるティルに呆れ顔を向ける。ティルは持てるよー、ねぇ?とイノシシに水を向けた。ティルには話が通じても私には無理なのだが、と言おうと思ったその時、聞いたことのない声で返答があった。


「も、持てますぅ」


不貞腐れたように言う、幼子の声。そちらに目を向けると幼い女の子がティルの腕に絡んで駄々を捏ねていた。


「らるりは変身できる」

「マジか」

「3分」

「きゃあ」

「ウ○トラマンかよ」


ぼふんと元に戻ったるらりはまた悲鳴のような鳴き声を上げた。仲良く雑談しつつ、意外に使えそうだと口角をあげる。ティルがここに読んだ時点で有能なのはわかっていたのだが、改めてだ。


「でー、この子は、とんたん」

「がおー」

「鳴き声は本当にそれでいいのか…?」


豚鼻に長い耳、真っ白な毛皮の小さな魔物だ。見るからに弱そうで愛玩以外に取り柄はなさそうだが。


「とんたんはー、何と、威圧ができます」

「がおー!」

「威嚇な。っても、そのなりじゃ怖くないだろう」


と言った私がバカだった。


「ぐぁっ、がぁああ!」


ものすごい騒音。森の木々から鳥がバサバサ飛び立って行く音が聞こえる。耳が潰れるかと思った。咄嗟に耳を塞いでよかった。

けれど、耳なんて塞がずとも問題ない様子のティルはさすがとんたんーなどと呑気な感想を漏らしている。


「ヘイト管理が得意。あとー、相手をちょっと怯ませて動けなくできるよ」

「…そうか、それは有用そうだな…」


とんたんは褒められたと思ったのか満足そうにがおがおないている。

その外見なら、ぶひぶひ言えよ…


「お次は、トールン」

「……」

「なんか、弱そうな名前ばかりだな…」


ティルの友人達が気の毒だ。


「薬剤調合が得意!」

「まあ、そんな感じはするな」

「あと、蔓で相手を絡めたりも出来るよ!かなりの力持ち!」

「それはなんか…危ない感じがするな」


トールンと言われた魔物は私でも知っている。プラントルという植物系統の魔物だ。頭に当たる部分に大きな花を持ち、胴体は蔓が絡まったような見た目で蠢いて、もちろん移動も蔓で行う。行動は遅いが花から出す粉は多種多様でそれを体内で調合して凶悪な毒にする。時に薬を調合する個体もいて、薬剤師が時々テイムしている魔物だ。ティルが言うとおり、蔓は凶悪で討伐が面倒。


「この子は鳴かない」

「口ないしな」


そんな感じで、私は合計十体の魔物を紹介された。

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