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さて、この状況どうしましょうか。
これだけの数の毛があってもあんまり使えませんが…。
「バロン、これ処理していいですか」
「構わんが、処理といってもこれだけの数をどうするつもりだ?」
「毛を刈ります」
「いやだから、これだけの数だと時間がかかるだろう」
「いいから、ティルとカルアとシルラと避難しといてもらえますか」
「………ティル!殿下!シルラ!ちょっとこっちに来い!」
「なーに?どうしたの?」
「邪魔だからどけって言ってるんです」
え、何邪魔って、何するつもり?とか言ってますけど、四人とも避難したことですし、始めますかね。
今なら風も少し吹いてますし、楽に出来そうですね。
いってらっしゃーい、と呟き、ジンドールに向けて魔法で造った刃を飛ばす。
所謂鎌鼬的な。
確かに数は多いですが、風が刃の動きを助けてくれますし、兎に角刈ればいいんですから、あんまりコントロールしなくてもいいですね。
「あー!ちょっと何してるの!
せっかく遊んでたのにー!」
「もっともふもふしたかったー…」
「あー、容赦ないな…」
「魔法でこんなことも出来るのか」
外野がうるさいですが、そろそろ終わりですかね。
指をパチンと鳴らすと、刃は消え、残っているのは毛だけ。
あ、因みにジンドールは毛を刈ってしまえば骨は灰のようになって消滅します。
「うわー、綺麗に毛だけ残ったねー」
「刈るのはいいが、どうするつもりだ」
「そろそろ来るはずなんですけどね」
運び屋。
ガラガラガラガラ
「運び屋のミーシャ
「そこに倒れてる人間全部で」
「もう、遮らなくたっていいじゃないですかー!
報酬は
「そこにあるジンドールの毛、全部でどうですか?」
「だから、遮らないでくださいよー!
これだけの毛、よく集まりましたねー。
了解です☆有難うございます☆
配達先は王宮で
「合ってます。
さっさと持って運んで来てきてください。
カマ野郎」
「ちょっとぉ、カマ野郎なんて言わないでくださいよぉ〜。
ちゃんと中身はお・ん・な・の・こ、なんですからー☆
では、またのご依頼お待ちしてまぁす☆」
そういって全員とジンドールの毛を駒のついた大きな箱に突っ込み、ガタガタと引っ張って行った。
本当面倒くさいカマ野郎ですね。
「何だ、今の。
しかもジンドールの毛が報酬でいいのか」
「誰ー?すごい遮ってたねー」
「きょーれつな人だったねー!」
シルラに至っては衝撃すぎて固まっている。
「今のは運び屋ですよ。
何でも頼めば運んでくれるんです」
「そのようだが……
何なんだあの喋り方は」
「鬱陶しいですよねぇ、あの喋り方。
あれさえなければ報酬も少なめで、ちゃんと頼んだところまで、運んでくれる便利な運び屋なんですけどね」
「あんないい加減そうなやつでも、ちゃんと仕事はするんだな」
「あんな奴ですけどね。
アルミラでは結構御用達なんですよ」
「……人は態度によらないものだな」
「全くです」
「そろそろ今後のことを話すとするか」
「そうですね。
殿下もティルくんもいますから。
取り敢えずここから離れたほうがいいですね」
とか言ってますけど、ワタシは行く気ないですよ?
だって狙われてるのはワタシじゃないんですから、態々この人達に着いて行く必要ないでしょう?
「そうだな。
なら、アルミラの北にあるソラトに私の知り合いがいるんだが、そこでどうだ?」
「いいんじゃないですか?
