18
「そいつらも連れて行くのか」
クライの家に戻って発された第一声はそれだった。
コトハを捨てた親だ、一緒でいいのか、ということでしょう。
「あぁ。
伝染病は殿下が治したし、コトハの了承も得られている」
「なら、いい。
ここはいつ発つんだ」
「もう行こうかと思う。
夜に移動する方がいいだろう」
「何処に行くんですか」
シーリアの騎士に追われているというのもありますから、夜のうちに移動するというのは分かりますが、まだ行き先を聞いていません。
「……何処がいい?」
決めてないんですか。
「何が欲しいんですか」
直接確認はしていませんが、反乱を起こすつもりなら他にも優秀な人材が欲しいでしょう。
「そうだな……。
攻撃の得意な魔術師を知らないか」
「え、人集めるの?」
とカルア達が訝しげな眼を向けて来る。
そりゃそうでしょう。
普通何が欲しいと聞かれれば物を思い浮かべるはず。
しかし、人を指定したところを見るとやはり反乱を起こすことも視野に入れているんでしょうね。
自分の失態に気が付いたのか、バロンは眉を寄せて言葉を詰まらせている。
「まぁ、いいんじゃないですか。
物は大体揃ってるんですから、特に必要な物もありませんし」
「えー、お腹空いた!」
「それは行った先で手に入るでしょう。
攻撃の得意な魔術師なら知り合いがいます。
北に行ったソラトの城下町に向かいましょうか」
ということで、また辻馬車を拾い城下町に向かう。カロは先に行かせるとバロンが面倒くさいので、馬車の後ろに付かせています。
あ、酔い止めは飲んでますからね。
「むー、お腹空いたー」
とへばっている馬鹿二人に呆れた視線を向けつつ、スプリットボールを取り出す。
そろそろ魔力を貯める練習をしないとブレスレットが無駄になりますから。
感覚を掴むためにまずは緑を一つ。
そしてカルアにも一つ赤を投げ渡す。
「え、何?」
「まさか忘れたとは言いませんよね?」
え?え?と狼狽えているカルアを尻目にワタシは魔力を貯め始める。
あ、それスプリットボールとか言うやつじゃない?旅に出る前、買って来たやつだよ、魔力のコントロールの練習とか言って。
とシルラが思い出して言うと、
「え、やだやだ、やりたくないんだけど」
騒ぎだしたカルアに溜息を吐く。
「桃色に変わった状態で何秒保てるか試してみなさい」
と言い捨てもう二つ緑を取り出す。
こうやって他の事に没頭していると、空腹なんて気にならなくなるでしょうし。
そのワタシの様子を見て渋々魔力を貯め始めたカルアでしたが、直ぐに桃色に変わって弾けてしまった。
下手くそか。
そこまで下手だとは思わなかったと溜息をまた吐き、もう一つ赤を取り出して投げ渡す。
ついでに緑も一つ追加。
「むー、どうやったら保てんの?」
ワタシが四つ黄緑に変わった状態で保っているのを不思議そうな眼で見ながら尋ねる。
「魔法を使うときみたいに一気に魔力を貯めるんじゃなくて、ゆっくり流し込むようにするんです」
流し込む…?と首を傾げながらもう一度挑戦。
またすぐに弾けて新しいのを投げ渡す、というのを繰り返して漸く今度はゆっくりと桃色に変えることが出来ましたが、そこで魔力を止めてしまったようで赤色に戻ってしまいました。
「え?あれ?」
「魔力を流し続けないと元に戻ってしまいますよ」
えー、早く言ってよー、とか文句を言いつつもう一度貯め始めた。
ワタシは六つ目を追加した状態で暫く保てたので、一旦魔力を止める。
追加していくのならまだ出来るんですけどね、同時に均等にとなるとそう簡単にもいかない。
ふ、と息を吐いて同時に貯め始めましたが、やっぱり上手く行かず、二つ弾けてしまった。
