【02】惨劇のクリスマス Side 秀人
改稿っていうか、ほぼ書き直しました。
「もう嫌だー!!!!!!!!!」
誰もいない部屋に自分の声が響く。
今日はクリスマスイヴ。
なのに、僕はなんでこんなに仕事してるんだ!!
予想はしてた。
零が仕事を押し付けて、自分はさっさと妻と生まれたばかりの子供の待つ帰るだろうと。
案の定だ。
だけど、なんだこの量は!!
優に年明け分まであるじゃないか!僕は正月まで仕事漬けなのか!?
イライラして、書類を机に投げつけた。叩きつけられたそれは仕返しか、バサバサと机の下に落ちた。
「唯もいないし…。」
そう、唯は父さんとパリに行ってしまった。
連れて行った父さんの機嫌がものすごく良かったのにも、更に腹がたつ。
美奈は美奈で、彰義と一緒に過ごしてるだろうし。
僕だけ寂しいイヴか…。なんだか虚しくなってきた…。
時計を見ると既に22時を回っている。
デザイン途中の服をぱっと見た。それを少しだけ手直ししてから帰ろうと思って、スパンコールを取り出そうとしたらあいにく在庫が切れている。
「全く…スパンコールも無いのか…。」
あっちもこっちも上手くいかない。
今からじゃ店は開いていないし、仕方ないから帰ろうとしたところでふと、桜の店ならあるのではないかと思い出した。
今の時間に店自体は開いてはいないだろうが、在庫があるかどうかはわかるだろう。
「あ、もしもし。僕だけど。」
『私にはこんな時間に電話してくる僕なんていう知り合いはいません。』
「桜、お前の店にスパンコールあるか?」
『ちょっと無視!?聞きなさいよ!!』
「あるのか、無いのかどっちなんだ。」
『…はぁー…。あるわよ。何色?』
「黒だ。」
『黒ね、あるわ。何?あんたんとこの会社にあるでしょ?』
『在庫が切れてるんだ、今からじゃ店も開いてないだろ。そこにお前の存在を思い出したんだよ。ありがたいだろ?』
『ありがたくないわよ!!』
電話口でイライラしている桜が容易に想像できて少し笑った。今もぶちぶち僕に文句を付けている。
『だいたい、あんたクリスマスイヴなのに仕事してるわけ?はっ、寂しいわね。有名人なのに実は寂しい一人モノなんだー。あはは、いいザマ。』
「うるさい!どうせお前だって一人で過ごしてるんだろ!!人の事言えないぞ、桜。」
そう、絶対こいつは一人で過ごしてる。確信と共に言い放った僕の言葉に、ものの見事に桜は詰まった。
やっぱりな。
「ま、お互い人の事言えないか。ところで、今からスパンコール必要なんだけど、店開けてもらえない?」
『はぁ!?今から!?あんた、今何時だと思ってんのよ!!』
「お前のアパートに迎えに行くから着替えて待ってろよ。」
『ちょ…ちょっと待っ』
そのまま電話を切り、予想できた桜の反応に思わず口角が上がった。
さぁ、あいつをからかいに迎えに行こうか。
「…本当に来たのね…。」
「当たり前だろ、スパンコール使うんだから。」
ため息を付いて僕を見ている桜を助手席に乗せて、店まで来ている。
切らしていたスパンコールを見つけて、このまま会社に戻ろうと思ったけど、桜を連れてきている。さて、どうしようか…。
「僕会社に一旦戻るけど、お前も一緒に来い。すぐ終わるから、それから送っていく。」
「あたし、帰りたいんだけど…。」
「ま、こんな時間に呼び出したお詫びに、一杯奢るよ。」
「高い店は嫌だからね。」
断らないのがこいつらしい。食い意地が張ってるというか、素直なのか…。
会社に戻って、服にスパンコールを付けていると、連れてきた桜がじっと僕の手元を見ている。
「なに?」
「いやぁ、上手いもんだなぁと思って。唯ちゃんも裁縫上手いけど、あんたが教えたの?」
「いや、唯には祥子さんが教えたんだ。父さんと祥子さんが結婚した時から編み棒持ってたからな。あの頃の唯、可愛かったなぁ…。今も可愛いけど。」
「はいはい、唯ちゃんは可愛いですよ。よくあんなに可愛いのに、彼氏いないわね。不思議だわぁ…。」
桜に言われた言葉にムカついた。唯に彼氏なんて出来た日には、僕は二人の邪魔をしてやる。
思った事がわかったのか、桜は僕の顔を見てくすくすと笑っている。どうせ言われる事なんてわかってる。
「シスコン。」
「うるさい。終わった、帰るぞ。」
「はー、やっと帰れる。っと、その前に一杯の約束は守ってよね。あたし、白ワイン飲みたいんだよねー。一応クリスマスだし。」
「クリスマス関係ないだろ、白ワインは。と言っても、この時間じゃ店開いてないか…。」
時計を見ると、既に今日一日が終わろうとしている。どうしようかと思って、車を走らせて、考えた末に自分のマンションに連れて行くことにした。
ここのマンションは、仕事で実家に帰れなくなったり、アイディアを練る際、静かな空間で集中するために借りている。間取りは唯の部屋ほど広くはないが、別に狭いわけではない。それにワインセラーなら部屋にあるし、いいワインも買ってあったはずだ。クリスマスだし、それを空けよう。
「なんであんたの部屋なのよーーーーーーっ!!!!!!!」
