5.騎士達は仲がよろしい方だと思いますけど?
皆様ご機嫌よう。
わたくしも気がつけば今年で十よんしゃっ……。
失礼、舌が回らず噛んでしまいましたわ。
どうやら気が動転している為なので、ゴメンあそばせ?
「エタカリーナ様!!」
「まさか、こんな大物がこんな場所にいるなんて……」
「毛皮に肉とトータルすれば幾らになるんでしょうか?」
レインは大声でさけび、ユアンは剣を構え、体に緊張を走らせている。
……ダン! 気になるのはそこなの!?
今回も懲りずに緊迫した中から実況中継でお送りしておりますのよ。
今、わたくし達は魔獣を前にして約一名(言っておくけどわたくしではなくダンの事よ!)を除いて緊張感が走っております。
魔獣とは人知を超えた能力を持つ獣の事を指すのだけど、すっかり失念をしていましたわ。
あまり魔獣と遭遇する事がなかったので、いつもの様に近道に森を通り過ぎていた時に、今わたくしの目の前にいる2メートル程の大きさの熊に似た魔獣に出会ってしまったのですわ。
それもわたくしがたまたま馬車から降りて気分転換に散歩がてら森の中を歩いていた矢先の事でしたの。
ガサガサっと音が鳴ったので、ついそちらに足を進めると……。
「ギャオスッ!!」
耳の鼓膜が破れそうになるほどの魔獣の咆哮にビックリして、腰が抜けてしまいその場でペタリと座り込んでしまったの。
それにしても、この魔獣さん見た目は獰猛な真っ黒い熊に見えるのに鳴き声が『ギャオスッ』って……。
さすが、ファンタジーな世界だわね。
この世界はまだまだ知らない未知な事が多そうね。
「エタカリーナ様!諦めてはダメだ!!俺達が助ける!!」
「レインに先に言われたのは癪ですが、貴方様の騎士であるユアンが助けるのでご安心を!」
「二人とも、魔獣の急所はこめかみです!そこを一刺しでお願いします!出来る限り無傷の方が売値がいいですから!エタカリーナ様は無事に僕が助け出したら危険手当をお願いします。」
「「ダンッ!!自分だけ美味しい所を持っていこうとするな!!」」
レインったら、このわたくしが諦めるなんてすると思う?少し考え事していただけよ。
ユアンは台詞がくさいわね。貴方様の騎士ですって!ププッ
ダンは、この魔獣の急所を知っている事に驚きだけど、相変わらず一言多いわね?それにダンは守銭奴なキャラだったかしら?
そして、ダンに同時にツッコミを入れた二人は珍しく息が合っていたわね。
……
そうだわ!!こんな時こそレインとユアンの仲を良くさせる絶好のチャンスではないのかしら?
何だかんだでここ一年の二人の関係は少しは良くはなっているとは思いたいけど、まだまだわたくしが望むような仲のよさでは無いのです。
ですからここは、女優エタカリーナの出番かも知れませんわ!
わたくしはその考えが浮かぶとドラマの女優よろしく目元に涙を浮かべてみた。
イメージは守ってあげたいか弱いお姫様っぽくね!
「レイン……、ユアン……助けて」
掠れた声で懇願するように声を出し目をウルウルしながら二人の顔を見ると、一気に顔つきが鋭いものに変わったのだけど失敗したかしら?
「ユアン!俺が奴の気を引き付けるからお前がこめかみを剣で突け!」
「いいのか。私が殺っても?」
「ああっ、俺は奴の攻撃を避けている間に、お前はチャンスを見て殺れ。俺はお前の剣の腕だけは信用しているからな」
「……分かった。レイン、魔獣にやられない様に気をつけろ!」
きゃああっっ!!!これをわたくしは待っていたのよ!!
いがみ合いながらも実はお互いを意識していた二人。
敵を倒した後、初めての共同作業に労をねぎらうの!
そして、夕日を見ながら肩を抱き合い確かめるお互いの体の温もりから芽生える恋心。
二人は対立を乗り越え友人までも越えて恋愛へと変化――――――。
「エタカリーナ様?」
わたくしは恋愛には寛大な方だと思うの!
