6.ケチらずに買っておけば良かったですわ
前世のわたくしは乙女ゲームにはまっていたのは、説明しなくてもお分かりですよね?
でないと、転生したここが乙女ゲームの世界だと気づく筈が無いですもの。
そう、前世のわたくしは乙女ゲームと銘打った物であれば内容と絵が気に入れば、即買いをしていましたの。
中には気になる複数の乙女ゲームが同月発売でお財布の中身が寂しい事になる事も多々ありました。
そして、購入した乙女ゲームの中には人気があると、数か月後にファンディスクも発売され前作で気にいっていたら購入してしまうパターンがあり、売る側の戦略に乗ってしまっていたのです。
まぁ、ファンディスクなら新たなストーリなので高いお金を出して購入するのは良しとしましょう。
しかし、前作はテレビに繋げて遊ぶ据え置き型ゲーム機のゲームソフトとして発売をされた物が、携帯機型ゲーム機に移行され発売された場合、同じ内容のゲームになるのだけど時にまれにある現象があるのです。
内容はほぼ同じなんですけど増量版として前作では出なかった新たなキャラが追加され前作購入したユーザーにもう一度買わせようと魂胆見え見えですが、買ってしまうユーザもいるのです。
……つまりわたくしが何を言いたいと申しますと、現在目の前に小奇麗になった男性を見て思い出したのです。
今まで、わたくしはこの世界はずっと『略奪~僕は君の物~』と思っていました。
いいえ、間違いはないのです。
ただ彼が現れた事でこの乙女ゲームの世界が増量版の方だったと知った事なのです。
『略奪~僕は君の物~M』
前作『略奪~君は僕の物~』は据え置き型テレビゲームのソフトは購入しフルコンプしたわたくしでした。
そして、携帯型ゲーム機のソフトとして移行し発売されたのがこの題名でした。
いつぞや夢の中で見た題名の最後にMがついていた事やキャラクター紹介にモザイクがかかったプロフィールが出ていた事がありましたわよね?
題名の後についたMはMOREを省略した物とネットで書かれていたと思いますの。
そして、新キャラのプロフィール。
……フフッ、ここからが本題ですわ。
前世のわたくしは、この『略奪~僕は君の物~M』の方のゲームはしておりません。
これが発売された月、タイミング悪く新しい乙女ゲームが数種類と発売されましたの。
全く新しい乙女ゲームと前作とほぼ内容が変わらず新キャラとスチルが増えたゲームとどちらか選べと言えばわたくしは迷わず新しいゲームを選びます!
同じ金額でお金をつぎ込むなら新しいゲームをしたいと誰もが思う筈ですわ!
前世のわたくしは結局そのまま増量版の『略奪~僕は君の物~M』を買わずじまいで、唯一確認できたのが、公式サイトで新キャラの絵と少しのスチルを見ただけで終わってしまったのです。
サイトでもそのキャラは隠れキャラ的でしたので一切の情報は書かれておらずゲームをした方のみ知る事ができたのです。
わたくしは前世のわたくしに一言物申したいですわ。
――――――どうして増量版をしなかったの!!!!
*
今までわたくしは前世の記憶という下情報を元に3名の騎士達と接しておりましたの。
たまにゲームの中の彼らとリアルの彼らに違う部分がありましたが、本来悪役キャラであったわたくしのキャラが違う事から生じているバグだと思って気にしていなかったのです。
それはいいとしても、はっきり言いますとこの追加キャラの立ち位置が分かりません。
わたくしは顔だけは知っていたのでこの男性が増量版の新キャラだと気づけたのですが……
「参ったね!五日前に森でうっかりお金や食料を落としてしまって水以外口にしてなかったから助かった」
焼いた魔獣の肉をモグモグしながら彼は笑顔でわたくしに話しかけているけど、テヘペロッと前世の擬態語が聞こえてくるのはわたくしだけかしら?
それに何だかチャライですわ……。
はっきり申しますとわたくしは苦手なタイプなので、対応に困りますわ。
*
泥まみれに汚れていた彼をユアンが
「エタカリーナ様のお目汚しになります。確か近くに湖がありますのでそちらでこれを身綺麗にして参りますので少々お待ちを」
男性の襟首を持ってズルズル引き摺って行くユアンを見ながらわたくしは
「泥だらけなのは別に気にしないのだけど、ユアンは潔癖症なのかしら?」
それに扱いが雑よね?と、考えていたわたくしの背後に焚火の音がパチパチなっていた。
……いつの間に?
「ダンッ!!さっき俺が言っていたのを聞いていなかったのか?その魔獣の肉は男性のモゴモゴを元気にする作用があるんだぞ!!体が弱っている奴には刺激が強すぎるぞ」
「何を言っている?この魔獣を売るには先ずは私が味を確認した方が高値で売る場合に説明がしやすいでしょう。それにレイン、魔獣の肉を食べると男性のアソコが元気になると何故知っているのか?私は初耳なんですが、もしかして前に食し体験したとか……」
「ぐわぁっっっ!!!エタカリーナ様、俺はユアンを迎えに行ってきます!!」
ダンの言葉から逃げる様にレインは湖に向け走り出した。
わたくしはうんうんと頷きながら、そんな事で恥ずかしがるなんてまだ青いわねっと前世から言えば中身年齢〇4歳の大人な考えをついしてしまっていたわたくしでした。
その後、レインはユアンと合流する事が出来たらしく一緒に戻って来たユアンの顔が不機嫌だったのはどうしようも無いですわね。
全身を綺麗にしユアンに衣類を借りたのかそれに身を包んだ彼は質素なナリにも関わらず華がありました。
明るいはちみつ色の髪にゴールドの瞳と、日に焼けた肌に精悍な顔立ちの美丈夫。
さすがは、攻略キャラだけあってイケメンですわね。
3名の騎士達とは違った魅力を持つワイルド系を新キャラにしたのね。
チャライけど!
と、つらつら考えていると
「でも、案外俺はこの森で倒れていて良かったのかも知れないな。可愛いお嬢さんに拾ってもらえるなんてかなりラッキー!!勿論、俺を拾った責任はとってくれるよな?」
笑顔なのだけど、視線は鋭くわたくしを捉えていた彼に一瞬寒気を覚えたわたくしは彼を拾った事を少し後悔しました。
わたくしは切実に願います。
誰でもいいので、彼のプロフィールを教えてください!! と。
あと余談ですが、彼は美味しく魔獣の肉を食べた後に半刻ほど姿を消していました。
ダンも一緒に食していたのですが、彼と同じ様に数分消えていました。
戻った二人にレインが勝ち誇った様な笑顔を浮かべ、その横で冷めた視線をレインに向けているユアンの姿がありました。
魔獣の肉を食べた二人に何が起こっていたなんて、ここは素知らぬふりをするのが乙女というものですわ!!