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「あ、戻って来た!」
「起きればお前はいないし、布団も片付けられているから、帰ったのかと思ったぞ」
「いや、荷物あるでしょ」
「「……そうだった」」
バロンまで。あいつらの天然って移るんですかね。
「何処行ってたんだ?」
「この家の周りを散策しに」
あ、そうそう、
「クライさん。
この辺りに生えてるのって全部薬草ですよね?」
「あぁ、そうじゃ。
ここらのは全部儂が育てたものじゃ」
「少し分けて貰えません?」
「構わんが。
儂ら二人には多すぎる量じゃしな。
調合も苦手じゃから、余り使わんしな」
じゃあ、何で育てたんだ、という疑問は置いといて、
「ありがとうございます。
じゃあ、採ってきますね」
と、また外に逆戻り。今度は袋も持って。
酔い止めの薬に使うのは、これとこれ。
どれだけ馬車に乗るか分かりませんし、取り敢えずあるだけ採って行きますか。
他にはこれとか、この辺も。
単純な発熱や風邪などに効く薬草も採っておく。
と色々と採ってるうちに袋もいっぱいになり、家も騒がしくなってきたので、戻りましょうか。
あ、水も汲んで帰らないと。
どうせあの家には水道も通っていないでしょうし。
そうして戻ってみると皆起きていて、カルアとティルが騒いでいる。
それにバロンが手を焼いてますが、放置して、薬を作り始める。
さっき採ってきた薬草を細かく千切って種類ごとに容器に入れる。
そこに汲んできた水を薬草が全部浸かるぐらいまで入れ、蓋をし、下から火の魔法を使って蒸す。
それを全ての容器でやり、すり潰してペースト状にする。
そのままで薬となるものは一口サイズに固め、魔法で凍らしてピルケースに保存。
魔法で凍らしているので、常温でも溶けません。
複数の薬草で作る薬は、ひとつの容器に纏めて、攻撃魔法で少し衝撃を与えると、音を立て煙を出す。
その煙が消えると、元の緑色から変色し、混ざったということが分かります。変色していなかったら、もう一回。
それも一口サイズにに分け、凍らしケースへ。
というのを繰り返して、大量生産。
これだけの量をタダで作れるとは。
飲むときはコップなどに入れ温めて氷を溶かし、そのまま飲みます。
あ、因みに、薬草にも組み合わせがあるので、間違えると毒薬になるので気をつけてくださいね。
「よし、こんなもんですかね」
「ほぇー…、薬ってそうやって作るんだー…」
「薬の生産を職としている人はもっと違うやり方ですけどね。
どうせ効果は同じなんでこれでいいんですよ」
本当は凍らせるんじゃなくて、コーティングした方が薬の苦味がなくなるので飲みやすくはなりますが、面倒くさいんで。
これで十分です。良薬は口に苦し、ってね。
「レイネ、終わったなら少し話をしようか」
と道具を片付けているとバロンに声を掛けられた。
ものっ凄い嫌そうな顔をしてやる。
どうせ碌な話じゃありませんしね。
「……まぁ、そんな嫌そうな顔をするな。
クライ、ちょっと出て来る」
そう言ってバロンは馬鹿二人の世話をシルラに任せ、ワタシを外に連れ出した。
「何です?
態々外に出ないと話せない内容ですか?」
「…そうだな。
コトハがいるところではちょっとな」
「連れ出す許可を貰えませんでしたか?」
「いや、昨日お前が寝てから話をしたところ、クライは明言はしなかったものの、許可は貰えた。
だが、明日まで待てと」
「……クライの許可が貰えたんならもう連れて行っても問題はないでしょう。
それとも何です?