「うるさいんだよ、お前はいちいち!」
自分の部屋に連れ込んだ…もとい、連れてきた時に近所迷惑も考えず大声で叫んだ桜を一喝して、リビングにあるソファーに座らせた。その前にあるテーブルにドンッとワインボトルを置き、グラスを二つ並べる。オープナーを使って、ワインを開けると芳醇な香りがコルクを抜いた瞬間漂う。
それをグラスに注ぎ、桜の目の前に置いた。案の定、桜は目を輝かせてワインを見ている。
「ほら、どうぞ。」
「ありがとー!んー、いい香り。じゃあいただきます。………美味しーい!!いいワインだね、これ。すごく美味しい!」
「だろ?フランス行った時に飲んで、気に入って日本でも探して、ようやく見つけたんだ。有難くいただけよ。」
「はーい。フランスって言えば、唯ちゃん、パリに行っちゃったんだって?寂しいわねー、シスコンのあんたとしては。」
にやにやと笑っている桜のグラスにワインを注いでやって、自分のグラスにもワインを満たす。
パリにいる唯の事を知ってるこいつの顔がなんともムカついて、更にグラスを煽った。辛口なのに、飲みやすいこのワインは既に半分無くなっているのに気付いて、冷蔵庫から缶ビールを何本も取り出し、テー
ブルに並べた。
「あぁ、唯は父さんとパリにいるよ。知ってるんなら、いちいち言うなよ。」
「だぁってー、あんたのそのキッレーな顔が歪むのが面白くてたまんないんだもん。あれ?あたしってS?」
「悪趣味だな。だから彼氏も出来ないんだよ、お前。」
ぐっと詰まった桜は勢いよくグラスを煽った。良い飲みっぷりに関心していると、いつの間にかボトルが一本空いていた。
仕方がないのでセラーからもう一本取り出して飲んでいると、缶ビールを既に何本も空にした桜が意外な事を言い出した。
「ねえ、あたしさぁ、そんなに女の魅力無い?だから彼氏出来ても続かないのかなー。」
吹き出すかと思った。
いきなり何を言い出したかと思えば、こいつは…。よくよく見ると、完全に酔っ払ってる。目がすわっている。
「おい、桜、お前飲みすぎだぞ。」
「うるさーい!もっと飲むんだー!!そのワインちょーだい、秀人くーん!」
「お前に君付けで呼ばれる事ほど、ムカつくことはないな。って、おい、いい加減飲むなって!!」
「やだー!!ていうか、なんであんたそんな素面なの?ムカつくー!!もっと飲みなさいよぉ!」
「おいっ!女のくせにボトルから直で飲むな!!」
急いで取り上げたものの、既に飲み干した後だったらしく随分と軽くなったボトルを持って、軽く項垂れた。桜ってこんなに酒癖悪かったか?
当の桜を見ると、テーブルに突っ伏している。おい、勘弁しろよ…。軽く揺さぶると、のっそりと顔を上げた。…が、顔がヤバイ。なんでか泣きそうな顔をしている。何でだ?
「桜?吐きそうなのか?」
「…ぅやだ…」
「なに?吐くんだったら、こっちだぞ。」
「違う!!もう嫌だ、この鈍感男!!バカ!!ニブチン!!シスコン!!」
「はぁ?鈍感男って何だ!喧嘩売ってんのか!?」
いきなり怒り出した桜に、何がなんだかわからないまま怒鳴り返した。
が、次の瞬間目の前でコイツが服を脱ぎ出したのには、頭が真っ白になった。着ていたセーターがぱさっと床に落ちた時、ようやく我に返った。キャミソールとスカートだけの姿のままうろつき始めた桜を急いで止めにかかる。
「ちょっ!なんでお前脱いでんだよ!!服着ろ!!」
「もう寝る!!ベッドどこ!?」
「こっち…って、おい!!だから脱ぐなって言ってんだろ!」
寝室に着くと、もはやこいつの独壇場だった。
キャミを脱ぎ、スカートを腰から落として下着姿になった桜を思わずマジマジと見てしまう。服を着てたらわからなかったが意外にある胸と、くびれのある腰。…不本意ながら、好みの身体をしている桜。そこまで考えて、目を覆った。悲しい男の性にも程がある。
しかも、当の本人は下着まで取り去ってベッドに入った。勘弁してくれ…。
「ちょっと!あんたも早く!」
「…は?」
「あたし抱き枕ないと寝れない!だから早くベッドに入る!」
そう言ってガバッと起きた桜に引きずりこまれたベッドで、更に惨劇が起きた。
桜が僕の服を脱がし始めたのである。
「おい、ちょっとやめろって!!」
「うるっさいなー!抱き枕は喋らない!これ当たり前!」
「僕は抱き枕じゃな…っておい!触るなって!!だから脱がすな!!!!」
散々な攻防の末、疲れ果てた僕達はいつのまにか寝てしまったようで…。でも、不思議と嫌な感じがしなかった。むしろ、久しぶりに安心して寝ていた様に思える。腕に抱えた温かさがいつの間にか、心地よかった。
朝起きると、桜はいなかった。ベッド下には桜の手によって脱がされた服が散乱していたけど、リビングに行くと綺麗に掃除されていたし、静寂そのものだった。
今度はあいつと酒飲むのは止めよう…。そう思った。
しかし、腕に残った感触が消える事はなかった。
後半書き直しました。
気にはなってたんですが、こっちの方がしっくりきましたね。ごめんなさい。