新しいのを二つ出してもう一度試しましたが、今度は一つ弾けて。
そこでカトネとの戦闘で魔力を殆ど使っていて底をついたので片付けつつ、カルアの方を伺うと、桃色の状態で保てている。
と思った瞬間、弾けてしまった。
あーあ、とか言って残念がっていますが、カルアにしては十分な進歩でしょう。
カルアの好きなクッキーを一枚取り出して口に放り込む。
「そろそろ寝なさい。
夜が明ける前には着くでしょうからね。
それはティルたちには内緒ですよ」
と言って、いつの間にか寝てしまっていた人たちのブランケットをかけ直してから席に戻った。
着きましたよ、と御者の声でふっと意識が上昇する。
目を開けるとオスト村とは違って綺麗な街並みの景色が見える。
他はまだ寝ているので起こして。
中々起きない人にはちょっと電気を流しつつ。
馬車から降り、バロンがお金を払うのを待っていると、
「あれ、カルア、何か、甘いにおいする」
とティルがすんすんと鼻を鳴らしながら匂いを嗅いでいる。
あれから暫く経っているのにまだ分かるとか犬か。
慌てて、え、何のこと?とか惚けているカルアですが、怪し過ぎてシルラにも問い詰められている。
と、その様子を見ていると
「お前か?」
とバロンに問われた。
何がです?と白を切りましたが溜息を吐かれた。
ま、ワタシたち二人以外先に寝てしまっていたんですから、分かりますよね。
「何処か店に入ります?」
「まだ日が昇る前なのに開いている店などあるか?」
「ありますよ。行きましょうか」
とまだ騒いでいる三馬鹿に声をかけて少し歩いたところにある酒場に入る。
「いらっしゃ……、レイネか」
「何ですかその客じゃなかった、みたいな反応」
「いや、うん、もうそろそろ店仕舞いをしようとしていたところに来たから、つい」
「……お腹空いたってうるさいんで何か作ってあげてください」
そういって戸惑っているバロンたちをボックス席に着かせる。
「いいのか?店、仕舞うとこだったんだろ?」
「構いませんよ。よくあることなんで」
それっていいのか、とか言っているのを放置していると、ドンッと料理が置かれた。
大皿に盛られたナポリタンやサラダ、一人一皿の小さなオムレツとハンバーグ、籠に入ったパンなど朝から食べるには多いだろうという量が。
それに早速手を付けて凄い勢いで食べていくティルとカルア、二人程ではありませんがかなり食べているバロンとシルラを見て呆然として手を付けられない様子のコトハ家族。
そんな様子に呆れながら、小皿にサラダを少し盛ってコトハたちに渡す。
それを見て窺うようにワタシを見てくる。
「食べていいんですよ」
そう声を掛けるとおずおずといったように手を付け始めた。
その様子を眺めつつコーヒーを啜っていると、
「レイネ、ちょっといいか」
とルカに呼ばれカウンター席に着くと、コト、とサンドイッチを一つ乗せた皿を前に置かれた。
それを無言で食べる。
ワタシはあんな味の濃いの朝から食べられませんからね。
「しかしお前が、団体行動なんて珍しいな」
ルカがもう無くなりそうな料理を見て慌てて炒飯を作りながら言う。
「巻き込まれたんですよ、あっちの事情に」
「ふは、お前面倒くさがりなのにな。
で、何でここに来たんだよ?何か用か?」
「攻撃の得意な魔術師が欲しいんですって」
「……俺?」
「以外に誰がいるんですか」
「だよなぁ…。
でもお前割とオールマイティじゃなかったっけ?」
「あの金髪の所為で防御ばっかりやらされてるんですよ」
「大変だなあ、お前も。
なぁ、ここから東に行くと森があるのを知ってるだろう。
彼処で魔物が暴れているらしいんだ」
「その討伐に行って来いと」
「そう。話が早いな。
成功すれば俺も付いて行ってやる」