しかし、ソラトに知り合いですか……
珍しいですね。
あそこはアルミラ側の国なので、俺たちシーリアの人からすれば、行く機会ってあんまりなかったような気がするんですけど……」
「あぁ、ソラトといっても外れの方で結構廃れた村なんだが。
ちょっとした用があってな。
行ったときにお世話になった人がいる」
ソラトは大国で、アルミラと同じように国の中心に王宮があり、その周りを囲むように街が広がっています。
発展の進んだ国で、街はいつも賑わっていて、豊かな国です。
その外れということは恐らくオスト村。
そこは街とは打って変わって、辺鄙な田舎の村で、ソラトの南東の端にある村です。
ワタシたちが今いるのは、アルミラの東の方なのでここらだと向こうに着くのは日をまたぐ頃になるでしょうか。
「そうですか。
では、ここからだとソラトまで時間がかかるので早めに出た方がいいですね。
準備してきます」
とシルラが言って、カルアと一緒に荷物を準備しに行った。
「お前は準備しなくていいのか?」
「だってワタシ行くつもりありませんし」
「え!?レイネ、行かないの?」
「だってワタシ、別に行く必要ないじゃないですか」
「ほぉ。
確かにお前はアルミラの人間で、シーリアの問題には関係が皆無だからな。
だが、あいつら2人が心配ではないのか?」
「全く。
前衛が2人増えましたからね。
シルラも中衛に戻れますし、魔術師ならカルアがいるんでいいんじゃないですか。
あれでいて回復も得意ですし。」
「確かにバランスは取れているな。
だが、カルア様は殿下だぞ?
今のシーリアの王はいつ倒されるか分からん。
倒されればきっと次の王になるのは正当な後継者なカルア様だろう。
恩を売っておかなくていいのか?」
「2人を助けたので十分恩を売ってるでしょう。
謂わば、命の恩人ってやつですからね。
これ以上しなくたって十分でしょう」
「えー、でもここでオレたちのこと見捨てちゃったら水の泡ってやつじゃない?」
「お前が水の泡という言葉を知っていることに驚いたが、そうだな。
どうせ助けてやったんなら、最後まで着いてやったらどうだ?
そのほうが報酬だってたんまりと貰えるだろう」
「……それもそうですけど。
わざわざ危険を冒す必要もないですしねぇ…」
「え、何レイネ行かないの?」
戻って来た。
いつもクエストとか行くときはのんびり準備するくせに、こういう時だけは速いんですね。
「そのつもりですけど」
「え、ダメダメ!
だって僕、レイネがいないと味方まで怪我させちゃうもん!」
「……あなたの得意の回復魔法で治してあげればいいじゃないですか」
「スプリットボールの使い方分かんないよ!
パワーストーンもまだ魔力貯めてないし。
レイネの面倒くさい魔法がなきゃ負けるかもしれないんだよ!」
「本人に向かって面倒くさいとかいい度胸してますね」
「だって面倒くさいもん!」
もん、じゃないですよ。
ワタシはあんまり魔力がないから、猫騙しみたいな魔法で相手を撹乱させてるだけです。
堂々と面倒くさいとか言わないでもらえます?
「はぁ……
どうしても行かなきゃなりません?
それこそ面倒くさいんですけど」
「ダメ!行く!」
「えー、ワタシに何のメリットがあるんですか」
「え、えと……」
「無いんでしょう。
じゃあ行きません」
「え、ヤダヤダ!
行こーよー!」
そう言いながら後ろから飛びついてきやがった。
耳元でそんな大声を出すもんじゃありません。
「うるさいな、クソ餓鬼!
そんな風に駄々っ子みたいだから餓鬼なんですよ!」
「いいもん餓鬼で!
行くっていうまで駄々捏ねてやる!」
「勝手に捏ねてろ!」
「やだー!レイネも行くのー!」
「鬱陶しいな!さっさと離れろ!」
「行くって言うまで離れないー!」
「あぁ、もう!行けばいいんでしょう!
その代わり報酬はたんまりと頂きますからね!」
「報酬?
僕があげれるものなら何でもあげるよー?」
「言いましたね?」
何でもですよ、何でも。
バロンの言う通りカルアが殿下になれば、色々貰えそうですね。
恐らく、バロンは反乱を起こしてカルアを王にするつもりでしょうし。
あー、だから行きたくなかったのになー。
「うん?いいよ?何にする?」
「今すぐにはいいです。
後々請求させてもらいます」
「そう?
じゃ、早く準備してきてー!」
「言われなくても分かってますよ!」