「エタカリーナ様?」
この世界ではB〇は困難かもしれないけど大丈夫!
「お―――い、エタカリーナ様いい加減に妄想世界から戻ってよ?」
愛は異世界を救う(?)のですわ!!!
「さっきまで本当に魔獣に怯えていたお方とは思えないぐらいに恍惚とした表情なのだが……」
「俺らもたまにエタカリーナ様を遠くに感じる事がある」
もう、近くでごちゃごちゃうるさいわよ。
折角いいところでしたのに……。
「あらっ?いつの間に魔獣を仕留めたの。早かったわね」
ダンがいつの間にかわたくしをお姫様抱っこをしていた。
相変わらず仕事が早くて素晴らしいわ。
妄想しながらも、勿論彼らの動きはバッチリ見ていたわよ。
レインとユアンの連係プレーは息がピッタリで、その隙を見てわたくしを魔獣の元から助け出したダンの動きが早かった事。
貴方達がチートなのは知っているのだから、この位の魔獣を倒せるのは当たり前でしょ?
まぁ、思っても顔には出しませんけどね!
ここは笑顔で皆にお礼を言って、レインとユアンの友好度が上がったのかチェックをしませんといけませんわね。
「わたくしは貴方達を誇りに思いますわ。わたくしの騎士になって頂いてありがとう。それにレインとユアンの息がピッタリでわたくしとても嬉しかったですわ!」
「はっ、まさか!!こんな奴と息が合う筈がありません!魔獣を倒せたのは私の剣の腕が素晴らしかったという事です」
「何だと!そっちこそ俺の手助けがないと止めが刺せなかったくせに!」
……おかしいですわ?余計に仲が悪くなったと思うのはわたくしだけかしら。先程の二人のやり取りは幻?
もしかして、わたくしがレインとユアンでBL妄想をしてしまった罰なんて言わないでほしいわ。
*
「エタカリーナ様、さっきから少々気になる物が目につくのですが……」
ダンはそう言葉にすると、わたくしを抱っこしたまま倒れている魔獣を飛び越えて、10メートル先を進んだ所で足を止めた。
「ダン、急に動くからビックリしたわ」
本当にダンってマイペースだわ。
ほらっ、急に走り出したからレインとユアンがビックリしているじゃないの?
「ダンっ!!お前は勝手にエタカリーナ様を連れたまま何処かに行くな!」
「エタカリーナ様、下を見て下さい」
ダンはレインを無視しながらわたくしに地面を見る様に促してきた。
下に何があるっていうのかしら?
おそるおそる地面を見ると、泥まみれの物体が落ちていた。
「……汚いけど、人型の物体に見えるのは気の所為かしら?」
「エタカリーナ様、これは人型の物体では無くて確実に人間で、男みたいだぞ。おいっ!!お前大丈夫か?」
レインが揺さぶりかけていると、ピクリとその物体……しつれい、人間でしたわね。
うつ伏せ状態で倒れていたのを、レインはその男性の体を起こし顔をわたくしの方向へと向けた。
「……!?」
泥まみれながらも、その顔立ちに既視感を感じていると、レインの刺激により意識を取り戻したのか、その男性の目が薄く開き、綺麗なゴールドの瞳とぶつかった。
ゾクッ!!
一瞬だった。
ギュルルッ……
「……お腹が空いた」
だけど、その男性の大きなおなかの音と発した言葉にわたくしは一気に体の力が抜け、寒気が走った事など忘れてしまっていた。
「魔獣の肉を焼いて与えれば食べるかしら?」
「明らかに数日食べていなさそうな人間に刺激の強い物を与えたらダメだろう?特にこのタイプの魔獣の肉は男性のむにゃむにゃの刺激……だぁ!!!言えねぇ!!!」
わたくしの言葉に思わずレインがツッコミを入れていたけど、全ては言わなくていいわよ?
まだ異世界歴14年の小娘のわたくしには分かりませ―――ん!