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幼馴染くんと幼馴染ちゃん  作者: 一般通過純愛スキー


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5/6

なんか俺が風邪をひいた話

 俺は健康優良児であった。よく食べ、よく遊び、よく寝る、風邪など一度もひいたことなどなかったのである。

 しかし、子供特有の台風にはしゃぎ、なぜか遊びに出かけてしまうという暴挙にとうとう我が肉体は耐えかね、ボイコットを起こしたのである。十歳の秋のことであった。


「おぁん?」


 目が覚めて、奇妙な感覚に襲われる。なんか体が火照ってるような、でもゾクゾクしてるような、経験したことのない感覚に戸惑いを覚える。どうにか着替え洗面所に向かうがどうにも体がふらつく。

 嗚咽感に耐えながらどうにか歯磨きを終え、ダイニングで食卓へついた。


「おはよ……」

「おはよう」

「すぐできるから、ご飯自分でよそっておいて」

「ぉー……いらない」


 ご飯の拒否など初めてで、我が事ながら驚いたが、俺以上に母さんが驚いたようだ。


「朝ご飯いらない?うそ、ほんと?もしかして夜中に何か食べた?」

「食べてない」

「え、じゃあなんで?あっ、反抗期?とうとううちの子にも反抗期!?ババアのメシなんて食えるかってやつ!?」


 非常にうるさい。あっ、だめだ、うるさくて頭痛くなってきた。


「母さんうるさい。頭痛い」

「うるさい!?お母さん泣きそう!……え、頭痛い?」


 ダイニングテーブルに顔を突っ伏す。あっ、テーブルつめたっ、きもちぇー。


「あ、もしかして、ちょっと顔あげて」


 額に手を当てられた。あっ、手もひんやり、わるぅないぞ。


「あー、熱いわねー。こりゃ風邪かなー」


 風邪?ほっ?なるほど、これが、風邪か……


「ほら体温計、ちゃんと挟んで」


 体温計って挟む時冷たくない?腋にヒヤっとしてゾクゾクするよね。などと益体もないことを考えているうちにピピピッと音が鳴る。

 

「八度七分。はい、病院行こっか。学校はお休みね」


 体温計を見て母さんは言う。

 休みだとぉ……?ドッヂボールが俺を呼んでいるのだ……

 

「うー……がっこー……」

「行けるわけないでしょ。お休みの連絡したらすぐ病院行くよ。早めに受付しないと待ち時間長くなって余計しんどくなるから」

「がっこー……かいきんしょー……」

「はいはい今年は諦めるの。それにしても、風邪なんて今までひいたことなかったのにねー。いやでも結構熱あるし、インフルの可能性もあるか」


 こうして生まれて初めての欠席が決まったのであった。




「んっ……」


 ガチャリと、ドアの音で目を覚ます。いつの間にか眠っていたようだ。薬が効いているからか、朝よりも幾分楽になっていた。


「あっごめん、起こしちゃった?」

「あー……だいじょぶ、だいじょぶ」


 聞き慣れた幼馴染の声が沁み入る。なるほど、どうやら身体が弱ると心が弱るというのは本当らしい。

 それにしても我が幼馴染の声にセラピー効果があるとは、新発見である。

 

「あれ、なんでいんの?もう学校終わった?」


 そんなに寝ていたのかと時計を見るも、十三時を回ったところ。首をかしげる。


「まだ昼じゃん」

「うん、お昼休みで帰って来ちゃった」

「なんで、お前サボりはダメだぞ」

「だって、仕方ないでしょ。風邪ひくのなんて初めてだったし、そりゃ心配だってするもん」


 涙目で言われるとどうにも反応に困る。俺はコイツの涙にどうにも弱いのだ。


「てかさ、俺ら、喧嘩中じゃなかったっけ……」

「うん、まあ、そうだけど……」


 ーーいっつもくっついてくんな!いい加減うっとおしいんだよ!俺はお前以外とも遊びてえの!ーー


 などと吐き捨て、目も合わせなければ口もきかなくなってから一週間は経っていた。


「……」

「……」


 気まずい沈黙が流れる。コイツに何を話せばいいのか分からないなんて、初めてのことだった。


「ねぇ」

「なに?」

「ごめんね、アタシ、ほんとごめん」

「なんだよ。何に謝ってんの分かんねえよ」


 だって、謝らないといけないのは本当は俺の方なのに。


「アタシね、甘えてたの。ずっと一緒に遊んで、一緒に育って、このままが楽しくて、このままがいいんだって」


 ポツポツと言葉の雨が降ってくる。

 

「ホントはね、一人で遊ぶのは寂しくて、でも私は友達なんて作れなくて、だから鶴、嬉しくて、それからずっと甘えっぱなし」


「手を引かれて、着いていくのは楽で、あったかくて、居心地よくって」


「でも、そうだよね、ずっとくっつき虫がいたら迷惑だもんね!ごめんね!もうしないから!もう迷惑かけないから!」


「それだけ、それだけ言いたくて。ごめんねって、今までありがとうって、だから来たの!」

 

 言葉の雨は涙に変わって、歪んだ笑顔で言うんだ。それはなんだか嫌だった。

 ちっぽけな理由で、思ってもないことを言って、泣かせる自分は嫌だった。泣かせたままはもっと嫌だった。


「違う、謝んな」

「えっ?」

「だから、謝んな」


 泣かせた自分が恥ずかしくて、これから言うことも恥ずかしくて、顔を伏せて話し出す。


「別に、甘えられるの嫌じゃなかった。頼られてるんだって思ったし、妹がいたらこんな感じなのかなって嬉しかった」


 すごいって言われて、笑ってくれて、友達になってくれて、一緒にいてくれて、そんなやつを嫌いなんてなるわけがない。


「うっとうしいなんて嘘。ただちょっと、恥ずかしくなっただけ。男子にからかわれて、それが嫌だっただけ」


 理由なんてそれだけだった。思春期入りたての、男と女がどうだこうだって、そんなくだらない話。


「だから、俺の方こそ、ごめんな」


 熱に浮かされた頭で、言葉を紡いだ。


「じゃあ、仲直り?」

「おう、仲直り」

「んひひっ、よかった!」


 たまには風邪をひくのも悪くない。だってその方がきっと素直に自分の心を言葉にできるから。




「こら!誰にも何も言わずにいなくなるなんて何考えてるの!みんな心配してたのよ!」


 その後、かんかんに怒ったおばさんを宥めるのに苦労した。なお熱は上がった。学校は三日休んだ。

ロキソニンは神の薬

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