なんか俺たちが修学旅行に行った話
いつぞやの喧嘩から、俺たちの距離感は変わらないようで変わっていた。くっついたり手を繋いだり、そういうのはあまりなくなった。しかし、相変わらず家族ぐるみでイベントはするし、学校行事でも同じ班になる。まあなんとなく、お互いちょうどいい距離感に収まったってことだろう。
勿論、小学生にとっての一大イベントでも俺たちは同じ班であった。小学六年生、そう、修学旅行である。
「こっから飛び降りるってどういうことだよ」
「必死の覚悟でってことらしいけど」
「いやいやでもほんとに死んだら意味ないだろ」
「でも実はそんなに死ななかったらしいよ?85%は骨折とかで済んだんだって」
「まじかぁ。有り難みねー」
「だねー」
「なんでお寺を金色にするんだろ」
「うーん、権力の象徴?みたいな?」
「こんなことするより、ご飯食べさせてやるとか、給料上げてやるとか、そういうのの方が絶対いいのになー。偉いやつの考えることって分かんないことばっかりだ」
「だねー」
博識な幼馴染がいてくれて観光が捗る。
俺たちの修学旅行はいわゆる古都なんて言われる所だった。来るまではありがちだって文句を言ってたヤツも、来てみれば案外楽しみながら見て回っているようだった。
初日の夜、同じ部屋の男子達との風呂上がり。
「おっ、よっす」
「んっ、お風呂?」
「あがったとこ、そっちも?」
「うん」
我が幼馴染含む女子達と鉢合わせた。
「おつかれー。やっぱ歩き回ると疲れたね」
「お、おうっ、そうだな」
「やっぱり知らないとこ来るとワクワクするよね」
「ああっ、分かるよ、うん」
何やら我が友人達は挙動不審だが、そんなことはさておいて俺にはもっと重要なことがある。
「なあなあ、今のうちにお土産見とかね?」
「え、もう?今買ったら荷物増えるよ?」
「買わないって、見るだけ。先に選んどくだけでもいいだろ?おじさんとおばさんにも買わなきゃいけないのに、お前と被ったら嫌じゃん」
「あーなるほどね、オッケー行こっか。みんなも行く?」
ぶんぶんと首を横に振る級友たち。見るだけ見ときゃいいのに、変なヤツら。
「あっ、髪乾かしてないじゃない。そういうとこちゃんとしたら?」
「めんどくさい、適当でいいの適当で」
「えー勿体無い、せっかくおばさん譲りの髪質なのに」
「全然気にしたことないわ。お前そんなにちゃんとしてるの?」
「勿論。お母さんに聞いて色々やってるよ?洗い方とか、トリートメントとか、ヘアミルクとか。ほれほれ触ってみて?サラサラよー」
「おお、確かに手触りいいな。すげー」
「でしょ?実は密かな自慢なんだから」
「アイツらあれで付き合ってないって本気で言ってんの?」
「らしいね。去年もあの二人と同じクラスだったんだけど、やっぱりからかうヤツはいてさ。でも二人とも余裕って感じ?普通に話してて関心しちゃったわ」
「もっとさ、照れるとかあるんじゃね普通?」
「だよな、てか風呂上がりの女子に触れるか?どんな神経してんの、図太すぎるって」
「なるほどねー。それでアンタらさっき妙な反応だったわけ」
「げっ」
「まずい」
旅行の醍醐味といえば、土産物だと俺は思う。日常の中に非日常から持ち帰ったものがある、それはなんとも趣深いと思うのだ。
「何にすっかな」
「食べ物とかも無難でいいんじゃない。よっぽど変なものじゃなければハズレないと思うし」
「食べ物は買うぞ。でも食べてなくなってはい終わり、だけじゃつまんないし、やっぱり形の残る物も買いたいんだよな」
「おじさんとおばさんは何がいいって言ってなかったの?」
「お前のセンスに任せる、だってさ。そっちは?」
「うちもそんな感じ」
素直に言えばよかろうに、子供のセンスに任せると言われても中々厳しいものがある。
「とりあえず見てみるか。最悪決まんなかったら、目をつぶって指差した所にあるやつを買う」
「うわっ、てきとー」
「いいんだよ。任せるって言ったんだから、何になっても任せたヤツが悪い」
「それもそっか」
肩を並べて土産コーナーを眺める。手拭い、扇子、うちわ、便箋、あれこれと並んでいるがあまりピンとこない。
あれこれと相談しながら目線を滑らせると、なんとなく琴線に触れる物があった。
「これ、いいんじゃね?」
「ボールペン?」
「蒔絵ボールペンだってさ」
大手文具メーカーと、観光協会のタイアップ商品であった。それぞれ黒の軸に、花や鳥、建物などが色鮮やかに描かれている。柄もいくつかあるようだ。
「ボールペンなら大人も使うから、持て余さなくていいだろ?替芯も普通に売ってるやつでいいらしいから、壊れるまで使える」
「でもこれ結構高いよ?」
「一本七千円……全員分で二万八千円……」
「買える?」
「買えはする、けど他にほとんど何も買えなくなるな」
貯めた小遣いも持って来たが、流石に小学生の身空に約三万円は厳しい。
「そっちはなんかいいの見つけたか?」
「全然、これっていうのは見つかんない。このボールペンが一番よさげ」
人に渡す土産を選ぶのはこんなにも難しいものか。中々決まらない上に、やはりボールペンを諦めきれない。
「なあ、相談なんだけどさ」
「なに?」
「ボールペン、半分ずつ出すとかどうよ。そんで、二人一緒のお土産ってことにする」
「いいね、ありあり!すっごくあり!」
「よしきた、決まり!ボールペンくらいなら今買っちゃってもいいよな」
「オッケー、ちょっと待ってお金出す」
会計を済ませ、互いの両親の分をそれぞれ持って部屋に戻る。エレベーターの前で少し考え、踵を返す。
「先戻ってて、トイレ行ってくる」
「待っててあげてもいいよ?」
「やめれ、嫌がらせか」
「冗談、冗談。じゃあ先に戻ってるからね。お休み」
「おう、お休み」
「なあ、これやるよ」
なんだかんだと楽しんだ修学旅行も終わり、先生方のありがたーい話を聞き終えて解散し、迎えの車を待っていたおころで、細長い包みを手渡した。
「何?開けていい?」
「いいぞ」
「あっ、これって」
お土産に買ったボールペンの近くに置いてあった、同じシリーズのボールペンだった。しかしこちらは基調が黒ではなく白である。
「大人なら黒がよかったかもだけど、お前にあげるなら、こっちかなって」
「でも、いいの?これ、高かったでしょ?」
「おいバカ、土産の値段を気にするなんてマナー違反だぞ」
「いやでも……別によかったのに。同じとこ行って、ほとんど一緒に行動してたんだから」
「ごちゃごちゃ言うな。あげたくなったからあげた、そんだけ。思い出はプライスレスなんだよ!」
「うん……ありがとね……」
我が幼馴染殿が喜んでくれたなら、ちょっとはカッコつけた甲斐があるものだった。
「なぁ」
「ん?」
「楽しかったな」
「んひひっ、楽しかったね」
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