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冬服移行期間が完了し、本格的に寒くなる少し前は憂鬱だ。つい先日期末考査が行われたのに、受験生という現実を突き付けられる実力テスト。今日はその総合結果が返される日だ。
「朝田ー」
「はーい」
「井藤ー」
「うーっす」
出席番号順に返されるので、出席番号が最後から二番目の私からすると帰ってくるまでの時間の長さが苦痛に思える。
「ーーー次は緑辺ー」
「……はい」
先生は私の総合成績表をじっと見てからにかっと笑った。
「よし、今回は前より合計上がったな。ーーだが、まだまだいけるぞ。がんばれ!」
「…はい」
結果は前回より合計点数が10点上がっていたが、順位は一つ落ちていた。
「いいなぁ純子!あたしなんかと全然違うよー」
友人の藤村冬美がヒョイと飛び寄ってきた。見ないでよ、と言ったが
「いーじゃん。あたしのより70くらいも上じゃんか!」
と大声で言った。周りは「ああ、いつもの光景だ」と思いクスクス笑うだけだった。冬美の成績が今ひとつということを知ってるからだ。本人は特に気にしていないので成績のことは笑い話にしている。
「いーなぁ。純子、絶対A高の推薦入試受かるよ。あたしなんかA高の一般入試すら不安なのに……」
ため息混じりに冬美は言った。つい顔を曇らせたら心配そうな目で「どうしたの?」と言うから、
「なんでもないよ」
と笑ってみせた。
廊下の窓が風でガタガタと震えた。冬はもうそこまで来ている。
夏に部活を引退してからの放課後は退屈だ。勉強、勉強、勉強……。本当に受験生なんだなと実感させられる。
水たまりに映った自分の顔を見て、思わず顔をしかめた。
「ひっどい顔」
受験のことばかり考えさせられる日に疲れてるんだろう。夜遅くまで塾にいることも多いからか、うっすらとクマができている。
「にゃー」
「ひゃあっ!……なんだ、猫か」
いつの間にか足元に黒猫がいた。ジッと私を見つめている。
「ショウジョ ヨ ナヤンデ イルノカ」
え?
「猫が…喋った?」