彼を捨てた親からも許可を取らないといけないとでも言うんですか?」
「……流石、話が早いな。
恐らくそういうことだろう。
コトハの両親は体を壊していてもう動けないらしい」
「ですが、捨てられても尚、その世話はコトハがしていると。
はー、そうなると親も簡単にはコトハを手放さないって訳ですか。
面倒くさい話ですねぇ」
「その通りだ。
コトハは毎日狩りに行き、それを両親のもとへ届けに行っているらしい。
取り敢えず、今日のそれに付いて行こうかと思うのだが」
「そうですね。
後はその親次第ですね。
聞き分けがないようでしたら、強行突破も有りでしょう」
「…強行突破か。
コトハの前ではしたくないものだな」
「大丈夫ですよ。
そんなにショックは受けないと思いますよ?
だって自分を見放した親ですもん。
幾ら純粋な子供だとしても多少の恨みはありますよ」
「…知ったような口振りだな。
お前に拾われたときから、お前の親はいなかったとシルラに聞いたが?」
「さぁ、如何でしょうね。
唯、親元を離れて一人暮らししてただけかもしれませんよ?
それとも何かで殺された、とか」
親元を離れていたのも、殺されたのもまぁ、言い方によっては本当で。
シルラたちと暮らしていた家はワタシが捨てられた場所にあったものでした。当時まだ八歳とかで。
そのときにはもう魔法も大方使いこなせていたので、辛うじてその家で暮らして生き延びることは出来ましたが。
その年のある日、突然ワタシの両親は家に助けてくれ、匿ってくれと押し入ってきたんですが、そのときにはもう後ろに追っ手が来ていて、そのまま剣で一刺し。
二人とも直ぐに息絶え、追っ手はその死体にもワタシにも目を向けずに帰って行きました。
ワタシは何が起きたのか分からず、暫く呆然としていましたが、燃やして、遺骨は両親の家に置きに行きました。ワタシの手元にあっても困りますし。
どこに置いておけばいいのか分からなかったのでその辺に置いて帰りましたけど。
そんなもんですよ。自分を捨てた親が死ぬのって。
……久しぶりにこんな話を思い出した、と何とも言えない顔をしていたら、何かを察したのか、
「そうか。
ま、強行突破にならないように願っておくか」
とその話を切り上げた。
それにしても、
「バロンって意外と子供に甘いですよね」
さっきから、コトハを庇うようなことばかり。
ティルやカルアとのやり取りを見ていても、何処か手加減しているようで。
それが吉と出るのか凶と出るのか知りませんが。
「…そんなことは……、いや、あるかもしれん…」
「八年もティルの面倒を見てきたんですもんね。
あんな馬鹿の世話をしていたら、そんな風になるのも分からなくはないですが」
「お前も殿下の世話をしていただろう」
「ま、そうですね。
シルラは意外と使い物にならないですし」
「真面目だが、何処か抜けているからな」
「全くです。シルラのが年上なんですけどね。
あんな子供二人も育てるのには手を焼きましたよ。
さて、戻りましょうか。
狩りにも行って親の所にも行くとなるとそろそろ出発しないとまずいでしょう」
そうして戻って来た頃には、
「あ、二人ともー!
コトハが今から狩りに行くんだってー!オレたちも行きたい!」
とティルたちが騒いでいて、
「いいんじゃないですか」
と返す。
えー、レイネがやる気とか珍しー、何話して来たのー、とか言われましたけど、全部無視。
自分の荷物をさっさと纏める。
「全員準備出来たようじゃな。
気を付けて行ってこい」
とクライに見送られて家を出る。
コトハに連れてこられたのは家の裏にあった川からもう少し進んだところで。
「普段はどんなものを狩っているんです?」
「……食べられるもの」
……まぁ、そうでしょうけど、
「魔物も?」
「……食べられるなら」
食べられる、食べられないが基準ですか。
「………あれとか」
そう言われてコトハが指を指した方を見ると、ディアロール。
鹿の姿形をした魔物です。
バロンの身長ですら二倍程ある大型で、皮膚は硬くて倒すのは面倒くさい魔物ですが、肉は割と美味しいんだとか。
そうこうしているうちにコトハは弓を構え、矢を放った。